転生しても、女に振り回されそうになった俺は、暴君になる事にした。

前森コウセイ

文字の大きさ
44 / 54
閑話

閑話2

しおりを挟む
 殿下が走り去った途端、ソフィアお嬢様は周囲に視線を走らせて、誰も居ないのを確認すると。

「ん~~~~っ!!」

 真っ赤にした顔を両手で抑えて、その場にしゃがみ込んだ。

「そんな風になるくらいなら、煽らなければ良いじゃないですか」

 わたしは思わずため息を吐く。

「フランだって乗ったじゃない!」

 爪先をバタバタさせて、わたしを非難するお嬢様。

 あっちがへたれなら、こっちは長年の想いを拗らせた臆病者。

 まあ、お嬢様に関しては、自覚するようになった分、成長したと言えるのだろうか。

「ねえ、フラン。
 ……カイってば、最近、なんかわたしによそよそしくない?」

 うわっ。面倒くさい事言いだした。

 でも、万能メイドでもあるこのわたし、その辺りには抜かり無い。

「そろそろそんな事言い出すだろうと思いまして。
 わたし、ちゃんと用意してあります」

 そう告げて、ソフィアお嬢様を立たせると、わたしは手を引いて歩き出す。

「じゃーん! そんなわけで、皆さんにご足労頂きました!」

 お嬢様の執務室のソファに腰掛けているのは、シンシア様、エリス様、ジュリア様の三人だ。

 わたしはお嬢様もソファに座らせ、お茶の用意に取り掛かる。

 おおう。室内の沈黙が背中に痛いぜ。こりゃ失敗だったのかな?

 でも、こういうのって早めになんとかしとかないと、やべー事になりそうだしねぇ。

 三人に見つめられ、ソフィアお嬢様は肩を寄せて小さくなっている。

 わたしが全員にティーカップを並べ終えると、全員がそれを口に運んだ。

 さて、どうなる?

「――お話はジュリア様に伺っております」

 まず口を開いたのは、やはりシンシア様だった。

 まあ、ジュリア様はパルドスまで同行して、目撃したわけだものね。

 ちなみにわたしもジュリア様から、そのシーンの事を聞き出した。

 だって、帰ってきたらふたりともよそよそしいんだもの。

 なにかあったと思うでしょう?
 
 きっとシンシア様達もそうだと思う。

「状況が状況ですものね。感極まったというのもわかります。
 ――けれど、ソフィア様? わたくし達に仰らなければいけない事があるでしょう?」

「そうですよっ! いきなり行動に移すなんて、ズルいです!」

 シンシア様の言葉を引き取って、エリス様が胸の前で拳を振りながら言う。

「で、でもね。あの時のオレア様は、めちゃくちゃ格好良かったし、仕方ないかなぁとも思うんだ。あはは……」

 ジュリア様がフォローするような事を言う。

 はて? 格好いい? あのへたれが? 

 ジュリア様は戦地の興奮で幻影でも見たのだろうか。

「さあ、ソフィア様?」

 促されて、ソフィアお嬢様は顔を真っ赤にしたまま、目を瞑って俯くと。

「そ、そうよ! わ、わたしは殿下を――カイの事が好きよ!」

 吐き出すように三人に告げた。

 目に涙を溜められて……こんなお嬢様を見るのは、いつぶりだろうか。

「それって、いつからです? 助けられたから?」

 エリス様の問いに、ソフィアお嬢様は首を振る。

「自覚しちゃったのはそれだけど……きっと、ずっと昔から……」

 すると三人はにんまりと笑った。

「ようこそ。ソフィア様。こちら側へ」

「やっと同じ舞台に立ってくれましたね」

「正直なところ、ソフィア様っていつもこの件に関しては、一線を引いてたから不思議だったんですよね」

 顔を上げて不思議そうな表情を浮かべる、ソフィアお嬢様。

「いいの? あなた達にしてみたら、後から出て来て抜け駆けされたようなものでしょう?」

「でも、ソフィア様にとってみれば、わたくし達こそ後から来た者でしょう?」

「焦がれる気持ちが苦しいのは、みんな一緒ですよ!」

「だから、前にソフィア様に集められた時に、ボクら、みんなで決めたんですよ」

 シンシア様が不意に立ち上がり、拳を握りしめる。

「――淑女同盟ですわ!」

 あれれ? なんかおかしな流れになってきたぞ。

「殿下がわたし達の誰を選んでも……いいえ。わたし達以外が選ばれても!」

「ボクらはオレア様をお支えし、選ばれたその人を心から祝福しようって!」

 選択権、あのへたれなのかよ。

「ですが、ソフィア様? まだ勝負は決まったわけではありませんわよ!
 わたくし達は共にあのお方をお支えし、切磋琢磨し合う同志なのですわ!
 ――よろしいですわね?」

 シンシア様の勢いに呑まれて、ソフィアお嬢様はコクコクとうなずく。

「苦しいのはみんな一緒だから、時々こうしてお話しましょう?」

「ええ、そうね。みんなありがとう……」

「でも、オレア様の事だから、メンバーもっと増えそうだよね」

 苦笑交じりにジュリア様が呟くと、残る三人もまた苦笑を浮かべる。

「はあ゛ーっ!?」

 おっと、思わず声が出てしまった。

 あのへたれを慕う女子がもっと増える? ないない。

 正直わたしは、ここにいる四人が物好きなだけだと思ってる。

 だって、あのへたれだよ?

 婚約破棄の件があって、雄としては多少毛が生えたようだけど、まだまだ産毛のひよっこだ。

 キスされたくらいで、意識しておたおたしてんじゃねーよ。

「……失礼しました」

 わたしは何事もなかったようにお辞儀した。

「な、なによフラン。なにか言いたい事でもあるの?」

「いえ、ゲテモノ好きっているんだなぁ、と」

 わたしの言葉に全員が首を傾げる。

 ああ、恋する乙女は盲目だ。いや、盲目になっている事すら気づいていないんだ。

「そ、それではね。さっそくで悪いんだけれど、みんなに相談があるの――」

 ソフィアお嬢様は、近頃、へたれに避けられているという内情を吐露する。

「それなら!」

 三人はうなずきあった。

 翌日、ソフィア様の執務室の机には、三人がオススメするロマンス小説が積み上がる事となったのだった。

「……なるほどねぇ。意識しすぎて避けちゃうのかぁ」

 まあ、ソフィアお嬢様が満足げだから、良いのだけれど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜

ハリネズミの肉球
ファンタジー
「おい、城の噴水が止まったぞ!?」 「街の井戸も空っぽです!」 無能な王太子による身勝手な婚約破棄。 そして不毛の砂漠が広がる隣国への追放。だが、愚かな奴らは知らなかった。主人公・ルリアが国境を越えた瞬間、祖国中の「水の魔石」がただの石ころに変わることを! ルリアは、触れるだけで無尽蔵に水魔力を作り出す『水精霊の愛し子』。 追放先の干ばつに苦しむ隣国で、彼女がその力を使えば……不毛の土地が瞬く間に黄金のオアシスへ大進化!? 優しいイケメン皇帝に溺愛されながら、ルリアは隣国を世界一の繁栄国家へと導いていく。 一方、水が完全に枯渇し大パニックに陥る祖国。 「ルリアを連れ戻せ!」と焦る王太子に待っていたのは、かつて見下していた隣国からの圧倒的な経済・水源制裁だった——! 今、最高にスカッとする大逆転劇が幕を開ける! ※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

処理中です...