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18.本当はすごく感謝してるのに
しおりを挟むオーフィザン様、怒ってるかなあ……香炉も直せなかったし、きっとまたお仕置きされる。嫌だけど、仕方ない。謝りたいけど、きっと聞いてくれない。それに、前を歩くオーフィザン様の背中から、怒りのオーラが出てる気がして、話しかけられない。
部屋を出て廊下に出ると、そこでオーフィザン様は足を止める。
この部屋を出たら、左右に廊下が伸びているはずだったんだけど、僕が歩いてきた方が、壁になっていた。確かにこっちから僕は歩いてきたはずなのに。
「あ、あの……こ、これ……」
「この部屋にある物を持って逃げられないようにするための仕掛けだ」
「え?」
「裏口から外に出る。行くぞ」
「は、はい!」
オーフィザン様は、僕が来た方とは逆の、奥へ向かうはずの廊下を歩いて行く。近寄りがたくて、ちょっと離れて僕は歩いた。
大切な魔法の道具を壊しちゃって、オーフィザン様、絶対怒ってる。壊すなって言われたのに、壊しまくった僕が悪いんだ。
あの瓶があった部屋は灰まみれにしちゃったし、瓶は割っちゃった。あの木だって、あんな魔法をかけてまで守っていたんだ。きっとすごく大事なものなんだろう。
き、聞いてみようかな……大事なものなんですかって。
大事に決まってるんだから、聞くまでもないか……それより……やっぱり謝らなきゃっ!!
「お、オーフィザン様!!」
つい、力が入って、大きな声で呼び止めてしまった。地下の暗くて狭い廊下に、僕の声が響き渡る。
オーフィザン様は、無言で立ち止まった。振り向いてもくれないから、なんだか怖くて、声が出せなくなる。
だ、ダメだ! こんなんじゃ!! ちゃんと謝らなきゃ!!
「お、オーフィザン様……ぼ、僕……僕、あの……あの……ほ、本当にごめんなさい……僕……あの……ちゃんと罰を受けます……ほ、ほ、本当にごめんなさい……ごめん……なさい……」
僕、何してるんだろう……香炉どころか、ますますたくさん壊して、オーフィザン様に迷惑かけて……
どうしよう……また、オーフィザン様の大切なもの、壊しちゃった……オーフィザン様は、僕を助けてくれたのに……今だって、ぬいぐるみもとってくれたし、体も治してくれたのに……
本当はすごく感謝しているのに、僕のやることはいつもうまくいかない。情けなくて、涙が出てきた。
オーフィザン様が近づいてくる足音がする。すぐそばまで来たことが分かっても、僕は顔を上げられなかった。
自分がしたことを思うと、もうオーフィザン様の顔を見ることができない。
僕は、しばらく下を向いて泣いていた。だけど、オーフィザン様はなにも言わないし、何もしないから、だんだん怖くなってきて、ますます涙が出てくる。
「お、オーフィザン様……ぼ、ぼ、僕──え? わ!」
え? え? 絶対怒ってると思ったのに、なんで抱きしめられるの?
ぎゅうって力を入れて抱きしめられて、すごくびっくりしたけど、その力強い腕の中にいることが気持ちいい。あったかいし、ずっとここにいたくなりそう。
オーフィザン様は、黙って僕をずっと抱きしめていた。
一体、どうしたんだろう……? 何でこんなことするの??
不思議に思っていると、オーフィザン様は唐突に言った。
「魔法を解いてやる」
「え? え? 今ですか? いた!」
急に背中に手を回され爪を立てられ、びっくりした。
こんなところで魔法、解くの? 地下の廊下だよ? なんで急にそんなことを言うの?
