白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき

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1章

【第20話】新居探索と、至高のモフモフ・ダイブ

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 領主ベルンハルトに案内され、フェンリルとなった僕は広場に面した白亜の別邸へ足を踏み入れた。
 「ど、どうぞ……こちらが玄関ホールでございます。粗末な場所ですが……」
 ベルンハルトは、まるで処刑台へ向かうような悲壮な面持ちで重厚な扉を開けた。
 
 中に入ると、そこは目が眩むほどの豪華な空間だった。
 整列した使用人たちが床に額を擦り付けて出迎えている。
 天井には宝石が散りばめられた巨大なシャンデリアが輝き、壁には国宝級の絵画やタペストリーがいくつも並んでいた。
 
 (うわ、すごい! 超高級ホテルのロビーみたいだ!)
 
 前世ではとてもこんな豪勢な宿に泊まれるような余裕もなかったし、これほどすごい宿もそうはないだろう。
 
 (ここが僕の宿? 待遇良すぎでしょ! この街の人、太っ腹だなぁ)
 
 ウキウキと尻尾を振り、期待に胸を膨らませて一歩を踏み出した。
 
 フカッ。
 
 (ん!?)
 
 足裏に伝わる極上の弾力。深紅の絨毯は、最高級の羊毛を贅沢に使った逸品だった。
 
 (すっごい気持ちいい! 床が全部モフモフだ!)
 
 その感触を確かめるように、その場で何回か足踏みをした。
 
 ズゥゥゥン、ズゥゥゥン……!
 
 本人は軽く足踏みをしたつもりだが、三メートル超えの神獣の重量は、もはやプレス機だ。大理石で出来た床がメキメキと悲鳴を上げ、亀裂が走る。
 
 「ひぃっ! じ、絨毯の触り心地をチェックしてるのか?!」
 「耐えろ、床よ耐えてくれ! 崩落したら終わりだ!」
 
 後ろでベルンハルトたちが顔面蒼白で祈っているが、テンションの上がった当の本人は気づいていない。
 
 ひとしきり絨毯の感触を楽しんでから、奥のリビングへ進んで行く。
 
 暖炉の前に革張りのアンティークソファが置かれていた。
 
 (おっ、ふかふかそうな椅子。ちょっと座ってみようかな)
 
 吸い寄せられるようにソファへ近づき、どすっと腰を下ろした。
 
 バキィィィン!! ボォォォン!!!
 
 派手な破壊音が響き渡った。職人の端正な技が詰まった名品も、神獣の質量の前では無力。ソファは一瞬で潰れてしまい、中に詰まった高級な綿が爆発したように舞い上がった。
 
 (あちゃー……)
 
 綿雪の中に座り込み、バツの悪そうな顔をした。
 
 (ごめん、サイズが合わなかったみたい。座り心地良さそうだったのに残念)
 
 「クゥン」(壊しちゃってごめん)
 
 と小さく鳴いてみる。
 
 だが、使用人たちの解釈は違った。
 
 「あ、あのソファが、一瞬で粉々に……!」
 「お気に召さなかったのだわ! 『こんな硬い椅子に座れるか』という無言の抗議よ!」
 「申し訳ございません神獣様ぁぁ! すぐに特注の巨大クッションを手配します! どうかお怒りをお鎮めください!」
 
 メイド長が血相を掻きながら土下座し、周囲もパニックに陥る。
 
 (えっ? そんな頭なんて下げなくても壊したのは僕なのに……。まあ、弁償しろって言われないならいいか?)
 
 気を取り直し、二階へ上がってみた。ミシミシと階段が悲鳴を上げていた。
 
 廊下の突き当たり、一際大きな扉から「極上の安眠の気配」が漂っている。
 
 真鍮のドアノブを回そうとして、飴細工のようにねじ切ってしまったが、そのまま頭で扉を押し開けた。
 
 そこは、領主ベルンハルトがこだわり抜いた聖域――主寝室だった。
 
 (こ、これは……!!)
 
 部屋の中央に鎮座するのは、キングサイズを遥かに超える天蓋付きベッド。
 山のように積み上げられた羽毛布団と枕。希少な水鳥のダウンを使い、エルフの魔法織物で包んだ、まさに「睡眠の楽園」だ。
 
 前世の煎餅布団の記憶が走馬灯のように駆け巡る。もう我慢できない。
 
 (いくぞ! 究極のモフモフ・ダイブ!!)
 
 助走をつけ、ベッドへ向かって全力で跳躍した。
 
 ドォォォォォォォォン!!!
 
 隕石でも落ちてきたような衝撃に屋敷が揺れる。
 
 しかし、ベッドは耐えた。何十層もの羽毛と魔法織物で作られたマットレスが、神獣の衝撃を完璧に吸収したのだ。その体は雲の中に飛び込んだように深く優しく沈み込んでいく。
 
 「……ア、アォォン……♪」
 
 恍惚の鳴き声が漏れた。全身を包む圧倒的な柔らかさ、温かさ。
 
 (最高だ……。転生してきて良かった……。ここは天国か……)
 
 広いベッドでゴロゴロと大きな身体が転げ回る。
 
 そして仰向けになり、だらしなく舌を出して笑った。そこには、完全に野生を忘れた幸せな生き物がいた。
 
 
 「……あ、あぁ……私の特注ベッドが……安眠の園が……」
 
 破壊されたドアの隙間から、ベルンハルトが血の涙を流して覗いている。
 
 「諦めてください、領主様。あれはもう『魔獣の巣』です」
 
 側近が静かに残酷な真実を告げた。
 
 (まあ、これで街が助かるなら安いものだ……と思いたい)
 
 ベルンハルトは深くため息をつきながら、壊れたドアをそっと閉めた。
 
 こうして元社畜の神獣は、人間たちを恐怖(勘違い)のどん底に叩き落としながら、至高の寝床を手に入れたのだった。
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