ドジで惨殺されそうな悪役の僕、平穏と領地を守ろうとしたら暴虐だったはずの領主様に迫られている気がする……僕がいらないなら詰め寄らないでくれ!

迷路を跳ぶ狐

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4.なんで勝手に危機に陥ってるんだ……

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 助けてくれたのに、早々に馬鹿扱いする領主様に向かって、僕は叫んだ。

「ば、馬鹿じゃありません!!!! その……ち、ちょっと失敗しただけで…………」
「何がちょっと失敗だ。勝手に大怪我をしておいて、よくそんなことが言えたな……呆れた馬鹿だ。俺が結界で守らなければ、破裂した魔力の弾は俺の城まで襲っていたかもしれないんだぞ」
「…………っ! そ、それは……本当にっ……申し訳ございません!」

 地面に顔をつけて平伏する僕。

 ……そうか……僕が魔力の弾を破裂させて勝手に落ちている間に、領主様が城を結界で守ってくれていたんだ。もう少しで、この城まで傷つけるところだったんだ……

「……ほ、本当に……あ、ありがとうございますっ……! 僕に回復の魔法までかけていただいて……」
「…………回復したつもりはない。貴様…………さっきから何を勘違いしているんだ?」
「え……?」

 言われて顔を上げて、やっと異変に気づく。

 …………両手がうまく動かない……僕の両手に手枷がつけられている!

「あ、あの…………領主様…………こ、これは…………?」
「手枷だ。また逃げられては困るからな」
「ひっ…………!!」

 やっぱり領主様…………怒ってる。魔法の杖を僕に向けて、ひどく冷たい声で言う。

「落ちて死なれては、見せしめに拷問することができない。だからそうして回復して拘束してやったんだ」
「………………」
「貴様…………以前から思っていたが、やはり反逆の意思があるのか?」
「ま、まさかっ…………そんなのあるわけありません! 反逆なんてそんなこと……」

 弁解するけど、領主様は厳しい顔で僕を睨むばかりだ。

 ……すごく疑われている…………本当に、領主様に逆らうつもりなんてないのに……

 だって領主様はいつも怖い顔をしているけど、僕のことを助けてくれたんだ。

 昔からこんなふうに間抜けだった僕は、一族から恥晒しと言われていた。僕を疎ましく思っていた彼らは、なんとかして僕を消したいと思っていたらしく、ある日、一族が従者の魔法使いの練習台として僕を使ったらどうかと相談をしているのを聞いてしまった。従者のために散った魔法使いだと言って、僕をなんとかして処分したいと思っていたみたい。
 それから程なくして、一族に、魔法の研究の会議のためだと言われ、この城に連れてこられた僕は、一族と領主様が挨拶をしているのを見て、怖くなった。ここの領主様が、ひどく残虐なやり方で人を傷つけるって話は聞いていたし、一族からも、この領地で毒の魔法の研究が行われていることを聞かされていた。だから、領主様の前に連れて行かれたら、毒の魔法の威力を試すために鎖に繋がれて魔法をかけられるんだと思ったんだ。
 だけど、会議室からこっそり逃げた僕は、廊下で領主様に激突、しかもその時も今と似たようなドジを踏んで廊下で魔法の道具を暴走させて、頭から花瓶の水をかぶって、吹き飛んだ観葉植物で窓を割って照明を壊した。今思うと、もう真っ黒に塗り潰してなかったことにしたいくらい馬鹿だ。

 不敬を働いた僕に、一族は激昂。そのまま当主に殴り殺されるかと思ったくらいだ。

 だけど、領主様が彼らを止めてくれた。

 一族を怒らせ、めちゃくちゃに恥をかかせた僕はその場で勘当され、領主様の城に捕らえられた。魔法を暴走させたことで、領主様を害する意思があったんじゃないかと疑われたんだ。
 絶対に殺されるんだと思ったけど、しばらく投獄されただけで済んだ。疑いは晴れたけど、一族には追放された僕に、領主様はそのまま仕事を与えてくれた。領主様には散々詰られて罵倒されたけど、僕にとってはありがたかった。

