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12.ごきげんよう!
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私はもう話なんてないのに、オーテクルテスファー様はそこに突っ立ったまま。
「おい…………いい気になるなよ。お前なんて、そこにある荷物と同じだ」
しつこいな……婚約破棄だの出て行けだのと言ったくせに、なんでまだそこにいるの?
それに私は、荷物の番を言いつけられている。こんな方に構っている暇はない!
それなのに、彼は私に手を伸ばしてくる。
「聞いているのかっ……!? そんなところに乗ったまま、私の話を聞くな! 無礼な女め!! 降りろっ……」
彼の手には魔力がこもっていた。魔法を使ってでも私を引きずり下ろそうと言うのか。
本当に、しつこい。
「なぜ降りなくてはならないのです?」
たずねて私は、彼の手を魔法の風で振り払った。強い風が吹いて、彼はたたらを踏んで尻餅をつく。
それを見たキャデリレーラ様が悲鳴を上げた。
「オーテクルテスファー様!!」
彼に駆け寄ったキャデリレーラ様は、オーテクルテスファー様を助け起こしていた。
「ご無事ですか!?」
けれどオーテクルテスファー様は何も答えない。手に枷をされた私に振り払われるとは思っていなかったのだろう。ひどく驚いたように、自分の手を見下ろしていた。
そんな彼の様子を見て、キャデリレーラ様が目を潤ませ、何やら悲劇的な目にあった時の悲鳴のような声で叫ぶ。
「なんということを!! 婚約破棄されたことを逆恨みして、オーテクルテスファー様に手を上げるなんてっっ!!」
「……婚約破棄には心底感謝しています。逆恨みもしません」
「では、なぜ今魔法を使ったのです!? 婚約者を傷つけるなんて……」
「…………婚約者ではありません。傷つけてもいません。勝手に尻餅をついただけじゃないですか……」
「なんてひどいっ……! あなたがそんな方だったなんて、信じられません!」
「…………私には、あなたのおっしゃることが理解できません。それに、先に魔法を使ったのはオーテクルテスファー様です。すでに決まったことに腹を立てて、感情のままに暴力を振るおうとしたのでしょう? いつものことですが……今ここには、私が守れと言い付けられた荷物があります。ここで騒ぎを起こされては困ります」
「何を偉そうにっっ!! 今さら被害者のふりをするのですか!? 見苦しいにも程があります!!」
「………………それは、あなた方では?」
「なんてことをっっ!! あなたがそういうつもりなら、仕方がありません!! こんなことはしたくありませんが……私が取り押さえます!!」
そう言って彼女は、私に魔法の光を向ける。攻撃の魔法を撃とうとしているようだ。
私に防げるか分からないけど、荷物の番を言いつけられているのだから、荷物は絶対に守ります!
私も、荷台に防御の魔法をかける。
けれど、彼女の魔法が放たれる前に、彼女の悲鳴が響いた。
「きゃあああっっ……!!」
叫んだ彼女の腕を、テクフィノレク様が捻り上げている。そうやって、彼女が魔法を放つのを防いだのだろう。
「貴様ら…………またそうやって私たちを蔑ろにするのか…………」
怒りや憎悪、嫌悪感を全て押し込めたような声で言うテクフィノレク様は、先ほどの冷淡な様子とは比べ物にならないほど、憤怒に満ちた顔をしていた。
その様子を見て、キャデリレーラ様は震え上がる。
「な、何をおっしゃっているのです!? 私はその方を取り押さえようと……」
「取り押さえるだと? 何を言っているっっ!!!!」
「ひっっ!!!!」
「ここにあるものは全て、私たちが持っていく荷物だ。それを、腹が立ったからと魔法で撃っていいと思っているのか?」
「ち、違いますっ……私たちはその方に礼儀を教えようと…………」
