ミナゴロシノアイカ ~生きるとは殺すこと~【神世界転生譚:ミッドガルズ戦記】

Resetter

文字の大きさ
20 / 58
ゼントと鉄鋼団

1.14 - 呼び出しのリンド 【帝国学園 : ゼント2日目】

しおりを挟む


 スラム攻防戦の決着の翌日。

 ゼントは早速学園長室に呼び出されていた。

 
 ――コンコンコン

 「入りたまえ」

 
 ガチャリとドアを開け、中に入るゼント。

 
 「……何で裸なんだ。」

 学園長リンドは、一糸纏わぬ姿で、床に胡座をかくような格好をして、目を閉じて座っていた。

 いつもの帽子やマントすらない。

 そのスレンダーで均整の取れた美しい肢体を惜しげもなく晒している。

 
 「神力修行に決まっておろう。」

 (いや……呼び出しておいて……)

 そんなリンドの出迎え姿に戸惑うゼント。


 そしてリンドはパチリと目を開ける。

 「シャルマ君に呼び出されたそうじゃな。」

 (何で知ってるんだ……)

 「ああ。」

 
 「シャルマ君は、今日は来ておらぬようじゃが……。オーズ君。何かしたのかね?」

 リンドの表情は、強ばっていた。
 普段の彼女からは想像し難い表情である。

 
 (何かしたというか……。頼まれ事……になるのか?  あれは)

 「どうしたのじゃ?  答えられぬのかね?」

 リンドの眼光が鋭く尖る。

 
 「……いや、仕事の依頼……というか、手伝いを頼まれたんだ。」

 「手伝いとな?  オーズ君とシャルマ君はあまり仲は良くなかったはずじゃがのぅ……?  で、何故なにゆえシャルマ君は来ておらぬのじゃ?  やはり何かしたのか?」

 リンドは胡座の姿勢のまま、床に置いてあった古びた杖を右手に持った。

 
 (随分疑われているようだな……。仕方ない。)

 「どうしても人手が足りない仕事があるという事でな、昔のよしみとして"オーズ"に頼りに来たんだ。だから、手伝う事にした。シャルマは疲れて寝てしまった。明日は来るだろう。」

 「……本当にか?」

 眉間に皺を寄せるリンド。

 
 「ああ。」

 「なぁーんじゃあー!  そんな事じゃったのかー!」

 リンドは少し上を向きながら、気の抜けた声を上げた。

 その表情は、いつもの様子に戻っていた。

 
 「……?  一体、何なんだ……?」

 ゼントは、現状が理解出来ず戸惑うばかり。

 
 すくっと立ち上がりながら、リンドは部屋奥の机に向かい歩き出した。

 「いやのぅ、ラウム君がの、オーズ君が昨日早速シャルマ君に呼び出されていた、と報告してきての。で、今日はそのシャルマ君が来ておらぬから、消されたのではないかとさっき……」

 そういいながら、椅子に掛けてあったマントを手に取り、バサリと羽織った。

 
 「……そうか。」

 「まぁまぁまぁ、そんなに怒るでないよ。ラウム君は真面目な教師なんじゃ。」

 スポンと三角帽子を被るリンド。

 
 「いや……怒ってはいない。」

 「ん?  そうなのか?  まぁ……ゼント君、じゃったか?  あまり感情が分かりにくいのぅ。もう少しこう……あるじゃろ?」

 
 (感情が分かりにくい……か。)

 ゼントが善人だった頃、幼少期はそれなりの明るさを持っていた。
 
 しかし、彼の持っていた"善性"が故、少しずつ他者とのコミュニケーションの取り方が歪まされる事となった。

 
 そして、いつしか立派なコミュ障となった所に、召喚獣としての変貌を経て、表情すらも曖昧になってしまったのだ。

 所詮はオーズの姿を再現しているに過ぎない今、瞬時に表情まで再現するのは難しいのだ。

 
 「なんじゃ?  今日もあんまり喋らぬのう……。まぁせっかくの学園生活なんじゃ。しっかり楽しむのも大事じゃぞ?」

 椅子に腰掛けたリンドは、机に肘を置き、ゼントを見据えた。
 
 黙っていれば、その凛として整った顔も相まって、学園長然とした威厳すらあるのだが……

 「ま。また新作スライムが出来たら実験の協力は頼むかも知れぬがのぅ。はっはっは。」

 基本はこれである。

 
 「……用件は、それだけか?」

 「おお、そうじゃの。問題ないなら何よりじゃ。もうじき次の授業かの。行ってよいぞ。」

 「ああ。」

 ゼントは、ガチャリとドアを開け、部屋を後にした。

 
――――
――

 
 ゼントは教室に戻りドアを開ける。

 
 「あ、オーズ様!  こっちっす!」

 教室に戻ったゼントに、いち早く気付いたオーネスが、階段状の席の一番上から手を振っている。

 
 随分と周囲の状況に敏感なようである。

 オーネスがいるその辺は、基本的に、オーズとオーネスの定位置だった。

 
 (またか……)

 ヒソヒソ話と、冷たい視線を向けられつつ、ゼントは階段を登る。

 そして、オーネスの待つ隣に座る。

 
 「オーズ様、最近学園長の呼び出し多いっすね。」

 「……ああ。」

 
 「召喚術の授業からは連続っすね。」

 「……ああ。」

 
 「大丈夫なんすか?」

 「……ああ。」

 
 ああ、としか答えないゼントに、一瞬怪訝な顔をするオーネス。

 「……なんか、あの授業の後から変じゃないっすか?あ……!  まさか……先に逃げた事、怒ってるんすか……?」

 そしてオーネスは、顔を引き攣らせた。

 
 彼は今まで腰巾着として振舞ってきていた。
 
 傲慢でクセの強いオーズに対してそのように振る舞うのは、並大抵の努力ではなかったろう。

 
 だが、オーズに見放されてしまえば、オーネスの甘い汁計画は一瞬で丸潰れなのだ。

 ちらりとオーネスに視線を向けるゼント。

 「……いや。怒ってはいない。危険な時は避難するべきだ。お前は、普通の判断をした。」

 
 その言葉を聞いたオーネスは、目を剥いた。

 「お……オーズ様……なんかやけに……クールっすね……?」

 
 ゼントは、オーズの記憶を検索してみる。

 確かにこんな時は悪態をつくか、嫌味を吐くか、暴言を吐くようだった。

 
 しかし、今のゼントには、オーネスに対してさしたる興味が持てなかったのだ。

 路傍の石とでもいう感覚だろうか。

 
 ゼントは、この先の事をしっかり決めきっているわけではないが、オーズとしてノート家に戻り、貴族として生きるフリをするのは難しいのではないか……と、漠然と考えていた。

 
 ――ガチャッ

 扉を開き、ラウムが入ってきた。

 
 そして教壇の前に立つ。

 「さぁ、授業を始めるぞ。」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

神様 なかなか転生が成功しないのですが大丈夫ですか

佐藤醤油
ファンタジー
 主人公を神様が転生させたが上手くいかない。  最初は生まれる前に死亡。次は生まれた直後に親に捨てられ死亡。ネズミにかじられ死亡。毒キノコを食べて死亡。何度も何度も転生を繰り返すのだが成功しない。 「神様、もう少し暮らしぶりの良いところに転生できないのですか」  そうして転生を続け、ようやく王家に生まれる事ができた。  さあ、この転生は成功するのか?  注:ギャグ小説ではありません。 最後まで投稿して公開設定もしたので、完結にしたら公開前に完結になった。 なんで?  坊、投稿サイトは公開まで完結にならないのに。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...