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14.勝手に最悪の選択肢を取るな!
しおりを挟む手を出すつもりはなかった主人公に手を出してしまった。押し倒して、短剣を突きつけてしまった。
どうしよう……こんな時、なんて言い訳すればいいんだ!!??
俺に倒されたティウルが呻いている。なんとかしなきゃ。
慌てるばかりの俺だが、すぐに短剣はしまった。こんなの持ってたら敵だと思われるってことくらいは、俺でも分かる。
そしてすぐに、まだ床に座り込んだままの主人公、ティウルに手を伸ばし、彼を助け起こした。
ティウルが、戸惑った様子だけど「ありがとうございます」とお礼を言っている。
しかし俺は、なんて言えばいいのか、それを考えることに必死だ。
どうすればいいんだーーーー!! 早くなんか言わなきゃっ……! とにかくまずは押し倒したことを謝らなくてはっ……
それは分かっているのに、ほとんどパニックで言葉が出てこない。
落ち着け俺。勘違いで飛びかかったんだから、そう言って謝罪すればいいだけだろう! なにを焦っているんだ俺は!!
だけど、ここで失敗したら悪役に近づくのかと思うとっ……緊張して何も言葉が出てこない!
なんて言えばいいんだ!? くそっ……なんで俺はこんなに口下手なんだ! 落ち着けっ……落ち着くんだ! 悪気はないし、勘違いだったんだから、それだけ伝えればいいんだ!!
俺の部屋に勝手に入ってきて、何してるんだ? 無礼だろ……って、なに言おうとしてるんだ! こんなこと言ったら絶対にダメだ。ますます悪役に近づく。
勝手に部屋に入ってくるから、魔物かと思って切っちゃった……って、これもダメだ!! ちょっと相手を責めている! もっと優しく謝罪する言葉を考えろっ!
ごめん。部屋の中から物音がして、魔物かと思って飛び込んじゃった。大丈夫? 怪我はない? ……こうだ!! 飛びかかったことを謝罪しつつ優しく対応するんだ!! 俺は、悪役になるのだけはごめんだ!!
俺はすぐに、主人公から飛び退いた。
「ご、ごめんっ……本当にっ……! 本当にごめんっ……!! お、俺……の部屋に勝手に入って……じゃなくて! 大丈夫か!? 怪我ないか!? 魔物かと思って切っちゃった!!」
……焦りすぎて、全部混ざった。最悪だ。
けれどティウルは、助け起こした俺の手を握ったまま、ヘラッと笑う。
「……ああ。そうでしたか……すみません……ノックしても返事がなくて、ドアを開けたら部屋が荒らされていて……魔物でも出たのかと思って、中を確かめていたんです。僕の方こそ、勝手にお部屋に入っちゃって、ごめんなさい」
「い、いえっ……そんなこといいんです!! 部屋なんかどうでもっ……!! なんなら自由に出入りしていただいて構いません!!」
「えっ……ええ? じ、自由に?」
「はい! あなたなら大歓迎です! そ、そんなことより、大丈夫ですか!? 怪我してませんか!? お、おお俺はあなたを傷つけるつもりは全くありません!!」
「え、えっと……ぼ、僕は大丈夫です……あなたこそ、大丈夫ですか?」
「え?」
「だって……真っ青です。汗もすごいし……僕なら本当に大丈夫なので、気にしないでください」
「……主人公くん……」
「へ? しゅ、主人公?」
「あっ……い、いえっ……ち、違うんです!! そうじゃなくて……あ、ありがとうございます……ほ、本当に、大丈夫ですから……」
主人公……いや、ティウル……なんて優しいんだ。
純粋に、俺を心配している。いきなり切り掛かったのは俺なのに、見ず知らずの俺に、こんなに優しく声をかけてくれる。
それに比べて俺は……
さっきからずっと、自分の保身ばかりではないか。
突然刃物を持って押し倒しておいて、自分が悪役にならないためにはどうすればいいかということしか考えていない。胸がズキズキ痛くなってきた……
「ほ、本当に大丈夫です……俺の方こそ、本当にごめんなさい……」
