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16.よかった……の、か?
しおりを挟むなんだかんだ言いながら、俺たちは、城の中を歩いて、城主ルオンの部屋に向かっていた。ここに来た時に、城の中は案内してもらっている。だから、どこにルオンの部屋があるのかは分かっている。
廊下には、誰もいなかった。かなり広い城なのに、使用人はあまりいないのか? まだ夕食の時間もすぎていない。全員寝てしまったということはないはずなんだが。
魔物が出る城にしては静かだ。ヴァグデッドとティウルが騒いでいなかったら、多分、しんと静まり返っていたんだろう。
俺は、静かな場所が好きだ。人気を全く感じさせないところが。そういうところで、何も考えずにぼんやりしたいんだが、まだ背後の二人が睨み合っては怒鳴り合っている。
ティウルは、俺には微笑んでくれるのに、ヴァグデッドにはやけに攻撃的な気がする。先ほどの揶揄するような物言いも、彼らしくない。天真爛漫でちょっと天然、明るく、無垢な主人公。それがティウルなのに。
もしかして、またちょっとゲームとどこか変わっているのかもしれない。
とはいえ、さっきぎゅううううっと握られた手が、まだ微かに痛むが、彼は俺を友人として慕ってくれているようだ。まだちょっと痛いけど。
だから、このまま彼とは、適度な距離を保ったまま、敵意を持たれないよう余計なことはせずに、友好的な関係を築いていけばいい。
ゲームでは、主人公が攻略対象に出会い、日々強力な魔法を身につけ、成果を上げては賞賛されるのが気に入らないフィーディが、事あるごとに主人公に突っかかっていき、そのたびにボロボロに負ける。最終的に、フィーディは国をも滅ぼしかねない禁じられた魔法に手を出そうとして、主人公たちに断罪されるのだ。
しかし、俺は決して、主人公にケンカは売らない。
いずれ主人公は、攻略対象と仲を深めて、幸せになるんだろう。
他人が幸せになるのは羨ましく、そして妬ましい。同じ人族でありながら、溢れんばかりの魔力を持っていて、周囲の期待を受けて輝く彼を見ていると、どうしても自分と比べてしまいそうだが、恐ろしい末路に向かうくらいなら、俺は永遠に日陰でコソコソ地面でも這いながら、小さな餌でも探して生きていきたい。それでいいんだ。
いつのまにか、俺は俺の考えに頷いていた。
背後でいがみ合う声が聞こえているはずなのに、勝手に脳が、それを聞こえないものとして処理しているおかげで、自分の思考に集中できるようになってきた。
ティウルは、俺には彼に対する敵意がないことを分かってくれた。
俺は一切、ティウルを傷つけるつもりはない。むしろ、俺ほど彼の幸せを願う奴はいない。どうか幸せになってくれ、主人公くん。そして俺のことは出来るだけ早く忘れて、間違っても断罪だなんて言い出さないでくれ。
俺は、城の隅で細々と下働きでもさせてもらえれば、もうそれでいいから。
だが……そうなるためには、俺にはまだ、対策を練らなくてはならない人がいる。
「……ヴァグデッド」
背後の彼に振り向くと、彼は主人公と睨み合ったまま、答える。
「なに? 今、この男を追い払うので忙しいんだけど?」
「それはやめてくれ!! ティウルと三人で仲良く行こう!!」
「……何でそんなにこいつと行きたがるの?」
「そ、それは……それは後で説明する! それより、お前に俺を見張るように言ったのは、城主、ルオン様か!?」
「……そうだよ。護衛として、逃げないように見張れだって」
「……それは護衛ではない……監視役だ」
ここへ来た時、城の案内と護衛をしてくれる竜だと聞いたのだが、城主にまで、まるで信用されていないとは思わなかった。
俺の評判はどこまで最悪なんだ。おそらく、父上に絶対に逃亡を許すなと言われているんだろう。
肩を落としてしばらく歩くと、向こう側から、誰か歩いてくる。
どうやら、城主の部屋へ行く必要はなくなったようだ。向こう側から歩いてくるのは、城主、ルオン・フォークではないか。
城主は、主人公の攻略対象の一人。いつも優しく穏やか、紳士な態度を崩さない。城の中で争いが起これば、ゆっくり窘める優しい人……なんだけど、一方で、怒らせると怖い人。彼には苦手なものがいくつかあって、それを刺激すると、態度を豹変させる。相手を拷問にかけ、時には殺してしまうほどの彼は、主人公が選択肢を間違えると、最悪、城中の人間を滅多刺しにして回る、とんでもない吸血鬼に変貌してしまう。
しかし、それにさえ気をつければ、彼は優しい紳士でいてくれる。逆鱗に触れなければ、彼は多分、この城にいる人の中で、一番話のわかる人だ。
何の心配もなく話せる人は、この薄暗い監獄の城にはいないから、彼は現状、一番紳士で、俺の話を聞いてくれそうな人、ということになる。
真っ黒な長い髪を、血のような色のリボンで結んで、魔法使いがよく身につける、魔力のこもったローブを着ている。その下には、魔法の剣を忍ばせているはずだ。吸血鬼族と、他に、いくつかの種族の血を引いている。強い魔力を持つ魔法使いで、死霊の魔法を憎みながらも、その魔法の研究を進め、その力に魅了されていく自分に苦しんでいる。
俺は明日から、この人に師事して死霊の魔法を習得するのか……
なんだか緊張してきたが、とにかく主人公くんの部屋を教えてもらわなければ。
頑張れ俺。ここまで来たら、あと少し。
「こんばんは。城主ルオン様」
「……フィーディ。先ほどから、何の騒ぎだ? ウィエフから報告は受けたが、まだ何かあるのか?」
