血の繋がりのない極道に囲まれた宝

安達

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極道の世界

記憶喪失

「え、っと…分かりません…っ、ごめんなさい…。」



庵は益田にそう言った。それもとても申し訳なさそうに…。庵はこう思ったのだ。出会ったことがあるだろうけれど庵の中であまり大きな存在ではなかった。だから思い出せない人物。そう思い庵は申し訳なさそうにそう益田にいったのだ。だがその言葉を聞いた庵以外の全員は安心した。心から安心した。それは庵にあの記憶が無かったから。消しさられたから。あの辛い記憶は庵には必要ない。それが無くなった。その事実を目の当たりにした皆はさぞ嬉しそうに微笑んだ。



「それでいい。大丈夫だ。いい子だぞ庵。」



分からなかったのに何故か龍之介にいい子だと言われた。そのため庵は何が何だか分からない様子だった。だがそれでいいんだ。分からなくていい。だから亮も瀧雄も嬉しそうに微笑んだ。その2人をみて庵はさらに混乱した様子だった。そんな庵をみて益田が口を開いた。



「俺は益田だ。それでこちらが坊ちゃん…いや龍之介坊ちゃんのお父上だ。」



庵は和紀が龍之介の父親であることを知ると慌てた様子で起き上がろうとした。それは和紀…龍之介の父がこの組の組長であることを知っていたから。しかし何故か庵は身体がまともに動かない。その自分に庵は不信感を抱く。どうして身体が動かないのか庵は忘れてしまっているから。そんなあたふたした様子の庵をみて亮は庵の頭を撫でる。



「馬鹿。そんな焦んなって。起きてすぐ起き上がろうとするからだ。起きてすぐは誰だってフラフラしちまうだろ?だからゆっくり起き上がるんだ。」



亮は庵に当然だろ?というようにそう言った。そうしないと庵が何かの拍子に思い出してしまう恐れがあったから。せっかくあのことを忘れられたのだ。だから亮ももちろん他の皆も庵に記憶を取り戻させないように必死だった。そしてそんな皆の思いが届いたのか庵は亮の言ったことに納得したように頷いた。



「そう…だよね。気をつける。」

「ああ。そうしろ。立ちくらみすると辛いだろ。」

「う、うん…。」



普段寝ただけではこうはならない。だから庵の中で自分の体に対する不信感は完全には消えていない様子だった。だが亮がいつも通りにそう接したことで庵はなにかの勘違いだろうと自分の中でケリをつけた。その庵の様子を見て亮は庵に手を差し出した。



「ほら庵、手を貸してやるから起き上がれ。」

「亮ありがとう…。」



庵は差し出された亮の手を握りしめてゆっくりと起き上がった。だがまだ身体は辛いまま。でもまぁソファで寝ていたのだ。もしかしたら寝方が悪くてそうなったのかもしれない。だから庵は深く考えずに今は和紀に挨拶をすることにした。



「お、お願いします。庵です…!」



庵が立ち上がりぺこりと頭を下げて和紀に挨拶をした。和紀はこの組で一番偉い人。だから正直少し怖かったが和紀のこの笑みを見て庵は和紀への恐怖心が少しだけ軽減した。



「よろしくな庵。」

「お願いします…!」



庵がそう言うと和紀が頭を撫でてきた。庵はその時何故か安心感が芽生えた。和紀の大きく暖かい手に撫でられると懐かしい気持ちにもなる。庵がそんな気持ちにひたっていると和紀が口を開いた。



「いい子じゃねぇか龍之介。俺はこいつを気に入ったぞ。」

「おい親父、勝手に庵に触れるな。」



龍之介はそういい和紀から庵を引き剥がした。その行為は庵からすればとても気まづいものとなってしまうのに…。今日庵は和紀と初めてあった。なのに龍之介によってそんな風に引き剥がされ庵はどうしたらいいのか分からなくなる。和紀がどんな人物なのか分からないから。だからなんて言えばいいのかも分からないのだ。そのため庵は少し焦っていた。なのに龍之介の独占欲は止まらない。お父さんにすら嫉妬するのだ…。



