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独りにしないで
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リクの目に、見覚えのある眼光が宿る。
獣人が、獲物を貪るときのそれ。あの頃、ロアは毎晩のようにこの目に射竦められ、ぼろきれになるまで心と身体を食い荒らされた。押し込まれた穴が裂けて血が流れるのにも構わず、連中は思うさま突っ込み、欲望の証をロアの中に吐き出していった。
その痛みや惨めさがほんの一瞬脳裏をよぎって、でも、とロアは思い直す。
いま目の前にいるのは、あの時の獣人じゃない。
リク。そう、俺が愛する。
「リク……リク」
愛しい名前を繰り返しながら、顎を、それから三角に尖った耳の後ろを撫でる。するとリクは、ようやく正気を取り戻し、ロアの目元をちろりと舐めた。
「ごめん……うん、大丈夫」
「ははっ、本当かよ」
そう軽口を叩きながら、でも本当は不安でたまらない。性的な快楽に目覚めた雄の獣人の危険性を、ロアは身をもって知っている。リクも、いつその細い尾根を踏み外し、獣性という名の崖下に転げ落ちるかわからないのだ。まるで綱渡りのような交わり。
それでもリクはロアを求め、ロアも、結局はそれを許した。
「……リク」
二つの心臓が、身体の底で激しく脈打っている。それは鼓動を重ねながら、激しくも柔らかな熱をロアの中に広げてゆく。リクが動くたび、互いの膜が擦れて熱い。ただ、決して不快ではない。痛みもない。むしろロアの胸を満たすのは、これまで感じたことのない深い深い充足。
だからこそロアはリクの名を呼び続ける。このぬくもりが遠くに行ってしまわないように。
「リク……大丈夫か、リク……んっ」
「う、うん、だいじょ、ぶ」
そうは言いながらも、リクは腰の動きを確実に速めてゆく。急速に乱れる吐息。駄目だ、俺を置いていくな。やっぱり許すんじゃなかった。たとえ繋がっても一つになっても、それじゃ意味がない。
「や、やめっ……リク……」
胃の腑から、ふとこみ上げる強烈な吐き気。それを必死に飲み下しながら、なおもロアはリクの名を呼ぶ。リクの心が、獣性という名の荒波に持ち去られないことを願いながら。
その間も、ますます強くなる吐き気。やがて――
「……は、」
駄目だ、と思った刹那、溢れたのはしかし、反吐ではなかった。
「ロア?」
「ど……して」
割れた腹筋のくぼみで小さな水たまりを作る白い体液。見るとそれは、ロアの先端から細い糸を引いている。まさか……尻だけで? だが、ここは本来そういう場所ではないはず。ロアも、ただリクを気持ち良くするためだけにここを許したのだ。なのに――
「……あ」
それは突然やってきた。それまでも体の奥で存在を主張していたリクの熱。ただ、どこか曖昧だった輪郭や感覚が、突然、線を引いたように明瞭になる。あれは吐き気ではなく、つまり、そういう欲だったのだ。ただ、初めての感触をそうと認識できなかっただけで。
そして、一度気付いてしまうと。
「あ、うぁ、待っ……ぁ」
身体だけでなく心でも思い知らされる。この、身体を内側から炙る熱がロア自身の欲望だということ……が、肝心の心は置き去りにされたまま、ただ、戸惑いばかりが募ってゆく。だから、せめて待ってほしいのに、リクは待ってくれない。ロアの身体をさらに深く折りながら、欲望の速度を上げてゆく。
そんなリクの欲望に、ロア自身も呆れるほど貪欲に絡みつく。貪られながら貪っている。互いの尻尾に喰らいついたまま、ぐるぐると輪を描く二匹の蛇のように。
「ロア……ロア、っ」
肩を抱かれ、首筋に歯を立てられる。その、ちくりとした痛みが、熱で浮ついたロアの意識をはっきりさせる。それは温泉の後に浴びる冷や水のように、かえってロアの感覚を研ぎ澄ます。
「あ……リク、っ」
リクの太い首に縋りつきながら、今度は自ら腰を揺らめかす。張り詰めた入り口がちぎれそうになるのも構わず、リクの巨大な雄を貪る。そのたびに鰓が内壁を擦って、抑えがたい喜悦の波に涙があふれた。
「う、ううっ、あ、リク……ん、っ」
引き留めるどころか、こちらが先に獣と化してしまいそうな――なのに止められない、そんな、どうしようもない状況で、それでもロアはリクを求める。豊かなたてがみに縋りつきながら。
「俺も、いく」
「ロア?」
「お前が、っ、狂ったら、俺も……俺も、一緒に、っ」
だから置いて行かないでくれ。
独りにしないでくれ。
そしてロアは悟る。なぜあの日、あの小さな獣人の仔を助けてしまったのか――欲しかったのだ、きっと。ぬくもりを分かち合える仲間、いや家族が。
「だめだよ……ロア」
駄目と言いながら、それでもなおリクはロアの肉を穿つ。身体の奥深く、自身も触れられない場所を突き上げられながら、ロアは、愛する者の首にしがみつく。
あの日、必死にロアに追いすがった小さな獣人の仔のように。
「いやだ、俺も……いく」
リクは、もう何も答えなかった。代わりになお激しさを増す波。その、嵐にも似た荒波に翻弄されながら、ロアはただ一心に願う。どうか、この嵐の先に待つ景色が穏やかなものであるように――
やがて。
「……あ」
