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番外編2.出張中の執事(三人称です)
57.魔法使い
しおりを挟む「やめろーー! 本が燃えたりしたら、俺クビだ!! それどころか弁償だ!! 犬! お前にはわからないだろうが俺には死活問題なんだよ!! 降りてこい!!」
シーニュが大声で言うと、犬はビクッと震えてますます奥の方の本棚に飛び移ってしまう。
セリューは慌ててシーニュの口に手を当てた。
「あまり脅かすと、また逃げられます」
「じゃあ、どうやって捕まえるんですか!」
今度はダンドが、犬の絵が描かれた本を持って来る。
「これ使ったらこっち来るんじゃないですか?」
どうして本を使えば犬が寄ってくると思えるのか理解できず、セリューはダンドに聞いた。
「そんなものでおびき寄せられますか?」
「縄張りを荒らされたと思って、飛びかかってくるかもしれません」
「な、縄張り?」
「はい」
ダンドが本を掲げて犬に見せる。馬鹿らしいと思ったが、一瞬だけ、犬がこちらに振り向いた。それを成功と受け取ったらしく、ダンドはセリューとシーニュに振りかえる。
「一瞬、こっち見ましたよ! シーニュさん、バイトならもっと気がひける本、知りませんか?」
突然無茶を言われて、シーニュは困っているようだったが、声を小さくすることは忘れない。
「き、気がひける本? 犬の気がひける本なんか知りません! 犬の図鑑でも持ってこいって言うんですか?」
セリューにも、それが有効とは思えなかった。あれは犬の形をしているが、犬ではなくただの魔力の塊だ。
「こうなったら、網で捕まえましょう。シーニュさん、魔力を捕まえられる網はありますか?」
「あるわけないだろ! なんだよ、魔力を捕まえられる網って! なんで図書館にそんな装備があると思うんですか!?」
「そうですね……すみません」
つい、オーフィザンの城にいるときと同じように聞いてしまった。あそこに戻ればそれもあるが、今、城に戻るような暇はない。
「あ、毛、使ってみようかな……?」
ダンドが手を上げて、持っているものを犬に見せると、犬はそれに振り返り、毛をじっと見ている。よく見ると、それは動物の毛らしかった。いつ、どこから調達したのかは分からないが。
「いけるかも……呼んだら来るかもしれません! わんわんわん」
本をシーニュに任せ、ダンドが犬に向かって吠えると、犬はこちらに振り返り、しばらくダンドを見ていた。
シーニュが少し明るい声で言う。
「も、もしかして、いけるんじゃないですか? わんわんわん」
今度はシーニュが本を掲げながら鳴くと、犬はこっちに振り向いて、少しだけこちらに歩いて立ち止まる。
ダンドが歓声をあげた。
「ちょっと近づいて来ましたよ! いい感じです! セリューさん、いっぱい鳴けば来ますよ!」
「…………偶然だと思います。あれは魔力の塊で」
「まだそんなこと言ってるんですか? ただの魔力の塊なら逃げないでしょう。あれが燃えたらどうするんですか?」
「……」
すごく嫌だった。本当に有効なのかも分からない。しかし、あの犬が本に近づいて燃えたりでもしたら、この後の調査がやりにくくなる。
セリューは意を決して、犬に向かってないた。
「わ、わんわんわん……」
すると、犬はさっきよりこちらに近づいてくる。
ダンドがセリューの背中を叩いて言った。
「こっち来た! やっぱりこれならいけます!!」
「……」
「もう一回やりましょう!! あ、本も!! 適当なところまできたら、俺が飛びかかります!」
「……分かりました」
三人で何度か鳴くと、犬は少しずつこちらに近づいてくる。少し離れたところで立ち止まった犬を見て、ダンドがそれに飛びかかった。
しかし、犬は彼の体をすり抜けて、ドアの方に向かって走っていく。魔力なだけあって、ああいうこともできるらしい。
しかし、逃すわけにはいかない。セリューは香炉を持ったまま、走る犬に飛びついた。
それでも、やはり犬をつかむことはできず、体を床に打ち付けてしまう。すると犬は、倒れたセリューに振り向き、セリューが突き出した香炉に自分から戻ってくれた。
計画どおりにはならなかったうえに、犬にまで小馬鹿にされた気がするが、なんとか捕まえられて、ホッとした。
セリューは、シーニュに頭を下げた。
「ありがとうございました。シーニュさん」
「いえ。こちらこそ。俺、この仕事クビにされたら困るから、助かりましたー」
「バイトだと言ってましたね。貴族ではないのですか?」
「違います。農村から出稼ぎに来たんです」
「……農村……ですか?」
「はい。もともと、ここの近くの酒場で働いてたんですけど、そこ、不況で店をしめることになっちゃって。なかなか再就職もできなくて、もう別の町行くしかないかって思ってた時、たまたま会ったやつに紹介されたんです」
「ここの仕事を……ですか? ここは王立図書館ですよ? こんなところの仕事を紹介できるような人物と町で会ったのですか?」
「俺にもあれが誰なのか、よくわからないんです。酒場にたまに来ていた客なんですけど、町を歩いていたら、その人にたまたま会って、俺のところで仕事をしないかって言われて……でも俺、そいつのことよく知らなかったから、断ったんです。もう別の町へ行く気だって話したら、城下町の仕事を紹介してやるって言いだすものだから、ますます怪しくて。嫌だって言ったんですけど、全然きいてくれなくて、いきなり抱き上げられて、空飛んで城まで連れていかれたんです。そいつ、背中から羽が生えてて……マジで怖かったです」
