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第1章 密室の切り裂きジャック
第5話 犯人わかっちゃったぜ
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放課後、俺たち軽音楽部は第二音楽室にやってきた。
時刻は夕方の五時。窓の外を見ると、日は沈みかけており、空は茜色に染まっている。
授業はとっくに終わっているのに、この時間にやってきた理由。それは音楽室を使用できる時間が決まっているからである。
俺たちの他にも吹奏楽部、ブラスバンド部、ジャズ研など、楽器を使う部活や同好会が存在する。その数は地味に多いため、各部の部長で話し合い、練習する時間を決めているのだ。今日は五時まで吹奏楽部使用しており、俺たちはその後に使用する予定になっている。
この時間まで何をしていたのかと言えば、もちろん情報収集である。音楽室を使える時間は限られているので、音楽室では極力練習に時間を使いたいからな。
「それじゃあ聞き込みの報告会をした後で、すぐに練習に入るぞ。異論はないな?」
大輔と静香はこくりとうなずいた。
「まずは大輔からお願いできるか」
「わかった。貴志に頼まれたとおり、時間割を調べてきた。調査対象は四クラス。うちのクラスの廊下に面するクラスだ。二年一組と二組はもちろん体育。二年三組は美術、二年四組は現代文だった。別の教室に移動するような授業ではなかったそうだ」
「授業内容は?」
「美術は絵を描いていたそうだ。テーマは『あなたの考えた新種の動物を描いてください』だそうだ。あのアフロ美術教師、妄想を描かせるとか本当に変わりもんだよなぁ」
「ああ、南雲先生な。あいつはヤバい」
南雲先生はアフロでサングラスという見た目だけでなく、授業内容までクレイジーだ。というのも、生徒によく「空想上の物を描け」と、無茶ブリをすることが多い。本人曰く、想像力を鍛えるためなんだとか。芸術家の考えることはよくわからないが、なんとなくロックな感じがするので、あの先生は嫌いじゃない。
「で、現代文は?」
「あれ、なんだっけ……芥川漱石の『河童ちゃん』だっけ?」
「お前それ混ざっちゃってるじゃん……」
龍之介くんと夏目さんが合体(フュージョン)している。代表作もだ。河童と坊ちゃんくっつけて謎のゆるキャラが爆誕しているんだが……。
「ま、まぁいいか。授業内容はだいたいわかったよ」
「あとマスターキーの件も確認してきたぞ。当日、マスターキーの盗難なんてなかったってよ。鍵を保管する箱があるんだけど、静香が借りに来たとき、マスターキーはたしかにかにあったそうだ。鍵を管理している先生は六限――つまり体育の授業中は、ずっと職員室にいたらしい。その間、誰も箱には触れていない。だから、盗まれたり失くしたりすることはあり得ないって」
犯行推定時刻にマスターキーは保管されていたってことか。見知らぬ第三者が犯行に及んだってことはなさそうだ。
「聞き込みご苦労様。次は静香。頼めるか?」
「うん。私はソフトボール部のみんなに話を聞いてきたよ。里中さんと飯田くん、付き合って一か月なんだって! 手を繋いで帰るところを目撃した部員さんもいたよ。ラブラブだよねぇ。あ、そうそう。二人の初デートは映画館だったらしいんだけど、これまた初々しいエピソードがあって――」
「ス、ストップ静香!」
里中の恋愛事情を嬉々として語る静香を止めた。本人は首を傾げて、不思議そうに俺を見ている。
「二人のラブラブエピソードはまた今度聞く。今は事件に関係ありそうな情報だけ頼むよ」
「えー。普段は男勝りな里中さんの乙女チックな部分が知れる、ギャップ萌えなエピソードなのにー」
あの里中が乙女……それは気になる。今日の帰り道にでも聞いてみよう。
「里中さん、部員からは信頼されているんだねぇ。みんな『玲奈が犯人なわけあるか!』って言ってたよ」
「あいつ、エースで四番なんだっけ?」
「うーん、それなんだけど、えっとね……」
静香は言葉を探すように宙を見つめ、やがて口を開いた。
「美由ちゃんがね、二年生に進級してからソフトボール部に入ったんだけど、すぐに頭角を現して、最近エースの座も四番の打順も、里中さんから奪っちゃったみたいなの」
「あいつ、ソフトボールの才能あったのか……」
「ううん、ソフトボールだけじゃないよ。あの子、何でもできちゃうの。好奇心の塊で、すぐ何かに挑戦するんだけど、ものすごい速度で上達するんだ。最後は飽きちゃうみたいだけど」
そりゃすごい。姉の綾も歌が上手いけど、美由も練習すれば上手くなるのかも。
「少し聞きにくいんだが……里中と美由の仲は良好なのか?」
「うーん、どうかなぁ。その一件で、里中さんは悔しくて泣いちゃったみたいだけどね。でも、特別仲が悪いってわけじゃなさそうかな。教室でも、部活でも、普通に会話してるし」
「そうか。ありがとう」
俺はケースからベースを取り出し、情報を整理しながら爪弾いた。ぼぼん、ぼぼんという低音が静かに響く。
密室の謎。犯人はどうやって教室に侵入したのか。
犯行動機。犯人は美由になんの恨みがあったのか。
容疑者のアリバイは全員ある……とは言えないよな?
