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ただ、ぬくもりを
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変化には、すぐに気付いた。
硬く閉じたロアの身体から、ふわりと香った甘美な匂い。ああ、これはと思った矢先、ロアは鎧を解くと、不意を衝くようにリクの鼻先をちろりと舐めた。まるで、そう、リクを誘い込むかのように。
「……ロア?」
「なあ、リク」
紫の双眸が、じっとリクを見上げる。ただでさえ人間より優れた五感を持つリクに、それに気づくなという方が酷だ。
「抱いたのか、女を」
「えっ? あ……う、うん」
意表を突く問いに、うろたえつつもリクは頷く。確かに、抱いた。ゲインの見よう見まねで。ただ、今こうしてロアを抱きしめながら感じる喜びやぬくもりは、そこにはなかった。ゲインの言うとおりにすればするほど、自分の中身が空っぽになるような虚しさばかりが募った。
あるいは、これじゃないという違和感。
「じゃあ、やり方はわかるな」
そしてロアは、リクの腰の熱にするりと手を伸ばす。一体、何をするつもりなのか。そうリクが問うよりも先に、未知の痺れがぞくりと全身を走る。……いや、一応知ってはいる。ついさっき女たちにされたこと。ただ、それと同じことを、あのロアにされているという事実が、未知の刺激を否応なしにリクの身体に注ぎ込む。
「はは……やっぱでかいな」
なおもリクのそれに触れながら、鼻先でロアが囁く。その指先がリクの先端を小突くたび、リクのものはびくりと震え、見えない針で貫かれたような痛みを覚える。……それでも、そこは萎えることなく、むしろ余計に膨らみを増してゆく。
「や……めて、ロア……」
「どうして。したいんだろ?」
「や、だから」
今度は口元を舐られる。唾液の甘い匂いにつられるようにその舌を絡め取ると、その奥から唾液よりもさらに甘い声が漏れてリクは慌てた。
「ん……リク……っ」
「……っ」
これは夢か? あの女たちの宿で――あるいは、それ以前にもたびたび目にした白昼夢。あれが、今、現実と化している。リクの腕の中で妖しく啼くロア。
でも……いや、だからこそ。
「や、めないと、お……俺、我慢、できなくなる」
「じゃあ、しなきゃいい」
「……え」
一瞬、聞き間違いかと思った。が、覗き込んだロアの目は、今の言葉を裏付けるようにリクを誘い込んでいる。
「俺も、したい」
「……」
ああ、駄目だ。
リクの中で、固く閉ざしていた箱が音を立てて弾け飛ぶ。……わかっていた。どだい我慢などできるはずもなかったのだ。それでも何とか堪えたくて、堪えさえすれば何とかなると思って。
でも。
「……ロア……っ」
できるだけ平板な岩の上に、背中を抱えつつそっとロアを寝かせる。その上に、体重をかけないよう四つん這いの恰好で重なると、白い首筋や紅潮した耳たぶを丹念に舐った。……ああ、どこもかしこも甘い。より濃密な匂いを求めて上着をまくり、今度は剥き出しになった胸板を舐める。傍目には細身に見えるロアだが、脱ぐと意外にも豊かな筋肉に覆われている。その、程よい弾力ごと味わうように舐め回していると、ロアの口から、それまでとは明らかに違う色の声が漏れた。
「……あ」
その声をもう一度聞きたくて、さらに舐め回す。やがて舌先が小さなひっかかりを捉えると、応じるようにロアはびくりと背中を反らした。
「っ……そこ」
「ここ?」
「しびれる……すごく」
吐息が熱を帯びるとともに次第に深みを増す香り。あるいはロアの中でも、リクの知らない花が咲いているのかもしれない。その香りが、肌や吐息に乗ってリクに届いているのだ。
知りたい。その花の色を、匂いを、味を、もっと。
「あ、あ、っ」
急くような気持ちに負け、つい突起を噛んでしまう。しまった。傷つけたくは――そう、心配顔でロアの顔を覗き込むと、なぜか驚いた目でリクを見上げている。
「だ……大丈夫? ロア」
「何だ、これ」
「えっ?」
「あ……頭が、とける……」
