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1.妻の本性
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「シャノン!君はまた何をしてるんだ!」
「旦那様もやりたいんですわね?差し上げますわよ!」
満面の笑みを浮かべる少女は男に松明を手渡した。
「これで花火をぶっ放しちゃってくださいませ!」
「誰が自分の屋敷で花火なんて、打ち上げなきゃならないんだよ!」
「夏の風物詩ですもの」
「理由になっていない!」
若き公爵、ルクレオ・ゲレスハイムは妻の暴走に今日も頭を抱えていた。
シャノン・エンバレク、彼女はエンバレク伯爵の一人娘だった。社交界にほとんど顔を出したことがないにも関わらず、彼女の美貌は国中で有名だった。
艶やかな桃色の髪に、アメジストのように輝く瞳。容姿に関する噂は流れても、どのような人物であるかは知られていなかった。
それが全ての原因だ、俺がこんなことに悩まされるとは思わなかった。
ゲレスハイム公爵家は王国統一の頃から続く
歴史ある名家だった。
統一に尽力し、恩賜を得た。
ゲレスハイムの名を知らぬ者はこの国のどこにもいないだろう。
俺は容姿にも恵まれ、才覚もあった。
俺の顔を見るだけで女はたいてい惚れた。
この甘い顔に公爵の地位に剣の腕もある。
そのおかげか俺は女に困ったことはなく
若い頃は遊んだものだった。
しかし30目前となりそろそろ結婚を考えようと
相手を探していた。
その中で一際目に付いたのが、エンバレク伯爵の
愛娘、シャノンの存在だった。
まさかエンバレク家から結婚の打診が来るとは
思ってもいなかった。
結婚の条件も驚く程に良く、いくつかの領地に財産も差し上げると書いてあった。
その条件を見た時、俺は密かに口角をあげた。
あぁ、そういうことか
きっとエンバレクの娘は俺に惚れているのだ。
結婚したいと父親にせがみ、あの親バカな父親は
娘のためにとこのような破格の条件を提示したんだろう。
まぁそれはすぐに勘違いだったと分かるわけだが……
あのときの俺に言いたい、結婚相手はもっとちゃんと選べと
条件に釣られた俺はシャノンとの顔合わせを望んだ。
現れた少女は期待以上に美しく、あまりの美しさに
しばらく動けなかった。
シャノンは物静かで俺の言葉に笑顔で頷き
軽く相槌を返した。
お淑やかで静かで美しい彼女に俺は良い結婚相手を見つけたと喜んだ。
妻にするなら従順で静かな女に限ると友人が言っていたが、確かにその通りだ。
愛人を作る気はないにしても行動を制限してくるような女だけはごめんだった。
数回の顔合わせを終え、俺は結婚を決めた。
顔合わせから数ヶ月後、俺たちは盛大な結婚式をあげ
シャノンは公爵家の屋敷に住み始めたが……
それから1ヶ月後、彼女は隠していた本性を表し始めた。
「こ、公爵閣下…!」
「いきなりどうした?」
昔からゲレスハイム家に仕える執事、ジェフリーが
血相を変え、執務室に飛び込んできた。
「お、奥様が……どこにもおりません!」
「はぁ?!」
屋敷中の使用人たちがシャノンを探すために走り回っており、どこにもいないのだと顔を青ざめていた
「なんで突然いなくなるんだ……!」
「一つだけ心当たりがございます」
「なんだよ?」
「……先日もお伝えしましたが、本日は奥様の誕生日でございます、閣下は何か奥様に送られましたか?」
「……そうだったかな?」
「……それが原因のように思われますが」
「はぁ……女は面倒だな、忘れただけで家出か」
「誕生日をお忘れになる夫が言える言葉ではありませんよ」
「……すぐに何か女の気に入りそうなものを用意しろ、俺はシャノンを探してくる」
「この分ですと屋敷にはいらっしゃらないと思います、街に出かけられたかもしれません」
「騎士団にも捜索をさせろ」
俺は上着を羽織り、街へと馬を走らせた。
市で賑わった街で彼女を探すが、どこにも姿はない。
行方が分からなくなってから数時間
もしかすると繁華街を抜け、別の街へ向かっているかもしれない。
