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11話 魔王は恋をあきらめない

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 ユーナは涙をこぼした私にたずねる。

「どしたん? どこか痛いとこでもあるん?」と。

 痛いわけないじゃないか。むしろユーナが優しすぎて……涙が出ただけだ。

「違う。どこも痛くなんてないさ、心配するな。目にゴミが入っただけだよ」

 涙を拭い、私は小説のようにありきたりの言葉を口にする。

「そう? ユーナ、酔っとるから回復魔法かけられんよ? レベルも1やし。ぷぷぷ」

 まったく、勇者が魔王に回復魔法をかけるだなんて、一体どこの世界の話をしてるんだか。

 しかし、ユーナの笑顔はまるで太陽の様だ。

 そのまぶしい笑顔を見て、私は改めて心に誓った。

 好きな女性、つまりユーナを大切にすることを……喜ばせることを。それこそが魔王たる私の使命なのだと。

 そんなこんなで私とユーナの足が止まる。

 いつのまにか、ユーナが宿泊している宿へと到着してしまっていた。楽しい時間というのは、ほんとあっという間だ。

「とーちゃーく、ヨーケス今日はごちそうさんね?」

「うん。その……ユーナ、またいっぱいお話ししよう! それに美味しいものもたくさん食べよう! っと、魔王の私がこれ以上街にいてもなんだから、ここでバイバイだな。ユーナ、またね!」

 人族の街に来て、焼き肉まで食べといて私は何言ってんだか。

 私は頭の中でツッコミを入れていた。

 彼女の手を離すと、私の手にはまだ彼女の温もりが残っていた。宿の入り口に歩みを進めたユーナは、ふと立ち止まると、くるりと私の方へ振り返る。

 身体を向け、ニッコリと微笑む女神。

 笑顔でユーナは、大きく手を振りながら私に言った。

「うん、またねヨーケス! 気をつけて帰りなよ? おやすみーっ!」

「あぁ! おやすみユーナ!」

 私もユーナに大きく手を振り、彼女が宿の中に入っていくのを確認すると、その場を後にする。


 背を向け、夜の街を抜けていく中で──。


「…………」

 不思議だった。

 ユーナに振られたのはすでに二回だってのに、私はもう三回目の告白はどうしようかと考えていた。
 
 私はポケットから魔導水晶板を取り出して、〝ドヤッター〟を開く。

 すると、私のさっきのドヤ呟きに対して、さらにコメントが増えていた。中には心温まる『勇者ちゃんとの恋愛がんばるでちよ!』と、応援のメッセージすらある。

 ほんと、魔王軍はゴミみたいな奴らばかりだが、魔族全体を見るといい奴もいるんだな。

「そうだよ……たかが二回振られたくらいなんだ。私は何回でもユーナに告白するぞ? 限界まで努力してやる!」

 私のユーナに対しての愛情は譲れない。
 妥協もしない。

 もちろん、自分の考えをこれからユーナに示すことはあるだろう。

 しかし、強要なんて絶対にしない。

 私は四天王を簡単にぬっころしてしまうところがあるが、ユーナに対して傲慢さなんてまったくない。

 だってその方がユーナも生きやすいだろ?

 ……華麗に恋のゴールが決まらなかったとしてもだ。

 どんなにカッコ悪くても、ユーナがお手上げになるまで告白し続けてやる!

 私は愛と勇気と希望の炎を胸に灯らせ、颯爽と街を後にするのだった。



「とはいえ、ビエルとノゾッキーはぜっっったいに許さん! この世界から排除してくれるッッ!」
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