血の繋がりのない極道に囲まれた宝

安達

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援助

無力

「…寛也さん。冷静に、ですよ。」



亮は寛也に釘を刺すようにそう言った。いくら冷静にしなければならないと分かっていても怒れば冷静さにかけてしまう。そのため亮はそういったのだ。



「ああ。分かっている。だが万が一俺が冷静さにかけてしまいそうだったらその時は頼むな、亮。」

「はい。もちろんです。」



そう返事をした亮をみて寛也はまた歩き出した。そして建物の中に入っていった。



「…セキュリティはあんまりって感じですね。」

「違いますよ松下さん。」



建物に入る前もその後も人が誰一人としていない。警備が疎かになっている。そのため松下はそう言ったがそんな松下の言葉を亮は否定した。



「あ?どういうことだ亮。」

「俺達が来ることを分かっているんですよ。だから人がいないんです。どうぞ入ってくださいと言わんばかりにね。あいつらがハッキングされたことに気づかないわけが無いですから。」



亮のその言葉を聞いて松下と圷は息を飲んだ。長いこと無敵の状態だった松下らにとって自分らよりも上の相手と戦うのは久々。そのためただでさえ緊張しているのに今やこんな状況。緊張しないはずがなかった。



「…そうだよな。」

「はい。そうですよ。だから気を脱いちゃ駄目です松下さん。もちろん圷さんもですよ。」



亮は松下と圷にそう言った。その後直ぐに松下も圷もその亮の言葉に頷いた。そしてそのまま4人は足を進めていき大広場のようなところに出た。するとどこからか足音が聞こえてきた。



「足音…聞こえますね。」

「そうだな。」



松下が寛也の横に立ちながらそう言った。松下は寛也右腕だ。だから寛也に何かあっても直ぐに助けられるようにその場所に移動したのだ。



「組長。もしかして駿里が来たりしますかね…。」



と、松下は少し不安そうにそう言った。そんな松下に寛也は…。



「さぁ、どうだろうな。けどまぁどっちでもいい。俺はどの道駿里を助ける。何があったとしても。もし駿里が今来なくても絶対に助けに行く。」

「そうですね。」



寛也の言葉を聞いたことで松下も冷静さを取り戻したらしい。そして松下は何があっても駿里を助けると強く自分に言い聞かせた。

そしてその時…。



「組長…。駿里です。」



松下には確かに見えた。駿里の姿が。そして駿里も気づいたようだ。寛也らがここにいることに。



「寛也…………っ!!!!!」



そう叫んだ駿里は誰かに抱きかかえられていた。それを見た瞬間寛也らは駿里が何をされたのかすぐにわかった。その証拠に駿里の首には痕やら噛み跡やらでまみれていたのだから。だがそれと同時に寛也は思った。やはり亮の言う通り相手には寛也らがここに来たことがバレていたのだということが。



「寛也さん。」

「分かっている。俺は冷静だ。」



あんな駿里の姿を見せられて寛也は正直冷静さを保てそうになかった。そんな寛也にいち早く気づいた亮が寛也にそういったことでギリギリのところで冷静さを保てたようだ。



「おっと、危ねぇから暴れんな駿里。下ろしてやるから。」



と、駿里を拘束している男がそう言いながら駿里を床に下ろした。しかしその男は駿里を床に下ろしたものの駿里を決して離そうとしなかった。



「…組長。どうしますか?」



駿里を離そうとしない相手を見て松下が寛也にそう言った。駿里の様子を見る限り駿里もかなり混乱している。だから多分駿里も騙されてここに来たのだろうということは何となく寛也にも分かった。だからこそ寛也は怒った。駿里をあんなにも傷つけられただけでも腹ただしいのに駿里をさらに傷つけようとされているのだから。



「おい。どういうつもりだ。駿里を返せ。」



寛也はいち早く駿里の温もりを確かめたかった。そしてあの男たちから駿里を離したかった。そのため思わず寛也はそう言ってしまった。そんな寛也を見て亮は少し焦る。寛也の中で徐々に怒りが蓄積されていってしまっているから。



