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第一章 [序] 目覚め
第2話 『スン・デレ』な妹との困った日常
しおりを挟むいつも通りの穏やかな朝食時。ボンヤリとした目でパンを頬張る深優人。
この澄美怜の兄は実は相当なイケメンだ。だが本人は単なる地味系の冴えない男と思っている。
実際余り自分を飾ろうとしない。モテようと思ってもいない。
現状に満足だからだ。もちろん自身の見た目ではなく、今の幸せな状況にである。ただただ愛らしい妹を幸せそうに眺めると、妙な感慨に耽る。
―――俺の妹は兄の贔屓を差し引いても可愛い。清楚にして可憐、そして俺好みでもある。下の妹はまだあどけなさも残っているが嘗ての姉にソックリだ。
とても兄妹思いのオットリ型の平和な一家。この平穏、ずっと続いて欲しい……。
この兄妹達は小学校~大学のエスカレーター式学校に通っている。成績はやや上位といった所の深優人。部活に入っていないこともあり、安穏と学生生活を過ごしている。
妹二人はお互い溺愛状態。下の妹が出来た時から可愛くて仕方ない様で、お姉さん風を吹かせていつも遊びやお世話、そして勉強を教えてあげたりで、とても懐かれている。
そのせいで末っ子は相当お姉ちゃん子になってしまった。でもそれが嬉しくてもっと仲良くなって、という好循環を微笑ましく見守る兄。
その澄美怜は、元々小学校低学年まではひどく内向的な子だった。ところが小学3年生のある『事件』をきっかけに変化が訪れる。以来、常に兄想いの優しい子になった。
母が体が弱い為、家事をよく手伝う事もあって料理は特に得意だ。そのため朝から兄の弁当まで作っている。
何か手伝う事が無いか、困り事は無いか、等いつも気にかけていて、風邪をひいて休めばずっと看病したがる程だ。
兄の為ならどんな時でも甲斐甲斐しく行動する健気な女の子。そして、とても仲の良かった隣人の超美人お姉さんを追いかける様に、次第に可愛く、そして淑やかで美しくなっていった。
その兄の深優人のちょっとした困り事、それは、この1才年下の妹・澄美怜の言動が近年おかしくなって来ている事だ。
中学に入ってから愛らしさだけでなく、非常に内向的だった性格まで少々朗らかになってきて、と言うと聞こえは良いが、何やら妙な所がチラホラと……
そんな妹を見て今日も兄は思う。
……この子って本っ当に優しくて良い子で、最近は少し積極的でチョイお茶目さも加わって更に魅力的……だけならいいんだけど、う~ん……
何かまるで俺専属のメイドか?! ってぐらい至れり尽くせりなんだよな。
食事の用意に始まり、皿下げ、部屋の片付け、掃除、洗濯物は引出しに仕舞い、フロの着替えまで用意されそうになった時には流石に丁重に断ったが……。
過ぎたるは何とか。さすがに気がひける今日この頃。もっともこうした言動は冗談混じりのシスコン・ブラコンがちょっと度を越しただけ、位に思う様にしている深優人だった。
◆◇◆
「お兄ちゃん、夕飯出来たよ~」
「今行くー」
深優人は小学生の頃からかなり早熟タイプだった。どちらかと言えば本を読むのが好きなインドア派。
少年期に夢中になるバトルもの等のコンテンツも人並み程度に見ていたが、それらに興味は薄く、音楽もクラシックが好き。
尤もそれは隣人の幼馴染みの女の子がピアノを習っていたために関心が向いて、父親の大量のCDコレクションに手を付けた事がきっかけで詳しくなった。
こんな感じに、よくあるアニメ主人公男子の様な超鈍感なタイプとは全く逆の性格である。洞察力も有り、それ故、色々分かってしまうのだ。
「お兄ちゃん勉強捗ってる? ちょっと教わりたい所があって。後で部屋に行っていい?」
「ああ、いいけど」
