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第7章 躍進 -乙女豹アルテミス編-

第257歩目 男らしさとは!女神アルテミス⑩

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 前回までのあらすじ

 アルテミスお姉ちゃん、くさーいr(・ω・`;)

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「どうだい? 少しは落ち着いたかい?」
「な、なんとか」
「......ッたく。あたしのことはそういう目で見ていなかったんじゃないのかい?」
「うッ......」

 俺は腰をトントンしながら、言葉に詰まった。

 確かに、アルテミス様に求めているのは『臭い』であって『体』ではない。
 だが、俺の為に沐浴しないでいてくれたといういじらしい姿に我慢できなかった。 

 その結果が、暴走してアルテミス様を襲うという何とも情けない醜態。

「まさか、求められているとは思っていなかったからねぇ。いきなりで驚いたよ」
「す、すいません」
「いいって、いいって。むしろ、求められて悪い気はしないから許してやるよw」
「あ、ありがとうございます」

 俺の首に抱き着いたまま、ケラケラと笑うアルテミス様。

 唯一の救いはアルテミス様のご機嫌をそこまで損ねていないことだろうか。
 あれが原因で激怒されようものなら、今頃は身も蓋もない状況となっていたはずだ。

「それにしてもさ」
「なんでしょうか?」

 アルテミス様が珍しくも神妙な面持ちで尋ねてきた。
 まぁ、「珍しくもは余計だよ」と横っ面を叩かれたが......HAHAHA。

「さっきもさ、「あたしとのキスはまだ早い」とかって言っていただろ?」
「確かにそう言いましたが、それが何か?」
「ということはさ、あれなのかねぇ」
「?」

 ペロリと舌舐めずりしたアルテミス様が妖しく微笑む。
 その表情はまさに獲物を狙う女豹そのものだ。

 俺はアルテミス様のそんな妖艶な姿に息を呑みつつ次の言葉を待つ。

「脈ありと見ていいんだろ? じゃないとさ、「まだ早い」とは言わないだろうしさ」
「うッ......」
「それと、正気を失っていたとはいえ、あたしの体を求めてもきた訳だしさ」
「そ、それは......。む、無意識の内に体が勝手に動いた結果と言いますか......」
「だったら尚更じゃないか。要は本能の求めるままに動いた、アユムっちの本心が出たとも言えるんじゃないかい? 酒で酔った時と一緒さ」
「う、うーん」

 先程情けない醜態を晒しているだけに、反論の仕様がない。

「別に困ることはないだろ。あたしはアユムっちだったら良いと思っているしね」
「それ、以前も仰っていましたが、本当なんですか? というか、俺のどこがそんなに良いんでしょうか?」
「それこそ前にも言ったろ? まさか......忘れた、とか言うんじゃないだろうね?」
「ひっ!?」

 アルテミス様の射竦いすくめるような獰猛な眼差しに心身ともに萎縮する。
 喉がカラカラと干上がり、バックンバックンと動悸が激しくなったのを感じた。

(こ、これは......絶対に間違えたらいけないやつだ)

 頭をフル回転させて、アルテミス様への接待の時を懸命に思い出す。

 今から、たった四~五年前のことだ。
 俺が若くしてボケてさえいなければ、きっと思い出せるはず。

「えっと......男らしいから、でしょうか?」
「......」
「......」
「......」

 重い沈黙が続く。

 恐らく、間違ってはいないはず。
 だって、最初の(失敗した)接待の時にそう言われた気がしたのだから。

 そう、頬にキスまでされたのだから、絶対に間違ってはいないはず!

