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2.領主様のバーーカーー!!
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みんな僕のことなんて、城に棲みついた厄介物くらいにしか思ってない。
領主様は、僕に近づいてくる。
「あれは、この領地を守るために必要なものだ。すでに竜族の男に渡すことが決まっている」
「そ、それは昨日聞きました……だけど、あれがないと僕、魔法を使えなくてっ……!! どうか、お願いします! あれっ……!! 倉庫で見つけた時は持って行っていいって言ったじゃないですか!! お願いしますっ……代わりのものを差し出しますからっ……!! だってあれはっ……!」
「……………………」
あれは大切なものだ。たとえ領主様でも渡せない。
僕は今は領主様に仕える召使だし、渡せと言われたら渡すべきなのかもしれないけど、嫌なものは嫌だ。
僕は、領主様の前で平伏して叫んだ。
「お願いです! どうかっ……!! あの杖は、本当に、大切なものなんです!!」
けれど、返事がない。
顔を上げればすでに領主様はそこにいない。護衛と側近を引き連れ僕に背を向け、廊下を歩いて行ってしまう。
完全に無視してる……僕なんか、いなかったことにしてる……
このーーーーーーっっ!!
「あ、あのっ…………待って!!」
駆け寄ろうとしたら、今度は僕の前に、一人の男が立ち塞がった。最近よく城に来る、王家からの使者、ベリレフェク様だ。茶色の長い髪を、いつもリボンでくくっていて、一族の紋章の入ったローブを着ている。魔法の研究で有名な伯爵家の次男で、東の森の魔物が増えた頃から、よくこの領地に来ている。優秀で知略に長けた人で、王家からも頼りにされているようだけど、僕にはいつもちょっと当たりがきつい。
「下がれ。あの杖は、この領地を守ることに必要なものだ。ここが魔物で溢れては、お前も困るだろう……なぜ協力できないんだ?」
「だって、それはっ……!!」
言い訳をしようとしたけど、顔を上げたら領主様と一緒に歩いていたみんなが呆れたような目で、床で平伏する僕を見下ろし、ヒソヒソ話している。
「…………なぜ納得できないんだ? これが領地のためなのに」
「領地のために尽くせないのか。長くここに置いてもらったのに……」
「あいつだろう? この前魔物退治を失敗させたのも……」
「自分のせいで討伐隊が危機に陥ったのに……」
……みんなの言うことも分かる。
領地のため……それはそうなんだろう。魔物の数を減らすことは、領地の平穏を保つためにとても大事なこと。
そんなことわかってるけど……討伐隊が危機に陥ったのは僕のせいじゃないし、あれだって大切なものなんだ。あれだけは渡せない。大事なものは大事なんだ。僕だって、代わりのものを用意するって決めてるのに!
けれど、ベリレフェク様は素早く僕に杖を向けて、僕を静かに睨みつけた。
「……お前がどれだけ叫んだところで、すでに杖は、森の魔物の捕縛のために使われることが決まっている。東の森の辺りで魔物が増えている話は、お前も聞いたはずだ」
「き、聞きましたが…………それなら、僕が違うものを用意すると申し上げたではありませんかっ…………」
「そんな、できるかどうかも分からないものを待つことはできない」
「お待たせなんていたしません!!」
「……いい加減に黙れ……それがこの領地のためだ」
「でもっ……!」
懲りずに食い下がろうとすると、ベリレフェク様は少し口調を強くして、僕の声を打ち消すように言う。
「それより、お前の処遇だ」
「……処遇?」
「長くここに置いてもらっていた恩も忘れ、領主に盾ついた。これは反逆だろう」
「はっっ……反逆!? そんな…………僕は……」
「こうして今逆らっていることがその証拠だ。そんなつもりがないと言うなら、領地のために役に立て」
「それは構いませんが、僕の話がまだ終わっていません!! あっ……あの杖を返してください!! あれ、僕が強化したんです!! あれがないと僕は魔法が使えません!」
「使わなくていい。諦めろ」
「嫌ですっっ!!!! あれは大事なものなんです!! 返してくれないなら……勝手に探しますっ!!」
勢いで叫んで、僕は彼らに背を向け走り出した。
反逆? なんでそんなことになるんだ。僕は、杖を返してほしいだけ。
「おいっ……!! 待て!!」
叫んで追ってこようとしたのは領主様。
待ったって、杖を返してくれないくせに!!
