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111.分かっている
深い森の中に立つ男の前に、巨大な狼に姿を変えたヴァンケズが降りていく。その背中には、彼に無理を言って乗せてもらった俺。ヴァンケズは、待っていた方がいいって言ってくれたんだけど、俺は、ヴァンケズを一人で行かせたくなかった。
俺を乗せたヴァンケズは、空高くから、逃げる王の前に降りていった。思ったより簡単に見つかったな。
「ヴァンケズっ……!?」
驚く王の前で、俺はヴァンケズの背中から降りた。
「お前、一人で逃げてんじゃねーよ……」
「なぜっ……貴様らがここにっ……ば、爆破はっ……!」
「してねーよ。ヴァンケズが止めたから」
「止めた!!?? まさかっ……! そ、そんなはずがないっっ……!」
「なくても止まったんだよ」
「馬鹿なっ…………だ、だからと言って、貴様らが逃げ出せる理由にはならないだろう!」
「なんでだよ?」
「魔法使いたちはどうした!? 兵たちはっ……何をしているんだ!!」
「帰った」
「はあ!!??」
「だから、馬鹿らしくなって、お前だけ置いて帰った」
俺がはっきり告げると、そいつは愕然として立ち尽くす。
「そんな……馬鹿な……」
「馬鹿はお前だ。そろそろ諦めろ。ヴァンケズにあんなことした時点で、お前、もう終わってるんだよ」
「黙れっ……貴様などにっ……!」
言いかけた王は、驚くほどあっさり倒れる。眠っているみたいだ。ヴァンケズの魔法だろう。
俺は、狼から人の姿に戻る彼に振り向いた。
「なんかまだ言いたそうだったぞ」
「これ以上リューオを侮辱する言葉なんか聞いたら、もうリューオが何を言っても我慢できなくなりそうだったから」
「……別にまだ侮辱してねーし、俺は大丈夫だよ……そ、そんな怖い顔すんなって……」
「殺してないから、安心して」
「ヴァンケズ…………」
こういうこと言う時のヴァンケズは、やっぱり少し怖い……
空からディゲーアの声がしたような気がして振り向けば、俺たちを追ってきた彼が、手を振って降りてくる。
「ヴァンケズ!! リューオ!! 陛下はっ……うわっ……!! な、何をしているんだ!??」
倒れた王を見て、慌てて駆け寄ってくるディゲーアに、ヴァンケズは肩をすくめて言った。
「何もしてない。気絶させただけ。戦艦は?」
「……もう王国へ帰った……俺は陛下を探しにきたんだ」
「じゃあこれ、連れ帰ってくれる?」
「……ああ……迷惑をかけたな…………さっきのことで、連れてこられた奴らも、陛下を見放した。ここでさせられていたことも進んで話してくれた。俺は陛下を連れて王国に帰る。後のことは……任せてくれ」
そう言ったディゲーアに、ヴァンケズは、すぐに顔をそむけて言った。
「……陛下の見張りとしてなら……ついて行ってもいい。これから大変だろうし……」
なんだかんだ言って、ヴァンケズはディゲーアが心配らしい。少し妬けそうなくらいだ。
けれど、ディゲーアは首を横に振る。
「ヴァンケズ……ありがとう。だが、ここからは俺に任せてくれ」
「……分かった。だけど、必ずまた顔を見せて。そうでないと……フィエズートが……心配するから……」
ヴァンケズも素直じゃねーなー……
俺はそいつの隣に並んで言った。
「ヴァンケズは、お前のこと、心配してんだよ。だからお前も早く戻ってこいよ!!」
するとディゲーアは、「分かっている」と言って微笑んだ。
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