63 / 134
第二部
54話 日常回を満喫しまして1
しおりを挟む
この世界がごく普通の戦国時代だろうと戦国ゲームの中だろうと、私のやることに変わりはない。
本能寺の変を回避して信長くんと長生きする。
そのために、明智光秀と日奈さんを恋仲にして、ラブラブハッピーエンドにする。愛する人と結ばれて満たされれば、本能寺燃やさないよね?
私は私にできることをやる。9歳のあの日から、何度もした決意をもう一度拳に入れて固めた。
そして、私達転生者にとってはとても重要な、だけどそれ以外の、この世界に生きている人たちにとってはいつもの月日の延長でしかない年がやってきた。
天文22年。物語開始の年だ。
歴史に疎い私の唯一の情報源、先見の巫女様の予言によれば、この年から武田と上杉がドンパチやりはじめるらしい。
第一次川中島の戦い。
日本史の先生のように概略をわかりやす~く説明してもらったが、聞き覚えがある単語ですね程度だった。私の日本史記憶はほぼ真っ白らしい。
これでも高校の成績は良かったのだが、社会に出てしまえば学生時代の記憶なんてこんなものだ。歴代の日本史の先生、ごめんね。
日奈さんは私がちんぷんかんぷん顔をしていたのを見て「でも上杉武田はゲームには出てこないので、注意しなくて大丈夫だと思う」と呆れつつもフォローしてくれた。
武田信玄と上杉謙信、攻略対象キャラじゃないらしい。
このゲーム、タイトルにもあるようにラストシーンが本能寺バーニングなので攻略キャラも織田家中心という、かなりニッチな需要を突いている。
人気で有名どころの真田幸村とか伊達政宗はキャラとしては出てこない。
やっぱ売れてないのかもしれない。日奈さんには言わないでおいたけど。
「……でね、光秀様ルートにどうやったら入れるかは、正直わからないのよ」
「でも、それだとっ……もう入ってる可能性も、っあるかもね!」
私達転生女子の作戦会議は、最近は夜に私の部屋で行っている。
おそらく夕凪が聞いているだろうけど、変なことは父上には報告しないように釘を刺しておいたので、大丈夫だろう。聞いても意味がわからないだろうし。
当面の目標の光秀ルートの構築だが、それがどの時点で開くのかはわからないという。
なぜなら、本来なら、主人公がお城に突然タイムスリップ→衛兵に捕まる→光秀が助けてくれる。というシナリオが全般の冒頭。助けてくれる人物はルートによって変わる。
すでに追われて捕まるイベントはやってしまったし、なんなら捕まえたのはその光秀こと十兵衛なのだ。
おいおいこれって、私のせいでは?もしかして歴史、変えちゃいました?と心配していたら、このゲームでは「歴史の修正力」というものが働き、軽微な歴史改変は綺麗に修正されて史実通りとなるという。
おそらく、転生者1号が知らず知らずのうちにしでかした改変も、ストーリー進行上は問題ないだろうと日奈さん。
修正が必要な改変は修正され、放置でも問題ない改変は放置される。
安心したけど、ということは、本能寺の変を回避するなんて大掛かりな歴史改変をするには、かなり頑張らないと途中で修正力が働いてなかったことにされちゃうってことね。
なにをどうかはわからないが頑張るしかない、と、私は最後に「100!」と声を上げて上体を起こした。
さすがに少し息が切れる。
「てか、何してるの?ダイエット?」
「筋トレ!日課なの。これしてないと落ち着かなくて……日奈さんもやる?」
「えっ、わ、私はいいかな……疲れそう」
もちろん疲れます。筋トレだもん。それなりにかいた汗を、手ぬぐいで拭う。次は素振り100回。
戦に出たり信長が稽古をつけてくれる日はそれだけで疲れるから免除してたけど、最近はそれもないので、筋肉が衰えないようにちゃんと毎晩腹筋腕立て素振りのセットをしている。
以前は毎晩のように信長が来て、十兵衛と三人で遊んでいたのに、おそらくこれもゲーム開始年になったせいだろう。
前までがおかしかったのだ。
護衛だからって男子を寝所で遊ばせたり、毎晩夜伽もせずに夫と剣の稽古をしているなんて。
きっと、こうして恋すべき相手があらわれたことでストーリー軸が元に戻ったのだろう。
信長くんも子供だと思ってたけどもうすぐ、普通の女の子に恋をするようになる。
壁ドンとか床ドンとかして、フラグを立てるなどするに違いない。
万が一光秀ルートに入れなかった場合は、日奈さんには申し訳ないけど信長くんも視野に入れてもらおう。
もう三人でいられないのは寂しいけど、正しい形なら、これでいい。
少しだけしんみりしながら床につき、寒さに冷える足先を丸めて眠った翌朝、どたどたと大きな虎でも駆け回るような足音と、女中さんの慌てる声で目が覚めた。
まだ外はほんのり明るい程度。
しばしばする目を擦って起き上がると、外の庭には雪が積もり、きちんと見渡してみればすべての木が綿帽子を被っていた。
内地にある美濃も尾張もそれなりに雪は降るが、これは、久々の量の積雪だ。なによりまだ天から、しんしんと純白の粉が降り注いでいる。
除雪機もない、暖房もない、真剣で身を切られるような冷たさと、地上のすべての人を葬ってしまったかのような、怖いほどの静寂。
雨と違って、なんて静かなんだろう。
そしてその荘厳さを簡単に破る、足音と声。
「蝶ー!雪で遊ぼうぜ!」
攻略対象になったと思ってたのに、炎のごとく赤い髪に少しだけ粉雪を乗せて、少年は真夏の太陽のように笑った。
季節外れすぎる笑顔に、すっかりこちらまでつられてしまった。
本能寺の変を回避して信長くんと長生きする。
そのために、明智光秀と日奈さんを恋仲にして、ラブラブハッピーエンドにする。愛する人と結ばれて満たされれば、本能寺燃やさないよね?
