完結!【R‐18】獣は夜に愛を学ぶ(無垢獣人×獣人にトラウマを持つ獣人殺し)

路地裏乃猫

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悪夢のつづき

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 思えばずっと、悪夢にうなされていた気がする。

 それでも朝が来て目が覚めれば、そこはもう本来の日常だ。あの地獄を生き延び、養父のもとで戦士として鍛えられ、獣人殺しとして多くの獣人を屠ってきたロアがそこにいる。だからこそロアは、辛うじてにせよ正気を保っていられたのだ。ここは地獄ではないと、目覚めるたび自分に言い聞かせることができた。

 だから悪夢から覚めて、そこに夢の続きのような光景を目にしたとき、ロアが抱かされたのは底知れない困惑と、そして恐怖だった。

 どうしてこんな。

 逃げたはずだ。殺したはずだ。どうして。なぜ俺は、また。

「う、うああ゛あ゛あ゛あ゛アああ゛あああああああああああア!」

 いやだ。

 いやだいやだいやだいやだいやだ。もう痛いのは嫌だ。腹の中を無理やり掻き回されるのも、爛れた尻の穴に乱暴に突っ込まれるのも――でも、従わなければ父さんのように手足をもがれてしまうから。それでも痛くて、痛くて痛くて痛くて、怖くて……

 だから殺した。一匹残らず殺そうとした。

 事実、夥しい数の獣人を殺してきた。文字通り死体の山を築いてきた。……なのに、結局は何も変わらなかった。相変わらずロアの心は、あの冷たい尖塔の一室に囚われている。あの獣人の影に怯えている。これだけ殺しても、なお救われないままで。

 そして今、あの悪夢の再来にロアは。

「い、いやだぁあ゛あ゛あ゛! いやだいやだいやだ……あ゛あ゛あ゛ア゛あ゛ぁあ゛!」

 叫びで息が切れ、なおも意識が混濁する。

 もう何が現実で何が虚構か、それすらもよくわからない。そんな中で一つだけ確かなこと。ロアを抱き寄せる、体毛に覆われた太い腕が獣人のそれであること。まさか本当に、あの時のあいつが? わからない。いや、こいつが誰かなどどうだっていい。

 何にせよこいつは獣人で。

 そしてロアは、あの地獄から逃げられなかったということ。

 その獣人が、さっきから何かを叫んでいる。わかっている。どうせ人間を嘲笑う言葉だろう。人間の無力さを、その無力さをただ嘆くことしかできない愚かさを嗤い、嘲る言葉だろう。

 ――いいから黙って銜え込め。

 ――ケツが痛い? 知るか。さっさと股を開け。無力なりに出来ることをしろ。

 ――所詮、人間など玩具よ。ほら人間、もう一度最初からだ。

「ご……ろ゛ずっ゛」

 残酷で冷酷で、人間をただ玩具として弄ぶだけの生き物。ロアが毎晩のように喉を嗄らして上げた悲鳴すら、心地よい音色だと嗤い、啜った。そんな連中が、俺と同じ世界に生きていて良いはずがない。だから殺す。一匹残らず殺し尽くす。

 たとえ俺自身は、この地獄から逃げ出せなくとも。

 それでも、せめて貴様らを道連れに――

 ――おれはロアが好き。

「ロア!」

 不意に耳に届いた声にロアははっとなる。相変わらず目の前の獣人は、ロアの肩を抱き寄せたままじっとロアの顔を覗き込んでいる。……気のせいか、その眼差しはひどく優しい。

 やがて獣人は、おずおずと口を開く。

 獣人のくせに、まるで人間を怖がらせまいとでもするように。

「俺を……俺を見て、ロア」

「……は?」

「そいつじゃない。俺を見てよ、ロア。俺だけを」

「……」

 何を、こいつは言っている。ただ、その目はどこまでも真剣で、何より必死だった。大人に縋りつく迷子のような、あるいは愛する伴侶の形見を取り落とし、泥沼を探る老人のような。

 なぜだ。お前は……獣人だろう。冷酷で、残酷な。

 ところが、その冷酷なはずの獣人は、慈しむようにロアを撫でながら続ける。

 ロアが、復讐者という仮面の下にひた隠しにした痛みや悲しみを、そっと紐解くように。

「俺、間違えてた。ロアは……やりたくて、やってたんじゃ、ない。本当はずっと、辛かったんだ。怖かったんだ。だから、こんなに怯えて……そうだろ」

 そして獣人は――リクは、その懐にロアを抱き寄せ、髪を、頬を優しく撫でる。本来なら嫌悪すべき肉球のごわついた感触を、なぜか身体は拒まず、むしろ心地よいものとして受け入れる。

 あれほど心を支配した恐怖や混乱も、今は嘘のように凪いでいた。

「……リク」

 自分を包む柔らかな毛並みに、そっと手を伸ばし、撫でる。乾いているように見えて、まだ少ししっとりと濡れた体毛。差し込みはじめた月の光を弾くそれは、どんな宝物も霞むほどの美しい黄金色。

 そうだな。お前の言うとおりだ。

 俺は一度も、お前を、〝リク〟を見ていなかった。
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