「じゃあ食後はエスプレッソにする? 勉強するなら眠気醒ましにもいいし」
う……またしても世話焼きメイド……何か最近の澄美怜《すみれ》のブラコン度は余りに……いや俺だって端から見れば充分シスコンだろうけど、どちらかと言えばまだ節度のあるシスコン……
ま、自分で言うのも何だがムッツリシスコンとでも言うか、実に奥ゆかしいものだ……と思いたい。
でも最近の澄美怜は堂々と恋人か良妻の様な、そんな言動が目に付く感じで、兄としてはどう対応して良いやら……。
「あ、甘味料は、こっちを使うんでしょ、はいパラスウィート。糖質控えめだもんね」
気が利きすぎというか、俺は甘やかされ過ぎなのだ。俺の全ての好みを熟知している。そしてその可愛さに清楚な微笑みを添えての日々の過剰サービス。もう『天使かよ』
澄美怜は顔立ちもアイドル並でスタイルは深優人ごのみの細身タイプ。適度な胸とくびれた腰のシルエットが美しい。黒髪ストレートをたまにポニーテールにもしている。
その髪を下ろしている今は動く度に肩より下までのそれがサラサラと揺れ、繊細な細毛は日の光に当たった時などは栗色から琥珀色へのグラデーションとなって輝く。ヘアアイロンをかけずとも濡れ羽の様なツヤやかな髪からは、通りかかると仄かにいい香りを放って来る。
う~ん、これらは俺にとって文句なしに嬉しい状況のはず、なのだが恐らくは全て俺を虜にする為の演出……の気もする。こんなに甲斐甲斐しくして貰うと何か後が怖い……。
タ食はニュースを見ながらの一家団欒。向かいの席で凛とした佇まいと柔らかな澄まし顔の澄美怜が、上品な箸使いで口に運ぶ最中に目が合うと、天使の微笑みで返してくれる。
ちょっとおい、可愛過ぎだろ!
アニメ妹であればここは「フン」〈プイッ〉 とか「何よ」とか、はたまた甲斐甲斐しい世話焼きの小事とかで兄をたじろがせて、イラ・カワな妹属性を全開にする場面である。
だが深優人がそうした反発性妹属性に萌えるタイプではない事をわきまえていて、あの様な微笑みを見せるのだ。因みに従順タイプ好きとバレている。
ううう……この笑顔に超萌えてる俺も仕方無いヤツだが、それを必死に隠している所を見てそんな兄に澄美怜もムッツリ萌えしている事も、実はこちらとしても分かってしまっているのが何ともモドカシイ。
『あ、今お兄ちゃん、私の事可愛く思ってくれたよね?』等と思ってるハズだ。それが何となく伝わって来る。
そして『スン』としてたと思ったら不意打ち気味に目を合わせて意味もなく 〈ニコッ〉
「……っ!」
しかし……全く何を考えているのかこの子は。良く分からないが差し当たって妹のこんな態度を俺は『スンデレ』と呼んでいる。
近いものにク―ルでデレるヤツでクーデレと言うのがある。アニメで良くある冷たい態度ながら放つ言葉はデレった内容だったり、クールな仕草から急にデレになったりがそれだ。
その点で『スンデレ』は後者に似ているが、妹は対象を冷たく落としてから持ち上げる様な所は一切なくて、スンとお澄まししてる時も温かさを湛えて、そこからデレてくるこれは呼称が無いので俺的にスンデレと名付ける事にした。
「ああ……そもそもこの子からのツンデレ経験、一度も無いし……ホント優し過ぎる」
こんなに可愛い奇跡の妹だが、最近では至れり尽くせりが行き過ぎて妙にヘンタイっぽいものを感じる事も。
何かクンクンされてたり?……ストーカーみたいな時もあって……。兄としてちょっと心配……。
まあ怖いのであまり考えない様にしてるけど。
そう、深優人は澄美怜には本当は切ない理由があってそうしている事を半分知りながら、澄美怜《すみれ》だけでなく自分自身にも気付かぬフリに努めていた。
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