「い、いえ! 勝手に部屋に入ったのは僕ですからっ…………あ、あの…………フィーディ様……フィーディ・ヴィーフ様ですよね? 公爵家の御令息の」
「へっ!!?? あ、はい……ま、まあ……そうです。フィーディです……」
「やっぱり!! あの……僕の名前、ご存知なんですか?」
「はい…………平民の主人公……じゃなくて、あの……平民でありながら、すごい魔力を持った人がくるって聞いて……挨拶に来る……じゃなくて、行こうと思っていたんです! 俺が!!」
「フィーディ様が!? と、とんでもないです……挨拶したかったのは僕の方で……同じ人族の人がここに来ているって聞いて、お会いしてみたかったんです!!」
「……」
……このセリフ、覚えている。この城に来たばかりの主人公は、心細くて、同じ人族の令息に会って、喜んで挨拶をするんだ。
だけど、令息になった俺からしたら、家を追い出され、監獄と呼ばれる島に捨てられているのに、そんな風に嬉しそうにされると辛い……魔力溢れる彼が羨ましくなるし、輝いて見える。主人公くんも、ここへ来るまでに、かなり辛い目にあっているはずだ。それなのに、こんな目で俺を見ることができるなんて……俺はさっきから保身と嫉妬で頭がくらくらしているのに。
どうしても相手と自分を比べてしまう。俺はクズだ。ゴミだ。死ねばいい。
しかしぃぃぃぃぃっっ…………!! やっぱり死ぬのは嫌だ!!
俺はクズだと思うし、どうしようもない男だが、それでもバッドエンドは嫌なんだ!
俺は決めたんだ!! 毎回毎回主人公くんに負けて涙を流すなんて嫌だ!! 俺は平穏な日々を手に入れるんだ!! そのためなら努力を惜しまない!
「と、ととんでもないっ……お、俺もっ……き、君に会えて嬉しいっ!!」
「フィーディ様……ありがとうございます……」
「さ、さまって…………や、やめてくれ……フィーディでいいです……」
「え!? でも……フィーディ様は、公爵家の……」
「お、俺は、そんなものを名乗れるような奴じゃない。家からも追い出されたんだ」
「へっ……!? 家をっ!? な、なんで……」
「と、とにかくっ……! 俺のことは、フィーディでいい……ぜ、ぜひ! そ、そう呼んでくださいっ……」
「……」
ティウルは少しびっくりしたのか、ずっと俺を見上げている。
緊張して捲し立ててしまったのが悪かったのか!? 怯えさせた!? くっそぉぉぉおっ……!! うまくやりたいのに、やっぱり人と話すのは苦手だ!!
「あ、あの……ティウル?」
「あっ……ありがとうございます……フィーディ様……いえ! フィーディにそんな風に言ってもらえるなんて思ってなかったから、すごく嬉しい!」
「そ、そうか……? そうか!! よ、よろしくっ……」
恐る恐る出した手を、ティウルはぎゅっと握ってくれた。よかったぁ……
ホッとしたのも束の間、背後にいたヴァグデッドが、俺の腕を強く握って、自分の方に引き寄せる。そしてあろうことか、ティウルを睨みつけた。
「……用が終わったなら、帰ってくれる?」
冷たく言う彼は、じっとティウルを睨んでいた。
何してるんだよこいつーー!!
「お、おいっ……! ヴァグデッド!! やめろっ……!」
「なんで? 勝手に部屋に入ってきて、図々しいんだよ。失せろ」
こ、この竜っ……!
俺はもう、眩暈がしそうだった。
勝手に最悪の選択肢を取るな! 俺が悪役に近づくだろうが!!
早速パニックに陥りそうな俺。
それなのにヴァグデッドは、俺を自分の背中に隠して、ティウルを見下ろしている。
「ここは今日から、俺の部屋でもあるんだ。関係ないやつは帰れ」
「ご、ごめんなさい……実は僕……道に迷って自分の部屋もわからなくなっちゃって……か、帰れないんです……」
「そんなこと知るか。出て行け」
この竜っ……こんなことなら、ちゃんと手下にしておくんだった。手綱を握っておくんだったっ……勝手なことを言うなーー!!
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