彼に向かって振り向き様に、僕は、魔法の道具を投げつけた。それは、捕縛の魔法に使う小さな鎖の塊のようなもの。これでみんなを拘束して逃げてやる!
僕が魔力を注いだそれは、破裂するように鎖を飛び出させて、激しい光とともに風が辺りに四散する。
さっきの仕返しだ!!
この場にいる人全員を捕まえて、僕は逃亡…………するはずだったけど、それは不発に終わる。だって全部の鎖は彼に届く前に勝手に光に戻って消えて行く。結果、少し眩しい光がほんの少しの間光っただけ。どうやら込めた僕の魔力があまりに少なすぎたらしい。
……相変わらず、僕って魔法の道具を使うの下手だなー……魔法も下手だし、魔力も大してないし、僕自身、ほんの少しの魔力でも使うのが苦手。
ただ、相手をびっくりさせて怯ませることだけはできたみたいだ。
周りの護衛たちもまさか僕が反撃するなんて、思ってなかったんだろう。全員すぐに領主様の安全を確保しに彼のそばに走ったみたいだけど、その隙に、僕はそこから逃げ出した。
「待て!!」
背後でそう叫ぶ声がする。領主様の声だ。
だけど、絶対に待ったりできるもんか!!
……領主様に反逆の疑いをかけられた…………
もう、この城にはもういられない!
捕まったら絶対に、惨たらしいやり方で処刑されるっ……!!
余計なことを言ったからか? 今さら後悔するけど、嫌なものは嫌だ!
逃げる僕を、兵士たちが追ってくる。
なんでこうなるんだ……僕は、反逆なんて言われることをしたのか?
大事な杖を返してくれって、そう言っただけじゃないか!!
それを取り上げる奴に、これ以上奉仕なんてで切るかーーーー!!
領主様の馬鹿!!
これまで耐えて来たけどっ……もう、こんなところ、断罪される前に出てってやる!!!!
領主様のバーーーーカーーーー!!
領主様は、僕に近づいてくる。
「あれは、この領地を守るために必要なものだ。すでに竜族の男に渡すことが決まっている」
「そ、それは昨日聞きました……だけど、あれがないと僕、魔法を使えなくてっ……!! どうか、お願いします! あれっ……!! 倉庫で見つけた時は持って行っていいって言ったじゃないですか!! お願いしますっ……代わりのものを差し出しますからっ……!! だってあれはっ……!」
「……………………」
あれは大切なものだ。たとえ領主様でも渡せない。
僕は今は領主様に仕える召使だし、渡せと言われたら渡すべきなのかもしれないけど、嫌なものは嫌だ。
僕は、領主様の前で平伏して叫んだ。
「お願いです! どうかっ……!! あの杖は、本当に、大切なものなんです!!」
けれど、返事がない。
顔を上げればすでに領主様はそこにいない。護衛と側近を引き連れ僕に背を向け、廊下を歩いて行ってしまう。
完全に無視してる……僕なんか、いなかったことにしてる……
このーーーーーーっっ!!
「あ、あのっ…………待って!!」
駆け寄ろうとしたら、今度は僕の前に、一人の男が立ち塞がった。最近よく城に来る、王家からの使者、ベリレフェク様だ。茶色の長い髪を、いつもリボンでくくっていて、一族の紋章の入ったローブを着ている。魔法の研究で有名な伯爵家の次男で、東の森の魔物が増えた頃から、よくこの領地に来ている。優秀で知略に長けた人で、王家からも頼りにされているようだけど、僕にはいつもちょっと当たりがきつい。
「下がれ。あの杖は、この領地を守ることに必要なものだ。ここが魔物で溢れては、お前も困るだろう……なぜ協力できないんだ?」
「だって、それはっ……!!」
言い訳をしようとしたけど、顔を上げたら領主様と一緒に歩いていたみんなが呆れたような目で、床で平伏する僕を見下ろし、ヒソヒソ話している。
「…………なぜ納得できないんだ? これが領地のためなのに」
「領地のために尽くせないのか。長くここに置いてもらったのに……」
「あいつだろう? この前魔物退治を失敗させたのも……」
「自分のせいで討伐隊が危機に陥ったのに……」
……みんなの言うことも分かる。
領地のため……それはそうなんだろう。魔物の数を減らすことは、領地の平穏を保つためにとても大事なこと。
そんなことわかってるけど……討伐隊が危機に陥ったのは僕のせいじゃないし、あれだって大切なものなんだ。あれだけは渡せない。大事なものは大事なんだ。僕だって、代わりのものを用意するって決めてるのに!
