ドジで惨殺されそうな悪役の僕、平穏と領地を守ろうとしたら暴虐だったはずの領主様に迫られている気がする……僕がいらないなら詰め寄らないでくれ!

迷路を跳ぶ狐

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3.こんな馬鹿だとは知らなかった

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 逃げる僕を、背後から兵士たちが追ってくる。

 僕を舐めるなよ……僕はドジだし馬鹿だし、いつも笑われてるけど、逃げ足だけは早いんだからな!!

 逃げ出した体に、魔力を込める。体に力が湧いて、体が一気に軽くなる。強化の魔法だ。これで走って飛べば、なんとか逃げ切れるかも……

 そう思ったのに、背後から激しい怒鳴り声がする。いくつも声が上がれば上がるほど、恐怖が増していく。

 そんなにまでして僕を捕まえたいかよっ……

 そんなに領主様、怒ったのか?? ……怒りそうだけど……

 僕、色々迷惑かけたしなーー…………本当は、もっと役に立ちたかったのに。

 ……僕じゃ無理か……

 逃す前に、これまでの鬱憤を晴らしたいって思われてそうだ。

 廊下を走って逃げる。走る先に見えてきた庭につながる扉を、僕は思いっきり開いた。

 扉の外は広い庭。広がる花畑は全部魔力を持ち、その向こうの木々も、魔法の道具の材料になるものばかり。遠くには、山脈が見えて、広い森が続いていた。

 無事に外に出られた。

 あの森を超えてその向こうまで行って、隣の領地に入ってしまえば、領主様だって、なかなか追っても来ないだろう。

 だけど、逃げようとしたら、空から魔法で何人も兵士が降りてくる。あっという間に僕は囲まれ、庭に並んだ何人もの兵士が魔力を帯びている剣を僕に向けていた。

 う、嘘だろ…………

 僕一人を捕まえるために、どれだけ戦力集めてるんだっ……

 どうかしてる……

 領主様、本気で怒ってるんだ。どうしても、僕を逃さない気だ。昔から、逆らう人には容赦ない人だったから……

 でも、だからってこんなに差し向けなくてもいいじゃないかっ!!

 ここに残ったら、僕を待っているのは、反逆者に対する尋問と罰。領主様は反逆なんて許さないけど、そんなことをも利用する人だ。きっと、城にいるみんなや領民たち対する見せしめとして、僕を痛めつけるだろう。

 逃げなきゃ……

 こうなったらみんな振り切って、空に逃げる!! こんなところで捕まってたまるかーー!!

 ポケットから取り出したのは、小石のような形をした魔法の道具。魔法を強化するためのものだ。僕の魔力だけじゃ逃げ切れなくても、これで空を飛ぶ魔法を強化して逃げればいいんだ!!

 魔法で空に飛び上がった僕だけど、握った魔法の道具からチッと、何かが擦れるような音がした。そして、それから湧き出した光が一気に破裂して破片のようになって、僕に向かってくる。

 あ………………しまったあああああっっ!! …………これ、魔法を強化するための道具じゃない!! 魔法の弾で魔物から身を守るためのものだ!! しかも、強化しすぎたやつ……そっくりだから、間違えた!!

 爆風で僕の体は空高くまで飛ばされた。溢れた風は僕の体を切り裂いてしまう。

「いっっ…………!!」

 身体中が、恐ろしいくらいに痛んだ。飛び上がった体から、血が吹き出して周りに舞っていた。

 嘘だろ……こんなことで…………僕は死ぬのか?

 地上を見下ろせば、みんなが僕を見上げて、ポカンとしている。いきなり僕が飛び上がって爆発して血まみれになってるんだ。ポカンともする。

 もう……嘘だろ。バカすぎる…………

 なんで……こんなことに……

 僕のバカあぁぁぁぁぁ…………

 なんだか頭がふらふらしてきたあ……

 もう力も残ってなくて、僕の体は落ちていく。

 眼下には、領主様の広い城。

 あーあ……なんでこんなことになっちゃったんだ。

 こんなに大きな城に迎えられた時は、本当に嬉しかった。領主様が僕を迎え入れてくれるなんて、こんなことあるのかって、信じられなかった。

 大きな城では魔法使いや剣士たちが、こっちを見上げている。風に木々が靡いて、城に設置された、結界のための魔法の道具が、魔力を湛えて光り輝いていた。

 すごい…………綺麗……

 それなのに、僕の血ばかりで霞んで見える。

 そうだ。僕……こんなものをどこかで見た。

 この城に来てから、ずっと僕、何かおかしかったんだ。たまに頭がくらくらしていたし、この城全部、どこかで見たことがあるような気がした。

 なんだけど、今はそれどころじゃない。

 何しろ僕は、今空高く飛んで死にかけてる最中。

 地面が近づいてくるのなんて、とても見ていられるもんじゃない。
 吸った冷たい息が喉から全身に広がるようで、気持ち悪くて、ひどく寒い。全身の体温を抜かれたようで、吐きそうだ。
 指先の感覚もないのに、体の中に恐怖だけが広がって、凍るように冷たくなるのが自覚できるようだった。

 強く目を瞑る。

 もう死ぬんだ……そう思ったのに。

 落ちていく僕の体は、誰かの力強い腕に抱き止められた。

 落ちる感覚も消える。ずっと誰かに抱っこされてるみたいだ。

 僕は、恐る恐る目を開けた。

 すると、すぐそばに領主様の顔があった。

「わっっ…………」

 びっくりした。

 なんで領主様が……

 なんて思ってる間に、すぐに地面に放られた。

「わっ!!」

 いった…………地面にいきなり捨てられて、体を打った。

 どうやら、庭に下ろしてもらえたみたい。かなり乱暴に。

 だけど、なんで僕、領主様の腕の中になんていたんだ?

 ………………もしかして、領主様が空を飛んで、落ちる僕を抱き止めてくれたのか??

 それに、暴走した魔力に負けて傷ついた僕の体も、すっかり回復している。

 なんで……領主様が……

 領主様はいつもと同じひどく冷淡な目で、僕を見下ろしていて、何も言わない。

 僕は、まだ怯えたままゆっくり口を開いた。

「……あの、も、もしかして、か、回復の魔法、かけてくれたんですか? …………あ、ありがとうございます……」
「…………自分で飛び上がっていって勝手に切り刻まれて落ちてくるほどのバカだとは知らなかった」
「……………………」
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