転生しても、女に振り回されそうになった俺は、暴君になる事にした。

前森コウセイ

文字の大きさ
30 / 54
第1部 暴君立志編  第5話 王太子、暴君となる

第5話 1

しおりを挟む
「――久しいな。ソフィア!」

 出迎えてくれた叔父様の言葉に、わたしは腰を落として礼をする。

「ご無沙汰しております。叔父様」

 わたしの手を取り、肩を叩く叔父様に、わたしも笑みを浮かべた。

 ――ネイト・クレストス。

 ホルテッサ王国の宰相にして、わたしの叔父様。

 だが、現在は療養中の王と一緒に離宮に詰めていて、政務のほとんどはわたしが担っている。

 元々が急逝した父の後、わたしが宰相位を継ぐまでの間の中継ぎとして、抜擢されたのが叔父様だ。

 わたしは今、王に呼び出されて、その離宮へとやってきていた。

 背後にフランを伴い、叔父様に先導されて、離宮の回廊を抜け、中庭へ抜ける。

 よく整えられた庭園の片隅に、テーブルセットが設けられている。

「お、来たな」

 そう声をかけてきたのは、作業着姿のリチャード王。

 王は手にした剪定バサミを庭師の老人に手渡し、執事が差し出した濡れタオルで手を拭うと、テーブルへとやってきた。

 威厳をつける為に伸ばしているのだというアゴヒゲは、なかった時の顔を知っているわたしからすると、似合っていないと思うのだけど。

 気さくに笑って椅子に腰掛ける王に、わたしはカーテシーして。

「ご無沙汰しております。陛下」

 挨拶すれば、陛下は、殿下がよくするように手を振った。

「良い良い。ここでは王城の作法など気にするな。俺だってこの格好だ」
 と、自身の作業着姿を笑ってみせる。

「あら、楽しそうな声がすると思ったら、ソフィアちゃんが来てたのね」

 茂みの向こうから、やはり作業着姿の女性――フレイア王妃が顔を覗かせる。

 王妃様も茂みを回り込んでテーブルにやってきて、椅子に腰を下ろすと、メイドがカートを運んできて、ティーセットを並べていく。

「お久しぶりです。王妃様」

「やだわ。前みたいに大叔母様って呼んでちょうだい」

 わたしが挨拶すると、王妃様は手を振ってコロコロと笑う。

 王妃様は嫁がれる以前は、クレストス家の姫――祖父の一番下の妹だった。

 その縁もあって、わたしは幼い頃から可愛がって頂いていた。

「いいからいいから。さ、座ってちょうだい。ネイト、あなたも」

 促されて、わたしと叔父様は着席する。

 それを待って、陛下はよく冷やされたお茶を飲んで、目を細められた。

「報告は受けているが……アレはよくやっているようだな」

「はい。婚約を破棄されて以降、多少、色々ありましたが、政務的に見れば……」

 現在のホルテッサ王国は、王がなかば隠居状態にあるために、特殊な政治体制にある。

 殿下と宰相代理のわたしが、与えられた権限の中で王城での日々の政務をこなし、その裁量権を超える判断を迫られた時は、離宮に連絡して王と宰相である叔父様の判断を仰ぐ。

 この体制を維持する為に、連絡には王宮魔道士達の魔法が多いに役に立っている。

 殿下はこの方法を諸領にも応用できないか、検討しているようだったけれど。

「スラムの件と通貨制度の変更に関しては、見事と言っていいだろう」

「お褒めに預かり、光栄です」

 手放しで褒めてくれる陛下に、わたしは頬が少し紅潮するのを感じながら、会釈する。

「……だがなぁ。ちょっと上手く行き過ぎたんだよなぁ……」

 陛下は嘆息して背もたれにもたれかかった。

 それが今日、わたしが呼ばれた理由だろう。

「パルドス王国から抗議が来ておるのは知っとるな?」

「自国通貨の価値が暴落したから賠償をしろ、とか……」

 正直、「知るか」と言いたいわ。

 元々が金貨に混ぜものをして、含有量をごまかしていたような国なのだ。周辺国からの信用も低くて、放っておいても暴落は免れなかったはず。

「それを賠償とは……あの国は頭おかしいのでは?」

 わたしが歯に衣着せずに言い放てば、陛下も王妃様も苦笑して同意する。

「だが、頭がおかしいからこそ、頭おかしい行動をしかねん。
 ――新型<騎兵騎>開発に関しても、侵略目的だと言ってきておる。ならば徹底抗戦だ、とな」

 頭の悪さにめまいがするわ。

 現在、我が国は通貨制度の見直しで好景気になっているのと、元々豊かな国土ゆえに他国に侵攻するメリットがない。

 そもそも国内に魔境が複数ある為、外国に攻め込む軍事力があるなら、魔境開拓に回した方が被害も費用も少なくて済むというのに。

「連中は一週間前から、国境周辺で軍事演習をしている」

 叔父様の言葉に、わたしはうなずく。

 それはわたしにも報告が来ていたわね。

 万が一に備えて、国境警備を強化するよう、先日指示を出したばかり。

「示威行動ですか」

「――だろうな。戦となれば、負けはしないだろうが、民に大きな被害が出る。
 向こうは勝てばメリットがあるかもしれんが……ウチは勝ってもなぁ……」

 陛下の言いたい事はわかる。

 パルドスからは、得られるモノがない。

 彼の国は現在、旧帝国の直系を僭称しており、周辺国から煙たがられている。

 王侯貴族はおろか、国民に至るまでが高慢で怠惰。

 当然、国土はやせ衰え、輸入によって民の口を賄っている状態なのだもの。

 そんな国と戦をして勝ったとしても、下手をしたら賠償金すら踏み倒されかねない。

「それでな……ソフィアちゃん」

 陛下が言いづらそうに、親指を弄びながら切り出す。

「連中、自国の姫をオレアの嫁にするか、王子をソフィアちゃんに婿入れさせるかの二択を迫ってきとってな……」

「そんなの、実質一択じゃない!」

 知らなかったのでしょうね。

 王妃様がテーブルを叩いて立ち上がる。

 王族にパルドスの姫を輿入れさせたら、次代はパルドスの傀儡にされかねない。

 わたしにパルドスの婿を入れれば、わたしは政界から距離を置かざるを得なくなる。

 パルドスにしては、珍しく頭を使ったものだと思う。

 いや、彼らはこういう姑息な事でこそ、才能を発揮するのだったわね。

「ソフィアちゃんがオレアの懐刀なのは、周辺諸国では知れ渡っているからな。
 そこを押さえにかかったのだろう。
 ――侵略の意思がないのなら、両国の和平をより周辺に知らしめる為に、などと抜かしておった」

 わたしを気遣うように、陛下も王妃様も見つめてくる。

 そんなお二方の気遣いに感謝しながら、わたしはうなずく。

 いつかはこんな日も来るだろうと覚悟していたわ。

 公爵位を継ぐ事で、相手は選べるかもしれないという期待は少なからずあったけれど、政治的な婚姻からは逃れられないという覚悟はあったわ。

 それが予想してたより、ずっと早かっただけ。

 ……残念なのは、最後まで殿下を――カイを支え続けられないという事ね。

 わたしは深呼吸して、両陛下と叔父様を見回す。

「かしこまりました。陛下。
 ――その婚姻、お受け致します」

 そうしてわたしは、今後に備えて、動き始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...