誰もが我儘な私ではないお方が良かったようなので、悪役の私は残忍な猛将達に手酷く扱われに行きます。戻れ? 絶対に離れるなと脅されているのですが

迷路を跳ぶ狐

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35.もう何も

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 驚くエティレンクド様たちを、鼻で笑うテクフィノレク様。

 そんな嘲るようなその様子の彼を、エティレンクド様が怒鳴った。

「な、何をおっしゃっているのです!? こんなのっ……む、無茶苦茶だ!! あ、あなただって、結界の魔法の道具で防いだだけではありませんか!!」
「あなた方が、ろくに魔法も使えない使用人の彼女はどうだと聞くから、実践して見せて差し上げただけです。この魔法の道具を強化したのは、彼女ですから」
「はっっ……!?」

 驚くエティレンクド様。

 そばにいたキャデリレーラ様も、それを聞いて叫んだ。

「ど、どういうつもりっ……そ、そんなっ……フィレイルイラル様にそんなことっ…………! 出来るはずがないわ!」
「では、私が嘘をついていると?」

 テクフィノレク様に振り向いて聞かれて、彼女は、ひっと、小さな声で悲鳴をあげる。ひどく怯えているように見えた。これだけのことを至近距離でされたら誰でも怖くなる。もう少しで、彼女らまで吹き飛んでいた。

「この魔法の道具の強化を提案したのは確かに彼女です。毎日懲りもせずに書物を読み漁り、私の部隊の魔法使いにまで声をかけ、それを行ったのも彼女です。何しろ、私が一緒にしましたから。間違いありません」

 それを聞いたキャデリレーラ様は、真っ青になって言う。

「そんな…………だ、だって、その方には魔力も魔法もろくに使えないのにっ……」
「私から見たら、あなただってろくに使えていません」
「何ですってっ…………!!」
「あなただって使えていないと言ったのです。私の魔法を防げてもいないどころか、腰を抜かしているではありませんか。それが、彼女よりも、強固な結界を張れる? すでに過去の話なのではありませんか?」
「…………」

 恐ろしいほど冷たい目で言われて、キャデリレーラ様は絶句。

 そんな二人を、テクフィノレク様は見下ろして、冷たく言った。

「確かに彼女は、今扱える魔法も魔力も、そう多くはありません。しかし、こんなところまで来て素材の回収に力を貸せなどと図々しくほざくあなた方よりマシです」
「し、しかしっ……」

 尚も食い下がろうとするエティレンクド様に、テクフィノレク様はキッパリと言った。

「失せろ。貴様らなど、領地に入るに値しない」

 庭中がしんと静まり返った。

 私も、信じられずにすぐそばのテクフィノレク様を見上げていた。

 けれどそこに、豪快な笑い声が響き渡る。

「はははは!! やるじゃないか!!」

 振り向けば、城の方から竜の領主様が歩いてくるのが見えた。その隣にはヴィラウレルト様がいて、彼の部隊の魔法使いもいる。

 竜の領主様は、笑いながら言った。

「すごい威力だ!! それを防ぐなんて、あの魔法の道具は思った以上だ!!」

 楽しそうに言って、彼は、私に近づいてきた。

「よくやってくれた。フィレイルイラル。正直、大した力もない魔法の道具を渡されたときはどうしようかと思ったが……この力には満足だ」
「領主様…………あ、ありがとうございます……」

 まだ実感が湧かないまま言った。

 私が……役に立てたの…………?

 それは嬉しいけど……やっぱり怖くてまだ動けない……

 領主様は、エティレンクド様たちに振り向いた。

「そういうことだ。お前たちの意向には沿えない。帰れ」
「し、しかしっ…………! 今の結界の力は……」
「今、テクフィノレクが言った通りだ」
「待ってください! 今の力は、確かにこちらから渡したものとは違います!! い、一度持ち帰らせて調べさせていただきます!」

 随分な物言いに、領主様の声も、ずっと低くなる。

「おい…………」
「な、なんですか!? こ、こんなことはこちらも予想外で……放っておけません!」
「勝手なことを言うな。彼女も魔法の道具も、俺たちが受け取ったものだ。お前たちが俺たちの仲間を傷つけた詫びにな。二度と返さない。失せろ」

 そう言われて、エティレンクド様もキャデリレーラ様も、もう何も反論しなかった。
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