「ちゃんと覚えているじゃないか! そうさ、アユムっちが男らしいからさ!」
「ふぅ......」

 安堵の溜め息とともに、どっと疲れが押し寄せる。
 ただ、正解だったのは良いのだが、どうしても解せないことがある。

「俺って、アルテミス様の言うように、そんなに男らしいですか?」
「あぁん? あたしの見る目を疑うって言うのかい?」
「い、いえ! そういうことを言いたいんじゃないんです!」
「じゃあ、どういう意味だい?」
「そのですね。俺自身が、自分を男らしいとはどうしても思えないんですよ」

 俺の中での男らしさ。
 それは、やはり自信に満ち溢れた男の姿を真っ先に思い浮かべる。

 何事にも自信満々で細かいことには悩まず、一切合切を全て背負える度量の大きさ。
 己の信念の為ならば、たとえ無理難題でも乗り越えてみせる意志の強さと行動力。

(目指す方向性は大きく異なるけど、異次元世界の現地勇者なんかはある意味男らしいとも言えるかもしれないよなぁ)

 一方、俺はどうだろうか。

 基本的には優柔不断で、一切合切を背負えるほどの覚悟もなければ度量もない。
 現地勇者とは異なり、女性関係ですらいまだ答えを見つけることができないでもいる。

(うーん。どう考えても、男らしいとは対極に位置しているようにしか思えないんだよなぁ)

 しかし、アルテミス様はそんな俺を男らしいと断言する。

「ハァ..................。アユムっちは男ってものを全然分かっちゃいないねぇ」
「あ、あの、男である俺にそれを言いますか?」
「あぁ、言うね。あのさ、アユムっち。金玉さえ付いていれば皆男って訳じゃないんだよ?」
「き、金玉!?」

 アルテミス様の下品さは今に始まったことではない。

 そう、今に始まったことではないのだが......もう少し淑女としての恥じらいを持って欲しいというか、せめて言い方に気を付けるか、オブラートに包んで表現して欲しい。

 だが、それを指摘することはない。
 それがアルテミス様との正しい付き合い方だからだ。

 というか、そもそもの話、金玉さえ付いていれば生物学上は男だと思う。
 まぁ、アルテミス様の言う『男』とは、恐らくその意味ではないのだろうが。

 最早どうでもいいことなので、咳払いをして話の先を促す。

「前にも言ったろ? 意地やプライド、その他全てをかなぐり捨ててでも、必死に何かを為そうとするその姿を『男らしい』とさ」
「それは以前にも聞きましたが......」
「力さえあれば手に入らないものなんてそうそうない。地位や名誉、それこそ男や女、愛などの感情でさえ思うがままさ」

 さすがに言い過ぎでは、とは突っ込まない。
 それがアルテミス様との賢い付き合い方だからだ。

 言いたいことも言えないこんな世の中じゃ、P○IS○N。
 
「......だから、力のある男は男らしいとは言えないと?」
「当然さ。当たり前のことを当たり前のようにしているだけなんだからさ」

 力を持てること自体は男としての魅力の一つではあると思う。

 ただ、それがイコール男らしいという条件には当てはまらない。
 アルテミス様はそう仰りたいのだろうか。

 というか、人智を越えた力を持つ(女神でもある)アルテミス様からすれば、力なんてものはそもそも魅力の一つにすらならないのかもしれない。

「そこで重要となってくるのが『捨てる勇気』さ」
「捨てる勇気?」
「そうさ。さっきも言ったが、力さえあれば何でも手に入る。だから、何かを得ること自体はそう難しくないんだよ」
「な、なるほど」