面倒で探すのをやめようかと思うが、結婚して
1ヶ月で出ていかれたとなれば俺の評判に傷がつく。
扱いやすい女かと思えばこの有様だ。
自分の見る目のなさに嫌気がさす。
どこだ、あの女は……怒りで剣の柄を地面に打ちつけようとしたとき
どこからか美しい歌声が聞こえてきた。
その声の方へと目を向けると、町娘の姿に扮した
シャノンが楽しそうにステージで踊りながら
歌を歌っていた。
「…………は?」
状況が理解できず、呆然とその姿を見つめていると
俺に気がついたのか、シャノンは一瞬目を見開き
笑顔で手を振ってきた。
数々の楽器で音楽を奏で、それに合わせて
彼女が軽やかに舞い、響く声でありながらも
繊細で美しい旋律を刻む。
ステージの周りに集まった人々は彼女の歌や踊りに
魅了され、歓声をあげていた。
音楽がフィナーレを迎えると、人々は盛大な拍手を彼女に送り、彼女は嬉しそうに手を振っていた。
ステージの階段を駆け下り、彼女は一目散に
俺の元へと走ってきた。
「旦那様!いらしたのね」
「しゃ、シャノン……君は何やっているんだ?」
「街に遊びに来たら音楽祭を偶然見つけましたの
あまりに楽しげでしたので、つい参加してしまいましたのよ」
「き、貴族の君がか……?」
「あら失礼ですわね、貴族だとしてもこういう催しは
大好きですのよ」
「シャノンちゃん!もう一回歌ってくれよ!」
「最高だよ、アンタの歌!アンコール始まってるぜ」
「かしこまりましたわ!ならもう一度……」
「帰るよ、シャノン」
「……お預けですわね」
無理やり彼女を馬車に乗せると、さっきの砕けた
表情から打って変わって顔合わせのときのような
静かで穏やかな表情に変化した
「……君の本性はあっちだな、今頃隠そうとしても遅いよ」
「あ、あら?ダメでした?」
真面目ぶった表情はすぐに崩れ、気まずそうに笑っている。
「なんで屋敷を出た?た、たしかに誕生日を忘れたのは悪かったけど……勝手に出るのは褒められたことではないよ」
「た、誕生日?どちら様の?」
「は?今日は君の誕生日なんだろう?」
「……そうでしたわね、私の誕生日でしたわ
すっかり忘れていました、覚えていてくださるだなんて優しいのね、旦那様」
「……いや」
「勝手に出ていってしまったのはごめんなさい
街の方から楽しそうな音楽が聞こえてきて……
それに美味しそうな匂いがするでしょう?
我慢できなかったんですの
置き手紙を置いてきたはずなのだけど
風で飛ばされたのかもしれませんわね」
「まさか……それだけの理由で屋敷を出たの?」
「はい、それだけですわ!」
「……呆れて言葉も出ない」
「ごめんなさい、でも私……屋敷にいるだけなんて
耐えれませんの!実家にいた頃も好き勝手に出歩いていましたし」
「……とんだお転婆娘だね」
「照れますわね」
「褒めてない」
コロコロと表情を変える彼女は深窓の令嬢という
イメージとは似ても似つかなかった。
社交界に顔を出していなかったのはこの性格が原因じゃないだろうか。
「歳はいくつになったんだ?」
「今日で18になりますわね……あと2年ですわ」
「は?2年ってなに?」
「……旦那様のお誕生日は冬ですわよね?今は27だとか」
「そうだけど」
「楽しみですわね」
「楽しみ?俺の誕生日が?」
「はい!私、祝われるより祝う方が好きですもの」
「……変な子だね、君」
「うふふ」
屋敷に到着すると、屋敷中の使用人が彼女の無事を喜んだ。
気づかなかった、まさか彼女が使用人にそこまで好かれていたとは。
ジェフリーが俺に耳打ちをし、誕生日プレゼントは
彼女の部屋に置いてあると言った
ご馳走の準備も滞りなくと自信満々に告げた
シャノンは街で買ってきたという菓子を使用人達に
配る。
「ご迷惑おかけして本当にごめんなさい、よかったら
これを受け取ってちょうだい、とっても美味しかったの」
「ありがとうございます、奥様!次から街に行く時は私たちを連れて行ってくださいね」
「えぇ、そうするわね!」
……この1ヶ月で何があったんだ?なんで短時間でここまで使用人の心を掴めるんだ?