それは、とても危ない状況じゃないか。詳しいことはわからないが、何か妙な魔術なりが働いているのかもしれない。そう思い、慌てて身を引くと、なぜか鼻面をぎゅっと掴んで引き留められた。
「やめるな。……見ろ」
そしてロアは、つい、と顎で腹のあたりを指す。見ると、ロアの脚衣がぷくりと膨らんでいる。そのふくらみに、何の気なしに手を伸ばし――
「や、やめろ!」
今度はなぜか引き止められる。
「えっ、ど、どっち……?」
「あ、いや……やめるな……」
どうやらロア自身、どうして欲しいのかわからず混乱しているらしい。こんなロアの反応も新鮮だ。普段はどんなに切羽詰まった場面でも、賢者のように堂々とリクを導いてくれるロアが。
やがてロアは、自ら脚衣の紐を解く。そのまま太腿のあたりまでずり下ろし、それを露わにする。
「……あ」
むせかえる匂い。まるで、夜明けとともに花開く蕾みたいだとリクは思う。ただ、その姿は花というより、熟れきった果実のようだ。赤く、今にも破裂しそうに膨らんだ。
その先端から。
抗いがたいほどに香る、ロアの匂い。
「……舐めて、いい?」
考えるよりも先に口が問う。が、恐れるはずの獣人の口に急所を委ねるなど、ロアにしてみれば怖くないはずがない。
「ご、ごめん、今のは忘れて」
慌てて言葉を取り消す。と――
「……いいぜ」
「えっ」
意外な言葉に問い返せば、ロアは、やはりあの誘うような目でリクを見上げている。
「舐めろよ。……舐めたいんだろ?」
そしてロアは、今度は完全に脚衣を足から抜き取ってしまう。でも、と躊躇していると、今度は「早くしろ」と鋭い声で急かされてしまった。
ごく、と喉が鳴る。リクだって、本心ではかぶりつきたくて仕方なかったのだ。
「じゃあ……」
身体をずらして這いつくばり、おそるおそる先端を舐める。瞬間、殴られたような衝撃が脳髄を突き抜け、リクは陶然となる。ただ甘いだけじゃない。むしろ痺れるように苦くて、なのに――いや、もう何も考えたくない。この、ロアそのもののような味を今は無心で堪能していたい。
先端の蜜を舐め取り、形の良いくびれを舌先で辿る。そのたびにロアはあの甘い声をこぼす。見るとロアは、さっき頭がとけると言った胸の突起を自分で弄っている。本当はもっと触ってほしかったのかな。そう思い、指の肉球で挟み込むと、痩せた腰が魚のようにびくんと大きく跳ねた。
「あ! っ、」
鋭い、なのに蕩けるように甘い悲鳴。喜んでいるのかな、と、さらに肉球でこね回すと、ロアはいやいやをするように左右に身をよじった。そのたびに、リクの鼻先でぴくん、ぴくんと跳ねる果実。逃げないよう長い舌で絡め取りつつさらに舐め回していると、いよいよそれは硬くなってゆく。
なお濃密さを増す匂いが、リクの脳髄を否応なしに揺さぶる。
「あ……んんっ、リク……」
浮いた腰を抱え込み、さらにそれを舐める。本当は咥えこんでしまいたい。けど、獣人の姿では鋭い歯が当たって痛むだろう。いっそ人に化けようか……
いいや。
今はこの姿で愛したいし、求められたい。
果実を舐め尽すと、今度はもっと深い場所も宥めたくなる。が、なぜか膝は硬く閉ざされ、リクの侵入を許さない。無理強いにならないようそっと押し開くも、やはり、すぐに閉じてしまう。リクを拒んでいるのではなく、おのずとそうなってしまうらしい。仕方ないので今度は強めに膝を開き、内股に身体を滑り込ませる。
ロアの目が、不意に色を変えたのはその時だ。ああ、この目は――
「俺だよ」
あわや凍り付きそうになる目を覗き込み、訴える。
「ロア、俺だよ。そいつはもう、どこにもいない。……俺だけを、見て」
その後もリクは、繰り返し、繰り返し言い聞かせる。俺だ。リクだ。ここにはもう、ロアを傷つける奴はいない――
「……リク」
次第に、乱れかけたロアの焦点が目の前のリクに合ってゆく。
「あ……ああ、そう、そうだな」
それでもなお硬さの残るロアの声を、リクは唇ごと丁寧に舐め溶かす。それから胸、そして腹。恐怖の匂いが、ふたたび悦びのそれに変わるのを待ってから、改めてロアのものに舌を這わせる。それから、さっきまで閉ざされて届かなかった内股の傷痕にも。
自分は、ただ傷つけるだけの獣人とは違う。ロアの傷に寄り添い、癒したい。
「すまなかった」
