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2.会話が続かない……
しおりを挟む俺は、なんとか勇気を出して、殿下に向かって顔を上げた。
「……あ、あの……な、なんでここに……?」
「別に。知り合いの店、手伝ってるだけ」
「あ、そ、そうですか……」
「……」
「…………」
「………………」
会話が続かない……せっかく会えたんだ。本当はもっとうまく話したい。
殿下の前に出ると、何か失敗するのが嫌で、うまく話すことができない。殿下は口数が少なく、人を近づけたがらない人だ。こうして俺と話すのも、嫌なんじゃないかな……
余計なことばかり考えて、ますます不安になる。
俺にここで会って、嫌な思いをさせているんじゃないのか? せっかくお弁当を渡してもらったのに、そんな思いをさせてしまうなんて。
ちらっと、目だけで見上げると、やっぱり殿下は俺を睨んでいる。
殿下は、俺と話すたびに、めちゃくちゃ怖い顔をする。
この前なんか、気をつけろって言われて、胸ぐらまで掴まれた。その後放り投げられて、めちゃくちゃ落ち込んで、唯一の友達に泣きついたら、なぜか大笑いされた。
殿下に嫌われたくない。この人はいつも怖い。だけど、本当は優しいっていうのも知ってる。
俺は、殿下のことが好きだ。
そう認識し始めたのは最近。そして、その時から、ますます殿下と話せなくなった。俺は殿下の前に出ると、いつもこうだ。
顔を上げなきゃ。
決意して、顔を上げる。
そしたら目があった。すぐにそむけたくなる。顔を合わせていると、自信のない俺は、すぐに俯きたくなる。
だけど、ちゃんと話したい。
「あ、あ、あのっ…………」
「…………なんだよ……………………」
「あの……あ、ぁ、あ、あの…………」
どうしよう……何も言うことが思いつかない! あの、くらいしか出てこない!
言うことを決めてから口を開けばよかったんだ。
なんで俺はこうなんだ。
いつもはちゃんと計画して、なんなら紙に書いて、それから練習もして、それでやっと人と話すのに、不意打ちだと何を話していいのかも分からないっっ!!
目の前の殿下が困った顔してる。
俺がこんな風だから。
このままでは嫌われてしまうっ……! もしかしたら、睨んでるって勘違いされているのかもしれない。それで嫌われて、二度と話してくれないかも。俺に会うのも嫌になるかも……顔も見たくなくなって、転校してしまうかも……殿下の勉強の妨げになって、殿下の成績が落ちて、王位を継げなくなって、一生肩を落として生きることになって、晩年になって、泣いているのかもしれない。
お、俺のせいで、殿下が不幸になってしまう……
もうこのまま立ち去ろうか。逃げてしまおうか。
だけど、話しかけたのは俺。それなのに逃げたりしたら、嫌われてしまうかも知れない。それから俺のこと、顔を見るのも嫌になって……
ど、どうしよう…………
「あ、あ、あ、お、あ、あの…………ぁ……」
「……おう…………あんだよ?」
「…………あのっ……」
何か言わなきゃっ……
本当は話したいんだからっ……!
グッとお腹に力を込めて、顔を上げる。
そしたら、殿下と目があった。
「あ、あの……俺……」
「あれー? ヴァンフィティーアくんじゃないーー?」
いつもよく聞く声が聞こえて、俺の体がびくって震える。
弁当屋の扉を開いて入ってきたのは、背の高い先輩。魔族で、すごい魔力を持っているけど、いつも乱暴なアクレティフ先輩だ。
先輩は、いきなり俺の肩を抱いてくる。
俺はこの人が怖い。色々奢るように迫られたり、殴られたこともある。柄の悪さでは有名なんだ。
色々されるのは嫌だけど、俺は王家に拾われた身寄りのない召使い。下手に貴族に逆らえば、責められるのは俺を拾ってくれた王と王子だ。
「何してるのーー?」
「あ、あの…………あの、あの…………お、お、べんとう……」
「弁当買ってたの?」
「はい……」
返事をしたら、もうどこかへ行ってくれるかと思ったけど、先輩は、立ち去るどころか、俺に顔を近づけて来た。
少しでも離れようとするけど、先輩はますます俺に顔を近づけてくる。
「俺も、お腹すいたなーーーー。さっきさー、そこで魔物が出てさー、それがめちゃくちゃ強くてさー、光る骸骨みたいなの」
「あ、ああ……最近多いみたいですね……」
「そうだよ。それ、退治してたんだよー」
「…………それなら……お弁当……」
「俺もほしいなー。一つ買ってよ」
「…………でも…………」
「金ないんだよー、ね?」
先輩に怖い目で迫られる。
そうなると、俺はもう、嫌だなんて言えない。喧嘩なんて、絶対にできない俺は、いつもこうしておろおろするだけ。
いつまでたっても返事をしない俺に、先輩はますます顔を近づけてきた。
「ねー……だめ?」
「えっと…………」
言い淀んだ俺の前で、ものすごい音がした。
目の前のカウンターにヒビが入っている。殿下が拳で殴りつけたところから、放射状にヒビが入って、カウンターの破片が、床に落ちていた。
そして、カウンターなんかその怒りだけで割ってしまいそうな形相の殿下は、身を乗り出して、俺の肩を抱いている先輩のネクタイを掴んだ。
「……おい………………」
「ふぇっ…………!? お、おまえっ……え、エクウェルっ……殿下??? な、なんで……お弁当?」
「何がほしいんだ? あ?」
先輩も、こんなところに殿下がいるなんて、思わなかったらしい。殿下に睨まれて、何も言えないようだ。
「い、いや……な、なんでもないっ……! ごめんな!!」
そう言って、アクレティフ先輩は俺から手を離して逃げていった。
助かった……
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