ぼぼん、ぼぼん。
左手でミュートした状態でサムピングをし、アタック音を入れる。俺の好きなゴーストノートという奏法だ。
ぼぼん、ぷっ、ぼぼん、ぷっ。
低音がノリのいいリズムを作っていく。飛び跳ねるベースの音が響く中、思考の海に埋没していく。
ぼぼん、ぷっ、ぼぼん、ぷっ。
重要なのはアレだ。アレの謎さえ解ければ、犯人の特定ができるはず。
サビまで弾き終えたとき――閃いた。
「静香。明日の放課後、みんなを屋上に集めてくれ。美由、里中、綾、飯田くんの四人だ」
そう言うと、静香が目を見開いた。
「え? それってまさか――」
静香と大輔の驚きと期待の混じった視線が、こちらに向かってびゅんびゅん飛んでくる。そうだ、そのまさかだよ。
俺は得意気に笑ってみせた。
「俺様、犯人わかっちゃったぜ」
時刻は夕方の五時。窓の外を見ると、日は沈みかけており、空は茜色に染まっている。
授業はとっくに終わっているのに、この時間にやってきた理由。それは音楽室を使用できる時間が決まっているからである。
俺たちの他にも吹奏楽部、ブラスバンド部、ジャズ研など、楽器を使う部活や同好会が存在する。その数は地味に多いため、各部の部長で話し合い、練習する時間を決めているのだ。今日は五時まで吹奏楽部使用しており、俺たちはその後に使用する予定になっている。
この時間まで何をしていたのかと言えば、もちろん情報収集である。音楽室を使える時間は限られているので、音楽室では極力練習に時間を使いたいからな。
「それじゃあ聞き込みの報告会をした後で、すぐに練習に入るぞ。異論はないな?」
大輔と静香はこくりとうなずいた。
「まずは大輔からお願いできるか」
「わかった。貴志に頼まれたとおり、時間割を調べてきた。調査対象は四クラス。うちのクラスの廊下に面するクラスだ。二年一組と二組はもちろん体育。二年三組は美術、二年四組は現代文だった。別の教室に移動するような授業ではなかったそうだ」
「授業内容は?」
「美術は絵を描いていたそうだ。テーマは『あなたの考えた新種の動物を描いてください』だそうだ。あのアフロ美術教師、妄想を描かせるとか本当に変わりもんだよなぁ」
「ああ、南雲先生な。あいつはヤバい」
南雲先生はアフロでサングラスという見た目だけでなく、授業内容までクレイジーだ。というのも、生徒によく「空想上の物を描け」と、無茶ブリをすることが多い。本人曰く、想像力を鍛えるためなんだとか。芸術家の考えることはよくわからないが、なんとなくロックな感じがするので、あの先生は嫌いじゃない。
「で、現代文は?」
「あれ、なんだっけ……芥川漱石の『河童ちゃん』だっけ?」
「お前それ混ざっちゃってるじゃん……」
龍之介くんと夏目さんが合体(フュージョン)している。代表作もだ。河童と坊ちゃんくっつけて謎のゆるキャラが爆誕しているんだが……。
「ま、まぁいいか。授業内容はだいたいわかったよ」
「あとマスターキーの件も確認してきたぞ。当日、マスターキーの盗難なんてなかったってよ。鍵を保管する箱があるんだけど、静香が借りに来たとき、マスターキーはたしかにかにあったそうだ。鍵を管理している先生は六限――つまり体育の授業中は、ずっと職員室にいたらしい。その間、誰も箱には触れていない。だから、盗まれたり失くしたりすることはあり得ないって」
