【本編完結】ネコの慰み者が恋に悩んで昼寝する話

迷路を跳ぶ狐

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番外編2.出張中の執事(三人称です)

58.取り引き

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 シーニュにまた明日と言って、セリューとダンドは日暮れ前に城に戻った。

 部屋に入ると、早速ダンドが昨日のようにベッドに寝転がる。

「ああー疲れた……」
「少し、城内が騒がしいですね……何かあったのかもしれません……」
「城なんて、どうでもいいじゃないですか。俺らの目的は、釘の犯人探すことなんだから」
「あなたはこの城に興味はないのですか?」
「ないですよ。オーフィザン様の城以外に興味なんてわきません。あ、セリューさん。セリューさんのことも、セリューって呼んでいいですか?」
「……構いませんが……なぜです?」
「そっちの方がいいから。俺のこともダンドって呼んで」
「……分かりました」
「敬語もやめていいよ?」
「私はこの方が、冷静でいられるんです」
「冷静……」
「………………何がおかしいのですか?」

 ダンドは口に手を当て、必死に笑いをこらえている。涙まで流していて、ひどく馬鹿にされている気がした。

「ご、ごめん……あ、えっと……む、無理しない方がいいんじゃないかな?」
「うるさいっ!! 短気なのは分かっている! 今、直す努力をしているんだ! 笑うな!」
「ごめんごめん……」

 謝られている気がしなくて、セリューがダンドに食ってかかっていると、こんこんと、ドアをノックする音が聞こえた。コリュムかと思って、すぐに返事をすることができないでいると、代わりにダンドがドアに向かってたずねた。

「誰?」
「……ティデュルです。お食事をお持ちしました。早く開けてください」

 確かに声は彼の声だが、なぜ陛下の護衛である彼が食事を運んでくるのか不思議だった。

 警戒しながらセリューがドアを開くと、外にいたのは確かにティデュルで、彼は食事を乗せたワゴンを押して入ってくる。

「食事です」

 そっけなく言って、ティデュルはテーブルに食事を並べ始める。

 ダンドが不思議そうに聞いた。

「人手不足なんですか?」
「はい。とくに、陛下をお守りする者がいません」

 ティデュルはうつむき、少し瞼を伏せて、三つのグラスにワインを注ぐ。それが終わると、ティデュルはこちらに振り向き、どこか冷たい口調で言った。

「二人とも、早く席に着いてください。僕もここで食事をとります。親睦を深めましょう」

 そう言う割に、ティデュルはこちらとまともに目も合わせようとしない。親睦を深めたいようには到底見えなかった。何か別に理由があって来たのだろう。

 セリューも席についた。とにかく、話を聞いてみなくては始まらない。

「陛下をお守りする者がいないのに、こんなことをしていていいのですか?」
「ですから、すぐに戻ります」
「何か話があるのですか?」
「セリューさん、何かわかりましたか?」
「なんの話です?」
「釘のことです」
「まだ何も……」
「……何か隠してるんじゃありませんか?」
「いいえ」
「では、友好の証として、取引しましょう」
「できません」
「なぜですか?」
「あなたとは、そういうことをする気になれません」
「……友好的に来たのに……」

 うつむくティデュルに、空になったグラスを置いてダンドが話しかける。

「ティデュルさん、いきなり取引なんて言われたら、怖いですよ。俺ら、ティデュルさんが何をしたいのかもわからないし、それじゃ話なんて、できないでしょう? 何が目的で来たのか、何をしたいのか、教えてください」
「……では、お話ししますので、決して他言しないように。僕の目的は常に、陛下をお守りすることです。そのために、セリューさんの意見が聞きたくて来ました」
「私の?」
「はい。僕とキョテルの二人で考えていても無駄なので」
「何があったのですか?」
「ヴァティジュ伯爵が、銀竜の件で増援増援とうるさいのです。明日から、兵士はほとんど、そちらに回ることになります」
「では、陛下もそちらの方へ向かわれるのですか?」
「いいえ。行くのは兵士だけです」
「伯爵はどちらに?」
「ここにいます。向こうの方はトライメトさんに任せているらしいです」
「…………ずいぶん、ゆっくり構えていらっしゃるのですね」
「普段、兵を率いているのはトライメトさんですから。ヴァティジュ伯爵は、銀竜の巣を探し出して追い払えと命じているようです」
「巣!? 銀竜の巣を……ですか?」
「はい」

 あの凶暴な銀竜の巣を探そうとするなど、正気の沙汰とは思えない。

 ダンドも驚いて言った。

「伯爵、頭大丈夫なんですか?」
「知りません。ただ、銀竜を根絶やしにしたいそうです」
「……本気? もしかして、怖すぎて狂ったんじゃないですか?」
「分かりません。でも僕は、ヴァティジュ伯爵が何か企んでいるような気がしてなりません。銀竜からの攻撃が激しくなってると主張していますが、ほとんど領地に被害はありませんし、銀竜の数は多いようですが、たまに現れ、外に出ている人間をからかう程度です。それなのに、増援だなんて、あのクソジジイ、怪しいんです」
「何かって、何を企んでいるんですか?」
「陛下を狙ってるんです」
「陛下を?」

 ダンドが首をかしげる。

 ヴァティジュ伯爵が今までそんなことをしたことなど一度もないはずだし、滅多なことを言えば、伯爵を侮辱したと言って、ティデュルが糾弾されてしまう。

「ティデュル、推測でそんな話をしてはいけません」
「分かっています。ですけど、あのクソジジイ、いつだってすきあらば陛下を後ろから刺してやろうと考えているに決まってます」
「……忠告を理解してください。何か根拠でもあるんですか?」
「セリューさんはおかしいと思わないんですか?」
「それは思いますが、銀竜が人間を相手に遊んでいるだけかもしれません」
「……僕はそうは思えません……」

 ティデュルはワインを飲み干してから、セリューに小さな袋を差し出した。

「これを」
「なんですか? これは」
「狐の毛です。釘が打たれた翌日、図書館に落ちていました」
「図書館?」
「はい。差し上げます」
「……どうも」

 ティデュルは手を合わせ、ごちそうさまと言って部屋を出て行った。相変わらず、王以外には全く愛想がない。

 ダンドも食事を続けながら言った。

「なんだか忙しそうだね」
「陛下のそばを離れたくないのです」
「……熱心だね……じゃあ、飲み直そうか」
「……あまり飲むと明日に響きます」
「そんな寂しいこと言わないで」

 ダンドはワインの瓶を取り、セリューのグラスに注いだ。
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