二人で癒す孤独

路地裏乃猫

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 ……一体、どこまで進むつもりなのだろう。
 目の前を歩く創一郎の足は、なおも緩む気配を見せない。どうやら目的地まではまだまだ距離があるようだ。が、その目的地さえ、今なお創一郎は明かしてはくれない。
「どこまで行くんだ」
 ついに敦は創一郎の背中に問うた。創一郎は、しかし何も答えない。
 そういえば――あの日もそうだった。ハイキングに行きたいと駄々をこねる敦のために、創一郎は何日も前からその準備を整えてくれた。そして、いざ当日になると、行先は秘密ですと軽く片目をつむって敦を別荘から連れ出した。敦を愉しませ、驚かせるための、創一郎なりの心づくしだった。
 そんなことを敦が思い出すともなく思い出していると、ふと創一郎が足を止め、こちらを振り返った。ただし、その視軸は敦ではなく、その肩越しに向けられている。
「……誰かが、敦さまを呼んでおられるようですね」
「僕を?」
「はい。どうやら、敦さまに引き返してほしいと願うお方があちらにいらっしゃるようです」
「……?」
 創一郎の視線を追って振り返る。視界いっぱいに広がる黄金色の草原は、確かに敦自身がたった今歩いてきた場所のはずなのに、どういうわけか、今はじめて目にしたかのような奇妙な印象を受ける。
 風が、銀色の葉裏を暴きながら草原を渡るのが、まるで金色の大海原を走る波のようで、言葉にならない美しさである。
 ずっとこの場所で、創一郎ととともにこの景色を眺めていたい。そう願わずにはいられない、あまりにも素晴らしい光景だ――なのに。
「……本当だ」
 そう。それは確かに聞こえた。
 縋るように、戻って来いと敦に願う声が。
「どうなさいますか」
「えっ?」
 創一郎に目を戻す。いつしかその視軸は、背後の草原から敦の上へと移っていた。どこか寂しげな眼差しに、敦が哀しい予感を胸に抱いたその時、創一郎の形の良い唇がふわりと微笑み、そして言った。
「選ぶのは敦さまです。このまま僕とともに進むか――」
 言いながら創一郎は、再び草原の彼方に目を向けた。
「あの声のもとに戻るか」
「……」
 改めて、敦はその声に耳を澄ました。
 ――死に急ぐんじゃねぇよ。
 お世辞にも上品とはいえない、やや荒っぽい言葉遣い。が、その言葉の一つ一つは、なぜか胸の奥深くに突き刺さってくる。
 ――そんなに寂しけりゃよ。
 ――俺が、一緒に生きてやるからよ。
 気付くと敦は、はらり涙を流していた。そして、一度あふれ出した涙は、いくら止めようとしても止まらなかった。
「……すまない、創一郎」
 振り返り、創一郎に目を戻す。
「やはり今は、まだ――」
 が、そこに立つはずの創一郎の姿は、すでに影さえ消え失せていた。
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