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15.これは……親しまれているんだ……よな?
しおりを挟む「ヴァグデッド!! やめろっ……!! なんでそんなことっ……だ、だいたいここ、俺の部屋だぞ!!」
俺は慌ててヴァグデッドを止めるけど、彼はまるで聞いていない。今にもティウルに掴みかかりそうな勢いだ。
「勝手にここに入ってきて、どういうつもり? この城には、黙って部屋に入った奴を処罰していい決まりがある。じっとしてろ。食いちぎってやるから」
「そ、そんなの知りません!! やめてくださいっ……! 食いちぎられるなんて嫌です!!」
ティウルが慌てるのも当然。ヴァグデッドの言っていることは嘘だ。
何をしてるんだこいつは! 俺の手下にはならないくせに、主人公に喧嘩売るところだけゲームの通りだ。俺をバッドエンドに追い込むつもりか!
「や、やめろっ……やめてくれ! ヴァグデッド! そんな決まりはない!」
慌てて止めた俺を、ヴァグデッドが睨みつける。
「フィーディは、この男のことを信じるの? こんな、胡散臭い男の言うことを」
「し、信じるとか信じないとかじゃない……暴力は良くない。た、頼むからやめてくれ……」
「…………」
必死になる俺に、ヴァグデッドは顔を近づけてくる。ついでに襟元まで掴まれて、震え上がった。
な、な、な、何でこんなことされてるんだ!? 俺は!! そんなに怒ったのか!?
驚いたけれど、ヴァグデッドは真剣な目で俺を見つめている。俺を殴ったり、いびるような目じゃない。
ちょっとびっくりして、俺は口を閉じて、その男を見上げた。
彼の金色の目は、睨んでいるような怒っているような、どんな感情なのかは読めないけれど、少なくとも、俺をさっき追い回していた時とは、違うように見えた。
「俺は、お前と二人がいいって言ってるんだ。大人しく言うことを聞いておいた方がいい」
「はっ……!? な、なんだ!?? お、脅すのか!!??」
慌てる俺だけど、ヴァグデッドはジーっと俺を見下ろしていて、俺は目を離せなかった。
ぎゅっと強くティウルが俺の手を握るまで、気づかなかったくらいだ。
ティウルは、俺の手を握って微笑んだ。
「……落ち着いて……フィーディ。よく分からないけど……僕を庇ってくれたんだよね?」
「えっと…………あのっ……! 俺は、ティウルに危害を加えるつもりはないからっ……!!」
「……うん。僕も、フィーディがそんなことをするなんて、思ってない。だから、落ち着いて?」
「そ、そうか…………分かってくれてよかった……」
よくはないか……ヴァグデッドがずっと、俺を睨んでいるんだから。
なんなんだ……さっきから。手下の俺が言うことを聞かないのが気に入らないのか? だが、俺だって必死なんだ。
俺は、出来るだけ友好的な笑顔を作って、口を開いた。
「ティウル。部屋のことなら心配なくていい。魔物が出たわけじゃない。そ、それより、自分の部屋には帰れそうか?」
「えーっと……それが、全然覚えてなくて…………それに、帰れても、一人じゃ心細いんだ。ここ、魔物がしょっちゅう出るらしいし……」
「あ、ああ……そうだな…………俺も恐ろしいと思っていた」
「そうだよね!?」
「あ、ああ……」
急に近づかれて、少しびっくりして身を引く。この近すぎる距離も、警戒心がまるでない純真さからくるものだろうか。
ティウルは俺を、潤んだ目で見上げていた。
「あ、あの……フィーディ。お願いがあるんだ」
「お願い? ……なんだ?」
「……あの、図々しい頼みなんだけど……僕をこの部屋に泊めてくれないかな?」
絶対やだ。
って、即答しそうになった。
ギリギリで押しとどめた俺はすごいと思う。
ついさっき会ったばかりの人を部屋に泊めるなんて、恐ろしくてできるはずがない。魔物が怖いのはわかるが、それとこれとは、話が別だ。
俺には、自分以外の誰かがずっと自分のそばにいるなんて、酷い恐怖なんだ。ティウルは恐ろしくないのか?
なにより、俺は主人公にはできるだけ関わりたくないんだ。適度な距離をおいて、良好な関係を築く。それが俺の目標なのに、部屋に泊めるだと!? できるかそんなこと!!