俺が困惑しているとジェフリーが小声で説明してきた。
「奥様は私たち使用人にとても気さくに接してくださいました、それに心もお優しい……新人のミリーが
奥様にお茶を零してしまった際も、怒らず
ミリーの怪我を心配していらしたようでした」
「……み、ミリーがか、そうか」
「使用人の名前など閣下は覚えていらっしゃらないでしょう?誤魔化さなくてもよろしいですよ」
「……覚えている貴族なんていないよ、まさかシャノンは屋敷中の使用人の名前を覚えているのか?」
「はい、その通りでございます」
「そんな馬鹿な……」
「名前だけではございません、趣味や性格なども把握しておいでです」
「……なんでそんなことをしているんだ?」
「分かりません、理由を聞くとただ
『友達を100人作るのが夢だから』と」
「友達を100人……?」
「旦那様!」
俺のもとへ走り、胸に飛び込んできた少女を
咄嗟に抱きとめた。
「誕生日プレゼントありがとうございます!
旦那様は凄いですわ、なぜ私が欲しかったものが
分かりますの?」
彼女が手にしていたのは、一冊の鮮やかな表紙が特徴の本だった
彼女の言葉に隣のジェフリーは嬉しそうに微笑んでいる
「表紙がとっても素敵ですわ!それに中のページにも
模様が入っていて……こういうの本当に大好きですの
ありがとうございます、旦那様」
「……あっ、あぁ」
気まずい、まさか誕生日を忘れ、プレゼントも執事が用意したものだとは言えず曖昧な返事を返す
彼女が立ち去った後、ジェフリーに何をあげたのかをすぐに聞いた
「白紙の本をご用意いたしました、奥様好みの
デザインのものを」
「なんでそんなもの?」
「言ってらしたので、可愛い背表紙の書く本が欲しいと」
「……宝石でもあげればよかったのに」
「奥様が身につけられるものを私たち使用人が用意しても良いと思われですか?閣下が自ら用意すべきだと思います」
「……宝石商を今すぐ呼んで、シャノンにバレないように」
「はい、かしこまりました」
たかだか本の一冊で俺がプレゼントとしたとあんなに喜ばれては、罪悪感で居心地が悪い。
来年の誕生日は俺が準備をしようと俺はその日
決心することになった。
「今日は最高の誕生日だったわ!」
夜、シャノンは一人部屋に籠り、今日の出来事を
噛み締めていた。
プレゼントの本にやりたいことを書き綴り
『誕生日を盛大に祝われる!』
という文言を線で消した
「あと……2年ね」
絶対に最後まで楽しんでやるんだから
私は絶対に負けない、苦しんでなんてやるものですか
最期は笑顔で迎えてみせる。
旦那様、ごめんなさい
2年の間だけどうか見逃してくださいね
「旦那様もやりたいんですわね?差し上げますわよ!」
満面の笑みを浮かべる少女は男に松明を手渡した。
「これで花火をぶっ放しちゃってくださいませ!」
「誰が自分の屋敷で花火なんて、打ち上げなきゃならないんだよ!」
「夏の風物詩ですもの」
「理由になっていない!」
若き公爵、ルクレオ・ゲレスハイムは妻の暴走に今日も頭を抱えていた。
シャノン・エンバレク、彼女はエンバレク伯爵の一人娘だった。社交界にほとんど顔を出したことがないにも関わらず、彼女の美貌は国中で有名だった。
艶やかな桃色の髪に、アメジストのように輝く瞳。容姿に関する噂は流れても、どのような人物であるかは知られていなかった。
それが全ての原因だ、俺がこんなことに悩まされるとは思わなかった。
ゲレスハイム公爵家は王国統一の頃から続く
歴史ある名家だった。
統一に尽力し、恩賜を得た。
ゲレスハイムの名を知らぬ者はこの国のどこにもいないだろう。
俺は容姿にも恵まれ、才覚もあった。
俺の顔を見るだけで女はたいてい惚れた。
この甘い顔に公爵の地位に剣の腕もある。
そのおかげか俺は女に困ったことはなく
若い頃は遊んだものだった。
しかし30目前となりそろそろ結婚を考えようと
相手を探していた。
その中で一際目に付いたのが、エンバレク伯爵の
愛娘、シャノンの存在だった。
まさかエンバレク家から結婚の打診が来るとは
思ってもいなかった。
結婚の条件も驚く程に良く、いくつかの領地に財産も差し上げると書いてあった。
その条件を見た時、俺は密かに口角をあげた。
あぁ、そういうことか
きっとエンバレクの娘は俺に惚れているのだ。
結婚したいと父親にせがみ、あの親バカな父親は
娘のためにとこのような破格の条件を提示したんだろう。
