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第2部 暴君社交編 第6話 王太子、祝福する
第6話 3
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あれからわたしはロイド様と、休日の折に触れて出かけるようになった。
一見、生真面目に見える彼だったが、好きなものについて語る時の、少年のようなきらきらした表情にはドキッとさせられる。
まるで普通の娘になったようで、わたしは自分の感情をうまく制御できなくなってきているのに気づく。
彼がなにを思って、わたしを誘ってくれているのかはわからないけれど。
それを暴く技術も知識もあるにも関わらず、わたしはそれをしようとは思えなかった。
……それをしてしまったら、この関係が終わってしまいそうだから。
そうだ。
わたしは今の関係が心地よいと感じている。
貪欲なわたしは、きっとこれ以上踏み込んだなら、彼のなにもかもが欲しくなってしまうという自覚がある。
ああ。きっとこれが――
「――フラン? どうしたの? ぼーっとして」
ソフィアお嬢様に声をかけられて、わたしは我に返る。
最近、こんな事が増えた気がする。
そうだ。仕事に集中しないと。
「い、いえ。少々考え事を。申し訳ありませんでした」
そうして、お嬢様方の空になったカップに、お茶のおかわりを注いでいく。
お嬢様の執務室に集まった「淑女同盟」の面々。
学生のシンシア様、エリス様はともかく、パルドス戦の戦後処理に追われるソフィアお嬢様と、新部隊立ち上げで学ぶことの多いジュリア様は、時間の都合がなかなか合わず、全員が揃うのは数週間ぶりだ。
「――それで、ジュリア様。大事な話とは?」
ソフィアお嬢様が切り出すと、ジュリア様は一同を見回して涙ぐむ。
「あのね。オレア様が娼館行ってたって、みんなは知ってた?」
ああ、その件か。
お嬢様の婚約パーティでへこまされたへたれを慰める為、グレシア将軍が連れ込んだと部下から報告を受けている。
「しかもね、なんかすごく絶賛してるんだよ?
ひょっとしたら娼婦を好きになっちゃったのかも……」
それを気にしてジュリア様はここしばらく、訓練に身が入っていなかったのか。
本気で落ち込んでいるようなジュリア様とは裏腹に、三人の反応はそっけない。
「なんだ。そんな事ですの」
と言うのは、シンシア様だ。
「所詮は商売女ではないですか。
たとえ万が一殿下が本気になったとしても、彼女達が殿下に本気になるというのはあり得ない事ですわ」
「姐さん達は生活背負ってますから。お客様とは一線引いてるんですよ」
と、庶民に詳しいシンシア様とエリス様が告げる。
そう。そもそもの話――
「――そもそも殿下が、娼婦に手を出せるとは思えないわ」
わたしの内心を代弁するように、ソフィアお嬢様が苦笑して告げる。
その通り。
あのへたれにそんな根性や甲斐性、雄としての獣性があるなら、この四人はとっくにベッドに連れ込まれてるだろう。
なんなんだろう?
昔から女には優しく接するように躾けられてはいたが、最近のへたれは、完全に女に対して一線を引いているようにさえ見える。
距離を置いているわけではない。
ただ、なにか身を守るかのように、一定のラインから心に踏み込ませようとしないのだ。
まあ、それはわたしもあのへたれを笑えた事ではないか。
「フラン、どうせあなたの事だから、その辺りの事は知っているんでしょう?
実際のところはどうなの?」
お嬢様に尋ねられて、わたしは苦笑する。
なんだかんだで、ソフィアお嬢様も気になっているようだ。
「ご心配なく。あのへたれはまだ童貞ですよ。
高級娼婦には悩みを聞いてもらっただけです」
と、先に結論を話して、わたしはあの晩にあった出来事を説明する。
当時のわたしはキムジュン王子の周囲を警戒していたのだが、部下からはしっかり報告が上がってきていたのだ。
わたしの説明に、「淑女同盟」の面々はほっと胸を撫で下ろす。
信じてはいても、不安はあったというところだろう。
こんな風に恋にのめり込める若さを、微笑ましく思うと共に、羨ましいと感じてしまう。
「――ところで、ジュリア様はその話をどこで、殿下からお聞きになられましたの?」
シンシア様がふと、そんなことを尋ねる。
「ああ、最近ジュリア様は殿下のお忍びによく同行してるのよ。その時でしょ?」
ソフィアお嬢様がそう告げると。
「そんな羨ましい事になってたんですね」
エリス様が胸の前で拳を握って、素直に感情を表す。
「飾り気のない貴女が、急にチョーカーなんて付けだしたのも、それがきっかけかしら?
――詳しく聞かせていただけますわよね? ジュリア様?」
シンシア様がジュリア様に詰め寄り、ジュリア様が顔を引きつらせる。
完全に墓穴を掘った形だ。
きゃあきゃあとかしましくなった室内を、わたしは眩しく感じてしまう。
わたしも彼女達くらいの時に、もっと素直になれていたのなら、現在はまた違っていたのだろうか?
やめよう。感傷だ。
わたしは今の状況に満足している。それでいいじゃないか。
そんな風に自分を納得させた週の休日。
すっかり馴染みとなった、ロイド様との街歩きで、わたしはロイド様に告げられた。
「――次の豊饒祝いのパーティー、私のパートナーとして出席してくれないか?」
「はい?」
言葉の意味を理解できずに、わたしの思考は真っ白に染まった。
一見、生真面目に見える彼だったが、好きなものについて語る時の、少年のようなきらきらした表情にはドキッとさせられる。
まるで普通の娘になったようで、わたしは自分の感情をうまく制御できなくなってきているのに気づく。
彼がなにを思って、わたしを誘ってくれているのかはわからないけれど。
それを暴く技術も知識もあるにも関わらず、わたしはそれをしようとは思えなかった。
……それをしてしまったら、この関係が終わってしまいそうだから。
そうだ。
わたしは今の関係が心地よいと感じている。
貪欲なわたしは、きっとこれ以上踏み込んだなら、彼のなにもかもが欲しくなってしまうという自覚がある。
ああ。きっとこれが――
「――フラン? どうしたの? ぼーっとして」
ソフィアお嬢様に声をかけられて、わたしは我に返る。
最近、こんな事が増えた気がする。
そうだ。仕事に集中しないと。
「い、いえ。少々考え事を。申し訳ありませんでした」
そうして、お嬢様方の空になったカップに、お茶のおかわりを注いでいく。
お嬢様の執務室に集まった「淑女同盟」の面々。
学生のシンシア様、エリス様はともかく、パルドス戦の戦後処理に追われるソフィアお嬢様と、新部隊立ち上げで学ぶことの多いジュリア様は、時間の都合がなかなか合わず、全員が揃うのは数週間ぶりだ。
「――それで、ジュリア様。大事な話とは?」
ソフィアお嬢様が切り出すと、ジュリア様は一同を見回して涙ぐむ。
「あのね。オレア様が娼館行ってたって、みんなは知ってた?」
ああ、その件か。
お嬢様の婚約パーティでへこまされたへたれを慰める為、グレシア将軍が連れ込んだと部下から報告を受けている。
「しかもね、なんかすごく絶賛してるんだよ?
ひょっとしたら娼婦を好きになっちゃったのかも……」
それを気にしてジュリア様はここしばらく、訓練に身が入っていなかったのか。
本気で落ち込んでいるようなジュリア様とは裏腹に、三人の反応はそっけない。
「なんだ。そんな事ですの」
と言うのは、シンシア様だ。
「所詮は商売女ではないですか。
たとえ万が一殿下が本気になったとしても、彼女達が殿下に本気になるというのはあり得ない事ですわ」
「姐さん達は生活背負ってますから。お客様とは一線引いてるんですよ」
と、庶民に詳しいシンシア様とエリス様が告げる。
そう。そもそもの話――
「――そもそも殿下が、娼婦に手を出せるとは思えないわ」
わたしの内心を代弁するように、ソフィアお嬢様が苦笑して告げる。
その通り。
あのへたれにそんな根性や甲斐性、雄としての獣性があるなら、この四人はとっくにベッドに連れ込まれてるだろう。
なんなんだろう?
昔から女には優しく接するように躾けられてはいたが、最近のへたれは、完全に女に対して一線を引いているようにさえ見える。
距離を置いているわけではない。
ただ、なにか身を守るかのように、一定のラインから心に踏み込ませようとしないのだ。
まあ、それはわたしもあのへたれを笑えた事ではないか。
「フラン、どうせあなたの事だから、その辺りの事は知っているんでしょう?
実際のところはどうなの?」
お嬢様に尋ねられて、わたしは苦笑する。
なんだかんだで、ソフィアお嬢様も気になっているようだ。
「ご心配なく。あのへたれはまだ童貞ですよ。
高級娼婦には悩みを聞いてもらっただけです」
と、先に結論を話して、わたしはあの晩にあった出来事を説明する。
当時のわたしはキムジュン王子の周囲を警戒していたのだが、部下からはしっかり報告が上がってきていたのだ。
わたしの説明に、「淑女同盟」の面々はほっと胸を撫で下ろす。
信じてはいても、不安はあったというところだろう。
こんな風に恋にのめり込める若さを、微笑ましく思うと共に、羨ましいと感じてしまう。
「――ところで、ジュリア様はその話をどこで、殿下からお聞きになられましたの?」
シンシア様がふと、そんなことを尋ねる。
「ああ、最近ジュリア様は殿下のお忍びによく同行してるのよ。その時でしょ?」
ソフィアお嬢様がそう告げると。
「そんな羨ましい事になってたんですね」
エリス様が胸の前で拳を握って、素直に感情を表す。
「飾り気のない貴女が、急にチョーカーなんて付けだしたのも、それがきっかけかしら?
――詳しく聞かせていただけますわよね? ジュリア様?」
シンシア様がジュリア様に詰め寄り、ジュリア様が顔を引きつらせる。
完全に墓穴を掘った形だ。
きゃあきゃあとかしましくなった室内を、わたしは眩しく感じてしまう。
わたしも彼女達くらいの時に、もっと素直になれていたのなら、現在はまた違っていたのだろうか?
やめよう。感傷だ。
わたしは今の状況に満足している。それでいいじゃないか。
そんな風に自分を納得させた週の休日。
すっかり馴染みとなった、ロイド様との街歩きで、わたしはロイド様に告げられた。
「――次の豊饒祝いのパーティー、私のパートナーとして出席してくれないか?」
「はい?」
言葉の意味を理解できずに、わたしの思考は真っ白に染まった。
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