「ううん、いいよ。……辛かったんだろ?」
「そうじゃない」
「えっ?」
身を起こして問い返すと、ロアはなぜか痛みを堪えるような目でリクを見上げる。
「お前だって……辛かったはずなんだ。俺と同じように……俺に全部奪われて、悲しくて、悔しかったはずだ。なのに、俺は……自分の痛みばかりで」
「……ロア?」
「す……すまなかった。こんなもの……謝って、許してもらえる類の話じゃない。でも……それでも、お前には、せめて、謝りたい。謝らせて、くれ。今更、こんな……でも……」
そしてロアは、すまなかった、悪かったと、ほとんど悲鳴じみた声で繰り返す。そんなロアの慟哭を前に、どうすればよかったんだろうとリクは途方に暮れる。少なくともリクは、別に謝罪など求めてはいないのだ。
ただ。あえて言うなら。
「うん。でもそれは、いくらロアが謝っても、駄目なんだと思う」
そもそも、リクに許すかどうかを決めることなどできない。唯一それができるリクの仲間たちは、皆、ロアに殺されてしまった。
ところがロアは、なぜかほっとしたように頬を緩める。
「……ロア?」
「あ、いや……そうだな。俺も、許せないものは、許せないままでいいと思う。俺だって、獣人そのものを許したわけじゃない。ただ……」
そしてロアは、リクの肩越しに空を見上げる。その目はどこまでも遠く、穏やかだ。
「そういうものを抱えながら、それでも誰かを愛せるんだと、わかったから」
「……うん」
頷きながら、それは俺のことかなとリクは嬉しくなる。だったらいいな。でも、聞いたところで白状はしてくれないだろう。心と言葉が裏腹な人だから。
「俺も、そう思うよ」
そっと傷痕を撫で、鼻先を擦りつける。ロアが味わった苦しみと、今も抱き続ける獣人への憎しみ。そうした部分も含めてのロアなら、まるごと愛そう。愛し抜こう。ロアが、憎むはずの獣人であるリクを愛してくれるように。
「……っ」
リクの舌が内股のさらに奥に触れた瞬間、ロアの身体がぎゅっと縮こまる。見ると、奥で蕾に似た肉が怯えたようにひくついている。その奥から、明らかに漂うリクを誘う匂い。これは……見覚えがある。あの宿の女たちが見せた反応。だから、わかる。わかってしまう。今のロアが何を求めているかを。
ただ……だからこそ、怖い。
この一線を踏み越えた先にあるものを知ってしまったら、自分はどうなってしまうのか。それこそゲインが言ったとおり、肉欲に支配された狂暴な獣人と化してしまうのでは。そして……その時こそ自分は、本当の意味でロアの仇と化すのだろう。
それでも。
ロアが欲しい。あんなにもロアとの未来を望んでおきながら。結局これが獣人の本能かと思うと心底悔しい。が、それでも。
「ねえ、ロア」
「……何だ」
「もし、正気に戻れなくなったら……殺してよ、ロア」
「は?」
問い返すロアに、その意味を思い知らせるようにそこを舐める。怯えた目でびくりと身を竦めるロア。でも……もう遅い。
「わかるんだ、俺も獣人だから。このまま進んだら……もう、戻れなくなるかも……だから……その時は、ロアに殺してほしい。ほかの獣人殺しじゃ嫌だ。俺は……ロアに殺されたい」
「そんな――」
慌てて身を引こうとするロアの腕を、リクは咄嗟に掴んで引き留める。わかっている、この拒絶は、リクを殺したくないというロアなりの意思表示だ。だからこそリクは辛い。この期に及んで自分を止められないとわかるから。
「リク、やめろ」
「ごめん。それでも、ロアが欲しいんだ。……お願い」
「うるさい! あ、あんなに……俺と、一緒に、いたいと、っ……」
身を起こし、リクに掴みかかるロアを、それでもリクは優しく押し返す。その言葉だけでも嬉しい。きっと、もし本当にリクが戻れなくなって、ロアに殺されることになっても、もう充分、充分だ。
「ありがとう、ロア」
ロアの痩せた腰を両手で掴み、自身の雄を蕾にあてがう。
形こそロアの果実に似ているが、大きさは人間のそれの倍近くはある。そんなものが、ただでさえ細いロアの腰に収まるようには思えない。なのに蕾は、リクの先端を舐るように妖しくうねっている。まるで、さっさと入れとばかりに。
本当に……入るのか?
