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34.こいつが俺から離れただけで
「ヴァンケズ? おーい……ヴァンケズーー?」
あいつを呼びながら大浴場を探してみても、やっぱりいない。ヴァンケズ、どこ行ったんだ?
「あいつも温泉、楽しみにしてたのに……」
俺が項垂れていると、フィエズートが首を傾げて言った。
「先に上がったんじゃない?」
「……俺に何にも言わずか? んなわけねーだろ!! あいつと俺はずっと一緒にいたんだぞ!」
「ず、ずっとって……数日くらいじゃないの?」
「そうだけど、ずっとなんだよ!!!!」
つい、叫んでいた。なんで俺、こんなにむきになってるんだ……
ヴァンケズとは、まだ付き合いだって短かい。長い間ずっと一緒にいて何でも分かってる仲ってわけでもない。
さっきフィエズートから、ヴァンケズのこといろいろ聞いたばかりだ。
俺はフィエズートより、ヴァンケズのこと知らない。
多分俺より、ディゲーアの方がずっと、ヴァンケズのことを知っているんだろう。
なんか……すげームカつく……別に、フィエズートが悪いわけでも、ディゲーアが悪いわけでもないのに……あいつのことを知らない俺にムカつく。
「……上がるぞ」
「え!? もう!?」
「ヴァンケズ探すんだよ!! あいつがいねーと、温泉にも入ってらんねーよ!!」
「え、えー……ぼ、僕も?」
「当然だろ!! 人数多い方が早く見つかる!! ヴァンケズ探すぞ!」
「……僕、あいつ怖いよ…………できるだけ近寄りたくない……それに温泉……まだ入りたい……」
ぶつぶつ言うフィエズートを連れて、俺は浴場から出て脱衣所に入った。
すると、そこに浴衣姿のヴァンケズが立っていた。俺と一緒に服を脱いで、風呂場に行っていたはずなのに。
「ヴァンケズ…………」
「リューオ……どうしたの? もう上がるの?」
「も、もうって……お前のこと探してたんだよ!!」
「俺を?」
「そうだよ! それなのに、なんで先に上がってるんだよっ……! 俺っ……さ、探し……て…………」
話していたら、ヴァンケズの後ろからディゲーアが顔を出した。
何してんだ、こいつ…………なんで、こいつがヴァンケズと一緒にいるんだよ。
「……お前っ……!! ヴァンケズに何かしたのか!?」
俺が怒鳴ると、ディゲーアは驚いたようで、ヴァンケズもすぐに否定した。
「違う違う。ディゲーアとは、少し昔の話をしてただけ」
「昔……?」
「……城の魔法使いだった時の話。ただの雑談だよ」
「……そっか……」
雑談……? ディゲーアと?
ディゲーアとヴァンケズは、二人とも国王のもとで働いていて、俺よりずっと、付き合いが長い。久しぶりに再会したんだし、お互い話したいこともあるか……
それは分かる。
だけど……
俺と温泉入ってたのに、なんで別の奴といるんだよ……俺、ヴァンケズのこと、探していたのに。
……なんで俺はこんなにイラついてんだ。
ヴァンケズがいつ風呂にはいろーが、いつあがろうが、浴衣になろうが、誰と一緒にいようが、ヴァンケズの勝手じゃないか。俺が、こいつの行動にいちいち口出しするのもおかしい。
それだって分かってる。
それなのに、すげームカつく。
「ちょっと来い」
どうかしてるって分かってるのに、俺は、気づけばヴァンケズの手をとって、脱衣所の端に連れて行っていた。
ヴァンケズも、何をされているのか分からないみたいで、壁を背にしてキョトンとしている。
「り、リューオ? どうしたの…………?」
どうしたのって、俺にだって、そんなこと分からない。だけど、こいつが俺のところから離れて別の奴を連れていただけでムカつく。
……いや、そうじゃない。例えばヴァンケズの隣にいたのがフィエズートだったら、こんなふうには感じなかった。
そうじゃなくて、俺より付き合い長くて、ヴァンケズのことをよく知ってて、ヴァンケズのことを迎えにきたディゲーアと一緒にいたから、こんなに苦しいんだ。
とぼけた顔で俺のこと見下ろしやがって。どういうつもりだよ。
「……なんで……あいつといたんだよ……?」
「え……?」
「俺と風呂入ってたのに、なんで別のやつ連れてくるんだよっ……!!」
「なんでって…………」
なんでヴァンケズは、俺のことを見ないんだ? 俺はこいつを見上げているのに、なんでこんなに近くにいても、俺のこと見ないんだよ。
ヴァンケズが顔をそむけるだけで嫌だ。いつもならすぐ、俺のこと見てくれるのに。
「どうなんだよ! ヴァンケズ!!」
「……ごめんね。護身用の武器忘れちゃって。取りに行ってたら、たまたま、ディゲーアと会ったんだ。そしたら、温泉行くって言うから…………一緒に歩いて、釘を刺してた。リューオには、手を出さないようにって」
申し訳なさそうに「ごめん」って言って、頭を下げるそいつを見たら、急に後ろめたさが湧く。ヴァンケズが何も悪くないことを、俺は知っているからだ。それなのに、勝手にイライラして……
俺がちゃんと警戒してないから、ヴァンケズは武器を取りに行ってくれただけじゃないか。
彼は、俺を見下ろしていつもみたいに微笑んでいた。
「……俺……リューオに手を出されるのだけは嫌だから……」
「お、俺にって……俺はいいんだよ…………ディゲーアが来たって、捕まったりしねーし。ディゲーアだって、別に襲ってきたわけじゃねーだろ……」
「うん。リューオが誰にも負けないって、分かってる。でも、ディゲーアは俺の知り合いだから。一緒に王城に帰ることなんて絶対にないって、よーく説明していただけ」
「……説明? なんだよ、それ……」
ヴァンケズは、いつもの笑顔を見せてくれて、それを見ると、俺は急に落ち着いていく。
戦意が消えて、苛立ちとか、そういうものがかすんでいく。
ヴァンケズは、駄々をこねる俺を宥めるように、優しく続けた。
「俺はもう、陛下のための魔法使いじゃない。俺はもう、全部リューオのものだって、ディゲーアにはそう説明していただけだよ」
「お、俺の……??」
「俺は、リューオのものだ。俺の力も、俺の魔力も、魔法も、体だって、全部リューオのものだよ」
「か、体って…………」
急にこいつは何を言い出すんだ……
力だの魔力だの、その上……体だの、そんなもの寄越せって言った覚えないぞ。
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