妹のままでいさせて

深宙 啓 kei Misora

文字の大きさ
29 / 54
第二章 【破】愛の真実

第29話* 百合愛の記念日とオワコン澄美怜 妹のままでいさせて②

しおりを挟む





 そして夜のとばりは二人を載せた小舟を 

 やさしく闇にかくまってゆく――――



  : + ゜゜ +: 。 .。: + ゜ ゜゜ 



 
 震える細い肩。―――その最後の響きの余韻が消える前から、百合愛ゆりあは涙を流していた。

 何故なら百合愛ゆりあの中の曲想はまるで今の自分の境遇そのものを表している様に思えたから。
 だからこそ激しい喜びの感情に襲われた。

 ――――その理由。


「私にも……見えた……月夜、海、水面の煌めき……深優人みゆとくんと同じように……」



 そしてそれはただ見えたのではなく、もはや完全にそこに同化していた。持っていたハンカチをそっと百合愛ゆりあの頬に当てる深優人みゆと

「そっか。良かった……同じで。なんか嬉しいな」

「ありがとう。スッゴク気に入った、この曲。記念日、ささやかな……ううん、遥かにそれ以上の記念日になったよ。この気持ち、今最高に高まってる。……深優人みゆとくんは?」

「もちろん俺も」

 それなら!! ――――  期待で胸が熱くて止まらない。

 互いの瞳は潤んだまま捉えてもう離れない。瞳孔の更にその奥まで射抜くほど見つめ合う。百合愛ゆりあは目を静かに閉じた。

 二人は長い時と距離を乗り越えて、遂に幸せな気持ちで顔を重ねた。

 最初は全ての優しさを持ち寄り合って、そっと。

 そして逢えずに堰き止められていた想いは決壊し、この数年を取り返さんばかりに激しく、そして気の済むまで唇を奪い合い、そして抱擁した。

 悲しい思い出が新しい思い出となって上書きされた。 そしてこれがどんな結果となって行くのかを百合愛ゆりあだけが勘づいていた。

 顔を離した直後、百合愛はまるで熱病にかかって力尽きたように脱力して深優人みゆとの肩に持たれかかかる。
 果てた情熱はやがて安らぎへと落ちついて行き、満足げに溜め息をついて深優人みゆとの胸に顔をうずめた。

 そのまま止め忘れていたオーディオからは次のプレイリスト曲『マーラーのアダージェット』が二人を優しく祝福するかの様に、ただ静かに流れ続けていた。

 幸福感で埋め尽くされ、時間ときの静止したこの部屋で、百合愛は一生この日を忘れないだろうと確信した。



▼マ―ラー交響曲 第5番 第4楽章
「アダージェット」
https://youtu.be/Fvb1ITRFXhc?si=si0R90BbXuwTwDMO




   **




―――その頃。澄美怜すみれの部屋では。


 『スミレ、俺、ずっと隠してきた事がある』 

『お兄ちゃん、急にどうしたの?』 

『スミレのこと、好きなんだ!』 

『待って! でも私達兄妹だよ』 

『だけどもう自分に嘘をつけないんだ……一度でいい。キスしたい』

  壁ドンッ

『……ダメだよ、そしたら私…』  

『一度だけでも!』  

『ダメ! 兄さんお願い……このままで』

 『一度だけ!』 

 アゴクイ、

 『イヤッ!   ――― “ 妹のままでいさせて!”』 

『もうムリ!』  

『あっダメ! ンッ!』

 …… 

『スミレ。ずっと……こうしたかった……
 ゴメン……ありがとう』 

『……そんな……私だってずっとガマンしてたのに……こんな風になるなら妹になんか生まれたくなかった!……もうこの気持ち止められないよ。どうするつもり?』  

『……世間の誰を敵に回そうとも、それでもずっと好きでいる。キミの為に生きる!』 

『……深優人みゆと兄さんがそんなに言うなら、私も!………』

……そして幸せになる―――

      ―――〈fin〉



『……』 シ――――ン……



 はぁ――っ…… ああ虚しい。

 こんな妄想、中学生までは何通りでも作れたし浸れたのに……現実とほぼ逆設定だからかな……でも私だって妄想の時ぐらい求められたいし……

 チョイおこ顔で不満げにその愛らしい頬をプィッと膨らませる。

 ……以前だったら私の遊び相手をしてくれてた休日のこの時間、お兄ちゃんは居ない。

 はぁ……好きだよ、お兄ちゃん……。お兄ちゃん、好きです。好きなの、深優人みゆとさん……深優人! 好きだよ!……深優人くん……兄さん……お兄、しゅき。
……好き、好き、好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き―――――――――――――――――っっ!!……