でも、一度はリク以外の雄がここを使って――いや、そいつらのことは考えるな。俺は、相手に苦痛を強いてでも貪りたい連中とは違う。
「や、やめろ、リク」
そう、口では言いながら、ロアのそこは相変わらずリクを誘い込んでいる。匂いも。
「……ごめん」
馴染ませるように先端を、続いて芯を押し込む。狭い入り口が精一杯に張り詰めながら、リクの巨大な雄をじわりじわりと呑み込んでゆく。その様子を見守りながら、リクは、こみ上げる破壊的な衝動を必死に堪えていた。突っ込め。相手の苦痛など関係ない。貪りたいように貪れ――そう声を荒げるもう一人の自分を、リクはどうにか頭から締め出す。
俺は、雄になりたいわけじゃない。
ただロアと、ぬくもりを、体温を、悦びを分かち合いたい。それだけなんだ。
硬く閉じたロアの身体から、ふわりと香った甘美な匂い。ああ、これはと思った矢先、ロアは鎧を解くと、不意を衝くようにリクの鼻先をちろりと舐めた。まるで、そう、リクを誘い込むかのように。
「……ロア?」
「なあ、リク」
紫の双眸が、じっとリクを見上げる。ただでさえ人間より優れた五感を持つリクに、それに気づくなという方が酷だ。
「抱いたのか、女を」
「えっ? あ……う、うん」
意表を突く問いに、うろたえつつもリクは頷く。確かに、抱いた。ゲインの見よう見まねで。ただ、今こうしてロアを抱きしめながら感じる喜びやぬくもりは、そこにはなかった。ゲインの言うとおりにすればするほど、自分の中身が空っぽになるような虚しさばかりが募った。
あるいは、これじゃないという違和感。
「じゃあ、やり方はわかるな」
そしてロアは、リクの腰の熱にするりと手を伸ばす。一体、何をするつもりなのか。そうリクが問うよりも先に、未知の痺れがぞくりと全身を走る。……いや、一応知ってはいる。ついさっき女たちにされたこと。ただ、それと同じことを、あのロアにされているという事実が、未知の刺激を否応なしにリクの身体に注ぎ込む。
「はは……やっぱでかいな」
なおもリクのそれに触れながら、鼻先でロアが囁く。その指先がリクの先端を小突くたび、リクのものはびくりと震え、見えない針で貫かれたような痛みを覚える。……それでも、そこは萎えることなく、むしろ余計に膨らみを増してゆく。
「や……めて、ロア……」
「どうして。したいんだろ?」
「や、だから」
今度は口元を舐られる。唾液の甘い匂いにつられるようにその舌を絡め取ると、その奥から唾液よりもさらに甘い声が漏れてリクは慌てた。
「ん……リク……っ」
「……っ」
これは夢か? あの女たちの宿で――あるいは、それ以前にもたびたび目にした白昼夢。あれが、今、現実と化している。リクの腕の中で妖しく啼くロア。
でも……いや、だからこそ。
「や、めないと、お……俺、我慢、できなくなる」
「じゃあ、しなきゃいい」
「……え」
一瞬、聞き間違いかと思った。が、覗き込んだロアの目は、今の言葉を裏付けるようにリクを誘い込んでいる。
「俺も、したい」
「……」
ああ、駄目だ。
リクの中で、固く閉ざしていた箱が音を立てて弾け飛ぶ。……わかっていた。どだい我慢などできるはずもなかったのだ。それでも何とか堪えたくて、堪えさえすれば何とかなると思って。
でも。
「……ロア……っ」
できるだけ平板な岩の上に、背中を抱えつつそっとロアを寝かせる。その上に、体重をかけないよう四つん這いの恰好で重なると、白い首筋や紅潮した耳たぶを丹念に舐った。……ああ、どこもかしこも甘い。より濃密な匂いを求めて上着をまくり、今度は剥き出しになった胸板を舐める。傍目には細身に見えるロアだが、脱ぐと意外にも豊かな筋肉に覆われている。その、程よい弾力ごと味わうように舐め回していると、ロアの口から、それまでとは明らかに違う色の声が漏れた。