「あ、あの……すまない。それはちょっと……」
「さっき、好きに部屋に入っていいって言ったよね!?」
「そ、それは泊めると言う意味では……」
「だめ……かな? やっぱり……」
「だ、ダメってわけじゃない! そうだ! い、一緒にティウルの部屋を探そう!! 二人で探せばすぐに見つかる!」
「……うん……」
……そんな沈んだ顔をされると、何だか胸が痛む……
俺にも、ティウルの気持ちはわかる。こんなところに来て、不安なんだろう。俺だってめちゃくちゃ怖い。
彼の魔法の才能は、誰もが認めているが、まだ、彼は強力な魔法は教えられていない。攻略対象たちと仲を深めていく過程で、魔法の使い方を学び、最後には俺を打ち負かす。
打ち負かされるのはごめんだが……不安定な魔法で、魔物が溢れる城に放り込まれたら恐ろしくて当然だ。
「え、えっと……城主様のところに行って、部屋がどこなのか、聞いてみよう。部屋に魔物を寄せ付けないための結界を張ってもらえば、朝までゆっくり眠れるはずだ」
「うん……そうだね。ありがとう! フィーディ!」
うわっ……か、かわいいっ……!! そんな風にうるうるした目をされると、俺の方が胸が高鳴りそうだ。
さすが主人公くん……なんて無垢で可愛らしいんだ。こんな小動物みたいな可愛い子が存在しているなんて。
「じゃあ行こうか! フィーディ!!」
彼はぎゅうっと強く、俺の手を握ってくる。
な、なんだか痛いんだけど……この力はきっと、親しみからくるもの……なんだよな?
振り向けば、ティウルはずっと、ニコニコ笑っている。
つられて俺も、慣れない愛想笑いを浮かべてしまうくらいだ。
ゲームでは、主人公は天真爛漫な、いい子だった。そんな子が、俺に危害を加えようなどと考えるはずがない。
けれど、何が気に入らないのか、ヴァグデッドが俺とティウルの間に入って、繋いだ手を無理やり離してしまう。
「そんなに不安なら、俺が手を握ってやるよ。ティウル」
突き刺すような態度のヴァグデッドは、親愛などまるで感じさせない笑みで、ティウルに近づいていく。
けれど、そんな態度のヴァグデッドを前にしても、ティウルはまるで怖気付く様子がない。
「僕は、同じ人族のフィーディと手を握っていたいんだけど?」
「……人族だから何? 俺の手下に、勝手に近づくな」
「手下って、なに? 僕はフィーディと、友達になりたいだけだよ? 公爵家の御令息様にお会いできて、こんなに優しくしてもらえて、嬉しいだけなのに」
「だったらもう会ったんだから、用はすんだだろ」
「そっちこそ。フィーディに付き纏って、そんなに血が欲しいの?」
「あ?」
な、何だこの、不穏な空気は……何でこんなことになってるんだ? なんで喧嘩になってるんだっ……!!
止めに入りたいのに、慌てるだけの情けない俺。
そして、そんな俺の手をぎゅっと握ってくるティウル。
「フィーディ……今日、夕食を一緒に取らない? この城は、クソみたいな場所だけど、海産物と野菜だけは美味しいらしいんだ。魔物の魔力を餌に育つらしいよ」
「う、うん……あ、あまり食べたくはないが……」
「そう? フィーディは少食なんだ?」
「へっ……!? え、えーっと……そう言うわけじゃない。だが、その……魔物を餌にって、ちょっと怖いなーって思って…………」
「そうかー……だからこんなに細いのかな? すべすべしてて、気持ちいい」
「ひっ……!!」
なぜ撫でる!?? 手の甲を優しくそうっと撫でられると、さすがにびっくりして手をひいてしまう。
驚く俺に、ティウルは目を細くして微笑んだ。
「ごめん。びっくりさせちゃった?」
「い、いい、いやっ……そんなことはない!! …………あ、いや……や、やっぱり、ほんの少し、びっくりした……」
「そう……ごめんね。フィーディの手、あまりにも気持ちよかったから」
「は、ははは……そうか…………あ、あの……」
「どうしたの?」
「手のことはいいんだ。その……か、代わりというのも何だが、ヴァグデッドは……その、さ、先程は俺を助けてくれたんだ。そ、そんなに悪いやつじゃない。決められたことを守って、血も吸わなかった。揶揄するのはやめてくれ…………」
「…………」
「あっ……! いや、その……き、君が悪いわけじゃない! 俺のことは好きに言ってくれていい! おかしな噂は困るし、俺は君に危害を加えるつもりはないことはわかって欲しいが、く、クズ扱いは慣れてるぞっ……!」
キョトンとするティウルだけど、すぐににっこり笑った。
「フィーディをクズ扱いなんて、とんでもないよ。ヴァグデッドに対しても、そんな気なかったんだけど……気分を害したならごめんね」
彼は、ヴァグデッドに向かって頭を下げるけど、ヴァグデッドは冷たくあしらう。
「謝らなくていい。食いちぎるだけだから」
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