犯行推定時刻にマスターキーは保管されていたってことか。見知らぬ第三者が犯行に及んだってことはなさそうだ。
「聞き込みご苦労様。次は静香。頼めるか?」
「うん。私はソフトボール部のみんなに話を聞いてきたよ。里中さんと飯田くん、付き合って一か月なんだって! 手を繋いで帰るところを目撃した部員さんもいたよ。ラブラブだよねぇ。あ、そうそう。二人の初デートは映画館だったらしいんだけど、これまた初々しいエピソードがあって――」
「ス、ストップ静香!」
里中の恋愛事情を嬉々として語る静香を止めた。本人は首を傾げて、不思議そうに俺を見ている。
「二人のラブラブエピソードはまた今度聞く。今は事件に関係ありそうな情報だけ頼むよ」
「えー。普段は男勝りな里中さんの乙女チックな部分が知れる、ギャップ萌えなエピソードなのにー」
あの里中が乙女……それは気になる。今日の帰り道にでも聞いてみよう。
「里中さん、部員からは信頼されているんだねぇ。みんな『玲奈が犯人なわけあるか!』って言ってたよ」
「あいつ、エースで四番なんだっけ?」
「うーん、それなんだけど、えっとね……」
静香は言葉を探すように宙を見つめ、やがて口を開いた。
「美由ちゃんがね、二年生に進級してからソフトボール部に入ったんだけど、すぐに頭角を現して、最近エースの座も四番の打順も、里中さんから奪っちゃったみたいなの」
「あいつ、ソフトボールの才能あったのか……」
「ううん、ソフトボールだけじゃないよ。あの子、何でもできちゃうの。好奇心の塊で、すぐ何かに挑戦するんだけど、ものすごい速度で上達するんだ。最後は飽きちゃうみたいだけど」
そりゃすごい。姉の綾も歌が上手いけど、美由も練習すれば上手くなるのかも。
「少し聞きにくいんだが……里中と美由の仲は良好なのか?」
「うーん、どうかなぁ。その一件で、里中さんは悔しくて泣いちゃったみたいだけどね。でも、特別仲が悪いってわけじゃなさそうかな。教室でも、部活でも、普通に会話してるし」
「そうか。ありがとう」
俺はケースからベースを取り出し、情報を整理しながら爪弾いた。ぼぼん、ぼぼんという低音が静かに響く。
密室の謎。犯人はどうやって教室に侵入したのか。
犯行動機。犯人は美由になんの恨みがあったのか。
容疑者のアリバイは全員ある……とは言えないよな?
ぼぼん、ぼぼん。
左手でミュートした状態でサムピングをし、アタック音を入れる。俺の好きなゴーストノートという奏法だ。
ぼぼん、ぷっ、ぼぼん、ぷっ。
低音がノリのいいリズムを作っていく。飛び跳ねるベースの音が響く中、思考の海に埋没していく。
ぼぼん、ぷっ、ぼぼん、ぷっ。
重要なのはアレだ。アレの謎さえ解ければ、犯人の特定ができるはず。
サビまで弾き終えたとき――閃いた。
「静香。明日の放課後、みんなを屋上に集めてくれ。美由、里中、綾、飯田くんの四人だ」
そう言うと、静香が目を見開いた。
「え? それってまさか――」
静香と大輔の驚きと期待の混じった視線が、こちらに向かってびゅんびゅん飛んでくる。そうだ、そのまさかだよ。
俺は得意気に笑ってみせた。
「俺様、犯人わかっちゃったぜ」
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