「……あ」
その声をもう一度聞きたくて、さらに舐め回す。やがて舌先が小さなひっかかりを捉えると、応じるようにロアはびくりと背中を反らした。
「っ……そこ」
「ここ?」
「しびれる……すごく」
吐息が熱を帯びるとともに次第に深みを増す香り。あるいはロアの中でも、リクの知らない花が咲いているのかもしれない。その香りが、肌や吐息に乗ってリクに届いているのだ。
知りたい。その花の色を、匂いを、味を、もっと。
「あ、あ、っ」
急くような気持ちに負け、つい突起を噛んでしまう。しまった。傷つけたくは――そう、心配顔でロアの顔を覗き込むと、なぜか驚いた目でリクを見上げている。
「だ……大丈夫? ロア」
「何だ、これ」
「えっ?」
「あ……頭が、とける……」
それは、とても危ない状況じゃないか。詳しいことはわからないが、何か妙な魔術なりが働いているのかもしれない。そう思い、慌てて身を引くと、なぜか鼻面をぎゅっと掴んで引き留められた。
「やめるな。……見ろ」
そしてロアは、つい、と顎で腹のあたりを指す。見ると、ロアの脚衣がぷくりと膨らんでいる。そのふくらみに、何の気なしに手を伸ばし――
「や、やめろ!」
今度はなぜか引き止められる。
「えっ、ど、どっち……?」
「あ、いや……やめるな……」
どうやらロア自身、どうして欲しいのかわからず混乱しているらしい。こんなロアの反応も新鮮だ。普段はどんなに切羽詰まった場面でも、賢者のように堂々とリクを導いてくれるロアが。
やがてロアは、自ら脚衣の紐を解く。そのまま太腿のあたりまでずり下ろし、それを露わにする。
「……あ」
むせかえる匂い。まるで、夜明けとともに花開く蕾みたいだとリクは思う。ただ、その姿は花というより、熟れきった果実のようだ。赤く、今にも破裂しそうに膨らんだ。
その先端から。
抗いがたいほどに香る、ロアの匂い。
「……舐めて、いい?」
考えるよりも先に口が問う。が、恐れるはずの獣人の口に急所を委ねるなど、ロアにしてみれば怖くないはずがない。
「ご、ごめん、今のは忘れて」
慌てて言葉を取り消す。と――
「……いいぜ」
「えっ」
意外な言葉に問い返せば、ロアは、やはりあの誘うような目でリクを見上げている。
「舐めろよ。……舐めたいんだろ?」
そしてロアは、今度は完全に脚衣を足から抜き取ってしまう。でも、と躊躇していると、今度は「早くしろ」と鋭い声で急かされてしまった。
ごく、と喉が鳴る。リクだって、本心ではかぶりつきたくて仕方なかったのだ。
「じゃあ……」
身体をずらして這いつくばり、おそるおそる先端を舐める。瞬間、殴られたような衝撃が脳髄を突き抜け、リクは陶然となる。ただ甘いだけじゃない。むしろ痺れるように苦くて、なのに――いや、もう何も考えたくない。この、ロアそのもののような味を今は無心で堪能していたい。
先端の蜜を舐め取り、形の良いくびれを舌先で辿る。そのたびにロアはあの甘い声をこぼす。見るとロアは、さっき頭がとけると言った胸の突起を自分で弄っている。本当はもっと触ってほしかったのかな。そう思い、指の肉球で挟み込むと、痩せた腰が魚のようにびくんと大きく跳ねた。
「あ! っ、」