「い、痛い……痛い!!」
刺された爪が、僕の背中に食い込んでくる。
痛い……肌が裂けてしまいそう。だけど我慢しなきゃ。きっと、これがお仕置きなんだ。だから、我慢しなきゃ……
「う、う、うう……ぐ……」
我慢しなきゃ……だけど、今までで一番痛くて、刃物で刺されているみたい……
我慢……しなきゃ……
痛すぎて涙が出てくる。気が遠くなりそう。我慢しなきゃ……
耐える僕から、オーフィザン様は急に爪を抜いた。え? なんで……急に……
オーフィザン様を見上げると、彼はボソッと呟いた。
「すまん……」
「え?」
「焦っていた……」
「な、何をですか?」
「……行くぞ……」
え? え? 突然、なに? 魔法、解かなくていいの?
オーフィザン様は、僕を置いて奥へ歩いて行ってしまう。
急にどうしたんだろう……なんだか今日のオーフィザン様、ちょっと変だ。
立ち尽くす僕に、オーフィザン様は振り向いた。
「早く来い」
「は、はい!」
慌てて、僕はオーフィザン様について行った。オーフィザン様は、なにも言わずにどんどん奥へ進んでいく。
「あ、あの……オーフィザン様!」
僕が呼ぶと、オーフィザン様は、今度は振り向いてくれた。
「なんだ?」
「あの……な、なんで……魔法を解きたいんですか?」
「…………」
珍しいな……オーフィザン様が黙りこんじゃうなんて。
なかなか答えてくれなくて、僕は不安になってきた。
も、もしかして、聞いちゃダメなことだった? それならそう言ってくれて構わないのに……
しばらく経ってから、オーフィザン様は僕から顔をそらしたまま、小さな声で言った。
「いずれ話す……」
「は、はい……」
よかった……オーフィザン様、答えてくれた。だけど、歩き出したと思ったら、すぐにまた僕に振り向いた。
「お前はなぜここへ来たんだ?」
「え? あ、あの……オーフィザン様に連れてこられて……」
「その前だ」
「あ……」
その前って……僕がここにくる前ってこと……? あまり思い出したくないけど、そんなのだめかな……?
オーフィザン様は、低い声で僕に言った。
「話せ」
「……………………た、食べ物が欲しくて……お腹が空いていたんです……それで……森を歩いていたら、柿が見えて……」
「お前は狐妖狼族だと言っていたな」
「はい……」
それは、僕がオーフィザン様に捕まった時に話した。
それなのに、なんでまた同じことを聞くんだろう。
「群れの連中はどうした?」
「……はぐれました……ぼ、僕だけ、猟師に捕まって……森で見つけた僕が珍しかったみたいで……」
「その耳も、その時につけられたのか?」
「はい…………もともとあった耳と尻尾を引きちぎられて、魔法でつけられました……」
「今、俺が解いている魔法もそいつがかけたのか?」
「多分……僕が耳と尻尾とられて、泣いてるのが楽しかったみたいで……これから毎日僕が苦しむところが見たいって言われて……それで……」
「だから逃げたのか?」
「はい……でも、耳も尻尾もなくなって、仲間の位置が探知できなくて……何日も森の中を迷っていたから……お腹が空いて……柿、ごめんなさい……」
「……あれは柿じゃない……」
「え?」
「さっきお前が地下で見たものと同じものだ」
「あの変な柿ですか?」
「変な柿じゃない」
「ご、ごめんなさい!!」
「あれは魔法の道具を作るための材料だ。柿に似ているが、木から外れればこうなる」
オーフィザン様が見せてくれたのは、さっき僕が見た黒い実だ。やっぱり魔法の木だったんだ。
「こう見えて、貴重なものだ。盗んでいくやつもいる。だから盗難防止のための魔法をかけていたんだ」
「あ、さ、さっきのエロい魔法ですか?」
「エロい魔法じゃない」
「は、はい!!」
「あの状態で木に登って実をもぐのは無理だろう?」
「……はい…………………………」
一応返事をしたけど、それなら、もう少し別の魔法をかければいいのにって思う。変な魔法使いっていうと怒るから、もう言わないけど……
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