絢と僕の留メ具の掛け違い・・

すんのはじめ

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第1章

1-⑶

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 学校は山の上にあって、本町絢の家は僕の方とは反対側の坂を下ってゆく。昔、宿場町として栄えたこの街には、その外れに色街があった。その辺りを相手にして小間物屋を代々行ってきたのが彼女の家だ。今はもう当時の勢いがないが、今でも彼女のお父さんは数人を使って地域のホテル旅館なんかに土産物とかを卸しているらしい。そのせいか、近所では古くからの名家とされている。上に兄さんがいるが彼女は長女なので、昔からの慣習の呼び名で会社の人とか近所の人から と呼ばれていると聞いたことがある。
 
 土曜日の朝、僕は市民会館に9時10分前に着いた。柱の陰に彼女の姿が半分見えたかと思ったら、すぐに隠れてしまった。何だよーと思い、柱まで行くと、

 彼女は「ばぁー」っと出てきて、

「おはよー」と言ってニコッとしていた。その時、僕は 案外 可愛い と思ってしまった。肩からは大きな袋をさげていた。たぶん、教科書なんかが入っているんだなと予想した。

 彼女の家はここからは電車で一駅離れていて、歩いて来ると30分位あるかもしれない。だから、僕は電車の時間のことは考えなくて9時と言ったのだけど、もしかすると彼女は電車の都合で早く着いていたのかもしれない。
 
 「こっち」と言いながら15分程歩いて家に着いた。

 途中、彼女とは何も話さなかった。お母さんには友達を連れてくるとしか言ってなかったので、彼女を見るなり少し驚いた様子だった。

「いらっしゃい。どうぞあがって」「女の子だったので少しびっくりしちゃった」と笑顔を作っていた。
 
 自分の部屋に入れるのも何となく抵抗があったので座敷の部屋に招きいれた。

「今日はどうする」と訳のわからないことを聞いてしまったが、

 彼女は「昨日出た宿題から教えて」と返してきた。

 何となく気が楽になった。算数の文字式でxとかyが出てくるのだが彼女は仮定の数字にそれを当てはめるということがなかなか理解できなかったので、そのことを説明するのにしばらく時間がかかった。宿題を終えるだけで昼までかかってしまった。でも、説明していったら理解できているみたいで、お互い安心したと思うし、次第にタメ口になっていった。
 
「お昼ご飯用意できたわよ」とお母さんが呼びに来た。

 二人してダイニングにいったんだけど、お母さんが彼女に立て続けに話しかけて・・・。

「卵の天津丼なんだけど嫌いじゃぁない?」「そうそう お名前は」「おうちはどこ?」「桜町かぁ ちょっと遠いわね」「兄弟は?」「髪の毛長くてかわいいわね、洗ったら大変でしょ」
 
 彼女も食べながらだから、答えるのも大変だったみたい。うちは男兄弟3人の僕は末っ子なんだけれど、女の子が居ないもんだから、お母さんも嬉しくて仕方ないみたいにはしゃいでいるように思えた。上の兄は大学生で独り生活しているし、直ぐ上の兄は中学2年生でサッカー部なので朝は早く帰りも遅いので、おしゃべりする相手が普段居ないのでその分もしゃべっているみたい。

 ご飯のあとは、国語の教科書を二人で読んで、新しい漢字を10回ずつ書いて覚えたり、理科の教科書を読んで大事そうな箇所を鉛筆で囲いながら覚えるんだよと、一緒にやった。

「お前 何で 勉強しないんだよー?」

「何で勉強するの? 有名高校とか大学に行く手段なだけちゃう? ウチは絵を描くの好きだからー 絵だと そのまま伝えられるからー」

「ふ~ん だけどなー」

「あのね ウチって変でしょ だから お友達も少ないの でも 水島君が声を掛けてきてくれて うれしかった それに、前から・・・ウチ 水島君のこと・・・す# だったの」

 だんだんと小さな声になってて 最後はなんて言ったのか 聞こえなかったのだけど、僕は 勝手に 好きと言ったんじゃぁないかと思っていた。そりゃぁー僕だって 好きと言うんじゃぁ無いけど、気になっていたから・・・

 3時頃になって、

「もう、そろそろ帰らなきゃ」と彼女が言ったので、

「じゃぁ駅まで一緒に行くよ」と答えたら、

「明日も来たら迷惑かなっ」一瞬に彼女の頬が紅くなるのを見た。

「いいよ」と言ってお母さんを呼びにいったら、

「まぁ、もう帰っちゃうの、もっと居たらいいのに」と、

「明日も来るんだって」と伝えると、うれしそうに、

「そうなのー、絢チャン何が好き?明日のお昼は好きなものつくるから」って。
 
 駅に向かう途中、何にも話すことなかったが、

「なぁ 本町のこと絢チャンって呼んでもいいかな」って切り出した。
 
 彼女は例のごとく頬を紅くして、

「じゃぁー私もモト君って呼ぶね、でも私は絢でいいよ」ってニコッとして見返してきた。
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