けれど、ベリレフェク様は素早く僕に杖を向けて、僕を静かに睨みつけた。
「……お前がどれだけ叫んだところで、すでに杖は、森の魔物の捕縛のために使われることが決まっている。東の森の辺りで魔物が増えている話は、お前も聞いたはずだ」
「き、聞きましたが…………それなら、僕が違うものを用意すると申し上げたではありませんかっ…………」
「そんな、できるかどうかも分からないものを待つことはできない」
「お待たせなんていたしません!!」
「……いい加減に黙れ……それがこの領地のためだ」
「でもっ……!」
懲りずに食い下がろうとすると、ベリレフェク様は少し口調を強くして、僕の声を打ち消すように言う。
「それより、お前の処遇だ」
「……処遇?」
「長くここに置いてもらっていた恩も忘れ、領主に盾ついた。これは反逆だろう」
「はっっ……反逆!? そんな…………僕は……」
「こうして今逆らっていることがその証拠だ。そんなつもりがないと言うなら、領地のために役に立て」
「それは構いませんが、僕の話がまだ終わっていません!! あっ……あの杖を返してください!! あれ、僕が強化したんです!! あれがないと僕は魔法が使えません!」
「使わなくていい。諦めろ」
「嫌ですっっ!!!! あれは大事なものなんです!! 返してくれないなら……勝手に探しますっ!!」
勢いで叫んで、僕は彼らに背を向け走り出した。
反逆? なんでそんなことになるんだ。僕は、杖を返してほしいだけ。
「おいっ……!! 待て!!」
叫んで追ってこようとしたのは領主様。
待ったって、杖を返してくれないくせに!!
彼に向かって振り向き様に、僕は、魔法の道具を投げつけた。それは、捕縛の魔法に使う小さな鎖の塊のようなもの。これでみんなを拘束して逃げてやる!
僕が魔力を注いだそれは、破裂するように鎖を飛び出させて、激しい光とともに風が辺りに四散する。
さっきの仕返しだ!!
この場にいる人全員を捕まえて、僕は逃亡…………するはずだったけど、それは不発に終わる。だって全部の鎖は彼に届く前に勝手に光に戻って消えて行く。結果、少し眩しい光がほんの少しの間光っただけ。どうやら込めた僕の魔力があまりに少なすぎたらしい。
……相変わらず、僕って魔法の道具を使うの下手だなー……魔法も下手だし、魔力も大してないし、僕自身、ほんの少しの魔力でも使うのが苦手。
ただ、相手をびっくりさせて怯ませることだけはできたみたいだ。
周りの護衛たちもまさか僕が反撃するなんて、思ってなかったんだろう。全員すぐに領主様の安全を確保しに彼のそばに走ったみたいだけど、その隙に、僕はそこから逃げ出した。
「待て!!」
背後でそう叫ぶ声がする。領主様の声だ。
だけど、絶対に待ったりできるもんか!!
……領主様に反逆の疑いをかけられた…………
もう、この城にはもういられない!
捕まったら絶対に、惨たらしいやり方で処刑されるっ……!!
余計なことを言ったからか? 今さら後悔するけど、嫌なものは嫌だ!
逃げる僕を、兵士たちが追ってくる。
なんでこうなるんだ……僕は、反逆なんて言われることをしたのか?
大事な杖を返してくれって、そう言っただけじゃないか!!
それを取り上げる奴に、これ以上奉仕なんてで切るかーーーー!!
領主様の馬鹿!!
これまで耐えて来たけどっ……もう、こんなところ、断罪される前に出てってやる!!!!
領主様のバーーーーカーーーー!!
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