鋭い、なのに蕩けるように甘い悲鳴。喜んでいるのかな、と、さらに肉球でこね回すと、ロアはいやいやをするように左右に身をよじった。そのたびに、リクの鼻先でぴくん、ぴくんと跳ねる果実。逃げないよう長い舌で絡め取りつつさらに舐め回していると、いよいよそれは硬くなってゆく。
なお濃密さを増す匂いが、リクの脳髄を否応なしに揺さぶる。
「あ……んんっ、リク……」
浮いた腰を抱え込み、さらにそれを舐める。本当は咥えこんでしまいたい。けど、獣人の姿では鋭い歯が当たって痛むだろう。いっそ人に化けようか……
いいや。
今はこの姿で愛したいし、求められたい。
果実を舐め尽すと、今度はもっと深い場所も宥めたくなる。が、なぜか膝は硬く閉ざされ、リクの侵入を許さない。無理強いにならないようそっと押し開くも、やはり、すぐに閉じてしまう。リクを拒んでいるのではなく、おのずとそうなってしまうらしい。仕方ないので今度は強めに膝を開き、内股に身体を滑り込ませる。
ロアの目が、不意に色を変えたのはその時だ。ああ、この目は――
「俺だよ」
あわや凍り付きそうになる目を覗き込み、訴える。
「ロア、俺だよ。そいつはもう、どこにもいない。……俺だけを、見て」
その後もリクは、繰り返し、繰り返し言い聞かせる。俺だ。リクだ。ここにはもう、ロアを傷つける奴はいない――
「……リク」
次第に、乱れかけたロアの焦点が目の前のリクに合ってゆく。
「あ……ああ、そう、そうだな」
それでもなお硬さの残るロアの声を、リクは唇ごと丁寧に舐め溶かす。それから胸、そして腹。恐怖の匂いが、ふたたび悦びのそれに変わるのを待ってから、改めてロアのものに舌を這わせる。それから、さっきまで閉ざされて届かなかった内股の傷痕にも。
自分は、ただ傷つけるだけの獣人とは違う。ロアの傷に寄り添い、癒したい。
「すまなかった」
「ううん、いいよ。……辛かったんだろ?」
「そうじゃない」
「えっ?」
身を起こして問い返すと、ロアはなぜか痛みを堪えるような目でリクを見上げる。
「お前だって……辛かったはずなんだ。俺と同じように……俺に全部奪われて、悲しくて、悔しかったはずだ。なのに、俺は……自分の痛みばかりで」
「……ロア?」
「す……すまなかった。こんなもの……謝って、許してもらえる類の話じゃない。でも……それでも、お前には、せめて、謝りたい。謝らせて、くれ。今更、こんな……でも……」
そしてロアは、すまなかった、悪かったと、ほとんど悲鳴じみた声で繰り返す。そんなロアの慟哭を前に、どうすればよかったんだろうとリクは途方に暮れる。少なくともリクは、別に謝罪など求めてはいないのだ。
ただ。あえて言うなら。
「うん。でもそれは、いくらロアが謝っても、駄目なんだと思う」
そもそも、リクに許すかどうかを決めることなどできない。唯一それができるリクの仲間たちは、皆、ロアに殺されてしまった。
ところがロアは、なぜかほっとしたように頬を緩める。
「……ロア?」
「あ、いや……そうだな。俺も、許せないものは、許せないままでいいと思う。俺だって、獣人そのものを許したわけじゃない。ただ……」
そしてロアは、リクの肩越しに空を見上げる。その目はどこまでも遠く、穏やかだ。
「そういうものを抱えながら、それでも誰かを愛せるんだと、わかったから」
「……うん」
頷きながら、それは俺のことかなとリクは嬉しくなる。だったらいいな。でも、聞いたところで白状はしてくれないだろう。心と言葉が裏腹な人だから。
「俺も、そう思うよ」
そっと傷痕を撫で、鼻先を擦りつける。ロアが味わった苦しみと、今も抱き続ける獣人への憎しみ。そうした部分も含めてのロアなら、まるごと愛そう。愛し抜こう。ロアが、憎むはずの獣人であるリクを愛してくれるように。