 周囲の貴族たちは、「元貴族の魔法使いを好きに扱えることになって、便利なものを手に入れたと領主はほくそ笑んでるんだろう」なんて、勝手な噂を流していたけど、僕がしていたのは、魔物退治に出かけるための準備。
 魔法の道具を準備したり武器を用意したりと仕事は多岐に渡り、大変なわりに討伐の失敗の責任を押し付けられやすいから、誰もやりたがらない。陰で、「貴族の魔法使いなのに、なんて可哀想なんだ」なんて囁かれて、囚人の召使いだ、なんてからかわれることもあったけど、僕はそんなこと思ってない。死ぬような恐ろしい目にあったこともない。自分でドジを踏んで死にそうになることは多かったけど……だからかな? 誤解されていたのは。

 この城に来た時にも、魔法の威力を試すために使われるかもって思ったけど、それは僕の勘違いで、元から領主様はこういうつもりだったらしい。

 ……僕の馬鹿………ごめん…………領主様。

 散々迷惑をかけたのに、それでもここに置いてくれた領主様には感謝してる。

 だから少しは役に立ちたいのに……

 僕はいつも失敗しちゃうんだよな……今だって、領主様の城を傷つけるところだった。きっと領主様だって、さぞかし後悔しているだろう。

 だったら、僕は出ていくべきだ。だいぶ前からそう思っていたんだから、早くそうするべきだったのかもしれない。まさか、反逆の疑いをかけられてしまうなんて。

 もう領主様は僕のことなんてまるで信じていないだろう。僕を睨みつけて言う。

「貴様のような無能が反乱を考えるとは思いたくなかったが……いい機会だ。この場で拷問してどう言うつもりか聞き出してやろう」
「お、おお、お待ちください!! 本当に、誤解です!」

 叫んでも、領主様は怖い顔。今にも鞭を握りそうな顔してる。このままじゃ、本気でなぶり殺しにされちゃうかもしれない。

 散々迷惑かけたし、出て行けと言われたら出て行くから、拷問はやめて欲しい!

 僕が今にも泣きそうになっていると、領主様のそばにベリレフェク様が歩み寄った。

「お待ちください。それよりも、重要なことがあります」

 ……ベリレフェク様、僕を庇ってくれているのか? いつもは僕に厳しくて、目があっただけで殺されちゃいそうだって感じることが多い。いつも僕を見下ろす目の冷たさで言えば、領主様をはるかに凌駕するくらいなのに。

「反逆の意志など、この男が一人で持つわけがありません。おそらく誰かに入れ知恵されたのでしょう。すぐに捕らえ、黒幕を吐かせるべきです」

 怖いこと言い出した……!!

 この人に連れて行かれたら、地下牢でずっと陰湿に嬲られそうだ。ベリレフェク様は領主様よりずっと怖いからな……

 だけど、なんで僕が反逆なんて話になるんだ…………僕はいつも、こんなふうに誤解されてばかりだ。

 それがひどく不思議だったけど…………

 突然、合点がいくような気がした。

 そうだ………………僕、こうなるのを知っていたんだ。

 僕……悪役なんだ。

 それに、ここにいるみんなも。

 みんな悪役で、この城も………………いや、城どころか領地ですら、いずれ悪役として扱われて、惨劇に見舞われるんだ……

 やっと、思い出した。ここは、前世で僕がやってたゲームの世界だ。

 そうだ…………こ、こんなことしてる場合じゃない!!

 このままだと、僕らはみんな、王家に逆らおうとしたと疑われて断罪され、悲惨な未来を迎えることになる!!

 こんなことをしている場合じゃないんだっっ…………!!

「あ、あのっ…………! 領主様!!」
「どうした? 嬲り殺しにされる決意ができたか?」

 領主様は、すでに魔法で呼び出したらしい鞭を握っている。

 …………未来で断罪されるより先に、今ここで領主様に断罪されて殺されそう…………なんで勝手にゲームにはなかった断罪の危機に陥ってるんだ、僕。
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