転生しても、女に振り回されそうになった俺は、暴君になる事にした。

前森コウセイ

文字の大きさ
43 / 54
閑話

閑話1

しおりを挟む
 パルドスからソフィアを連れ帰って数日後。

 俺は非常に困っていた。

 ――ソフィアの顔がまともに見られない。

 だってさあ……なあ?

 アレだよ。

 んー……

 腕を組んで唸りながら、王城の廊下を歩いていると。

「あ――」

 フランを連れて、書類を抱えたソフィアとばったり出くわした。

「――殿下。お疲れさま」

 にこりと笑って、会釈するソフィア。

「お、おう」

 これだよ。

 あんな事があったのに、ソフィアの態度は以前と変わらない。

 こいつにとって、その……アレなんて、本当に消毒くらいにしか考えてないのだろうか。

 そんな事を考えていると、自然と視線はソフィアの唇に向けられていたようで。

 ソフィアの顔にいたずらめいた笑みが浮かぶ。

「……なぁに? まだ気にしてるの?
 言ったでしょう? 消毒よ。消毒。
 ――なんなら、もう一度してあげましょうか?」

 唇に人差し指を当てて、上体を突き出し、ソフィアはそう告げてくる。

「――キスくらい、ですもんねー?」

 フランもにやにやした笑みで乗っかった。

「う、うるせえ! そ、そうだ! 俺、ユメ達に用事があったんだった! 急がないとっ!」

 俺は逃げ出すようにして駆け出した。

 ――クソっ!

 なんだ、このやりにくさ!

 そんなわけで、俺は王城の裏の橋を渡り、コラーボ婆の小屋へとやってきた。

 ユメは今、この小屋に下宿しているんだ。

 王城に部屋を用意すると言ったんだが、妙にコラーボ婆に懐いてるんだよな。

 テーブルに座ってティーカップを傾ける、ユメとコラーボ婆は。

「――あははっ! それで逃げてきちゃったの?

 相変わらずのへたれっぷりだねぇ。オレアくんは!」

「でも、この子は人の好意にニブいところがあるからね。少しくらい自分から意識するくらいで、ちょうどいいのかもしれないよ」

 二人して好き勝手言いやがる。

 あーあー、好きなだけ笑えばいいさ。どうせ俺はへたれ王太子だからな。

 俺はお茶を飲んで一息ついて、コラーボ婆を見る。

「コラーボ婆。改めて、今回の事はありがとう。
 おかげで兵や騎士の被害を最小に抑えて、ソフィアを救い出せた」

 俺はコラーボ婆に頭を下げる。

 あの日、俺達は国境前に集結したパルドス軍の上空で、連中を煽るだけ煽って、パルドス王都を目指した。
 当然のように連中は追ってきて。

 おかげで国境を守る我が国の軍には被害なし。

 そこからは全速力でパルドス軍を置き去りにして、パルドス王都を目指したってわけだ。

 いわゆる電撃戦ってやつだな。

「進水式から、そのまま実戦になるとは思わなかったけどね。急いだ甲斐はあったよ」

 コラーボ婆に頼んだのは、あの空飛ぶ船の建造の基幹技術についてだ。

 <狼騎>率いる特殊部隊を運用するに当たって、どうしてもネックになるのが移動速度。

 それを解決するために思いついたのが、あの空飛ぶ船だったんだ。

 せっかく魔法があるんだから、船が空飛んだっていいだろう、という俺のロマンを詰め込んだ計画第二弾だな。

 造船局と宮廷魔道士を巻き込んで突き進んだ計画だったが、すぐに難局を迎えた。

 浮かせるまではなんとかできた。

 移動も、風と火の複合魔法でなんとかできる。

 だが、それには儀式クラスの魔法運用が必要で、すぐに魔道士達がバテてしまうんだ。

 そこで長生きで、魔道技術なんかにも詳しいコラーボ婆に助力を願った。

「――慣性制御と流体制御。魔道より科学の領域だよね」

 ユメが目を細めて俺に告げる。

「おまえ、わかるのか?」

 ほんわかのんびりした雰囲気のクセに、ユメは妙に知的な一面があるようだ。

「ふふん。昔居たところでね。もっと小さいお船だったけど、やっぱりそこでつまづいてたんだよね。
 あっちでは仔竜を使って、強引に制御してたんだけどね。
 コラちゃん、こっちではどうやってるの?」

