2 / 58
ゼント : 終わりの始まり
1.1 - 召喚 【ミッドガルズ : オーズの暴走、漂う闇】
しおりを挟む「では次! オーズ君。力場前へ。」
石造りの建物に谺する声。
長めの茶色いウェーブがかった髪をした、青年ほどの歳頃の男、ラウムだ。
エウローン帝国学園で教師をしている。
生徒と思しき少年に声を掛けた。
呼ばれた生徒は、オーズ・ノート・ヘルグリンド。
ノート家の嫡男である。
「俺様の番か!」
意気揚々とした様子で、肩をいからせながら、ずいと人垣を押し退けるオーズ。
端的に表わせば、"偉そう"な態度である。
だが、彼にしてみれば、その行動に何の迷いもない。
オーズは、エウローン帝国傘下、ヘルグリンド王国の王族に連なる、ノート家という地位の高い家柄だ。
その地位に溺れているのか、粗暴でいて横柄であり、さらに歪んだ性格をしていた。
艶のある黒髪に、切れ長の紅い瞳で、長い手脚に長身、スラリとした体型……
と、容姿だけは非常に整っているのだが――
周囲には密かに『一見様』などと陰口を叩かれ、残念な扱いを受けている。
オーズはそれが許せない。
「クソ共が……見てやがれ」
オーズは、ずかずかと歩きながら、心中に負の感情を募らせていた。
とにかく周囲の連中に思い知らせてやりたいのだ。
「俺様の凄さを見せつけてやるぜ……!」
オーズは、力場と呼ばれる円の前へと歩み出た。
今は、召喚術の授業中である。
力場に働きかけ、この世界の何処か……または別世界の何処かから、大いなる力を持った"召喚獣"と称される存在を呼び寄せ、使役する。
それが召喚術だ。
今日の召喚で、より強力な召喚獣を得て、己が力を見せつける腹積もりなのだ。
「オーズ様ならすんごいの喚ぶのなんて、楽勝っすよね!」
オーズにも、その地位に相応しく、子分や取り巻きのような者は居る。
軽口を叩いて太鼓持ちをするのは、オーネスだ。
名前が少し似ているというのをネタに、上手いこと取り入ったのだ。
「うるせぇよ。黙って見とけ。」
煽てるオーネスに、オーズは吐き捨てるように答えた。
こういうのが格好良いと思うお年頃なのか、もはやそういう人間なのか。
他の生徒達は、寒々しい視線を向けている。
だが、オーネスは将来的な甘い蜜を諦めるつもりは更々無い。
「すんませーん! オーズ様の勇姿、黙ってしっかり目に焼き付けまっす!」
軽薄な笑顔を貼り付けたまま、大仰な身振りで、オーネスは礼を取った。
力場は、光の粒が揺らめき、淡く輝いている。
オーズは、目を閉じた。
内なる力を解放すべく、身中に集中する。
やがて身体から湯気のように、何かが湧きたった。
黒い粒だった。
(クソ共が! 俺様の力を見せてやるぜ!)
「はあぁぁぁー!!!!」
オーズの身体から湧き出る黒い粒は、気合いを込めると、稲妻のように迸り、バチバチと音を立てた。
「俺様の……! 声に……! 力に……! 応えろおぉぉおぉ!!!!」
オーズの発した黒い稲妻は、力場の光に吸い込まれるようにして、力場の中心へと集まっていく。
次第に大きくなるそれは、球状に変化した。
「うおおおおぉ!!!!」
更に力を込めるオーズ。
血管も浮き出て、必死の形相だ。
力場中央の黒球は、圧縮されるように小さく小さくなっていった。
やがて、小指の先ほどより小さくなったかという瞬間。
ボンッという破裂音が響いた。
「む、なんだあれは」
力場の中央には、黒い霧のようなものがある。
黒球が破裂し、拡散したのだろうか。
だが、それならば留まっている事がおかしい。
自身の知識では計り知れない現象に、怪訝な表情を浮かべるラウム。
対してオーネスは、
「さっすがオーズ様! 成功っすね!」
と、喜びを表している。
他の生徒達は、
「何あれ……」 「見た事ない……」 「え、なんか怖……」
と、口々に嫌悪感や恐怖を漏らした。
戦々恐々とした様子だった。
「はぁ……はぁ……はぁ……。よし、来たか……」
オーズは肩で息をしながらも、力場に現れたものを、しっかりと見ている。
それは、ただの黒い霧ではなかった。
書物でも、伝え聞いた話にもない、人型に見える黒い霧だ。
明らかに謎の存在ではあるが、それも自分らしいと思った。
見た目には不気味さも相まって、強そうなのだ。
概ね満足といえた。
後はこの謎の存在を調伏し、使役出来るようにしなくてはならない。
「貴様は、なんだ? どんな力を持つ? ……まぁ、俺様に従える事は幸せだと思うことだな!!!!」
息を整えながらも、自信に満ち溢れていたオーズ。
彼は16年という人生で、最高潮の気分だった。
今まで見てきた生徒達の召喚獣は、ちんけな雑魚だった。
目の前の存在に比べれば、教師が喚んだ召喚獣すら雑魚だ。
自分が喚んだ召喚獣からは、空気が震えるような圧力すら感じる。
他の奴らとは比べ物にならないのだ!