ロアの中で、リクの欲望の証が爆ぜる。その、身を焦がすような、なのに心地よい熱を、ロアは身体で、そして心で味わった。
獣人が、獲物を貪るときのそれ。あの頃、ロアは毎晩のようにこの目に射竦められ、ぼろきれになるまで心と身体を食い荒らされた。押し込まれた穴が裂けて血が流れるのにも構わず、連中は思うさま突っ込み、欲望の証をロアの中に吐き出していった。
その痛みや惨めさがほんの一瞬脳裏をよぎって、でも、とロアは思い直す。
いま目の前にいるのは、あの時の獣人じゃない。
リク。そう、俺が愛する。
「リク……リク」
愛しい名前を繰り返しながら、顎を、それから三角に尖った耳の後ろを撫でる。するとリクは、ようやく正気を取り戻し、ロアの目元をちろりと舐めた。
「ごめん……うん、大丈夫」
「ははっ、本当かよ」
そう軽口を叩きながら、でも本当は不安でたまらない。性的な快楽に目覚めた雄の獣人の危険性を、ロアは身をもって知っている。リクも、いつその細い尾根を踏み外し、獣性という名の崖下に転げ落ちるかわからないのだ。まるで綱渡りのような交わり。
それでもリクはロアを求め、ロアも、結局はそれを許した。
「……リク」
二つの心臓が、身体の底で激しく脈打っている。それは鼓動を重ねながら、激しくも柔らかな熱をロアの中に広げてゆく。リクが動くたび、互いの膜が擦れて熱い。ただ、決して不快ではない。痛みもない。むしろロアの胸を満たすのは、これまで感じたことのない深い深い充足。
だからこそロアはリクの名を呼び続ける。このぬくもりが遠くに行ってしまわないように。
「リク……大丈夫か、リク……んっ」
「う、うん、だいじょ、ぶ」
そうは言いながらも、リクは腰の動きを確実に速めてゆく。急速に乱れる吐息。駄目だ、俺を置いていくな。やっぱり許すんじゃなかった。たとえ繋がっても一つになっても、それじゃ意味がない。
「や、やめっ……リク……」
胃の腑から、ふとこみ上げる強烈な吐き気。それを必死に飲み下しながら、なおもロアはリクの名を呼ぶ。リクの心が、獣性という名の荒波に持ち去られないことを願いながら。
その間も、ますます強くなる吐き気。やがて――
「……は、」
駄目だ、と思った刹那、溢れたのはしかし、反吐ではなかった。
「ロア?」
「ど……して」
割れた腹筋のくぼみで小さな水たまりを作る白い体液。見るとそれは、ロアの先端から細い糸を引いている。まさか……尻だけで? だが、ここは本来そういう場所ではないはず。ロアも、ただリクを気持ち良くするためだけにここを許したのだ。なのに――
「……あ」
それは突然やってきた。それまでも体の奥で存在を主張していたリクの熱。ただ、どこか曖昧だった輪郭や感覚が、突然、線を引いたように明瞭になる。あれは吐き気ではなく、つまり、そういう欲だったのだ。ただ、初めての感触をそうと認識できなかっただけで。
そして、一度気付いてしまうと。
「あ、うぁ、待っ……ぁ」
身体だけでなく心でも思い知らされる。この、身体を内側から炙る熱がロア自身の欲望だということ……が、肝心の心は置き去りにされたまま、ただ、戸惑いばかりが募ってゆく。だから、せめて待ってほしいのに、リクは待ってくれない。ロアの身体をさらに深く折りながら、欲望の速度を上げてゆく。
そんなリクの欲望に、ロア自身も呆れるほど貪欲に絡みつく。貪られながら貪っている。互いの尻尾に喰らいついたまま、ぐるぐると輪を描く二匹の蛇のように。
「ロア……ロア、っ」
肩を抱かれ、首筋に歯を立てられる。その、ちくりとした痛みが、熱で浮ついたロアの意識をはっきりさせる。それは温泉の後に浴びる冷や水のように、かえってロアの感覚を研ぎ澄ます。
「あ……リク、っ」
リクの太い首に縋りつきながら、今度は自ら腰を揺らめかす。張り詰めた入り口がちぎれそうになるのも構わず、リクの巨大な雄を貪る。そのたびに鰓が内壁を擦って、抑えがたい喜悦の波に涙があふれた。
「う、ううっ、あ、リク……ん、っ」
引き留めるどころか、こちらが先に獣と化してしまいそうな――なのに止められない、そんな、どうしようもない状況で、それでもロアはリクを求める。豊かなたてがみに縋りつきながら。
「俺も、いく」
「ロア?」
「お前が、っ、狂ったら、俺も……俺も、一緒に、っ」
だから置いて行かないでくれ。
独りにしないでくれ。
そしてロアは悟る。なぜあの日、あの小さな獣人の仔を助けてしまったのか――欲しかったのだ、きっと。ぬくもりを分かち合える仲間、いや家族が。
「だめだよ……ロア」
駄目と言いながら、それでもなおリクはロアの肉を穿つ。身体の奥深く、自身も触れられない場所を突き上げられながら、ロアは、愛する者の首にしがみつく。
あの日、必死にロアに追いすがった小さな獣人の仔のように。
「いやだ、俺も……いく」
リクは、もう何も答えなかった。代わりになお激しさを増す波。その、嵐にも似た荒波に翻弄されながら、ロアはただ一心に願う。どうか、この嵐の先に待つ景色が穏やかなものであるように――
やがて。
「……あ」
ロアの中で、リクの欲望の証が爆ぜる。その、身を焦がすような、なのに心地よい熱を、ロアは身体で、そして心で味わった。
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