まぁそれはすぐに勘違いだったと分かるわけだが……
あのときの俺に言いたい、結婚相手はもっとちゃんと選べと
条件に釣られた俺はシャノンとの顔合わせを望んだ。
現れた少女は期待以上に美しく、あまりの美しさに
しばらく動けなかった。
シャノンは物静かで俺の言葉に笑顔で頷き
軽く相槌を返した。
お淑やかで静かで美しい彼女に俺は良い結婚相手を見つけたと喜んだ。
妻にするなら従順で静かな女に限ると友人が言っていたが、確かにその通りだ。
愛人を作る気はないにしても行動を制限してくるような女だけはごめんだった。
数回の顔合わせを終え、俺は結婚を決めた。
顔合わせから数ヶ月後、俺たちは盛大な結婚式をあげ
シャノンは公爵家の屋敷に住み始めたが……
それから1ヶ月後、彼女は隠していた本性を表し始めた。
「こ、公爵閣下…!」
「いきなりどうした?」
昔からゲレスハイム家に仕える執事、ジェフリーが
血相を変え、執務室に飛び込んできた。
「お、奥様が……どこにもおりません!」
「はぁ?!」
屋敷中の使用人たちがシャノンを探すために走り回っており、どこにもいないのだと顔を青ざめていた
「なんで突然いなくなるんだ……!」
「一つだけ心当たりがございます」
「なんだよ?」
「……先日もお伝えしましたが、本日は奥様の誕生日でございます、閣下は何か奥様に送られましたか?」
「……そうだったかな?」
「……それが原因のように思われますが」
「はぁ……女は面倒だな、忘れただけで家出か」
「誕生日をお忘れになる夫が言える言葉ではありませんよ」
「……すぐに何か女の気に入りそうなものを用意しろ、俺はシャノンを探してくる」
「この分ですと屋敷にはいらっしゃらないと思います、街に出かけられたかもしれません」
「騎士団にも捜索をさせろ」
俺は上着を羽織り、街へと馬を走らせた。
市で賑わった街で彼女を探すが、どこにも姿はない。
行方が分からなくなってから数時間
もしかすると繁華街を抜け、別の街へ向かっているかもしれない。
面倒で探すのをやめようかと思うが、結婚して
1ヶ月で出ていかれたとなれば俺の評判に傷がつく。
扱いやすい女かと思えばこの有様だ。
自分の見る目のなさに嫌気がさす。
どこだ、あの女は……怒りで剣の柄を地面に打ちつけようとしたとき
どこからか美しい歌声が聞こえてきた。
その声の方へと目を向けると、町娘の姿に扮した
シャノンが楽しそうにステージで踊りながら
歌を歌っていた。
「…………は?」
状況が理解できず、呆然とその姿を見つめていると
俺に気がついたのか、シャノンは一瞬目を見開き
笑顔で手を振ってきた。
数々の楽器で音楽を奏で、それに合わせて
彼女が軽やかに舞い、響く声でありながらも
繊細で美しい旋律を刻む。
ステージの周りに集まった人々は彼女の歌や踊りに
魅了され、歓声をあげていた。
音楽がフィナーレを迎えると、人々は盛大な拍手を彼女に送り、彼女は嬉しそうに手を振っていた。
ステージの階段を駆け下り、彼女は一目散に
俺の元へと走ってきた。
「旦那様!いらしたのね」
「しゃ、シャノン……君は何やっているんだ?」
「街に遊びに来たら音楽祭を偶然見つけましたの
あまりに楽しげでしたので、つい参加してしまいましたのよ」
「き、貴族の君がか……?」
「あら失礼ですわね、貴族だとしてもこういう催しは
大好きですのよ」
「シャノンちゃん!もう一回歌ってくれよ!」
「最高だよ、アンタの歌!アンコール始まってるぜ」
「かしこまりましたわ!ならもう一度……」
「帰るよ、シャノン」
「……お預けですわね」
無理やり彼女を馬車に乗せると、さっきの砕けた
表情から打って変わって顔合わせのときのような
静かで穏やかな表情に変化した
「……君の本性はあっちだな、今頃隠そうとしても遅いよ」
「あ、あら?ダメでした?」
真面目ぶった表情はすぐに崩れ、気まずそうに笑っている。
「なんで屋敷を出た?た、たしかに誕生日を忘れたのは悪かったけど……勝手に出るのは褒められたことではないよ」
「た、誕生日?どちら様の?」
「は?今日は君の誕生日なんだろう?」
「……そうでしたわね、私の誕生日でしたわ
すっかり忘れていました、覚えていてくださるだなんて優しいのね、旦那様」
「……いや」
「勝手に出ていってしまったのはごめんなさい
街の方から楽しそうな音楽が聞こえてきて……
それに美味しそうな匂いがするでしょう?