 そう言い切るアルテミス様に、俺はただただ頷くことしかできなかった。
 恐らくアルテミス様は今までも、そしてこれからも、ずっとこうなのだろうから。

「だけど、何かを捨てる決断をするのは逆にかなり難しいのさ」
「は、はぁ?」
「その反応、あまり分かっちゃいない様子だね」
「す、すいません」

 いや、本当によく分からない。仮に何でも手に入る立場ならば、何かを捨てることぐらい別に躊躇ったりはしないとも思うのだが......。

 こう言ってはなんだが、貧乏人ほど物を大切にする傾向があると思う。
 というか、替えがきかない以上、物を大切にせざるを得ないのだから当然だ。

 一方、裕福な人ほど、ちょっとしたことでも次々と替えをきかせる傾向は少なからずある。
 だから、力のある人ほど『捨てる勇気』もあるように思えてならない。

 しかし、アルテミス様は首を横に振る。

「力を持った奴は諦めが悪いのさ」
「と言いますと?」
「アユムっちの世界にも居るだろ? 力を持った途端に「全てを守ってみせる!」とか夢物語を語っちゃう愚か者がさ」
「そんな人居ませんよ!? というか、それは創作上の話ですよね!?」
「いやいや。実際にそういう勇者は意外と多いのさ」
「えー。マジでそんな人いるのか......」

 それはさすがの俺でも引く。
 あまりにも世間知らずというか、さすがに世の中を舐めている。
 創作上での話ならばまだ良いが、実際にそれができると思うのは甚だ傲慢だろう。

 そもそも、世の中にはどうにもならないことのほうが圧倒的に多い。
 だから、人は後悔をベターな取捨選択をして生きているのだから。

「だからさ、そういう愚か者には全てを守らせた後に───」
「守らせた後に?」
「敢えて、全てを失う絶望を与えてやるのさ」
「なんで!?」
「坊やだからさ。その時の顔ときたら、もう爆笑ものだねw あひゃひゃひゃひゃひゃw」
「それ、どんなアズナブル!? というか、あまりにもタチ悪すぎですよ!」

 思わず、突っ込んでしまった。
 いや、勇者や英雄のことを思うと、どうしても突っ込まざるを得なかった。

 どうやら、彼らが世界を守った後で人々に迫害される元凶はここにあったらしい。

「いいんだよ。人間の分際で全てを望むのが間違いなのさ。それは神の領分だからね。分相応に生きるのが妥当ってもんだろ?」
「つまり、『捨てる勇気』というのは───」
「己の分を弁え、いち早く何が重要で、それの為には何を犠牲にしても問題ないかを瞬時に判断できる思考力と行動力を併せ持った奴のことさ」

 更にアルテミス様はこう付け加えた。
 何を犠牲にするか、それを判断できる奴が少ないこと少ないこと、と。

 先程も言ったが、人は後悔をベターな取捨選択をして生きている。

 後悔しない選択肢などそうそうない。
 というか、それを望むのはやはり傲慢だろう。

「そういう意味では、アユムっちは非常に男らしいと言えるのさ」
「えっと、土下座の件ですか?」
「それもそうだけど、別のもあるんだよ。覚えていないかい? 泥棒───じゃなくて、人間の件さ」
「人間......? いえ、さすがにそれだけではどうにも......」
「めんどくさいねぇ。居ただろ? 昔、髪の青い人間がさ」
「髪の青い......あぁ、ラズリさんのことですかね?」

 そう言えば、かつて俺はラズリさんに迫ったことがある。
 俺と一緒に旅に出てスカイさんを諦めるか。
 俺と一緒に旅に出るのを諦めてスカイさんを取るか、と。
 ラズリさんにとってはどちらを選択しても、きっと後悔はあったはずだ。

 なるほど。そう考えると、確かにあれも『捨てる勇気』に他ならない。

「分かったかい? アユムっちは知らず知らずの内に男らしさを発揮していた訳さ」
「う、うーん。こういう場合は、ありがとうございます、で良いんですかね?」
「良いに決まっているだろ? あたしが認めた男なんだからさ。自信持ちな」
「じゃあ、ありがとうございます」
「じゃあってなんだい、じゃあって。本当に締まらない男だねぇ。あひゃひゃひゃひゃひゃw」

 よく分からないが、そういうことらしい。
 まぁ、アルテミス様はとてもご機嫌だし、そういうことにしておこう。

 それがアルテミス様との賢くも正しい付き合い方だからだ。
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