 ふぅ……あと何千回か想えばこの気持ち、届くかな……な~んて。ふふ。


 絶対に届きっこない。


 だって今まで何万回とそう呼んだのに届かなかったし。でも持て余した時間はこんな事に使ってしまう……ううう……。


 深優人みゆとのベッドで兄の枕を抱く澄美怜すみれ

 おにいなんか、もうこうしてやる! と枕をハムッ、ハムッ、ハムッ、ハムッ、とあま噛みの嵐。










 そしてバフッと顔を埋めた。

 ……確かにお兄ちゃんとの遠ざけ合いは解決したけど、『寸止め妹』状態の振り出しに戻されて、そのくせ恋愛感情だけは日々順調に育ち続けてしまってる。

 薊さんの時もそうだったけどきっと今回も焦る対象があるせいなんだろうな……


―――その後の澄美怜は最悪だった。


 帰って来た兄と廊下で出くわす。すれ違い様につい兄の匂いをかいでしまうのはもう無意識レベルなのだが、人一倍嗅覚の鋭い澄美怜すみれにはハッキリ分かってしまう。
 百合愛ゆりあのシャンプーなのか香水なのかその覚えのある香気を感じ、嫉妬で呼吸さえ忘れる。

 いつもの堂々巡りが始まり、早々に部屋へ逃げ込んで頭を抱えた。

 う~、兄に恋してる妹なんて、結局ここでジ・エンドって事なんだよね。でもだからって好きな気持ちを簡単に止めるなんて出来ないよ……

 現在、澄美怜すみれは、男女パートナーを否定され、そして自らも妹志願状態。このまま全てを諦める前に出来ることは無いのか―――

 恒例の悪足掻きが始まる。

「そもそも恋愛やら結婚なんて無ければ、この妹というポジションは最高にして至高な筈なんだよね……」

 ……そうだよ! うちみたいにシスコンな兄ならずっと仲良くしてられるハズだし近くに居られる。もしちょっとくらい仲違いしたところでその縁は一生切れてしまう事も無いし!!  

 そう、妹・最強っ!!

「もう結婚なんて古い! そんなのオワコン終ったコンテンツだ――――っ!! 」



 シ――――――ン…………………………
 うぐっ……



 くぅ~っ……結局自分が一番恋したいクセしてその対象にして貰えなくなった途端、オワコンだって事にしてつい逃げ場を探してしまう……
 いや逃げ場なんかじゃない! だってこんなに結婚が急減してる世の中、きっと理由がある……かも……有って下さい……


 結局いつもの悪癖・ネット検索で逃げ口上を漁り始めてしまう。無駄にハイスペックな愛用のノートPCをマウスも使わずこれまた見事なショートカットキー操作だけで恐ろしく流麗に操る。

 全くもって見事なヲタクそのものであるが自覚はない。 何とも研ぎ澄まされたデジタルスキルだ。

 カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ……パンッッ

 そんなオワコンを叫ぶ巷の声は―――――

  ○嫁とか彼女とかはムダな必要経費
  ○結婚は別れた時に男に不利
  ○つき合うと男の負担大
  ○結婚後も尻にしかれる

「こんなの真実が通じ合うあの二人が耳貸すような話じゃない! こうじゃなくてお兄ちゃんがずっと恋人を求めない人生へと誘導出来ないかなぁ? 」

 ……もし独身を選べばずっと一緒にいられるし、シスコンなら大事にもしてくれる。私の望みはお兄ちゃんの心の中を独占したい。いつも私の事を考えていて欲しい

「ん?  オカシイ……」

 ……別に恋人でもないのに結構いつも私のこと考えてくれているかも。まあ百合愛ゆりあさんはもう別格として……

 う~ん、じゃあ何が不満?  やっぱり抱きしめ合ったり、キスしたりデートとか旅行とか? イヤ違う! 

―――妹はいずれ恋人や結婚相手の前に没っして行く。お兄ちゃんに見放されたら私は消えてしまう。

 ……待てよ、てことは今後ずっと一緒に居られれば別に妹だって不満はない。……って、そんな妹なんてあるわけないか。


「あーもうなんだかな―、……いや、こうなったらもっと掘り下げてですねー……  」

 カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ、

 ッパシィィィィッッ―――― 。

 神技の如き目にも留まらぬキー操作。enterキーを華麗にはじき終わると、ピアニストの如くしなやかに跳ねそよいだ美しい指が頬まで舞い上がる。
 そのかるた取りの如きキレに加えバレリーナばりの優雅な手捌きは見るものがいれば最高に絵になるが、単なるボッチでここまでヲタクだと無駄に可愛い女子の無駄に流麗なだけの動作である。

『ン?!』

  『恋愛より幸福度が高い現代人の生き方と現代式恋愛論』

 思わず身を乗り出し、ムム、これは必見! と、目を皿にしてモニターの角度を微調整する。





< continue to next time >




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

処理中です...