「あ、えっと……も、申し訳ございません」
「何があったか話してもらおう」
……俺の口から改めて話せってことだよな……
この人に報告はかなり怖い。下手なことを言えば、恐ろしい運命が待っている。だが、気をつければ大丈夫。そう自分に言い聞かせる。
「その……お……俺が、ヴァグデッドが吸血を制限されていることを知らずに血をあげるなどと約束してしまい、トラブルになりました……城の廊下が、一部、壊れています。さらには、途中でウィエフ様に会い、彼にも……ご、誤解されてしまって。怒った彼が、破壊の魔法を使いました。も、もちろん、ヴァグデッドに血はあげていないし、ヴァグデッドも吸血を断りました! どうか……お許しください」
「……分かった。壊れた場所を教えてくれるか?」
「東の塔の近くの二階の廊下です」
「すぐに修復係を行かせる。君は、明日までに報告書と、明日は、庭の整備をしてもらう」
「は、はい!! お任せください」
よかった……報告、うまくいった。もう、それだけでめちゃくちゃ嬉しい。
それなのに、ルオンはとんでもないことを言い出した。
「……もちろん、ヴァグデッドとウィエフにもさせる」
「は!!??」
「ウィエフにも、すでにそう伝えた」
「お、おおおおお待ちください!! な、なぜですか!?」
「城を破壊したのは、ヴァグデッドとウィエフだろう?」
「そ、そうかもしれませんが、こ、今回のことは……せ、責任は俺にあります! ウィエフ様はまだ、その……明日は魔物退治で忙しいはずです!! 俺が代わります!!」
「あなたが?」
「は、はい!! ウィエフ様の手を煩わせるわけにはいきません!! か、彼も、その……王子殿下の護衛や、ま、魔物退治で忙しいでしょうし!!」
「しかし……」
ウィエフと庭の整備なんかしてたら、そのうち庭に埋められる! 掃除くらい、一人でやる! さっき俺を魔法で吹き飛ばそうとしたウィエフがそばにいるくらいなら、魔物の方がマシ!!
魔物に襲われる可能性はあるが、俺だって、戦えないわけじゃない。それに、庭で作業している途中で魔物が出たら、城にいる警備兵を呼べば来てくれるはずだ。
「こ、今回のことは、俺が勘違いして、ヴァグデッドをぬか喜びさせたことが原因です。だからその……ぜひ、俺にさせていただきたいのです。ルオン様!」
「……分かった。では魔物が現れた時のために、警備兵たちにいつでも駆けつけることができるよう、準備するように伝えておく」
「あっ……ありがとうございます! 助かります!!」
助かったーーーー……これで、明日の朝は一人でのんびり作業できる!! 何てありがたいんだ! 一人でのんびり……最高じゃないか!!
なんて思ったのも束の間。
「俺も行きまーす!」
そう言って手を上げる邪魔なヴァグデッド。この竜はっ……!! どこまで俺をからかうつもりだ!!
俺は引き攣った顔のまま、自分に落ち着くように言い聞かせながら、ヴァグデッドに振り向いた。
「ヴァグデッド……その…………俺に任せてほしい。こうなったのは、俺の責任でもあるし……」
「そんなこと、気にしなくていい。俺も行くから」
「…………」
有無をも言わさぬその態度と、笑顔なのに恐ろしいその目を見たら、俺は震え上がりそうだ。そして、すぐに折れてしまう。
「わ、分かった……行こうか」
「うん!」
……俺はどこまで情けないんだ……
肩を落とす俺だが、ルオンは優しく微笑んで、俺に頭を下げた。
「る、ルオン様!??」
「あなたを信じることができなくて、申し訳なかった……ヴァグデッドには見張れと言ったが、あなたには必要なかったようだ」
「そ、そんな……いいんです……」
分かってもらえれば、それでいい。なんだかホッとした。
ティウルを送り届けて、すぐに部屋に戻ろう……そもそも俺は、ティウルを部屋に送り届けるために、ルオンを探していたんだ。
それなのに、さっきまでヴァグデッドの隣で、彼と睨み合っていたティウルがいない!! ま、まさか、置いてきたのか!!??
「しゅじんっ……じゃなくて、ティウル!? ティウル!! ど、どこっ……ティウルーー!!」
嘘だろ!! まさか、どこかに置いてきた!!?? そ、そんなことしたら、俺は終わる……絶対に俺が主人公くんをいじめた感じになる!! 俺は何もしていないのに!!
「ティウル!! ティウルーー!?」
慌てて探す俺に、ルオンは、少し困った様子で言った。
「ティウルなら、さっき部屋に戻って行ったぞ」
「はあ!??」
部屋が分からないって言うから、一緒に探していたのに!? なんで部屋に戻ってるの!?
ルオンに指さされた方に振り向けば、少し離れたところにあったドアが、がちゃっと音を立てて開いて、そこからティウルが顔を出す。
「送ってくれてありがとーー、フィーディ。部屋の前を通りかかったら、思い出したー。ここが、僕の部屋」
「は、えっ……っと…………え?」
「後でフィーディの部屋に行くね! じゃあ、また後でねー!!」
バタンと扉が閉まる。ティウルはもう、顔を出さなかった。
えーーっと…………? へ、部屋が見つかったんだから、よかった……の、かな?? う、うん……多分、そうだよ……な?
ルオンも、どこか困ったようにため息をついた。
「……では、明日の朝、庭に来てくれ。用意をしておく」
「は!?? あ、はい……えっと……わ、分かりました……」
まだドキドキしながら答えると、ルオンはもう一回「頼んだぞ」と言って去っていった。
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