「いらん世話だっっ!! その女のことなど、知ったことかっっ!!!! その上、やっと手に入れた魔法の道具や書物まで焼き払おうとしたな!?」
「ま、待ってください……私はっ……」
「黙れ!! そもそもその女が荷物だと言ったのは、そこにいる領主の馬鹿息子だろう!! やはり荷物を焼き払うつもりだったな……お前たちはまた、あの時のように、自分達の欲望のために、私たちのものを蔑ろにしたんだっっ!!!!」
恐ろしい声で怒鳴られ、キャデリレーラ様は真っ青。
先ほどから感じていたけれど、テクフィノレク様の私たちに対する不信感と怒りは人一倍なようだ。領主様が彼らを押し退け素材を独り占めしようとしたこと、彼には決して忘れられず、腹立たしいことなのだろう。
「ヴィラウレルトっっ!! やはり協力など全て嘘だ! 今すぐ殺すべきだ!!」
「おーい、テクフィノレクー。なに久々にキレてんだ?」
今度は、いつのまにか幌の上に乗っていたロズルラト様が、その場に集まった方々を見下ろして言う。
「もう、仲良いふりはやめるのか? だったら俺、そいつら殺していいのか?」
彼は楽しげに笑っていて、その様子は無邪気そのもの。指の爪や牙を見せつけながら、獲物を見る目でオーテクルテスファー様たちを見下ろしている。ここに集まった方々を、生き餌のように思っているのかも知れない。
彼の背後からも、虎の耳と尻尾を持つ男たちが現れる。みんな、ロズルラト様の仲間なのだろう。
テクフィノレク様の背後にいる彼らの従者たちも、似たような様子だ。
それを見たオーテクルテスファー様が情けない声を上げた。
「わっ、私たちはそんなことをしようとしたんじゃないっ……自分達を守ろうとしただけだ!」
彼は今度は、私を指差す。
「お、お前っ……俺に手を上げたな! お前のせいだ!! 早く謝罪しろ!!」
「手を? なんのことです? そっちが私に手を上げていたのでしょう?」
「なんだとっっ!!」
公衆の面前であることもあってか、ますます怒りだすオーテクルテスファー様。
けれど、自分は散々私をぶっておいて、反論されるのは嫌だなんて。
それに、ヴィラウレルト様たちを怒らせたからと言って、突然私を都合のいい罪の押し付け役にされては困ります!
「あなたはすでに婚約者でありません。他人です。触らないでください! 私は、ここの荷物の番をするように言われているのです。部外者の方は近づかないでください」
「部外者だとっ…………! 貴様っっ……!!」
カッとなったのか、そいつが私に手を伸ばしてくる。
けれど彼は、その姿のまま、固まるように止まっていた。
私のいる馬車のそばには、ヴィラウレルト様が立っている。
「…………俺たちも、お前たちがやる気になってくれたなら都合がいい。ここで一線交えるか?」
恐ろしい目つきでヴィラウレルト様が言うと、オーテクルテスファー様は何も言い返さなかった。
「使い魔を出せ!」
そうヴィラウレルト様が叫ぶ声がして、馬車が走り出す。
がくんと大きく揺れて、私は慌てて馬車につかまった。
争いにはならなかったみたい。おそらく、ヴィラウレルト様が抑えてくれたのだろう。
ロズルラト様は餌のお預けを食らった虎のように残念そうで、テクフィノレク様は苛立ちを隠せない顔をしていた。
騒ぎを起こして、あとで叱られるかもしれない。
でも、構わない!! 今はここを出られたんだから!!
オーテクルテスファー様たちを牽制していたヴィラウレルト様とテクフィノレク様も、馬車の幌に飛び乗ってくる。
私のいた城は、見る間に遠ざかっていった。
ふわっと体が浮いて、私の乗っていた馬車も浮き上がる。
何が起こったのかと思って外を見れば、馬車を引いていた使い魔の竜は、大きな羽を広げて飛んでいて、他に何匹も集まった使い魔たちが、馬車の荷台や客車を持って、あるいは背に乗せて飛んでいた。
あの城が、眼下にこんなに小さく見えることがあるなんて、私はこれまで思ってなかった。
もう二度と帰らなくていい。
私は……ついに…………外に出たんだ!
