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32.逃げてる気なんかねーよ!
全員でケーキを注文して、テーブルの上にいくつもそれが並ぶと、何をしにきたのかすっかり忘れてしまいそうだ。
ディゲーアは、このあたりの美味いケーキの店をいくつも知っていて、それを俺らに教えてくれた。
こんなことしていると、目の前でケーキ食ってる奴が、あのムカつく国王のところから来たなんて、信じられなくなりそう。
「なあ、ディゲーア!! お前、なんであんな奴に仕えてるんだ?」
「あんな奴と言うな。国王陛下だぞ。王城なら不敬罪になっている」
「ここは温泉で、城じゃねーからいいだろ?」
「城でなければいいというわけではない……」
「それに俺、とっくにすげー無礼だし!! なあ!! お前も今日ここに泊まるのか?」
「その予定だ。それよりお前たち、逃げ切れると思っているのか? 今投降すれば、惨たらしい処刑だけは避けられるかもしれない。俺と共に王城に来い」
「飲み物何にする? 紅茶にコーヒー……ジュースにするか……」
「……食事の話はいい。逃げ切れるはずがない。投降しろ」
「なーんで逃げ切れないなんて分かるんだよ。お前、国王から逃げたことねーくせに」
「……確かにないが、お前は人族で、ヴァンケズは魔力を封じられている。いずれ追っ手も増える。王城で爆破を起こしたお前を、陛下は決してお許しにならない。今すぐに王城に戻り、罪を認めて謝罪しろ。そうすれば、拷問は避けられるかもしれない」
「なんで俺が謝るんだよ? ヴァンケズをなぶり殺しにしようとした奴に、俺は死んでも頭なんか下げねーよ」
「…………」
「それに、さっきから逃げ切れる、とか言ってるけど、俺、別に逃げてる気ねーし。俺はただ、好きなように生きてるだけだ! せっかくここに来たんだからな!!」
「……今は見逃す。朝までに、ゆっくり考えるといい…………」
「もう考えた。行かねえ」
「もう少し考えろ!! 俺と王城に来ると言うなら手荒な真似はしないし、陛下にも減刑を進言すると約束する!!」
カッとなったのか、ディゲーアはテーブルをたたいて立ち上がる。
当然、俺も応戦して掴みかかった。
「じゅーぶん考えた!! これ以上考えらんねーー!! だいたい、手荒な真似はしないって、おかしいだろ! フィエズート使って俺らを襲ったの、お前だろーが!!」
「ちょっと……! やめろよ!! 他のお客さんに迷惑!」
フィエズートに言われて、俺もディゲーアも座った。
だけど、俺らが大声出してるのに、周りの客は全くの無視。まるで聞こえてないみたいだ。
不思議に思っていると、ヴァンケズがにっこり笑って言った。
「この席の周りに結界を張った。二人の声は、この席についた俺たち以外には聞こえないから、大丈夫だよ」
「ヴァンケズ……」
「リューオ、絶対騒ぐと思った」
ヴァンケズにそう微笑んで言われると、少し恥ずかしい。そんなことまで見透かされていたのか……
ディゲーアも席について、今度は声を小さくして言った。
「……フィエズートを使ったのは、ヴァンケズの封印を確かめたかったからだ。そして分かった。お前たちに勝ち目はない。明日の朝まで待つ……よく考えるといい」
「すっげー考えた。あのムカつく国王にヴァンケズはやらねー」
俺が即断ると、そいつは嫌な顔をするが、何度言われても俺は絶対に戻らないし、ヴァンケズもあの城になんか連れて行かない。
「俺は行かねえよ! 帰ってあのムカつくクソ国王にそう伝えろ!」
「お前たちを拘束するまで帰れない! もっと考えろ!!」
「あんな奴のために、なんで俺が考えなきゃならねーんだよ!! めんどくせえ!」
「面倒くさくても考えておけ! 後少しでいいから!!」
そう言って、ディゲーアは立ち上がり、伝票を手に取った。
「……ここは俺が持つ」
「あ? なんでだよ?」
俺が聞くと、そいつは俺たちに背を向けた。
「……王城に行けば、こんなこともできなくなる……今のうちに楽しんでおけ…………」
言いたいことだけ言って、そいつはカフェを出て行った。
「なんだよ……あいつ…………やっぱりいい奴だな!!」
俺が言うと、ヴァンケズは苦い顔で首を横に振る。
「なんでそうなるの……? あいつは俺たちのこと、拘束しにきたんだよ?」
「だけど、無理矢理連れて行こうとしたり、襲って来たりしねーじゃねーか。それに、お前のこと、心配してんじゃねーのか?」
「……」
「それに俺ら、誰が来ても何言われても拘束なんかされねーし!! 城にも戻らねー!! だろ? ヴァンケズ!」
「……全く、リューオは…………そういうところがいいんだけど。そろそろお風呂、行こうか。温泉、入るんだろ?」
「そうだな! 行こうぜ! フィエズート!!」
俺が立ち上がると、フィエズートも少し戸惑った様子で立ち上がる。
「お前、本当に能天気……あいつも王家の魔法使いなのに……なんでそんなに危機感ないの……」
「そんなの、危機じゃねーからに決まってるだろ! 行くぞ!! ヴァンケズ!!」
今度はヴァンケズに振り向くと、彼はいつもみたいに微笑んで「うん」って言ってくれた。
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