 ユメに尋ねられて、コラーボ婆は苦笑する。

「一緒さ。わたしが制御しとる。いわばあの船を竜体のように扱ってるわけだな」

「それってコラーボ婆が居ないと動かないって事じゃね?」

 俺が首をひねると、コラーボ婆はうなずく。

「だから今、分体を造っておる」

「うわー、そこまで一緒なんだね」

 うん。よくわからん。

「要するに、いずれはコラーボ婆なしでも飛べるようになると考えて良いのか?」

「そう待たせはしないよ。
 そういえば、名前はどうするんだい? いつまでもあの船、じゃ締まらないだろう?」

 問われて俺は首をひねる。

 そういえば、全然考えてなかった。

「あ、はいはーい! わたし、良いの思いついた!」

 俺とコラーボ婆は、手を差し出して、ユメを促す。

「ふふふ。あのお船、飛んでる時に風を切って、綺麗な声で唄うからね。
 ――<風切>なんてどうかな?」

 ふむ。悪くないな。

「わかった。それで行こう」

「ホント? やった! これで名前もあの子の姉妹船だぁ!」

 手を叩いて喜ぶユメ。

「さて、それでだ」

 いよいよ俺は、今日、二人を訪ねた本題を切り出す。

「結局のところ、<エロゲーマー>ってなんだったんだ?
 言葉の響きから、エロゲーやってるヤツって意味なのはわかるんだが」

 ユメとコラーボ婆は顔を見合わせる。

「俺のような転生者とは違うんだろ?
 アイツの言動や、世界の外って言葉から考えると……ここはゲームの中の世界って事なのか?」

 ここ数日、戦後処理の書類を片付けながら、ずっと考えていた事だ。

 コラーボ婆はため息と共に首を振る。

「アンタに前世の記憶が蘇ったって話は、ユメから聞いてる。
 この世界より、ずっと進んだ世界の記憶があるってのもね。
 でもね、その質問は世界の真理のひとつなんだ。
 この世界の民が成長し、発展していって、自ら辿り着かなければ意味がない」

 ユメも真剣な顔をして、俺を見つめ。

「わたし達はね、その成長を手助けはできるけど、過干渉はできないんだ。
 でも、それだけじゃオレアくん、不安になっちゃうだろうから、ひとつだけ」

 と、彼女は優しく微笑んで人差し指を立てる。

「この世界はゲームなんかじゃ決してないよ。
 ちゃんと存在するし、みんな生きてる。
 彼らの名前は、その性質を指してるだけのものだから、あまり深く考えないでね」

 わかったような、よくわからないような。

 誤魔化されたような感覚。

「ま、あんまり悩む必要もないよ。そうそう出くわすものでもない。
 わたしが最後にあいつらを見たのも、そうだねぇ、確か数百年前だ。
 ――そうだね。あいつらの事はサティリア教会が伝える、悪魔憑きみたいなもんと思っておくと良い」

「あ、でもね、コラちゃん。神器使いは、なんでかアイツらと出会いやすいんだよ。
 だからね、オレアくん」

 ユメは右手を差し出して、にこりと顔を綻ばせる。

「しばらく君に付き合ってあげる。
 ――よろしくね!」

 こうして、ユメは食客として、コラーボ婆の小屋に長期滞在する事が決まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜

ハリネズミの肉球
ファンタジー
「おい、城の噴水が止まったぞ!?」 「街の井戸も空っぽです!」 無能な王太子による身勝手な婚約破棄。 そして不毛の砂漠が広がる隣国への追放。だが、愚かな奴らは知らなかった。主人公・ルリアが国境を越えた瞬間、祖国中の「水の魔石」がただの石ころに変わることを! ルリアは、触れるだけで無尽蔵に水魔力を作り出す『水精霊の愛し子』。 追放先の干ばつに苦しむ隣国で、彼女がその力を使えば……不毛の土地が瞬く間に黄金のオアシスへ大進化!? 優しいイケメン皇帝に溺愛されながら、ルリアは隣国を世界一の繁栄国家へと導いていく。 一方、水が完全に枯渇し大パニックに陥る祖国。 「ルリアを連れ戻せ!」と焦る王太子に待っていたのは、かつて見下していた隣国からの圧倒的な経済・水源制裁だった——! 今、最高にスカッとする大逆転劇が幕を開ける! ※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

処理中です...