転生しても、女に振り回されそうになった俺は、暴君になる事にした。

前森コウセイ

文字の大きさ
31 / 54
第1部 暴君立志編  第5話 王太子、暴君となる

第5話 2

しおりを挟む
 王城の裏手に架かった長い石橋を渡り、深い森の奥に踏み入る。

 しばらく歩くと、森は開かれた空隙のような野原になる。

 その片隅に建てられた小屋の脇で、腹ばいになって眠る巨体。

「――竜っ!?」

 護衛でついてきたロイドが、腰の剣に手をかける。

「大丈夫だって。ロイド、ここ来るのはじめてだっけ?」

 俺はそれを留めて、手を振ってみせた。

 赤黒い鉱物のような鱗に、鋭い爪。

 今はたたまれている翼は、広げると片翼だけで一〇メートルを超える。

 寝そべっているというのに、肩の高さは俺達より高い。

 竜――それは魔獣と一緒に考えられがちだが、鉱鱗類というまったく別の生き物だ。

 人の言葉を理解し、歳を経ると喋るようにさえなる。

 目の前に居るこの竜も、そうした歳経た竜の一頭で、彼女の場合は人語を話すどころか――

「お、カイ坊じゃないか」

 竜がうっすら目を開き、俺達に語りかける。

 カイというのは俺の幼名だ。

「久しいね。ずいぶん大きくなったじゃないか」

「ああ、久しぶりだ。コラーボ婆」

 竜――コラーボ婆は翼と手足を伸ばして伸びをする。

「――今日はソフィー嬢ちゃんは一緒じゃないのかい?
 その男は?」

 ロイドに視線を向けて、そう尋ねる。

「は、はじめまして。ロイド・グレシアと申します」

 顔を青ざめさせながら、ロイドが答えると、コラーボ婆は面白そうに、その金色の目を細めた。

「その赤毛でグレシアって事は、ガイ坊やの子かい? 懐かしいね。
 あの子もリチャードと一緒に初めてここに来た時は、そんな風に顔を真っ青にしてたよ」

 アハハと笑うと、コラーボ婆は再び腹這いになり。

「――よいしょっと……」

 そう呟くと、コラーボ婆の背中が縦に開いて、中から異国風の衣装の女が這い出てくる。

 鱗と同じ赤黒い髪に、金色の目。こめかみの辺りから耳の上に流れるように、左右それぞれに角が生えている。

 浴衣みたいな前合わせの衣装から、零れ落ちそうになってる大きな胸。

 年の頃は、人の二十代半ばに設定しているのだと、昔会った時に教えてくれた。

「どうだい? これなら怖くないだろう?」

 そう告げる女に、ロイドは驚愕の目を向ける。

 竜の背から降りて来て、彼女はロイドの肩を叩き。

「改めて、ホルテッサ王国の守護竜をしている、コラーボ・レイターだ。
 気軽にコラちゃんでも良いぞ?」

 ウィンクしてみせるコラーボ婆に、ロイドはぶんぶん首を振った。

 そう。コラーボ婆は、歳を経て人化できるのだ。

 彼女が言うには、すべての竜がそうではないようだが、コラーボ婆と同種の竜はできるのだという。

「さ、ふたりともおいで。茶でも出そう」

 そうしてコラーボ婆に誘われて、俺達は小屋の中にお邪魔する。

 ルキウス帝国が興るより、さらに大昔からこの地に住まう竜。

 ホルテッサ家が帝国時代に貴族になれたのも、コラーボ婆と友誼を結べたからだ。

 それ以来、この地はホルテッサ家の管理地となり、他家不可侵の地となっている。

 伝承では恐ろしいとされる竜だったが、俺にしてみれば、基準がコラーボ婆となっているため、竜が恐ろしいという印象は少ない。

 話が通じる分、魔獣や魔物よりずっと付き合いやすい存在だと思う。

 俺とロイドが室内のテーブルにつくと、コラーボ婆は釜のような器具を持ってきて、テーブルに乗せる。

「――目覚めてもたらせ、アイスティーみっつ」

 コラーボ婆が釜に手を乗せてそう呟くと、釜に埋められた赤い宝石が光る。

「はい、できた」

 言いながら、コラーボ婆は釜の蓋を開いて、中からグラスに入った氷入りのアイスティーを取り出す。

「――なぁっ!? しゅ、守護竜様は魔女であらせられますか?」

 ロイドが目を剥いて問うと、コラーボ婆はやんわりと微笑んで。

「それはわたしら竜の肩書のひとつだね」

 こともなげにそう告げる。

「落ち着けよ、ロイド。ここにはこんなのばっかりだぞ」

 懐かしいな。子供の頃は、ゲームキとかいうので遊びたくて、ソフィアと一緒に入り浸ってたっけ。

 前世の記憶を取り戻す前は気づかなかったけど、あれ、どう考えても携帯ゲーム機だよな。

 まあ、コラーボ婆の持ち物に深くツッコんだら負けだ。

「し、しかし……いえ、申し訳ありません。取り乱しました」

 生真面目なロイドは頭を下げて、押し黙る。

「それで? カイ坊は今日はどんな用向きだい? いまさらゲームで遊びたいというわけでもないんだろう?」

「ああ。ちょっとコラーボ婆の知恵を借りたくてな」

 俺は事情を説明しはじめる。

 相談事というのは、特殊部隊の足についてだ。

「――というわけで、アシュレイ造船局長が困っててな」

「……カイ坊、それって戦に使えるんじゃないのかい?」

 探るようなコラーボ婆の目。

「ああ。戦にも使えてしまうな」

 俺が正直にうなずくと、コラーボ婆は苦笑して頭を掻く。

「バカな子だよ。ウソでも『そんな事には使わない』と言っとけばいいものを」

「俺がそうしたところで、次代が使わないとは限らない。なら、そんなウソに意味はない」

 冷えた紅茶をすすりながら、俺がそう答えると、コラーボ婆は大声で笑った。

「だいぶ王らしくなってきたじゃないか。いいだろう。知恵を貸してやろうじゃないか。
 ――造船局だったね。明日から出向くから、伝えておいておくれ」

「あ、コラーボ婆、竜の姿で来るなよ? さすがに大騒ぎになるぞ」

「えー」

 基本的にゴロゴロしているのが、大好きなコラーボ婆だ。

 注意しておかないと本当に、竜の姿で来かねない。

 コラーボ婆に約束を取り付けた俺とロイドは、そうして小屋を後にする。

 次に向かうのは造船局のアシュレイ局長への仲介だ。

 ――そんな忙しくも、充実した日々を送っていたある日。

「――聖女?」

「ええ。街で噂になっていまして。
 ――この前、大聖堂に赴任してきた修道女が、癒やしの魔法で病気や怪我を治してくれるそうで」

 ロイドの言葉に、俺は鼻を鳴らす。

「物好きなヤツも居たものだな」

 癒やしの魔法と聞くと、どうしてもセリスを思い出してしまって、心が波打つ。

 だから。

「それが……セリス様だそうですよ」

 ロイドが続けた言葉が、俺にはすぐに理解できなかった。

「――は?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...