我慢できなかったんですの
置き手紙を置いてきたはずなのだけど
風で飛ばされたのかもしれませんわね」
「まさか……それだけの理由で屋敷を出たの?」
「はい、それだけですわ!」
「……呆れて言葉も出ない」
「ごめんなさい、でも私……屋敷にいるだけなんて
耐えれませんの!実家にいた頃も好き勝手に出歩いていましたし」
「……とんだお転婆娘だね」
「照れますわね」
「褒めてない」
コロコロと表情を変える彼女は深窓の令嬢という
イメージとは似ても似つかなかった。
社交界に顔を出していなかったのはこの性格が原因じゃないだろうか。
「歳はいくつになったんだ?」
「今日で18になりますわね……あと2年ですわ」
「は?2年ってなに?」
「……旦那様のお誕生日は冬ですわよね?今は27だとか」
「そうだけど」
「楽しみですわね」
「楽しみ?俺の誕生日が?」
「はい!私、祝われるより祝う方が好きですもの」
「……変な子だね、君」
「うふふ」
屋敷に到着すると、屋敷中の使用人が彼女の無事を喜んだ。
気づかなかった、まさか彼女が使用人にそこまで好かれていたとは。
ジェフリーが俺に耳打ちをし、誕生日プレゼントは
彼女の部屋に置いてあると言った
ご馳走の準備も滞りなくと自信満々に告げた
シャノンは街で買ってきたという菓子を使用人達に
配る。
「ご迷惑おかけして本当にごめんなさい、よかったら
これを受け取ってちょうだい、とっても美味しかったの」
「ありがとうございます、奥様!次から街に行く時は私たちを連れて行ってくださいね」
「えぇ、そうするわね!」
……この1ヶ月で何があったんだ?なんで短時間でここまで使用人の心を掴めるんだ?
俺が困惑しているとジェフリーが小声で説明してきた。
「奥様は私たち使用人にとても気さくに接してくださいました、それに心もお優しい……新人のミリーが
奥様にお茶を零してしまった際も、怒らず
ミリーの怪我を心配していらしたようでした」
「……み、ミリーがか、そうか」
「使用人の名前など閣下は覚えていらっしゃらないでしょう?誤魔化さなくてもよろしいですよ」
「……覚えている貴族なんていないよ、まさかシャノンは屋敷中の使用人の名前を覚えているのか?」
「はい、その通りでございます」
「そんな馬鹿な……」
「名前だけではございません、趣味や性格なども把握しておいでです」
「……なんでそんなことをしているんだ?」
「分かりません、理由を聞くとただ
『友達を100人作るのが夢だから』と」
「友達を100人……?」
「旦那様!」
俺のもとへ走り、胸に飛び込んできた少女を
咄嗟に抱きとめた。
「誕生日プレゼントありがとうございます!
旦那様は凄いですわ、なぜ私が欲しかったものが
分かりますの?」
彼女が手にしていたのは、一冊の鮮やかな表紙が特徴の本だった
彼女の言葉に隣のジェフリーは嬉しそうに微笑んでいる
「表紙がとっても素敵ですわ!それに中のページにも
模様が入っていて……こういうの本当に大好きですの
ありがとうございます、旦那様」
「……あっ、あぁ」
気まずい、まさか誕生日を忘れ、プレゼントも執事が用意したものだとは言えず曖昧な返事を返す
彼女が立ち去った後、ジェフリーに何をあげたのかをすぐに聞いた
「白紙の本をご用意いたしました、奥様好みの
デザインのものを」
「なんでそんなもの?」
「言ってらしたので、可愛い背表紙の書く本が欲しいと」
「……宝石でもあげればよかったのに」
「奥様が身につけられるものを私たち使用人が用意しても良いと思われですか?閣下が自ら用意すべきだと思います」
「……宝石商を今すぐ呼んで、シャノンにバレないように」
「はい、かしこまりました」
たかだか本の一冊で俺がプレゼントとしたとあんなに喜ばれては、罪悪感で居心地が悪い。
来年の誕生日は俺が準備をしようと俺はその日
決心することになった。
「今日は最高の誕生日だったわ!」
夜、シャノンは一人部屋に籠り、今日の出来事を
噛み締めていた。
プレゼントの本にやりたいことを書き綴り
『誕生日を盛大に祝われる!』
という文言を線で消した
「あと……2年ね」
絶対に最後まで楽しんでやるんだから
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