喜びのままに、自分がいた城に向かって、力の限り手を振った。
「ごきげんよう!! 皆様っっ!!」
「おい…………いい気になるなよ。お前なんて、そこにある荷物と同じだ」
しつこいな……婚約破棄だの出て行けだのと言ったくせに、なんでまだそこにいるの?
それに私は、荷物の番を言いつけられている。こんな方に構っている暇はない!
それなのに、彼は私に手を伸ばしてくる。
「聞いているのかっ……!? そんなところに乗ったまま、私の話を聞くな! 無礼な女め!! 降りろっ……」
彼の手には魔力がこもっていた。魔法を使ってでも私を引きずり下ろそうと言うのか。
本当に、しつこい。
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たずねて私は、彼の手を魔法の風で振り払った。強い風が吹いて、彼はたたらを踏んで尻餅をつく。
それを見たキャデリレーラ様が悲鳴を上げた。
「オーテクルテスファー様!!」
彼に駆け寄ったキャデリレーラ様は、オーテクルテスファー様を助け起こしていた。
「ご無事ですか!?」
けれどオーテクルテスファー様は何も答えない。手に枷をされた私に振り払われるとは思っていなかったのだろう。ひどく驚いたように、自分の手を見下ろしていた。
そんな彼の様子を見て、キャデリレーラ様が目を潤ませ、何やら悲劇的な目にあった時の悲鳴のような声で叫ぶ。
「なんということを!! 婚約破棄されたことを逆恨みして、オーテクルテスファー様に手を上げるなんてっっ!!」
「……婚約破棄には心底感謝しています。逆恨みもしません」
「では、なぜ今魔法を使ったのです!? 婚約者を傷つけるなんて……」
「…………婚約者ではありません。傷つけてもいません。勝手に尻餅をついただけじゃないですか……」
「なんてひどいっ……! あなたがそんな方だったなんて、信じられません!」
「…………私には、あなたのおっしゃることが理解できません。それに、先に魔法を使ったのはオーテクルテスファー様です。すでに決まったことに腹を立てて、感情のままに暴力を振るおうとしたのでしょう? いつものことですが……今ここには、私が守れと言い付けられた荷物があります。ここで騒ぎを起こされては困ります」
「何を偉そうにっっ!! 今さら被害者のふりをするのですか!? 見苦しいにも程があります!!」
「………………それは、あなた方では?」
「なんてことをっっ!! あなたがそういうつもりなら、仕方がありません!! こんなことはしたくありませんが……私が取り押さえます!!」
そう言って彼女は、私に魔法の光を向ける。攻撃の魔法を撃とうとしているようだ。
私に防げるか分からないけど、荷物の番を言いつけられているのだから、荷物は絶対に守ります!
私も、荷台に防御の魔法をかける。
けれど、彼女の魔法が放たれる前に、彼女の悲鳴が響いた。
「きゃあああっっ……!!」
叫んだ彼女の腕を、テクフィノレク様が捻り上げている。そうやって、彼女が魔法を放つのを防いだのだろう。
「貴様ら…………またそうやって私たちを蔑ろにするのか…………」
怒りや憎悪、嫌悪感を全て押し込めたような声で言うテクフィノレク様は、先ほどの冷淡な様子とは比べ物にならないほど、憤怒に満ちた顔をしていた。
その様子を見て、キャデリレーラ様は震え上がる。
「な、何をおっしゃっているのです!? 私はその方を取り押さえようと……」
「取り押さえるだと? 何を言っているっっ!!!!」
「ひっっ!!!!」
「ここにあるものは全て、私たちが持っていく荷物だ。それを、腹が立ったからと魔法で撃っていいと思っているのか?」
「ち、違いますっ……私たちはその方に礼儀を教えようと…………」
「いらん世話だっっ!! その女のことなど、知ったことかっっ!!!! その上、やっと手に入れた魔法の道具や書物まで焼き払おうとしたな!?」
「ま、待ってください……私はっ……」