「馬鹿を言うな親父。気に入った?ふざけんじゃねぇよ。こいつは俺のもんだ。」

「はは、こりゃまた独占欲丸出しじゃねぇか。あんまり庵を困らせるんじゃないぞ。」

「余計なお世話だ。」

「ちょっと龍之介…っ、そんな言い方しないでよ。」



和紀は龍之介にとってただ1人のお父さん。それに少ししか話していないけれど和紀がいい人であるというのは庵にもわかった。しかもそれ以前に和紀はこの組の組長だ。なのに龍之介は怯む事なくそう言う。そんな龍之介に庵は我慢できずにそう言った。



「あ?うるせぇな。お前は俺の言うことだけ聞いてろ。俺のもんだろうが。」



龍之介は庵が和紀を庇うようにそういったことが気に食わなかったのか腹が立った様子だった。それだけでなく龍之介は庵の顔を鷲掴みにしてくる。そして庵をまるで和紀から隠すように龍之介は自身の腕の中に庵を閉じ込めた。この龍之介の様子を見て益田が呆れたように話し出す。



「坊ちゃん。そんなんだと庵に嫌われますよ。」

「なわけねぇだろ。どいつもこいつもうるせぇな。来い庵。」

「あ、ちょ、まって…っ、」



龍之介は庵を連れてどこかに行こうとしたがその時庵がそれを拒んだ。その理由は痛かったから。普通に歩こうとしただけなのに庵は身体が痛んだ。それには庵自身が1番驚いている様子だった。



「痛かったか?すまない。」



相当痛かったのだろう。庵は龍之介に抱きつきながら痛みに耐えていた。その様子をみて龍之介はそう言いながら庵を頭を撫でる。



「ゆっくり息しろ庵。」

「そうそう。亮に合わせて呼吸するんだ。」



そして心配した亮と瀧雄も庵の背中をさすり始めた。そのおかげで庵は落ち着いたようで口を開いた。



「…もう、大丈夫っ、ありがと。」

「無理しなくていい。」

「大丈夫だよ亮。ほんとにもう痛くないから。」

「それならいいんだが…。」



龍之介はそう言いながらも不安そうな様子だった。そんな龍之介をみて庵は罪悪感が生まれてしまった。龍之介のせいじゃないから。けれど庵は記憶をなくしているため原因が分からない。だから庵は今の自分の気持ちを龍之介に伝えることにした。



「龍之介…そんな顔しないでよ。なんか俺もわかんないけど…俺気づいたらいつの間にか寝ちゃっててさ…そしたらなんか身体痛いんだ…。だから龍之介のせいじゃないよ。」



そう言った庵をみて皆が思った。いくら記憶を無くしていると言えども限界がある。庵がこんなに身体の痛みを訴えている。その理由がただ寝違えただけだと言うのはさすがに無理があるだろう。だから龍之介は自分を犠牲にすることにした。



「庵。」

「…ん?」

「俺のせいだ。お前の身体が痛いのは。」

「え!?」



龍之介の発言に驚きを隠せないというように庵がそう声を荒らげた。そして龍之介はそんな風に驚く庵に嘘を重ねていく。



「悪いな。お前が可愛すぎて我慢できずに寝込みを襲っちまった。」

「…さいていだ。」



庵はその龍之介の言葉を聞いてそう言った。どうやら庵は信じてくれたようだ。それには偶然が重なっていた。龍之介の髪の毛が少し濡れていたこと。それは龍之介がお風呂に入ったあとだと庵でも分かる。だから庵は信じたのだ。寝ている自分を抱き潰した後に龍之介がお風呂に入ったんだと庵の中で想像できたから。それは紛れもなく龍之介が悪役になってくれたおかげだ。だがそれは龍之介にとってはなんの痛手でもなかった。それを言うことで庵が幸せに笑っていられる。それだけで十分だった。だから…。



「許してくれ庵。」

「…どうしたの龍之介。何かあった?」



なんだか歓喜極まってしまい龍之介は庵を抱きしめてしまった。そんな龍之介のいつもしない行為に庵は首を傾げながらそう言った。



「ああ。あったさ。たくさんあったぞ。でもお前がこうしているから安心した。」

「そう、なの…?」

「そうだ。庵、愛してる。」



龍之介はそう言い庵を抱きしめ続けた。その様子を和紀も益田も亮も瀧雄も黙って見ていた。そして願った。このまま…どうか庵が記憶を取り戻しませんように…と。


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