遂に報われる時が来たのだ! と。
だが、そんな自信はすぐに打ち砕かれる事になる。
「跪け! 平伏せッ! 火槍!」
オーズの前に構えた手から、細長い炎が飛び出し、黒い霧を襲った。
が……
「な、なに?!」
炎は、黒い霧に吸い込まれるようにして消えてしまった。
「……ア……アァ……ワタ……シ……イ……ヤ……オレ……ハ……」
炎を全く意に介さない様子だった黒い霧が、声を発した。
それに驚愕したのは、ラウムだ。
「喋っただと?! これは……相当に強大な存在だぞ……。
まずいな……。オーズ君! 気をつけるんだ! 無理をするな! 送還するべきかもしれんぞ!」
ラウムの知識としては、はっきりと話す召喚獣は強力過ぎて危険だという認識だ。
往々にして、人の手に負えるものではないのだ。
自身が喚べる召喚獣も、会話による意思疎通は出来ない。
こんなものを調伏など出来るのだろうか。
不安が募る。
だが、オーズはそんな忠告を聞き入れるつもりはないのだ。
「うるせぇよ! 送還なんかするか! 見てやがれ!」
火槍が効かなかった事で、一瞬怯んだオーズだったが、気を取り直したのか、その顔がにやりと不敵に歪んだ。
「炎が効かねぇんならよ……」
オーズは腰に提げていた剣を抜き払った。
「こいつはどうだァアア!!!!」
黒い霧に一足飛び。
勢い良く肩口へ斬りつけるオーズ。
その剣は力を帯びて、輝いていた。
ブォンッ! という派手な風切り音。
黒い霧は、確かに目の前に居る。少しも動いてはいない。
斬りつけたはずの剣。手応えはない。
ただ虚しくすり抜けただけだった。
「は……? な……な……」
動揺を隠し切れないオーズ。
震えがくる身体。
「う……うああああああああ!!」
叫んだ。
そして、やたらめったら、無茶苦茶に、無我夢中で剣を振り回した。
それはもう――剣術などというものではなかった。
「オーズ君! 止めるんだ! 他の生徒たちは逃げろ!」
ラウムの声が響くが、オーズには届かない。
「あああ……くそ……クソっ……なんで……なんでだ!!!!」
引き攣った形相で、必死に震えに抗いながら、剣をぶんぶんと振り回し続けている。
生徒たちは、我先にと出口に向かい走り出した。
「……ウ……ア……メッ……メッ……」
黒い霧は、譫言のように、時折何かを呻く。
「ああああああああぁぁぁ!!!!」
オーズはもうパニックを起こしていた。
叫びながらただただ剣を振り回す。
「ちょ……オーズ様?! やばくないっすか?!」
腰が引けたまま、かなり遠くからオーネスが声を掛けるが、届くはずもなかった。
オーネスは、将来の甘い蜜を期待をしていたが、それだけでもあった。
反応すらしないオーズを置いて、避難する事を選んだようだ。
「オーズ様も早く逃げた方がいいっすよ!」
その言葉を最後に、オーネスは部屋を飛び出した。
「メッ……サ……」
呻くだけだった黒い霧が、何かを呟き、突如動いた。
その動きは、ゆっくりだったのか、速かったのか、分からない。
いつの間にかオーズは、黒い霧に呑み込まれるように包み込まれていた。
「ま、不味い……! 光弾!!」
ラウムが光の弾を放つも、黒い霧に触れた瞬間、飲み込まれるように、光は消えた。
……部屋の中には、もう黒い霧とラウムしか居ない。
ラウムは、思案する。
この謎の召喚獣は何なのか。
何故炎や光などの力が効かないのか。
それがこの存在の能力なのだろうか。
だとすれば、剣も効かない以上、打つ手が無いのではないか……。
ラウムは、絶望感を覚えた。
「う……あ……」
再び黒い霧が呻く。
人型の手に見える部分で、頭らしき所を押さえて、左右に振っている。
それは、人間らしい仕種だった。
(ん……? ここは……?)
黒い霧は、顔らしきものを上げ左右を見回した。
(……ああ、そうか)
黒い霧は、理解した。
自身が、円間善人と呼ばれた人間の成れの果てだった事を。
51
あなたにおすすめの小説
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ
鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。
それが約50年前。
聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。
英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。
俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。
でも…英雄は5人もいらないな。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
神様 なかなか転生が成功しないのですが大丈夫ですか
佐藤醤油
ファンタジー
主人公を神様が転生させたが上手くいかない。
最初は生まれる前に死亡。次は生まれた直後に親に捨てられ死亡。ネズミにかじられ死亡。毒キノコを食べて死亡。何度も何度も転生を繰り返すのだが成功しない。
「神様、もう少し暮らしぶりの良いところに転生できないのですか」
そうして転生を続け、ようやく王家に生まれる事ができた。
さあ、この転生は成功するのか?
注:ギャグ小説ではありません。
最後まで投稿して公開設定もしたので、完結にしたら公開前に完結になった。
なんで?
坊、投稿サイトは公開まで完結にならないのに。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる