【本編完結】ネコの慰み者が恋に悩んで昼寝する話

迷路を跳ぶ狐

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1.緊張する……

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「……お前、今日からオーフィザン様の性奴隷ってマジ?」

 窓を拭いていた親友のシーニュに聞かれて、僕は、ほうきを動かす手を止めた。

 認めたくないけど、頷くしかない。

「うん……多分本当……オーフィザン様、この猫耳を見て、したくなったらしいんだ。好奇心だよ」
「耳でか? オーフィザン様、猫好きだったかな……? 聞いたことないぞ」
「間違いだったら嬉しいけど……」

 多分、ないよな……

 ああ、嫌だなあ……オーフィザン様、優しい人だと思ってたのに……

 僕はクラジュ。この城の奴隷。森の中に住む狐妖狼こようろう族っていう種族で、狼の耳と狐の尻尾があったんだけど、今はどっちもない。代わりに、肩に着く前に自分で適当に切った、ちょっと薄汚れた茶色い髪に隠れて、猫の耳がある。

 一年前、この城の敷地内の森に迷い込んで、柿を盗み食いしてから、ずっとここで奴隷として働いている。

 あの時は、お腹が空いて、ちょうど見つけた木になっていた柿を勝手に食べてしまったんだ。自生してる柿かと思ったら、この城で育てているものだったらしく、城の主、オーフィザン様に捕まって、奴隷として働くように言われた。

 奴隷っていうから、毎日血反吐を吐くまで働かされるか、いいように弄ばれて死ぬか、どっちかだと思ったのに、待っていたのは割と普通の生活だった。
 仕事も掃除くらいしか言いつけられないし、訳もなく理不尽に鞭で打たれたりもしない。粗末でも食事ももらえて、寝床ももらえた。

 ずっと住む場所もなく、森の中をウロウロしていた僕にしてみたら、やっと家ができたようなものだ。

 だから、オーフィザン様には感謝していた。それなのに、急に性奴隷になれなんてひどい。

 ずっと奴隷だった僕が、なんで急にそんなことを言われるのか分からないけど、今朝、執事のセリューに言われたんだ。 お前は今日からオーフィザン様の性奴隷になってもらうって。

 あの仕事一筋って感じの真面目な人が、主人のオーフィザン様の命令を間違って伝えるなんて、ありえない。

 ああ、気が重い……掃除なんて放棄して、庭で寝ていたい。

 セックスどころか、キスだってしたことない僕に、そんなことできるわけない。

 だけど、嫌ですって言うことはできない……やれって言われたらやるしかないんだ。

 暗い気持ちで、掃除に戻る。

 今は、城の中にある小さな部屋の掃除中。お昼ご飯食べた後だから、眠くてなかなか掃除なんて進まない。ついでに性奴隷のこと思い出しちゃって、ますます手が動かなくなる。

 僕は落ち込んでいるのに、シーニュは励ますどころかため息をつく。彼はこの城で、唯一の僕の友達。人族で、面倒見がよくて、僕よりちょっと背の高い、お兄ちゃんみたいな人。

「なに落ち着いてるんだよ。性奴隷だぞ。なにするか知ってるか?」
「……知ってるよ……なんか……えっちなことするんだろ?」
「……お前、やっぱり分かってないだろ。分かってたら、今頃スルメ食べながら掃除してない!」

 シーニュが、僕が食べていたスルメを指す。せっかく久しぶりに手に入ったスルメなのに。

「……だって……スルメ、好きだから……」
「……そのスルメ、どうしたんだ?」
「……台所にあった」
「どうせ盗んできたんだろ! 懲りない奴だな!」

 そんなことを言われても、僕はスルメが大好きなんだ。

 シーニュは、またため息をつく。

「お前には無理だよ」
「……なんで?」
「だってお前、すげえ恥ずかしがり屋じゃん。オーフィザン様の機嫌を損ねるだけだ」

 そう言われると、そんな気がしてきた……機嫌を損ねたらどうなるの? も、もしかして、殺されるの……? 

 怖くて、泣きそうになってきた。

「ぼ、僕……死ぬのかな……?」
「……スルメ、口から出てるぞ。食いながら泣くな。かわいそうに見えなくなるから」
「ええー……」

 仕方なく、もったいないけど、全部飲み込んでおく。
 ちょうどそうしたところで、執事のセリューが、部屋のドアを開けた。
 いつも黒い燕尾服を着た、少し伸びかけた髪も目も青みがかった黒の細身の人で、いつも僕に厳しいんだ。

「クラジュ、来なさい。オーフィザン様がお呼びです」
「え!? も、もう!? 昼ですよ!?」
「口答えをするな」

 セリューが鋭い目で僕を睨む。この人は、僕を嫌っている。

 スルメ、飲み込んでおいてよかったー。盗み食いの件がばれたら、また怒られちゃう。

 僕は、大人しく返事をして、セリューについていった。







 オーフィザン様の部屋に来たのは初めてだ。このあたりは、セリューみたいな執事が掃除しているから、僕はあまり来たことがない。

 部屋の扉は、見上げるほど背が高い。僕を縦に五人積み上げたくらいありそう。

 こんな扉、どうやって開けるんだろうって思っていたら、セリューは取り出した鍵をドアの前にかざした。

 すると、ゆっくりと扉が開く。

 すごい……これが魔法か……

 オーフィザン様は、竜と魔族のハーフで、高名な魔法使いらしい。僕よりずっと背の高い、真っ黒な長髪の人で、初めて会った時は、こんな綺麗な人いるんだって、びっくりした。魔法で作り出した便利な道具を国王に献上したりしていて、王様とも仲がいいらしい。

 すごい人なんだろうけど、ドアは普通にドアノブ動かしたら開く方が便利なんじゃないかな……??