「まぁまぁそう怒らないで下さいよ旭川さん。とりあえず話しましょうか。」

「お前らと話すことなんてねぇ。いいから駿里を返せ。」



寛也は話なんてどうでもよかった。とにかく駿里を助けたい。しかし下手に手を出していい相手ではない。どこから攻撃されるか分からないし攻撃されるのが自分ならいいが松下や駿里にも被害が及ぶかもしれない。それだけは避けたかったのだ。



「それは困りますね旭川さん。」

「困るのはこっちだ。駿里を攫っておいて今更話すこと?馬鹿言ってんじゃねぇ。」



亮に緊張が走る。どんどん空気がピリついていくからだ。だが今のこの状況に亮は口を出せなかった。それほどまでに寛也が怒りを頑張って押えていたから。



「旭川さん。それはつまり俺らを敵に回すということでしょうか。」

「そうだ。」



まずい。亮は確実に嫌な予感がした。何かが起こる。そのため亮は周りを見渡したが何も無い。しかしそんなわけがなかった。だって駿里のことを攫った連中はお気楽そうに笑っているのだから。だから必ず何かをしてくる。その前に見つけなければならない…。



「…へぇ。旭川さんは部下が死んでもいいんですね。」



そう相手が言ったのを聞いて亮は益々焦る。どうにかしなくてはならない。早く…早く。

しかしーーー。



バン!!!!



「ぐぁ゛っ!!!」



松下が撃たれてしまった。なんの予兆もなく打たれてしまった。だから亮はそれを防げなかった。しかも運の悪いことにどこから撃たれたのかそれすらも分からなかった。唯一の救いは急所を撃たれず腕を撃たれたということ。だがそれも救いでは無いかもしれない。だってきっとこれは敵の脅しだから。言うことを聞け。そうしないと次は心臓を撃つぞという脅しだろうから。



「…康二!!」

「すんませ、ん組長…避けきれませんでした…。」

「…いや康二、お前が謝る必要はねぇだろ。悪い、俺のせいだ。立てるか?」

「はい、もちろんで、す…。」



寛也の言う通りだ。松下は悪くない。悪いのはあいつらだ。今も楽しそうに笑っているアイツら…。だから亮は怒りが抑えられなくなりそうだった。人をどこまでも弄び楽しむ。それが許せないのに何も出来ない自分にも亮は腹が立っていた。



「あーあ。旭川さんのせいですよ。俺達の言うこと聞かないから。」

「…てめぇら。」



寛也さんのせいなんかじゃない。撃ったのはお前らだろうが…と亮は相手を睨みつける。しかしそこには駿里がいる。だから下手に睨みつけれなかった。ただでさえ松下が撃たれたことで駿里は混乱している。そんな駿里を下手に刺激する訳にはいかなかった。



「…どういうつもりだ。」

「どういうつもり?これはこっちのセリフですよ旭川さん。話も聞かずに駿里を返せだなんて言われても困ります。だから話をしますよね旭川さん。」

「…話が違う!!」



いつ殴り合いが起きてもおかしくないぐらいのピリつきようだった。しかしそんな中で突然駿里が声を荒らげたことで皆が駿里に注目した。



「さっき、俺を、寛也に返すって…。」

「えー俺そんな事言ったっけ?」



ああ…なるほど。そういうことか、と亮は納得した。駿里はどうやら寛也の元に帰れる。そう言われていたのだろう。それを何となく亮は察した。そしてそれは寛也も同じだったようだ。だから亮はまた寛也に…。



「…寛也さん。」

「すまない亮。俺はもう冷静さを保てねぇ。だから万が一の時は俺の事を殴って止めろ。」

「…はい。」



まぁそれはそうだろう。駿里のためなら寛也は死ぬ覚悟だ。そんな駿里があんなに傷つけられている。なのに下手に手を出せない。そんな状況だけでも腹正しくなるのに今やこんな状況。だから寛也が冷静さを保てるわけがなかった。そんな寛也らをさらに煽るように相手の男たちは…。



