誰もが我儘な私ではないお方が良かったようなので、悪役の私は残忍な猛将達に手酷く扱われに行きます。戻れ? 絶対に離れるなと脅されているのですが

迷路を跳ぶ狐

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51.今日こそ

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 その日の夜会はしばらく続き、起きたら寝不足になりそうだった。

 次の日にはオーテクルテスファー様は、竜の領主様の使者たちと共にキャデリレーラ様たちを連れて城に帰ることになり、私は、いつもの生活に戻ることになった。魔法の道具や書物を管理しつつ、魔法の練習も続けていけそう。

 そろそろ冒険者として登録しにギルドに行けるかな……

 今日は書庫の整理をすることになっているから、朝から書庫に向かっていると、キュファリウェスが駆け寄ってきた。

「フィレイルイラルっ……! おはよう! 早いのね」
「今日は書庫の整理があるから……今日こそ冒険者ギルドに登録に行けそうなの! だから早く仕事を終わらせたくて!」

 嬉しくて言うけど、キュファリウェスは心配そう。

「……冒険者ギルド……本当に、行くの? なんだか、危なっかしくて心配だわ…………」

 な、なんだか、ひどく不安そう……私、そんなに危なっかしいの?

「だって、まだたまに魔法にも失敗するし、一人でギルドなんて……やっぱり、私も行くわ!!」
「キュファリウェスは、使用人たちの指導があるじゃない。それに、怪我をした彼も復帰したばかりでしょう? そばにいてあげた方がいいわ!」
「ちょっ……フィレイルイラルっ……!」

 慌てるキュファリウェスは真っ赤だ。なんだか可愛い。なんでも、怪我をした使用人というのは、彼女の恋人らしい。

「私は一人で大丈夫!! これまで、いろいろ準備してきたんだから!!」

 私がそう言うと、背後から声がした。

「……今度は何を企んでいるんだ?」
「きゃっ……!」

 驚いて振り向けば、そこにいたのはヴィラウレルト様。

 彼は苦い顔をして言う。

「ギルドへ行くのか?」
「は、はい!! 今日は早く仕事が終わりそうなんです!」
「……それは分かっているが、一人では行くな。まだ、魔物と戦えるほどの腕ではないだろう……」
「た、多少は戦えるようになりました!」

 答えるけど、ヴィラウレルト様は心配そう。

 話している間に書庫について、そこの扉を開くと、テクフィノレク様が迎えてくれた。

「……おはようございます。フィレイルイラル」
「おはようございます! お、遅れて申し訳ございません!」

 彼がすでに書庫の整理を始めていて、焦った。だって、時間ぴったりについたはずなのに!
 てっきり私が遅れたのかと思ったけど、彼は首を横に振る。

「謝る必要はありません。時間ぴったりですから。私はただ、早く来て彼らが来る前に鍵を閉めたかっただけです……」

 言って、テクフィノレク様が背後に振り向く。私もつられてそちらを見やれば、書物が並ぶ棚の前のテーブルで、竜の領主様が本を読んでいた。

「フィレイルイラルー。書物の整理に来たのかー? 一緒に魔物の本でも読まないか?」

 領主様はのんびりした口調でそう聞くけど、彼がテーブルに積んだ書物を見て、テクフィノレク様が悲鳴のような声を上げる、

「領主様!! それは貴重な書物です!! そんな乱暴に積まないでください!」
「え? そうなのか? 悪い悪い」

 そう言いながらも、すでにまた積んでいる……

 今度は竜の領主様の後ろから小さな虎の姿のロズルラト様が飛び出してきた。

「フィレイルイラルーー!」
「ろ、ロズルラト様!? ロズルラト様も書庫にいらしていたのですか?」
「うん!! 領主と一緒にそいつの邪魔しに来た!!」

 彼は領主様と一緒に、ニッと笑う。
 どうやら、テクフィノレク様は二人を締め出したかったらしい。

 みんな、あんな夜会があったばかりなのに朝から元気だ……

 オーテクルテスファー様は出て行けと言われたにも関わらず夜会の会場に居座り、その後もしばらく、領主様との話し合いは続いた。他の貴族の方々もいるのに……どうやらなりふり構っていられなくなったらしい。