 セリューが、開いたドアの前で頭を下げる。

「オーフィザン様、クラジュをお連れしました」
「……来い……」

 オーフィザン様の声、久しぶりに聞いた……

 オーフィザン様は、あまり部屋から出て来ない。出てきても、すぐに城の外へ出かけてしまう。

 秘密だけど、たまに城で見かけると、ドキってしてた。やっぱり格好いいなって思うから。

 それが恋心なのかと考えた時もあったけど、多分違う。だって僕、人見知りだから、慣れた人以外の前では、必ずドキドキして緊張しちゃう。

 オーフィザン様に対しても、見るだけで緊張しているだけなんだと思う。



 僕は、セリューの後に次いで、部屋の中に入った。

 うわあ……オーフィザン様の部屋、初めて入った。すごい……キラキラした家具みたいなのが並んでる。

 部屋の一番奥にある、ものすごく広いベッドの上で、オーフィザン様はこちらを見ていた。

 長い黒髪がベッドに垂れていて、少し眠そうな顔をして、ゆったりとした黒い服と、いつも着ているマントを羽織っている。

 オーフィザン様に会うのも久しぶり。前は確か廊下で見かけた時だから、もうだいぶ前だ。な、なんだか、緊張してきた。

 オーフィザン様が、ベッドの上で、僕に微笑んだ気がした。

「遅かったな……セリュー、お前はもう下がれ」

 セリューは返事をして、僕を残し、部屋から出ていく。

 二人だけになった部屋。

 僕よりずっと背が高いオーフィザン様が、ゆっくり近づいてきて、ますます緊張する。

 顔をあわせるのが怖くて、僕はずっとうつむいていた。心臓がこれまでにないくらいドキドキしてる。

 な、何をされるんだろう……せ、せせ性奴隷って、何するんだ? シーニュにはあんなこと言ったけど、なんとなーく、えっちなことをする、くらいの知識しかないんだ。

 へ、下手くそだったら怒られるのかな? 怖い……怖いけど、逃げることはできない。

「どうした?」
「あ、い、いえ……な、なんでもございません……」
「そうか? 緊張しているように見えるぞ」
「……」

 バレてる……

 緊張はして当然じゃないのかな……

 ちょっとだけ見上げると、オーフィザン様は、こっちを見て微笑んでいた。少し、意地悪な感じの笑顔だった。

「前の奴は、少し魔法でいじめたら逃げてしまった。今日からは、お前が俺の相手をしろ」
「……はい」
「経験はあるか?」
「……け、経験? なんのですか?」
「もういい。分かった」

 わ、分かった? 何が? 経験あるかないか? 僕は質問の意味すらわからないのに、なんで返事が分かるの? もしかして、それも魔法??

 キョトンとする僕の髪に、オーフィザン様が触れてくる。

 うわ……く、くすぐったい!!

 触れられた感触にびっくりして、僕の体がびくって震えた。

 す、すぐそばにオーフィザン様がいる……こんなにそばに、こんなに綺麗な人が……

 ただでさえ、僕はものすごく人見知りなのに、こんな人がそばにいると、それだけで心臓が痛いくらいに鳴る。

 なんだかクラクラしそうな香りがしてきた。香水かな?

 すごくいい香りなんだけど、酔っ払いそう。お酒の匂いじゃないはずなのに……

 だけど、僕の方は髪すら洗ってない!! それに、朝からずっと働いてたのに、体も洗っていない!!

 髪の毛、臭くないかなあ……体、洗いたい……

 オーフィザン様は立派な格好をしているのに、僕は薄汚れた簡素な服を着て、体だって多分汗臭い。

 なんだか、目の前の人と自分を比べて、恥ずかしくなってきた。

 カタカタ体が震えてくる。

 オーフィザン様に触れられるたび、髪が動く。

 触られてる……オーフィザン様に……髪、動かされてる。頭皮見えちゃう。頭皮って、だからなんだって感じなんだけど、恥ずかしいものは恥ずかしい。頭の耳がずっとピクピクしてる。

 もう無理。

 は、早くやめてくれないかな……恥ずかしいよ……

 不意に、髪を撫でるオーフィザン様の手が止まった。

 よかったー……やめてくれた。

 ホッとする僕に、オーフィザン様が首を傾げて言った。

「どうした? 怖いのか?」
「い、い、いえ……は、は、は、はは恥ずかしくて……」
「……恥ずかしい?」
「はい……」
「………………髪を触っただけでか?」
「はい……あの……し、仕事の途中で……か、体洗ってないので……」

 すると、オーフィザン様は、少し笑って言った。

「では、まずは風呂の入り方を教えてやろう」
「え? は、入り方?」

 お風呂って、入り方なんかあるの? 体洗うだけじゃないの?

 不思議に思うけど、オーフィザン様は間髪入れずに言う。

「さあ、行くぞ」
「は、はい……

 ついていくしかないのかなあ……うー……緊張する……
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