【本編完結】ネコの慰み者が恋に悩んで昼寝する話

迷路を跳ぶ狐

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番外編2.出張中の執事(三人称です)

78.エピローグ

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 翌朝、空は晴れていた。セリューは早朝から、馬車に荷物を積み込んでいた。これでやっとオーフィザンの城に帰ることができると思うとホッとする。

 今朝、まだ日も昇っていない頃に、セリューとダンドが寝ている部屋に現れたオーフィザンは突然「シーニュも今日一緒に行く」と言いだした。あれだけ行かないと言っていたシーニュを、どうやって口説いたのかは知らないが、オーフィザンの手の早いところだけはなんとか直してもらいたい。

 オーフィザンに渡されたシーニュの荷物と、城下町で買ったらしいたくさんの土産物のおかげで、荷物は来た時の倍以上になっている。それを運んでいると、額から流れた汗が落ちてきた。

 汗を拭って準備を急ぐセリューに、後ろから誰かが近づいて来る。

「おはようございます。セリューさん」

 振り向くと、立っていたのは嬉しそうな笑顔を浮かべたブレシーだった。

「ブレシー……おはようございます。どうしました?」
「見送りに来たんですよー。色々ありがとうございました。セリューさんたちのおかげで、助かりました。陛下も上機嫌ですよー」
「……ブレシー……」
「なんですか?」
「…………なんでもありません」
「そうですか? あ! また来てくださいね、セリューさん。僕、ほとんどなーんにもしないで兄さんが次期当主の座から消えて、こんなに嬉しいことはありません。トライメト兄さんだって、あなた方には感謝しています。父上の横暴を止めてくれたんですから。セリューさん、是非また来てくださいね。歓迎します」
「……何度も言いますが、私たちはあなた方に便利に使われるためにここに来たのではありません」
「まあ、いいじゃないですか。絶対また来てくださいね」
「……もう来ません。帰ります」

 とにかく、これ以上何か面倒なことの処理を押し付けられる前に帰りたい。

 急いで荷物を詰め込んでいたら、そこへキョロキョロしながらシーニュが歩いてくる。

「あ、せ、セリュー様。お、おはようございます……オーフィザン様に……ここへいけっていわれて……」
「あの方の城へ来る気になったのですね」
「……はい。図書館クビになって、行くところないので……あの、それより、やっぱり貴族の方だったんですね。セリュー様」
「いいえ。今は貴族ではありません。ですので、そんな呼び方をしなくて結構ですよ」
「い、いえ! 事情はよくわかりませんけど、俺、父ちゃんに、貴族の方には無礼を働くなって、子供の頃からずっと言われていたんです!! だから、これからよろしくお願いします! セリュー様!!」
「……分かりました」

 彼がその呼び方がいいと言うなら、今はそのままでもいいだろう。ここで長話をしていると、また誰かが近づいて来そうだ。面倒なことが起こるのはもうごめんだ。

 シーニュが来てからすぐに、オーフィザンもダンドを連れて城門の方から歩いて来た。

「セリュー、用意は終わったか?」
「はい」
「よし。帰るぞ。シーニュ、馬車に乗れ」

 シーニュは、緊張まじりに返事をして、言われたとおり馬車に乗り込み、窓から顔を出した。

「オーフィザン様! これからよろしくお願いします! ダンドも! よろしくな!」
「うん……」

 ダンドが笑顔で返事をする。どことなく、元気がないように見えた。それが心配になり、セリューはダンドに声をかけた。

「ダンド」
「ん? なに?」
「何かあったのか?」
「え?」
「顔色が悪いぞ」
「……ちょっと疲れた。帰って寝るよ」
「疲れたのなら、馬車は私が動かす」
「できるの?」
「ああ。お前はシーニュさんと一緒に客車で休んでいろ」
「……ねえ。セリュー」
「なんだ?」
「俺と駆け落ちしない?」
「……なにを言っているんだ?」
「オーフィザン様の城に帰るのはやめよう。帰っちゃダメだ。あの人、悪魔だよ!」
「……やはりお前は休んでいろ……疲れているんだ」
「俺、結構マジだよ?」
「私はオーフィザン様に仕える身だ。わかったら早く馬車に乗れ」

