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44話 キノコもシャンプルもこじらせすぎだ
しおりを挟む「えー! で、ですが魔王様! ワガハイ、『勇者のレベルを上げさせない作戦』の一環として勇者殿の仲間になっただけでして! 裏切るだなんてめっそーもない!」
「ほう、エツィーよ、その言葉にウソ偽りはないんだな?」
「もちろんです! そんな、どこかの暴力的ですぐに魔法ぶっぱなす魔王様よりも、〝可愛くて優しくて、それでいてたまに服のスキマからチラ見えする胸元がエロくてたまらん〟勇者殿の方が良いだなんて、これっぽっちも思ってないゴリ……ないですよ!」
私へのディスりと欲望ダダ漏れのゴリラはそう言うと、一人でうんうん、と頷いていた。
私は右手に魔力を込めて、エツィーに対して言う。
「そうか……エツィーよ」
「はっ! なんでしょう!?」
「その軽い口を閉じるがいい……」
私は無詠唱でエツィーに魔法を放つ。雷属性魔法、〝裁きの雷〟だ。蒼白い雷光がエツィーを貫く。
「ぎゃあああああああああああッッ! ……ウ、ウホッ……ゴリ……ぐふぅ……っ」
バタ……! と、頭から足の先まで感電したのか、真っ黒焦げのエツィーが仰向けに倒れる。
ヤツのヘアスタイルはチリチリのアフロになり、ピクピクと震えながら白目を向いていた。
そして。
「騒がしくしてすまなかったな。それとお前たちの仲間、【剣聖エツィー・ドゥガー】をうっかり打ち倒してしまったが……許してくれ」
私はそう言いながら、キノコとシャンプルに深々と頭を下げていた。
何せ、勇者パーティーのタンク役であろうゴリラを私が倒してしまったのだから当然の謝罪だ。
自分に非があるなら謝罪をするというのは、魔王として当たり前。私は宮仕えの魔王には死んでもなりたくないと、いつもそう思っている。
ゆえに私が魔王だから、という理由から頭を下げないということは絶対にないのだ。
その気持ちをキノコとシャンプルに伝えると、どうやら共感してくれたのか、
「ヨーケスおにいさんは上司の鑑ですね」
「素直に謝罪ができる人を、神もお許しになりますわ」
と、言ってくれたのだった。
☆★
そんなこんなで。
客間に案内するはずがなぜか、キノコとシャンプルは私の部屋にいた。
大事な話をしたいらしく、魔王軍の面々に話す前にぜひ先に私に、とのことだからだそうだ。
それが理由のはずなのに。
「わぁ……! ここがヨーケスおにいさんのプライベートルームなんだね! なんだかいい匂いがする……」
私の部屋を、キノコが興味深そうにあちらこちらを眺めたり、ベッドにダイブしてくんかくんかしたりしている。
私はそれを見て思った。
──もしかして、キノコはたいへんな変態なのではないか? と。
はっきり言ってベッドにしろ枕にしろ、いたるところを匂うだなんて常軌を逸している。
そんなキノコを、私が冷ややかな目で見ていたその時だった。
「……グスッ、グスン。……シクシク」
「む? シャンプルよ、急にどうした? なぜ……泣いているのだ?」
シャンプルがぽろぽろと涙をこぼしている。キラキラと光る宝石のような涙を拭い、シャンプルは答える。
「……ごめんなさい。わたくしという妻がおりながら、ダールンはここでひとりぼっちで寝ているのだと思ったら、胸が苦しくなって……つい」
「いや、私がいつお前を妻にしたんだ……?」
「そうだよ、ヨーケスおにいさんの言うとおりさ。ねぇ……シャンプル、あまりボクらを困らせるような言動は慎んでくれないかな?」
「あら、マッシュ。このわたくしがいつダールンとあなたを困らせたのかしら? 妬むのもいい加減にしてくれない?」
「妬むとかじゃないよ? ボクらの迷惑だって言ってるのさ! あのさ、ヨーケスおにいさんとボクは運命の赤いマフラーでつながっている恋人同士なんだよ? シャンプル……君さぁ、ちょっと男性に人気だからって調子にのるのはボク、よくないと思うんだけどな」
再び火花を散らし、にらみ合うキノコとシャンプルに私はうんざりしてしまう。
運命の赤いマフラーってなんだよ。そんなフレーズ、私は初めて聞いたんだが……。
というか……キノコ、いいかげんに私のマフラー返してくんないかな。
シャンプルも拗らせすぎで嫌んなっちゃうよ。
さっさと要件聞いて、こいつらにはご退席してもらわないとな……。
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