 それでも、領主様の返事は変わらなかった。

 当然といえば当然だけど……

 だけど、ロクデラッド様の領地が魔物で溢れてしまえば、こちらの領地にも影響がある。だから、これまで共同で魔物退治をして来た。

 これからこちらの領地は大丈夫なのか。それに、そこに住む方々はどうなるのか。
 それが心配で、書庫の整理をしながら、テクフィノレク様にたずねると、彼は涼しい顔をして言った。

「彼らだけで魔物退治を行うことが無理なことくらい、領主様だって充分理解していらっしゃいます。いずれ、ロクデラッドたちはこちらに泣きついてくるでしょう。もちろんこちらも、向こうの領地が魔物だらけになったら困ります。こちらにも、魔物がなだれ込んで来ますから。そうなる前に、こちらから魔法使いを送り込むことになります」
「援軍…………ですか?」
「……そうですね……そんなものです…………」

 テクフィノレク様がそう言うと、領主様が笑った。

「魔物なら、いつでも追い払ってやる! そのかわり、もらうものはもらうがな!!」

 ……冗談っぽく言っているけど……領主様も、随分腹を立てていたんだろう。

 魔物から領地を守ることは、領主にとっては最も重要な課題とも言える。それを竜の領主様に握られてしまえば、当分、ロクデラッド様は彼に頭が上がらなくなる。

 領主様は、やけに楽しそう。

「これで、今度は俺たちの方から魔法使いを送り込めるなぁ…………テクフィノレク、ちょっと行って、城の実権を掌握してこい」
「そんなに軽く提案しないでください」

 そう言いながら、テクフィノレク様がため息をつく。

 ヴィラウレルト様も、テクフィノレクが行くなら俺もいきますって言い出しているし……

 領主様は満足げだ。

「素材を誤魔化していた証拠も掴んでやったし、王家に助けを求めたりもしないはずだ……周辺の貴族たちにも、あいつらのしていたことは知れた。そんなことをする奴に力を貸す奴は、もういないだろう。だって、俺の二の舞は嫌だろ? 恩を仇で返されると分かっていて手を貸すような奴もいない…………俺が向こうに援軍を送って、少し貰うものをもらったとしても、どこにも助けを求めることはしないはずだ…………下手に周辺の貴族たちに助けを求められたら面倒だからな………………よかったよかった!」

 ……それも、領主様が指揮をとったのかな……

 悪事の証拠を掴み、逃げられなくしてから、領地にとって重要な魔物退治の部隊に、自らが信用する刺客を送り込むなんて…………
 領主様は、今はそうして、楽しそうに朗らかに笑っているけれど、本当は、ずっと前から腹を立てていたのかも知れない。

 夜会の数日後、オーテクルテスファー様が領主になる話は、当分なくなると言う話を聞いた。これからはロクデラッド様の一族の方が領地を取り仕切るようになるらしい。私はその方にはお会いしたことがないが、ヴィラウレルト様が、オーテクルテスファーよりよほど話が分かると言っていたから、多分大丈夫だろう。

 書物の整理を続けていると、足元で小さな虎の姿のロズルラト様が言った。

「なんか今日、張り切ってるな!」
「そうですか? だって、今日はやっとギルドに行けそうなんです!!」
「ギルド? 何しに行くんだ?」
「もちろん! 冒険者になるんです!! お金を稼いで、武器や防具だって欲しいし……美味しいものを食べたりもしたいし……」
「何か楽しそうだな! 俺も行く!!」

 彼がそう言い出すと、テクフィノレク様までもが口を開く。

「あなたはまだ、魔力も回復していないんです。書庫の整理だって終わっていないでしょう」
「大丈夫です! 魔力なら、以前より回復できるようになりましたし、書庫の整理もします!!」

 今度は、領主様が楽しそうに笑う。

「なんだー? 魔物退治に行くのか? 俺も行くぞ!」
「り、領主様が来たら、皆さんびっくりすると思います……」

 それでも、領主様は久しぶりに街に行ける! と楽しそう。

 私も、今日この後ギルドへ行くことを考えながら、彼らと一緒に書物の整理を続けた。


*誰もが我儘な私ではないお方が良かったようなので、悪役の私は残忍な猛将達に手酷く扱われに行きます。戻れ? 絶対に離れるなと脅されているのですが*完
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