血の繋がりのない極道に囲まれた宝

安達

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極道の世界

お風呂

「若、俺も入っていいですか?」



風呂場の前にある扉の前に着いた瀧雄は中にいるはずの龍之介にそう言った。その声が聞こえるかどうかは分からない。だがそれでも瀧雄はそう言った。庵がそれほど心配だったから。そして数秒の沈黙が流れる。やはり瀧雄の声は龍之介に聞こえなかったのだろうか…。そう思い瀧雄が諦めリビングに戻ろうとしたその時…!



「瀧か?」



龍之介の声が帰ってきた。どうやら聞こえていたようだ。しかし返事が帰ってくるのが遅いということはきっと何かがあったのだろう。そのため瀧雄は遠慮しながら自分の気持ちを伝えることにした。



「はい。俺です若。その…、」

「お前親父たちはどうしたんだ。」



瀧雄は龍之介にあることを聞きたかったがそれよりも先に龍之介が話してきた。そのため瀧雄は自分が話したい内容を話せなかったが今は龍之介の問いかけに答えるのが先だ。



「…それが組長が言ってくださったんです。若の元に行きなさい…って。」

「そうだったのか。」

「はい。ですので迷惑でしたら帰ります。ただ庵が心配で顔だけでも見させてくださいませんか…。」



そう聞いたところで瀧雄が庵に会えるかどうかは分からない。だが瀧雄はダメ元でもそう聞きたかった。それほど庵が心配でたまらなかったから。そんな瀧雄の声を聞いて龍之介が扉を開いてくれた。



「迷惑なわけないだろうが。いいぞ。入ってこい。」



そういった龍之介の腕の中には眠っている庵の姿があった。どうやらもうお風呂は終わっていたらしい。



「もう終わってましたか。」

「おう。あんまり長湯は今の庵の体には良くねぇと思ったからな。」

「そうですね。」



そういった瀧雄だがあることに気がついた。それはまだ龍之介と亮の身体が濡れていたということ。庵の体は濡れていない。その上タオルに包まれている。それを見るに龍之介と亮は自分のことを後回しにして庵のことをしたのだろう。そんな2人をみて瀧雄は再び口を開いた。



「若、庵のことは全て俺がしておきますので若達はその間にご自分の体を拭いてください。」

「悪いな瀧、助かる。」

「これしきのことで謝らないでください。当然のことですよ。亮もほら、タオルでさっさと拭け。風邪ひいちまうぞ。ただでさえお前は怪我してんだから。」

「いつにも増して過保護だなお前。」



瀧雄に渡されたタオルで体を拭きながら亮がそう言った。しかしそれは決して嫌味ではない。嫌味ではなく嬉しいからこそそう言っているのだ。亮も瀧雄同様に庵が心配だから。だが傷が痛くないと言えば嘘になる。だから瀧雄が来てくれて感謝したしその瀧雄の言葉が嬉しかったのだ。そんな亮に瀧雄は水を差すようなことを言ってきた。



「うるせぇな亮。口はいいから手を動かせ。」

「へいへい。」



亮はそう言うと瀧雄の言う通り体を拭き始めた。龍之介に至っては当分前に拭き始めていた。そのため既に体の水気は退いたようで髪の毛を乾かしていた。その時瀧雄は腕の中にいる庵をみていた。既に服を着せ終わり寒さは感じないだろうがそれ以前瀧雄は思った。ここまでしても起きない庵をみて大丈夫なのだろうか…と。お風呂だってお湯を当てられる。服を着せる時も体を激しく動かす。なのに庵は起きなかった。そのため瀧雄は心配になったのだ。



「あの、若…。」

「ん?なんだ?」

「庵は風呂に入れてる時も起きなかったんですか?」



瀧雄がそう言うと龍之介は手を止めた。瀧雄が言ったその事は龍之介も気になっていたことだから。深い眠りだとしてもいくら風呂に入れればきっと起きる。なのに庵は起きなかった。だから正直龍之介は医者を呼ぼうかどうか迷っているほどだった。



「ああ。そうだ。一度も庵は目を覚ましていない。余程の事をされたんだろうな。あるいは身体に異変が出ているのかもしれない。精神的なショックから目を覚まさないとか…な。」



龍之介も瀧雄も亮も庵が宏斗らから何をされたのか知らない。そしてそれは和紀も益田も知らないだろう。見ていないのだから。だから知っているのは当事者の庵と宏斗ら本人だけ。なので宏斗と玲二を尋問しない限りは知ることが出来ないだろう。だが龍之介は知るつもりは無い。きっと知ってしまえば宏斗と玲二のことを殺してしまうだろうから。それは亮も瀧雄も同じだった。



「許せません。」

「右に同じです。俺も瀧と同じ…宏斗さん達を許せません。」



ここでこうして文句を言ったところで何も変わらない。けれど言ってしまうほど庵の体には痛々しい傷があった。できることなら最大の苦痛を与えながら殺したい。亮も瀧雄もそう思っていた。しかしそれは出来ないのだ。だから龍之介は宏斗らに対する怒りを押えながら亮と瀧雄を見た。



「そうだな。お前らの言う通りだ。でも今ここで言っても何も変わらない。俺達は庵のことだけ考えよう。」

「「…はい。」」



亮と瀧雄はそう返事をしたがきっと納得はしていない。それは龍之介も同じだ。だが変わらないのだ。過去は変えられない。仇を打つことも出来ない。だから龍之介は一旦自分から庵を遠ざけることにした。



「瀧、お前は庵を連れて親父のとこ行ってろ。俺らも服着て行くからよ。」

「承知致しました。」



瀧雄はそう言うと龍之介の言う通り風呂場を出てリビングへと向かい始めた。そんな瀧雄をみて龍之介がため息をつく。



「…庵が目を覚ました時が怖いな。」

「そうですね。きっとパニックになるでしょうね。」

「ああ。出来る限り庵の恐怖を煽るものをこの家からなくそう。それが今俺達ができる最善の事だ。」

「仰る通りです。俺が家の中のもん整理しておきますね。」

「助かる。ありがとうな亮。」



龍之介はそう言うと拳を握りしめた。たった1人…たった1人の愛する庵を守れなかった。その悔しさが龍之介の中で膨らんでいく。そしてそれと同時に恐怖心も膨らんでいくのだ。庵が恐怖からもしかしたら自分たちを拒むかもしれない。もしそうなれば庵の恐怖が無くなるまで待つだけ。だがそれは長い道のりになるかもしれない。そのため龍之介は先が見えずその場に立ち尽くしてしまった。そんな龍之介をみて亮が口を開く。



「若。何をしてるんですか。らしくない事しないでください。」

「…悪い。」

「ほら若、早く行きますよ。庵が待ってますから。庵は若を待ってるんです。だから絶対庵が目を覚ました時そばにいてあげられるようにしないと駄目ですからね。」

「そうだな。」


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