「……っ」
リクの舌が内股のさらに奥に触れた瞬間、ロアの身体がぎゅっと縮こまる。見ると、奥で蕾に似た肉が怯えたようにひくついている。その奥から、明らかに漂うリクを誘う匂い。これは……見覚えがある。あの宿の女たちが見せた反応。だから、わかる。わかってしまう。今のロアが何を求めているかを。
ただ……だからこそ、怖い。
この一線を踏み越えた先にあるものを知ってしまったら、自分はどうなってしまうのか。それこそゲインが言ったとおり、肉欲に支配された狂暴な獣人と化してしまうのでは。そして……その時こそ自分は、本当の意味でロアの仇と化すのだろう。
それでも。
ロアが欲しい。あんなにもロアとの未来を望んでおきながら。結局これが獣人の本能かと思うと心底悔しい。が、それでも。
「ねえ、ロア」
「……何だ」
「もし、正気に戻れなくなったら……殺してよ、ロア」
「は?」
問い返すロアに、その意味を思い知らせるようにそこを舐める。怯えた目でびくりと身を竦めるロア。でも……もう遅い。
「わかるんだ、俺も獣人だから。このまま進んだら……もう、戻れなくなるかも……だから……その時は、ロアに殺してほしい。ほかの獣人殺しじゃ嫌だ。俺は……ロアに殺されたい」
「そんな――」
慌てて身を引こうとするロアの腕を、リクは咄嗟に掴んで引き留める。わかっている、この拒絶は、リクを殺したくないというロアなりの意思表示だ。だからこそリクは辛い。この期に及んで自分を止められないとわかるから。
「リク、やめろ」
「ごめん。それでも、ロアが欲しいんだ。……お願い」
「うるさい! あ、あんなに……俺と、一緒に、いたいと、っ……」
身を起こし、リクに掴みかかるロアを、それでもリクは優しく押し返す。その言葉だけでも嬉しい。きっと、もし本当にリクが戻れなくなって、ロアに殺されることになっても、もう充分、充分だ。
「ありがとう、ロア」
ロアの痩せた腰を両手で掴み、自身の雄を蕾にあてがう。
形こそロアの果実に似ているが、大きさは人間のそれの倍近くはある。そんなものが、ただでさえ細いロアの腰に収まるようには思えない。なのに蕾は、リクの先端を舐るように妖しくうねっている。まるで、さっさと入れとばかりに。
本当に……入るのか?
でも、一度はリク以外の雄がここを使って――いや、そいつらのことは考えるな。俺は、相手に苦痛を強いてでも貪りたい連中とは違う。
「や、やめろ、リク」
そう、口では言いながら、ロアのそこは相変わらずリクを誘い込んでいる。匂いも。
「……ごめん」
馴染ませるように先端を、続いて芯を押し込む。狭い入り口が精一杯に張り詰めながら、リクの巨大な雄をじわりじわりと呑み込んでゆく。その様子を見守りながら、リクは、こみ上げる破壊的な衝動を必死に堪えていた。突っ込め。相手の苦痛など関係ない。貪りたいように貪れ――そう声を荒げるもう一人の自分を、リクはどうにか頭から締め出す。
俺は、雄になりたいわけじゃない。
ただロアと、ぬくもりを、体温を、悦びを分かち合いたい。それだけなんだ。
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原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
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