86 / 134
第二部
75話 桶狭間の戦いにて1
しおりを挟む
簡単に「コスプレ衣装作った」って言ったけど、戦国時代に洋装を作るっていうのは結構大変で、この一着を作るのにものすごい労力がかかった。
私と日奈さんの裁縫知識は、残念ながら家庭科の授業でやった程度。
縫物の得意な女中さん方や呉服屋さん、色々な人に協力してもらった。
イベントでコスプレするレイヤーさん達ってほんとすごい。私ではなくコスプレイヤーが転生していたら、きっと裁縫界に革命を起こせたと思う。
夕凪には一蹴されてしまったが、立ち上がってくるりと回って見てみる。
ブレザーやスカートは少々へろへろしているけど、一日着て動く分には問題ない程度の出来。ワイシャツと靴下は作れなかったので、白の襦袢と長足袋を代用。
それなりになっていると思う。
わがままを聞いてくれた技術者のみなさんに、何度もお礼を言った。
実はこれまでにも、奥方権限でフリル付着物や帯を作ってもらったことはあったけど、今回の洋装作りでこの時代の裁縫技術が100年ほど一気に進んでしまった。そのことを私達は、今はまだ知らない。
「変なのは髪形があってないせいかな?日奈さん、おそろいのアップにしよっか」
「そうだね。帰蝶様は長いから、編み込もう」
日奈さんの提案により、髪の技術も、100年程進むことになる。もちろん私達はそれを知らない。
女の子らしい指が、私の髪をすいすい梳きながら丁寧に編み込みを作っていく。
ああ、なんだか女子高生に戻ったみたい。
私の前世の女子高生時代は、髪やメイクの話ではなくゲームや漫画の貸し借りしかしていなかったけど。
甘酸っぱい話のなにもないオタクですみません……。
さらに私は身分上なのか、この時代では髪を切ることを許されていないので、とても長くて申し訳ない。
時間をかけてまとめ上げてもらうと、短いスカート(といってもうるさい人がいるので膝下ロング丈にした)にもそれなりに合う様相になったのではないかと思う。
「帰蝶様、その格好は……」
「お、どう?十兵衛。今度こそ変じゃな」
「はしたないですね」
予想通りのお答え、ありがとうございます。
実はこの前夜、制服の準備を終えた私達は、信長から声をかけられた。
作戦への参加を。
ただし、それは死亡フラグに青くなる日奈さんではなく、私にだった。
「蝶、明日、偵察頼むわ」
「あ、ちゃんと戦の準備してたのね。今川が攻めてきてるのにいつまでも遊んでるから、家老のみなさん真っ青だったわよ」
「俺は明日も遊ぶけどな。蝶は今川の本隊の偵察。日奈とミツも連れてっていいぞ」
「いいけど、私たちがいなくて信長様は平気?」
「自分の心配はしないのか?面白いヤツだなー。俺は城で歌って踊ってのんびりする予定」
「なにそれ」
と、こんなかんじのゆるーい要請だった。
ゲームではもう少し生死をかけた緊迫感にあうBGMがかかっていたそうなのだが。
ともかく、日奈さんの安全を確保するためにも、信長くんを勝たせるためにも偵察は不可避。
怯える日奈さんをひとり置いていくわけにはいかないので、一緒に戦地へ行くことに。
もし危なくなったら私が護ればいいだけなので、入れ替わり作戦は続行することにした。
渋る十兵衛と夕凪の私の従者ズには、「先見の巫女と同じ格好をしてれば、敵に捕まったりしてもすぐには殺されない」という理由で見逃してもらった。
ゲームマスターたる神様も、欺けるといいんだけどね。
「でもさ、私と日奈さんは今川の本隊がどこにいるか知ってるわけじゃない?それを信長様に教えるんじゃダメだったの?」
「教えてもいいけど……それだけじゃ納得しない気がする。この作戦は、時間稼ぎが必要になるし」
私達偵察部隊は、織田軍だと知られないようトンチキ巫女とその護衛、という服装で野山を歩いた。
もうすぐ目的地に着く。日奈さんはだいぶ疲れ気味だ。ローファーだもんね。
けれど息を切らせながらも、物わかりの悪い私に説明をしてくれた。
「奇襲を成功させるためには、今川の目を他の場所へ釘付けておかなかればいけない。それに、私は場所は桶狭間だって知ってるけど、正確な時間はわからないし」
「あー、そっか。時間はね……」
そう、この時代には時計がない。
日奈さんの知識で「桶狭間の戦いでの奇襲成功は夜」と知っているわけだけど、それが18時なのか21時なのか、もっと深夜なのかはたまた早朝に近いのかわからない。
ともかく私達が居場所を知らせてから信長様が単騎突入してくるまで、今川義元を一所に引き付けておかなければならないのだ。
「結局暗躍しちゃってるよー。こういうコソコソするのって、苦手なんだけどなー」
後ろの護衛二人も顔が怖いし。
私は信勝くんの時みたいに「正面突破して大将をとりあえず殴る」、みたいのが得意。というかそれしかできない。
「姫様、見えてきました」
「おー、ほんとにビンゴ。さすが、先見の巫女様ね」
後ろの二人がなぜこんなにも迷いなく進むのか、と不審がる中、草を掻き分け、見つけた。
この時代では本人たち以外誰も知らないはずの、今川義元本隊。
私と日奈さんの裁縫知識は、残念ながら家庭科の授業でやった程度。
縫物の得意な女中さん方や呉服屋さん、色々な人に協力してもらった。
イベントでコスプレするレイヤーさん達ってほんとすごい。私ではなくコスプレイヤーが転生していたら、きっと裁縫界に革命を起こせたと思う。
夕凪には一蹴されてしまったが、立ち上がってくるりと回って見てみる。
ブレザーやスカートは少々へろへろしているけど、一日着て動く分には問題ない程度の出来。ワイシャツと靴下は作れなかったので、白の襦袢と長足袋を代用。
それなりになっていると思う。
わがままを聞いてくれた技術者のみなさんに、何度もお礼を言った。
実はこれまでにも、奥方権限でフリル付着物や帯を作ってもらったことはあったけど、今回の洋装作りでこの時代の裁縫技術が100年ほど一気に進んでしまった。そのことを私達は、今はまだ知らない。