「……」
自分が体験したことと似ている気がした。それに、そんなことができる者など、一人しか思いつかない。
けれど、そんなことを知る由もないシーニュは、頭をかきながら照れたように続ける。
「なんだか、嘘くさい話でしょう? 俺も夢見てるのかと思いました。そいつ、陛下の寝所の窓を蹴破って入っていくものだから、護衛の二人が馬鹿でかい剣下げて襲ってきて、すげーびっくりしました。殺されるか思ったけど、陛下が二人を止めてくださって、それからここの仕事を与えてくださったんです……って、ますます嘘くさいですね……」
ここまで聞くと、ダンドがセリューに耳打ちしてきた。
「セリューさん、シーニュさんが言ってる酒場の客って……」
「……はい。多分、オーフィザン様でしょう……」
二人が話していると、それが聞こえたらしく、シーニュが首を傾げる。
「二人とも、あの人を知ってるんですか?」
ダンドは、少し笑って、シーニュに答えた。
「それ……魔法使いだったんじゃないんですか?」
「魔法使い? はは……確かにそんな感じですね。そうでなかったら農村から出稼ぎに来た俺なんか、こんなところで働けません」
「そうじゃなくて……本当に、魔法使いだったんじゃないんですか?」
「は? 空飛んでたから、人間じゃないだろうけど……俺、魔法なんて見たことないから、魔法かどうかなんてわかりません」
「……多分それ、オーフィザン様です」
「オーフィザン? そういう名前なんですか?」
「はい。多分ですけど。俺を拾った時、そんな感じだったんです。いきなり現れて、俺の城に来いって言われて連れていかれたんです」
「俺と一緒ですね……あなたも城下町にいたんですか?」
「いいえ。俺の場合はここからずっと離れたところの港町です。その時はびっくりしたけど、今ではオーフィザン様に感謝してます。シーニュさんは、オーフィザン様のところに行く気はないんですか?」
「……給料いいなら考えるけど……」
「多分、諦めてませんよ。オーフィザン様」
「……マジか……」
「一度話してみませんか?」
「その、オーフィザン様とですか? ……でも、俺、実家の兄弟たちのためにお金送りたいんです。だから、稼げないと困るんです」
「心配いらないと思います」
「考えておきます……じゃあ、さっきの犬も魔法ですか?」
シーニュに聞かれて、セリューは香炉を見せた。
「魔法、というより、オーフィザン様がおつくりになられた道具です。これで、ここで魔力が使われたのか、調査していました」
「へえ……魔法の道具……初めて見ました……ん? これ、なんですか?」
シーニュは香炉に刻まれた、竜の形をした印を指している。
「それはオーフィザン様の印です。オーフィザン様が作られたものには、全てこの印があります」
「俺、これ、見ました」
「これを? どこでですか?」
「どこだったかなぁ…………」
「見間違いではありませんか?」
「いや……ああ、そうだ!! 指輪だ!」
「指輪?」
「コリュム様の指輪に描いてあったんです」
「……コリュムの?」
「はい。釘が打たれた日の朝早く、ここを開ける前、コリュム様が釘を見ていて……危ないですよって話しかけた時、見たんです」
「そうですか……しかし、よくコリュムに近づけましたね。護衛はつれていなかったのですか?」
「いましたよ。帽子かぶったやつが一人」
「その方はあなたがコリュムに近づいても、なにも言わなかったのですか?」
「え? はい……別になにも」
「そうですか……」
おかしいと思い、考え込むセリューに、ダンドが首を傾げて言った。
「危ないですよって言うくらいで文句言ったりしないでしょ。護衛の人だって」
「コリュムは城下町の方に触れられると、それだけで怒るので、護衛はそれを止めるはずです」
「……」
ダンドは顔をひきつらせるが、シーニュは平然として、セリューに言った。
「確かに、怒ってましたよ。コリュム様。近寄るな、無礼者って怒鳴られました。今じゃなかったら、捕らえて鞭打ちにしてやったって」
「今はまずいということですか?」
「そこまで分かりません。コリュム様はすぐに一緒にいた人連れて帰って行きましたから。だけど、すげー機嫌悪いみたいでした。領土の銀竜のこともだし、なんでもあの屋敷、最近不幸続きらしいじゃないですか。泥棒が出たり、この前はボヤがあったらしくて。いい気味……あ……あ! い、今のは冗談です……」
「ご安心ください。言いつけたりはしません」
「あ、ありがとうございます……」
「こちらこそ、日誌をありがとうございました。騒ぎを起こして、申し訳ございません。今日は帰ります」
「はい……あの……あなたたちは、城から来た貴族じゃないんですか?」
「私たちはオーフィザン様の城から、釘の事件を調べるために来ました。貴族ではありません」
「……一体、どんな人なんだ……オーフィザン様って……」
呟くシーニュの肩に、ダンドがポンと手を置く。
「会いたくなったら教えてください。あ、もしかしたら、同じところで働くことになるかもしれないんだから、シーニュって呼んでいい?」
「構わないけど……俺、そっちにはいかないと思うぞ……」
シーニュは少し疲れたように言った。
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