「多分言ってねぇと思うんだけどなぁ。ボスが言いました?」

「いや、言ってないな。」

「…なん、で。」

「俺らを信じたお前が悪い。」



駿里を更に絶望の淵へと落としていった。そんな駿里を見て松下は唇をかみ締め拳を握っていた。その松下の拳からは血が出ていた。あまりにも強く拳を握っているのだろう。



「ほら旭川さん早く。今度はそっちの部下撃ちますよ?」

「…やめて!」



駿里がまた叫んだ。これ以上仲間を傷つけられたくない。その一心で…。必死に体を張って助けてくれようとしている。なのに何も出来ない無力さに苦しむ寛也。その寛也を助けることも駿里を助けることも出来ずに亮はその場に立ちつくすことしか出来なかった。



「こーら。駿里は黙ってろ。旭川さんが困るだろ?」

「おい!やめろ!駿里に触んじゃねぇ!」



相手が駿里に触れた途端松下が我慢できずにそう叫んでしまった。そんな松下を止めようとした亮だがそれよりも先に寛也が…。



「やめろ康二…、今は黙ってろ。」



と、言って寛也が松下を止めた。そのため亮は何も言わずに黙った。ここは寛也に任せておいた方がいいから。



「…っ、組長、でも、」

「いいから言うことを聞け康二。今は俺の言うことを聞いてくれ、頼む。」

「………はい。」



寛也の言うことには必ずと言っていいほど従う松下。それはそれほど寛也の言うことには意味があるから。そのため案の定松下は寛也の言うことを聞いた。その様子を見て亮は一先ずほっとした。



「…話ってのは?」



寛也は頑張って冷静さを保ちながらそう話していた。そのため亮も必死に深呼吸を繰り返して怒りをどうにかして抑えていた。なのに相手は容赦なく寛也を煽ってくる。



「まぁまぁ旭川さん。いいから座ってくださいよ。いつまでそこに立ってるつもりですか?」



と、言って寛也に座るよう急かしてきた。その言葉に腹が立った寛也だったが今は言うことを聞く方が得策。それを思った寛也は言う通りに椅子に座った。だが次の瞬間寛也の様子がおかしくなる。



「…は?」



寛也はそう言いある一点を見つめていた。そんな寛也を松下も圷も心配そうに寛也を見ていた。だが亮はそのある一点を見てみた。するとそこには銃口を構えていた男の姿があった。それもその銃口の先が松下に向けられていたのだ。



「…ちか、」



亮は寛也に声をかけるべきか迷いそこで言葉を詰まらせてしまった。今ここで寛也に声をかけたところで何も変わらないから。きっと松下に銃口が向けられていることを言った瞬間松下は撃たれ死んでしまうだろう。それは寛也が1番望んでいないこと。だから亮は黙ることしか出来なかった。



「急に黙り込んじゃいましたね。でもやっと分かりましたよね。旭川さんの置かれている立場が。それならどうしたらいいか、旭川さんには分かりますよね。俺は信じてますよ。旭川さんの次の行動を。」



松下に銃口を向けられてしまったことで為す術をなくした寛也。そのため黙ることしか出来なくなった。そんな寛也をみて嘲笑うように相手はそう言ってきた。だがそれでも寛也は黙り込む。そんな寛也を見て何も知らない松下と圷はどうしてというように寛也を見た。



「…組長?」

「どうしました?なぜ…。」



そう言った圷と松下。その2人を亮は思わず睨みそうになった。だって寛也は松下を守ろうとしているのだから。だが駿里を助けなければならない。その選択に今迫られている。なのにそんなことを言うな、というように亮は二人を見たが2人はその視線に気づかない。