「変なのは髪形があってないせいかな?日奈さん、おそろいのアップにしよっか」
「そうだね。帰蝶様は長いから、編み込もう」
日奈さんの提案により、髪の技術も、100年程進むことになる。もちろん私達はそれを知らない。
女の子らしい指が、私の髪をすいすい梳きながら丁寧に編み込みを作っていく。
ああ、なんだか女子高生に戻ったみたい。
私の前世の女子高生時代は、髪やメイクの話ではなくゲームや漫画の貸し借りしかしていなかったけど。
甘酸っぱい話のなにもないオタクですみません……。
さらに私は身分上なのか、この時代では髪を切ることを許されていないので、とても長くて申し訳ない。
時間をかけてまとめ上げてもらうと、短いスカート(といってもうるさい人がいるので膝下ロング丈にした)にもそれなりに合う様相になったのではないかと思う。
「帰蝶様、その格好は……」
「お、どう?十兵衛。今度こそ変じゃな」
「はしたないですね」
予想通りのお答え、ありがとうございます。
実はこの前夜、制服の準備を終えた私達は、信長から声をかけられた。
作戦への参加を。
ただし、それは死亡フラグに青くなる日奈さんではなく、私にだった。
「蝶、明日、偵察頼むわ」
「あ、ちゃんと戦の準備してたのね。今川が攻めてきてるのにいつまでも遊んでるから、家老のみなさん真っ青だったわよ」
「俺は明日も遊ぶけどな。蝶は今川の本隊の偵察。日奈とミツも連れてっていいぞ」
「いいけど、私たちがいなくて信長様は平気?」
「自分の心配はしないのか?面白いヤツだなー。俺は城で歌って踊ってのんびりする予定」
「なにそれ」
と、こんなかんじのゆるーい要請だった。
ゲームではもう少し生死をかけた緊迫感にあうBGMがかかっていたそうなのだが。
ともかく、日奈さんの安全を確保するためにも、信長くんを勝たせるためにも偵察は不可避。
怯える日奈さんをひとり置いていくわけにはいかないので、一緒に戦地へ行くことに。
もし危なくなったら私が護ればいいだけなので、入れ替わり作戦は続行することにした。
渋る十兵衛と夕凪の私の従者ズには、「先見の巫女と同じ格好をしてれば、敵に捕まったりしてもすぐには殺されない」という理由で見逃してもらった。
ゲームマスターたる神様も、欺けるといいんだけどね。
「でもさ、私と日奈さんは今川の本隊がどこにいるか知ってるわけじゃない?それを信長様に教えるんじゃダメだったの?」
「教えてもいいけど……それだけじゃ納得しない気がする。この作戦は、時間稼ぎが必要になるし」
私達偵察部隊は、織田軍だと知られないようトンチキ巫女とその護衛、という服装で野山を歩いた。
もうすぐ目的地に着く。日奈さんはだいぶ疲れ気味だ。ローファーだもんね。
けれど息を切らせながらも、物わかりの悪い私に説明をしてくれた。
「奇襲を成功させるためには、今川の目を他の場所へ釘付けておかなかればいけない。それに、私は場所は桶狭間だって知ってるけど、正確な時間はわからないし」
「あー、そっか。時間はね……」
そう、この時代には時計がない。
日奈さんの知識で「桶狭間の戦いでの奇襲成功は夜」と知っているわけだけど、それが18時なのか21時なのか、もっと深夜なのかはたまた早朝に近いのかわからない。
ともかく私達が居場所を知らせてから信長様が単騎突入してくるまで、今川義元を一所に引き付けておかなければならないのだ。
「結局暗躍しちゃってるよー。こういうコソコソするのって、苦手なんだけどなー」
後ろの護衛二人も顔が怖いし。
私は信勝くんの時みたいに「正面突破して大将をとりあえず殴る」、みたいのが得意。というかそれしかできない。
「姫様、見えてきました」
「おー、ほんとにビンゴ。さすが、先見の巫女様ね」
後ろの二人がなぜこんなにも迷いなく進むのか、と不審がる中、草を掻き分け、見つけた。
この時代では本人たち以外誰も知らないはずの、今川義元本隊。
0
あなたにおすすめの小説
政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~
巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!?
////////////////////////////////////////////////////
悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。
しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。
琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇!
※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……?
※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。
※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。
隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
義姉をいびり倒してましたが、前世の記憶が戻ったので全力で推します
一路(いちろ)
ファンタジー
アリシアは父の再婚により義姉ができる。義姉・セリーヌは気品と美貌を兼ね備え、家族や使用人たちに愛される存在。嫉妬心と劣等感から、アリシアは義姉に冷たい態度を取り、陰口や嫌がらせを繰り返す。しかし、アリシアが前世の記憶を思い出し……推し活開始します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる