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1.それ以下だって思われていそうだ
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いつもドジな僕は、怒鳴られるのなんていつものこと。だけど今日は珍しく何事もなく仕事を終えて、ふらふらしながら領主様の城の廊下を歩いていた。
「ふぁあ……」
あくびを噛み殺しながら、廊下を歩く。
眠い……昨日も夜遅くまで、魔法の書物の整理してたからな……
ここは、辺境の領主様の城。魔物が多いと言われている森のすぐそばにある領地の城で、そこで働く僕は、魔法使いのキャトラズイル。
昨日は徹夜で魔法の書物を片付けていたから、もうくたくただ。
これでやっと眠れる……部屋に帰って寝よう……
そう考えながら歩いていたら、またあくびが出た。もう部屋に帰って一刻も早く寝たい。
部屋に戻ると、すぐにベッドに倒れ込んでしまいそうだったけど、いつもベッドのそばに立てかけておいた、大切な杖がないことに気づいた。
……どこにいったんだ? あれは大事なものだ。いつもちゃんと、そこにあることを確認してから眠るようにしていたのに。
あれがないと僕、魔法を使うのが不安なんだよな……魔法は下手だし、僕は魔力を暴走させることが多い。
……もしかしてっ……!
思い当たる節があった僕は、部屋を飛び出した。
*
突然なくなった杖を探して、僕は、必死に城を走っていた。
あれは大事な杖なんだ。暴走しがちな僕の魔法を抑えることができる。あれがあれば、強力な魔力だって制御することができるのに! あれがないと、僕は怖くて魔法が使えない。僕、暴走させること多いからなー……
きっと領主様なら知っている。あの杖が今日の晩餐会の時に必要だって、側近の方が話していた。だけど……その時は断ったのに!!
しばらく走ると、数人の護衛と側近を連れて廊下を歩く領主様を見つけた。
普段、僕が領主様に直接声をかけることなんてない。そもそも立場が違いすぎる。僕はもともと貴族だったけど、どじを踏んで騒ぎを起こして家から追放され、貴族でもなくなった。
それなのにこの領地の主になんて不用意に近づいたら、護衛たちに殴られて捨てられそうだけど……
杖のことを聞くだけだ。それくらいならいいだろっ……!!
僕は、領主様に駆け寄った。
「領主様!!」
呼ぶと、領主、ロウィトレリト様は僕に振り向く。だけど立ち止まってはくれないから、僕は小走りで並走してついていくしかない。
ちょっとくらい止まれよ!! 話してるのに!!
領主様は普通に歩いているだけなのに、やけに歩くのが早い。僕から見たら、ひどく背が高くて歩く速さだって違いすぎる。いつも真っ黒なローブを着ていて、フードで顔を隠していることも多い。城内ではひどく恐れられているけど、領主様は、いつだって怖い顔をしているだけで、そんなに酷いことはしない…………と、思う。僕が勝手にそう思ってるだけなのかもしれないけど……
急に駆け寄ったりして怒られるかとも思ったけど、領主様は見上げても金色の長い髪で顔が隠れて、ほとんど表情も見えない。
あまりこうして話すこともない……というか、僕がこの城に来てから、ほぼないんじゃないか?
そもそも、領主様は普段、竜の住む荒地の森の魔物退治に出ていて、城に帰ることも少ない。魔物退治を常に続けている、いつも忙しい領主様だ。
「あのっ……僕の杖っ……知ってますよね!??」
「………………」
返事がない……領主様はこっちに振り向くどころか、立ち止まりもしない。
僕はいつだって、ドジで情けない魔法使いで、バカにされてばかり。そんな僕相手に、領主様が立ち止まる義理なんてない。
でも、違うならこんなことを言い出した僕を蹴るか魔法で弾き飛ばすかするはずだ。
やっぱり領主様か……
あの杖が必要って話は聞いていた。だけどそれなら代わりのものを差し出すって、側近の方に話したのに!
「返してくださいっっ……!! あれはっ……! 大事なものなんです!!」
僕がどれだけ叫んでも、領主様は、立ち止まってもくれない。廊下をさっさと歩いて行ってしまう。
「あのっ…………ま、待ってください!!」
それでも食い下がろうとすると、やっと領主様は立ち止まって振り向いた。
やっと話を聞いてくれるのかと思いきや、領主様は、魔法で僕の足に枷をかけた。
僕は急に足の自由を奪われて、廊下に倒れ込んでしまう。
「いったぁ…………」
僕が起きあがろうとすると、枷は消えた。
顔を上げたら、領主様が僕を見下ろしている。
チャンスだと思って声をかけようとしたけど、僕の周りを一斉に領主様の護衛たちが取り囲んだ。
鋭い剣を向けられて、震え上がる僕。
「ひっ…………!」
動けなくなる僕だけど、僕に剣を向けた奴らを、領主様は静かに止めた。
「やめろ。無力な無能を相手に、武器が勿体ない」
「…………」
武器が勿体ないってなんだ……僕はそれ以下か!?
…………そう思われていそうだな……
「ふぁあ……」
あくびを噛み殺しながら、廊下を歩く。
眠い……昨日も夜遅くまで、魔法の書物の整理してたからな……
ここは、辺境の領主様の城。魔物が多いと言われている森のすぐそばにある領地の城で、そこで働く僕は、魔法使いのキャトラズイル。
昨日は徹夜で魔法の書物を片付けていたから、もうくたくただ。
これでやっと眠れる……部屋に帰って寝よう……
そう考えながら歩いていたら、またあくびが出た。もう部屋に帰って一刻も早く寝たい。
部屋に戻ると、すぐにベッドに倒れ込んでしまいそうだったけど、いつもベッドのそばに立てかけておいた、大切な杖がないことに気づいた。
……どこにいったんだ? あれは大事なものだ。いつもちゃんと、そこにあることを確認してから眠るようにしていたのに。
あれがないと僕、魔法を使うのが不安なんだよな……魔法は下手だし、僕は魔力を暴走させることが多い。
……もしかしてっ……!
思い当たる節があった僕は、部屋を飛び出した。
*
突然なくなった杖を探して、僕は、必死に城を走っていた。
あれは大事な杖なんだ。暴走しがちな僕の魔法を抑えることができる。あれがあれば、強力な魔力だって制御することができるのに! あれがないと、僕は怖くて魔法が使えない。僕、暴走させること多いからなー……
きっと領主様なら知っている。あの杖が今日の晩餐会の時に必要だって、側近の方が話していた。だけど……その時は断ったのに!!
しばらく走ると、数人の護衛と側近を連れて廊下を歩く領主様を見つけた。
普段、僕が領主様に直接声をかけることなんてない。そもそも立場が違いすぎる。僕はもともと貴族だったけど、どじを踏んで騒ぎを起こして家から追放され、貴族でもなくなった。
それなのにこの領地の主になんて不用意に近づいたら、護衛たちに殴られて捨てられそうだけど……
杖のことを聞くだけだ。それくらいならいいだろっ……!!
僕は、領主様に駆け寄った。
「領主様!!」
呼ぶと、領主、ロウィトレリト様は僕に振り向く。だけど立ち止まってはくれないから、僕は小走りで並走してついていくしかない。
ちょっとくらい止まれよ!! 話してるのに!!
領主様は普通に歩いているだけなのに、やけに歩くのが早い。僕から見たら、ひどく背が高くて歩く速さだって違いすぎる。いつも真っ黒なローブを着ていて、フードで顔を隠していることも多い。城内ではひどく恐れられているけど、領主様は、いつだって怖い顔をしているだけで、そんなに酷いことはしない…………と、思う。僕が勝手にそう思ってるだけなのかもしれないけど……
急に駆け寄ったりして怒られるかとも思ったけど、領主様は見上げても金色の長い髪で顔が隠れて、ほとんど表情も見えない。
あまりこうして話すこともない……というか、僕がこの城に来てから、ほぼないんじゃないか?
そもそも、領主様は普段、竜の住む荒地の森の魔物退治に出ていて、城に帰ることも少ない。魔物退治を常に続けている、いつも忙しい領主様だ。
「あのっ……僕の杖っ……知ってますよね!??」
「………………」
返事がない……領主様はこっちに振り向くどころか、立ち止まりもしない。
僕はいつだって、ドジで情けない魔法使いで、バカにされてばかり。そんな僕相手に、領主様が立ち止まる義理なんてない。
でも、違うならこんなことを言い出した僕を蹴るか魔法で弾き飛ばすかするはずだ。
やっぱり領主様か……
あの杖が必要って話は聞いていた。だけどそれなら代わりのものを差し出すって、側近の方に話したのに!
「返してくださいっっ……!! あれはっ……! 大事なものなんです!!」
僕がどれだけ叫んでも、領主様は、立ち止まってもくれない。廊下をさっさと歩いて行ってしまう。
「あのっ…………ま、待ってください!!」
それでも食い下がろうとすると、やっと領主様は立ち止まって振り向いた。
やっと話を聞いてくれるのかと思いきや、領主様は、魔法で僕の足に枷をかけた。
僕は急に足の自由を奪われて、廊下に倒れ込んでしまう。
「いったぁ…………」
僕が起きあがろうとすると、枷は消えた。
顔を上げたら、領主様が僕を見下ろしている。
チャンスだと思って声をかけようとしたけど、僕の周りを一斉に領主様の護衛たちが取り囲んだ。
鋭い剣を向けられて、震え上がる僕。
「ひっ…………!」
動けなくなる僕だけど、僕に剣を向けた奴らを、領主様は静かに止めた。
「やめろ。無力な無能を相手に、武器が勿体ない」
「…………」
武器が勿体ないってなんだ……僕はそれ以下か!?
…………そう思われていそうだな……
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