「黙れ!! そもそもその女が荷物だと言ったのは、そこにいる領主の馬鹿息子だろう!! やはり荷物を焼き払うつもりだったな……お前たちはまた、あの時のように、自分達の欲望のために、私たちのものを蔑ろにしたんだっっ!!!!」
恐ろしい声で怒鳴られ、キャデリレーラ様は真っ青。
先ほどから感じていたけれど、テクフィノレク様の私たちに対する不信感と怒りは人一倍なようだ。領主様が彼らを押し退け素材を独り占めしようとしたこと、彼には決して忘れられず、腹立たしいことなのだろう。
「ヴィラウレルトっっ!! やはり協力など全て嘘だ! 今すぐ殺すべきだ!!」
「おーい、テクフィノレクー。なに久々にキレてんだ?」
今度は、いつのまにか幌の上に乗っていたロズルラト様が、その場に集まった方々を見下ろして言う。
「もう、仲良いふりはやめるのか? だったら俺、そいつら殺していいのか?」
彼は楽しげに笑っていて、その様子は無邪気そのもの。指の爪や牙を見せつけながら、獲物を見る目でオーテクルテスファー様たちを見下ろしている。ここに集まった方々を、生き餌のように思っているのかも知れない。
彼の背後からも、虎の耳と尻尾を持つ男たちが現れる。みんな、ロズルラト様の仲間なのだろう。
テクフィノレク様の背後にいる彼らの従者たちも、似たような様子だ。
それを見たオーテクルテスファー様が情けない声を上げた。
「わっ、私たちはそんなことをしようとしたんじゃないっ……自分達を守ろうとしただけだ!」
彼は今度は、私を指差す。
「お、お前っ……俺に手を上げたな! お前のせいだ!! 早く謝罪しろ!!」
「手を? なんのことです? そっちが私に手を上げていたのでしょう?」
「なんだとっっ!!」
公衆の面前であることもあってか、ますます怒りだすオーテクルテスファー様。
けれど、自分は散々私をぶっておいて、反論されるのは嫌だなんて。
それに、ヴィラウレルト様たちを怒らせたからと言って、突然私を都合のいい罪の押し付け役にされては困ります!
「あなたはすでに婚約者でありません。他人です。触らないでください! 私は、ここの荷物の番をするように言われているのです。部外者の方は近づかないでください」
「部外者だとっ…………! 貴様っっ……!!」
カッとなったのか、そいつが私に手を伸ばしてくる。
けれど彼は、その姿のまま、固まるように止まっていた。
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「…………俺たちも、お前たちがやる気になってくれたなら都合がいい。ここで一線交えるか?」
恐ろしい目つきでヴィラウレルト様が言うと、オーテクルテスファー様は何も言い返さなかった。
「使い魔を出せ!」
そうヴィラウレルト様が叫ぶ声がして、馬車が走り出す。
がくんと大きく揺れて、私は慌てて馬車につかまった。
争いにはならなかったみたい。おそらく、ヴィラウレルト様が抑えてくれたのだろう。
ロズルラト様は餌のお預けを食らった虎のように残念そうで、テクフィノレク様は苛立ちを隠せない顔をしていた。
騒ぎを起こして、あとで叱られるかもしれない。
でも、構わない!! 今はここを出られたんだから!!
オーテクルテスファー様たちを牽制していたヴィラウレルト様とテクフィノレク様も、馬車の幌に飛び乗ってくる。
私のいた城は、見る間に遠ざかっていった。
ふわっと体が浮いて、私の乗っていた馬車も浮き上がる。
何が起こったのかと思って外を見れば、馬車を引いていた使い魔の竜は、大きな羽を広げて飛んでいて、他に何匹も集まった使い魔たちが、馬車の荷台や客車を持って、あるいは背に乗せて飛んでいた。
あの城が、眼下にこんなに小さく見えることがあるなんて、私はこれまで思ってなかった。
もう二度と帰らなくていい。
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「ごきげんよう!! 皆様っっ!!」
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