私は私にできることをやる。9歳のあの日から、何度もした決意をもう一度拳に入れて固めた。
そして、私達転生者にとってはとても重要な、だけどそれ以外の、この世界に生きている人たちにとってはいつもの月日の延長でしかない年がやってきた。
天文22年。物語開始の年だ。
歴史に疎い私の唯一の情報源、先見の巫女様の予言によれば、この年から武田と上杉がドンパチやりはじめるらしい。
第一次川中島の戦い。
日本史の先生のように概略をわかりやす~く説明してもらったが、聞き覚えがある単語ですね程度だった。私の日本史記憶はほぼ真っ白らしい。
これでも高校の成績は良かったのだが、社会に出てしまえば学生時代の記憶なんてこんなものだ。歴代の日本史の先生、ごめんね。
日奈さんは私がちんぷんかんぷん顔をしていたのを見て「でも上杉武田はゲームには出てこないので、注意しなくて大丈夫だと思う」と呆れつつもフォローしてくれた。
武田信玄と上杉謙信、攻略対象キャラじゃないらしい。
このゲーム、タイトルにもあるようにラストシーンが本能寺バーニングなので攻略キャラも織田家中心という、かなりニッチな需要を突いている。
人気で有名どころの真田幸村とか伊達政宗はキャラとしては出てこない。
やっぱ売れてないのかもしれない。日奈さんには言わないでおいたけど。
「……でね、光秀様ルートにどうやったら入れるかは、正直わからないのよ」
「でも、それだとっ……もう入ってる可能性も、っあるかもね!」
私達転生女子の作戦会議は、最近は夜に私の部屋で行っている。
おそらく夕凪が聞いているだろうけど、変なことは父上には報告しないように釘を刺しておいたので、大丈夫だろう。聞いても意味がわからないだろうし。
当面の目標の光秀ルートの構築だが、それがどの時点で開くのかはわからないという。
なぜなら、本来なら、主人公がお城に突然タイムスリップ→衛兵に捕まる→光秀が助けてくれる。というシナリオが全般の冒頭。助けてくれる人物はルートによって変わる。
すでに追われて捕まるイベントはやってしまったし、なんなら捕まえたのはその光秀こと十兵衛なのだ。
おいおいこれって、私のせいでは?もしかして歴史、変えちゃいました?と心配していたら、このゲームでは「歴史の修正力」というものが働き、軽微な歴史改変は綺麗に修正されて史実通りとなるという。
おそらく、転生者1号が知らず知らずのうちにしでかした改変も、ストーリー進行上は問題ないだろうと日奈さん。
修正が必要な改変は修正され、放置でも問題ない改変は放置される。
安心したけど、ということは、本能寺の変を回避するなんて大掛かりな歴史改変をするには、かなり頑張らないと途中で修正力が働いてなかったことにされちゃうってことね。
なにをどうかはわからないが頑張るしかない、と、私は最後に「100!」と声を上げて上体を起こした。
さすがに少し息が切れる。
「てか、何してるの?ダイエット?」
「筋トレ!日課なの。これしてないと落ち着かなくて……日奈さんもやる?」
「えっ、わ、私はいいかな……疲れそう」
もちろん疲れます。筋トレだもん。それなりにかいた汗を、手ぬぐいで拭う。次は素振り100回。
戦に出たり信長が稽古をつけてくれる日はそれだけで疲れるから免除してたけど、最近はそれもないので、筋肉が衰えないようにちゃんと毎晩腹筋腕立て素振りのセットをしている。
以前は毎晩のように信長が来て、十兵衛と三人で遊んでいたのに、おそらくこれもゲーム開始年になったせいだろう。
前までがおかしかったのだ。
護衛だからって男子を寝所で遊ばせたり、毎晩夜伽もせずに夫と剣の稽古をしているなんて。
きっと、こうして恋すべき相手があらわれたことでストーリー軸が元に戻ったのだろう。
信長くんも子供だと思ってたけどもうすぐ、普通の女の子に恋をするようになる。
壁ドンとか床ドンとかして、フラグを立てるなどするに違いない。
万が一光秀ルートに入れなかった場合は、日奈さんには申し訳ないけど信長くんも視野に入れてもらおう。
もう三人でいられないのは寂しいけど、正しい形なら、これでいい。
少しだけしんみりしながら床につき、寒さに冷える足先を丸めて眠った翌朝、どたどたと大きな虎でも駆け回るような足音と、女中さんの慌てる声で目が覚めた。
まだ外はほんのり明るい程度。
しばしばする目を擦って起き上がると、外の庭には雪が積もり、きちんと見渡してみればすべての木が綿帽子を被っていた。
内地にある美濃も尾張もそれなりに雪は降るが、これは、久々の量の積雪だ。なによりまだ天から、しんしんと純白の粉が降り注いでいる。
除雪機もない、暖房もない、真剣で身を切られるような冷たさと、地上のすべての人を葬ってしまったかのような、怖いほどの静寂。
雨と違って、なんて静かなんだろう。
そしてその荘厳さを簡単に破る、足音と声。
「蝶ー!雪で遊ぼうぜ!」
攻略対象になったと思ってたのに、炎のごとく赤い髪に少しだけ粉雪を乗せて、少年は真夏の太陽のように笑った。
季節外れすぎる笑顔に、すっかりこちらまでつられてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する
ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。
皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。
ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。
なんとか成敗してみたい。
ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる