誰もが我儘な私ではないお方が良かったようなので、悪役の私は残忍な猛将達に手酷く扱われに行きます。戻れ? 絶対に離れるなと脅されているのですが

迷路を跳ぶ狐

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1.こんなものより大事なものがあるそうです

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 なぜ、そうしていたのか分からないけど、私はずっとここで、耐えるだけの毎日を送っている。

「君は本当に、自分勝手だね」

 そう言った婚約者、オーテクルテスファー・クリウレル様の非難するような目が、私を痛めつける。

 いつものことだけど…………それでもやっぱり疲れるな…………

 私を非難する彼は、この地を治める領主、ロクデラッド・クリウレル様のご子息で、次の領主になると言われている方だ。金色の髪を背後で括り、美しい貴族の衣装を着た彼は、街を歩けばその場にいた皆の視線を集めてしまうほど美しいと噂の美男子。

 けれど、そんな美しい表情を全く崩さずに、私を静かに罵倒する様子は、正直怖い……

「君のせいで、キャデリレーラが苦しんでいるんだよ? 彼女は、心優しい女性なんだ。そして、この城を支えてくれる、優秀な魔法使いでもある。君と違って、ここに必要な魔法使いなんだ。それなのに………………ろくに魔法も使えない君が、そんな風に苦しめて、いいと思っているのか?」
「…………」

 別に、苦しめよう! と思ったわけじゃない。苦しめて構わないと思っているわけでもない。

 キャデリレーラ様は、カテリスラ家のご令嬢で、その一族は、誰もが強い魔力を持つ、魔法使いの家系。
 その中でも、偉大な魔法使いと言われたグラトヴァルザ様の娘、キャデリレーラ様の魔力は別格で、将来はお父上の後を継ぐのだと期待されている。

 そんな方を私がなんで傷つけようとしなければならないのか……

 私はただ、これから別の仕事があるから、キャデリレーラ様の代わりに私が書庫の整理をするのは無理だ、と言っただけだ。

 それに、そもそもそれは、オーテクルテスファー様がキャデリレーラ様から引き受けたことのはず。

 それが当然のように私に押しつけられている……

 この男、毎回こうなんだよなー……

 自分で引き受けたことくらい、自分でやれ。

 と、心底思うけど。

 言い返したりなんかしたら、すぐに地下に連れて行かれて、酷い仕置きを受ける。役立たずが次期当主に歯向かうなんて、身の程を教えてやると言って。

 多分、彼はもう私との婚約なんて、便利に私を使うための口実……くらいにしか思っていない。

 だったら破棄してほしいっ……!

 だけど、今そんなことをしたら、領内や王都でどんな噂が出回るか分からない。何か口実を探しているらしい……と、使用人たちは噂している。

 それを先日、たまたま書物を運んでいる途中に聞いてしまった私……

 使用人たちにも気づかれて、息ができないくらいに気まずかった。

 なんで私がこんなに気まずい思いをしてるの……

 みんなバタバタ逃げて行ったけど、逃げることなんかない。

 だって、ずっとそうだろうなーーって、私が一番思ってた。

 もうそれなら、私の方から婚約破棄したい。

 けれどそんなことをすれば、子爵として多少名の知れた両親がやってきて、私を鞭で引っ叩く。魔法を学ばせてもらっている分際で図々しい! 恥をかかせたな! と言って。

 特に今日は、私の両親も、魔法の道具に関する会議でここに来ている。
 来て早々、挨拶をするようにオーテクルテスファー様に言われて、彼の隣に立って「お久しぶりです」と挨拶をしたが、彼らは全く聞いてない。領主様とオーテクルテスファー様とばかり話していた。

 空気の存在にだって、もう少し気づきそうだけど…………

 多分、彼らはすでに、オーテクルテスファー様の一族、クリウレル家との関係を保つことしか考えていない。何しろ相手は、魔法で栄えてその名を王都にまで広く知らしめた大貴族。その威光の前では私の姿なんて存在しないも同然。

「申し訳ございません…………全て、私のわがままでした」

 深々と頭を下げると、オーテクルテスファー様は、はあ、と私の耳にはっきりと聞こえるようにため息をつく。

「…………今さら謝っても遅い。君の相手をしていたせいで、どれだけ私たちの予定が狂ったと思っているんだ……私はただ、君に彼女の代わりに書庫の整理を頼むと言っただけだ。魔法も苦手な君に、せめてできる仕事を与えてやっているのに……それが……できないだと? 甘えるな!! 今すぐ私に感謝するべきだろう!」
「…………はい」
「彼女は、この国の魔法を統べる一族だ。ぼーっと一族の名前の上であぐらをかいていればいい君とは違ってね」
「…………はい」
「それで? 書類の整理の方くらいは終わっているのか?」
「それは……まだです」
「まだ?」

 彼の目が険しくなる。ここでまたため息。

「本当に、君は…………自分の仕事すらまだ終わっていないのに、よくそんなことが言えたものだ。なんて情けない……」
「……申し訳、ございません……」
「そんなことを言って、簡単に許してもらおうって魂胆か? …………浅はかな女だ……」

 ぼそっと言ったその言葉まで、私には聞こえているのに。

「どうしてこんな女が、私の婚約者なのか……何してるんだ? さっさと書庫に行って遅れた仕事を取り戻そうとは思わないのか? 君は」
「……あのっ……その前に、聞いていただきたいことが……」

 言いかけた私に、彼は恐ろしい目をして振り向く。その視線だけで、私はすくみ上がりそうだった。

「カテリスラ家の一族が待っているんだ! 空気の読めない女だな! 後で聞く!」

 この前も、後でと言われたのに……

 とは言え、彼にとって優先すべきは、なんの興味もない婚約なんかより、力のある魔法使いの貴族たち。

「それより、早く書物の整理に行ったらどうだ?」
「…………はい……」

 そうだった。もう、正午を過ぎている。約束の時間は今から一時間前だ。

 彼に頭を下げて部屋を飛び出す私を、彼は背後から「鈍臭い女だ」と嘲っていた。
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