完結!【R‐18】獣は夜に愛を学ぶ(無垢獣人×獣人にトラウマを持つ獣人殺し)

路地裏乃猫

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新しい朝

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 ごぎり、と鈍い音がリクの顎から響く。そのままリクは、ゲインだったものの頭を咥えたまま二度三度大きく首を振ると、やがて「まずい」と言ってぺっと吐き出した。

「こいつの臭い、やっぱり嫌い」

 投げ出されたゲインの身体は、もはやぴくりともしない。見ると、首があらぬ方向を向いている。死んだな、と、特に感慨もなくロアは思う。結局……この男が何を考えていたのか、何のためにこそこそとリクに近づいたのか、ロアにはわからずじまいだった。まあ、どうせろくな話じゃないだろう。

「帰るか」

「えっ? あ……うん」

 そう頷くリクはしかし、なぜかゲインを見下ろしたまま悄然しょうぜんとしている。殺してしまったことを気に病んでいるのか? 馬鹿な。ならば最初から、自分がやるなどと言い出さなければよかったのだ。

 戦士にとって、戦いとは常に命の奪い合いだ。勝てば生き残り、負ければ死んでむくろを晒す。その意味でリクは、勝ったことを誇りはしても悔やむ必要はない。

 それに、とロアは思う。

 最後の最後で、この元同僚は獣人殺しとして許されない愚を犯した。ただでさえ身体能力で勝る獣人との戦いで、獲物から目を離し、隙を晒したのだ。ロアに言わせれば、あれでは獣人に殺してくれと告げているようなものだ。だからこそロアも、本来なら力量で劣るリクに対処を丸投げできたわけだが。

 今回に限らない。昔からゲインは、獣人狩りのたびに獲物ではなくロアの姿ばかり目で追っていた。いずれこうした死に方をするのは、ある意味、奴なりの天命だったのかもしれない。

「放っておけ。間抜けな獣人殺しの末路は、昔から森の肥やしと相場が決まっている」

「うん……」

 やがてリクは、どこかへ歩き出す。一体どこに行くんだと眺めていると、岩場の傍らに咲いた花を摘み、それを、ゲインの死体の上にそっと置いた。

 俯き、ゲインを見下ろすリクの眼差しはどこまでも優しい。

「嫌な奴だったけど、こいつのおかげで、俺、大人になれたから」

「はは……何だそりゃ」

 そう口では笑ってみせながら、しかし、内心でロアはある種の感動を覚えていた。と同時にそれは、深い罪悪感もロアに強いた。

 死者を悼むことのできる、欲望に弱い以外は人間とよく似た心を持つ種族を、ロアは、ただの化け物として屠ってきた。欲望に囚われた獣人は危険で、放置すれば多くの人間が被害に遭う。だから――

 でも。

 本当はもっと、違う方法や選択があったんじゃないのか。そもそもロアが求めたのは、もう誰も、自分のような辛い目に遭わずに済む世界だ。それは、わざわざ獣人を皆殺しにしなくても手に入るんじゃないか。事実、リクは克服した。本来、押さえ込むのは不可能だったはずの獣欲を。

 何より……もう、リクのような不幸な獣人を生み出したくない。

「やめるよ、獣人殺し」

「えっ?」

 顔を上げ、驚きの目で見上げるリクに、ロアは続ける。

「その代わり、どこかに村を作ろう。人間と獣人が共に暮らし、共に生きるための村を。……できないはずは、ないんだ。俺とお前がそうだったように」

 ふとリクの毛並みが輝きを増し、見ると、梢の向こうから新しい朝の光が二人のもとに差し込んでいる。顔を上げ、空を仰ぐと、昨日のぐずついた天気が嘘のようなすっきりと晴れ渡った青空。

「とりあえず、宿に戻るか」

 残りの服を身につけ、最後に外套をさっと羽織る。振り返ると、相変わらずリクはロアを見上げたまま呆然としている。

「何やってる。さっさとついてこい」

「えっ……あ、うん!」

 こくこく頷くと、リクは跳ねるように立ち上がり、足早に追いすがってくる。朝日を吸って輝く金色の毛並み。つくづく、綺麗な男だなとロアは思う。人に化けていても、もちろん、獣人の姿でも――

 そんなロアの視線に気づいたリクが、隣を歩きながらふと振り返る。

「俺の顔に何かついてる?」

「……いいや。腹が減ったな」

 するとリクは、前に向き直り、そうだね、と頷く。

「早く秋風亭に戻らなきゃだ」

「その前に風呂だ。こんな臭いなりじゃカミラに出禁喰らっちまう」

「えー、ご飯のが先がいいよ」

「黙れ。ころ……ぶん殴るぞ」






 獣人殺しロア=リベルガの戦績と伝説はそこで途絶える。

 それからしばらくして、ナジャ近くの森に軍監視のもと小さな村が作られる。村には、各地で森を追われた獣人が住民として集められ、有志により他種族との共存のための教育も施された。その、村の立ち上げに動いた者こそ、元獣人殺しのロア=リベルガと、彼の相棒と称する一匹の獣人だったとされている。

 その村で、ロアとこの相棒は、異種族が共存するための多くの規則ルールを設けた。彼らが生みだした規則と村の運営モデルは、後に多くの国や街でも採用され、やがて、獣人のみならず他の異種族との共存も試みられるようになる。多くは成功したが、中には不幸なかたちで失敗したケースもある。それでも異種族との共存をはかる流れは変わらず、その過程で多くの物語が生まれそして消えたが、これらは別の機会に改めて語られるべきだろう。

 この獣人は、人よりも短い天寿を全うし、それから十数年の時を隔ててロア=リベルガも老衰で死ぬ。二人、いや一人と一匹の墓は、彼らが作った村の片隅で今もひっそりと寄り添いながら、異なる種族同士が織り成す平和な日々を見守っている。




※今回の更新分で完結となります。ご読了ありがとうございました。よろしけば、第10回BLコンテストにてご投票いただけると幸いです。また、ご感想なども頂けると今後の励みになります。よろしくお願いします。
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