そしてついに最悪の展開になってしまう…。



「帰るぞお前ら。」



寛也は松下が死ぬという選択が出来なかったようだ。だがそれは駿里を見捨てたわけじゃない。それは亮にもよくわかった。その証拠に寛也の声には悔しさがとんでもないほど含まれていたから。だからこそ亮は悔しかった。寛也にとってその選択がどれほど残酷なものなのか…よく分かっているから。



「組長…?なにを、言ってるんですか…?」



何も知らない松下は寛也にそう言った。それもきっと相手の狙いなのだろう。寛也を攻めるように仕向ける。そんな惨いことする相手が亮は許せなかった。そして何より1番傷ついているの言うまでもなく駿里だろう。



「いいから言うことを聞け。お前ら早く帰るぞ。」

「…っ、なんで!?どうしてなの寛也!!!」



案の定駿里の悲しそうな声が響き渡る。それを必死に無視して寛也は立ち上がり駿里に背を向けた。それがどれだけ辛いことか。その選択をした寛也はどんな思いなのか。それを想像するだけで亮はいたたまれなくなった。



「どうして無視するの!!寛也!!おれ、ずっと待ってたんだよ!寛也が来てくれるの信じて頑張って耐えてたんだよ!!」



駿里の声が段々と小さくなっていく。その時の寛也はどんな顔をしていたのだろうか。亮は怖くて見れなかった。そして何より悔しいのは松下と圷が寛也を責めるような目で見ているということ。寛也は何も悪くないのに。



「やだっ、やだやだっ!寛也っ、ねぇ寛也!!俺はここにいるよ!!なんで!ずっと一緒にいるって言ったじゃん!ばか!!なんでよ!!」



お願い、頼む駿里くん。そんなふうに言わないであげて。寛也さんはそうしたくてそうしたんじゃない。松下さんを助けようとしたんだよ。ただそれだけだ。だからどうか許してあげて欲しい。



「なんでだよ寛也!!俺はここにいるじゃんか!!助けに来てくれたんじゃないの!!どうして!!俺のこと見捨てるの!!」



そう叫んでいる駿里の声がついに聞こえなくなった。そして亮ら4人は無言のまま外に出てきてしまった。その時松下が突如足を止めた。



「…組長。どうしてですか。」



何も知らない松下は寛也にそう問うた。それもそうだろう。寛也が駿里を見捨てるなんてそんなこと松下は思いもしてなかったのだから。



「なんで駿里を見捨てたんですか!!!」

「…悪い康二。俺が無力なんだ。」



松下のことを守るためにあの選択をした寛也。その松下にこんなに責められても寛也は口答え1つしなかった。それほどまでに追い詰められているのだろう。



「どうして!!なんでですか!!見捨てる必要なんてないじゃないですか!!駿里にあんな思いさせない方法はあったはずです!!!」

「松下さんやめてください!!」



…さすがに耐えられない。そんなふうに寛也を責める松下に耐えきれなかった亮はそう言った。亮は全部知っているから。



「…亮、てめぇには感謝してるが今は黙ってろ。」

「いいえ。黙りません。」

「…は?」



松下に黙れと言われた亮だが黙る訳にはいかなかった。寛也をこれ以上責めないで欲しかったから。あの選択をするだけで寛也はきっと辛いなんてレベルじゃないほど苦しんだだろう。だから…責めないで欲しかったのだ。みんなに全部を知って欲しかった。



「だって、寛也さんはあなたを守るためにあの選択をしたんですよ。」

「やめろ亮。」



亮が銃口に気づいていたなんて思いもしなかった寛也は直ぐに亮を止めようとした。だが亮は止まらなかった。



「いいえ。やめません。」

「おい。余計な事をするな亮。」

「どういうことですか、組長…。」



状況が分からない松下は寛也にそう問うた。それに誤魔化して答えようとした寛也だがそれよりも先に亮が声を荒らげた。



「あなたに銃口が向けられていたんです!!それを寛也さんは助けたんだ!その寛也さんをなんの理由もなく責めないでください!」
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