 セリューが呆れて言うと、ダンドは渋々馬車に乗り込む。けれど、すぐに客車から顔を出した。

「……後でまた誘うから」
「……無駄だ。もう寝ていろ」
「絶対誘う」

 ダンドは、一度セリューの隣のオーフィザンを睨んでから、顔を引っ込めた。

 これで、馬車の外に残っているのは、セリューとオーフィザンだけになる。

「馬車を頼んだぞ。セリュー。俺は空から行く」
「お待ちください……オーフィザン様……あの……」
「なんだ?」
「………………お返しするものがあります……こちらを……」

 セリューは、伯爵の名前が書かれた腕輪を差し出した。それを見たオーフィザンが、一瞬、動きを止める。そして、さきほどまでより緊張した面持ちで言った。

「……なぜ、これを俺に渡す?」
「…………陛下から預かりましたが、私に管理できるものではありませんので……」
「……そうか……」

 オーフィザンは呟いて腕輪を受け取る。

 本当はお礼を言いたかったが、それはやめておいた。オーフィザンが隠すなら、それは気づいても知らないふりをしてきた。けれど、今でもオーフィザンの前で嘘をつくのは苦手だ。

 セリューは、早々に馬車に乗り込もうとしたが、オーフィザンに呼び止められた。

「おい、セリュー。まさか、ここに残りたいですとは言い出さないだろうな?」
「……へ?」
「様子がおかしい。やはり図星か。許さんぞ。お前は私の執事だ」
「……」

 言いたかったこととは全く違うことを言われ、セリューは少し噴き出しそうだった。

「私の主人は、未来永劫、あなた様ただ一人でございます……永遠に……この命尽きるまで……」
「そうか……」

 オーフィザンは満足そうに頷く。

 そこへ、空から竜の姿をしたロウアルが降りてきた。

「よお。オーフィザン」
「何の用だ?」
「こいつが話をしたいって言うから、連れてきた」

 竜の背中から人が降りてくる。首輪をつけられたフィッイルだった。彼は悲痛な顔で叫ぶ。

「ちょ……オーフィザン! 約束が違う!! 全部終わったら、僕は自由の身のはずなのに!」
「なんのことだ? そいつはずっと狐妖狼が欲しかったらしい。殺しはしないし飽きたら離してくれるそうだ」
「嫌だ!! 離して……やだ!!」

 彼はまたロウアルの背中に乗せられる。空に飛び上がる竜は上機嫌だ。

「じゃあな。オーフィザン! こんな可愛いものをくれるなら、また協力してやってもいいぞ。さあ、いこうか、フィッイル!」
「やだ! おろして!!」

 フィッイルが降ろせと叫んでいるが、ロウアルは全く聞いていないようだ。それを見て、ダンドが客車から顔を出す。

「オーフィザン様……あれ、やっぱり止めてあげてください……」

 しかし、オーフィザンはダンドに振り向きもしない。その態度のせいか、ダンドは今度はオーフィザンに向かって怒鳴った。

「あれ、食べたりはしないんですよね!?」
「……」
「聞いてるんですか!? 食べないって約束だけ、させてください!!」
「……」
「オーフィザン様!」
「うるさいぞ。お前もフィッイルくらい可愛くなれ」
「は!? 嫌です!!」
「俺はああいうのが欲しい」
「真面目に俺の話を聞いてください!!」

 二人の言い合いを聞いていると、セリューはなんとなく不安になってきた。

「あの……オーフィザン様……お願いがあるのですが……」
「なんだ? セリュー」
「狐妖狼を拾ってこないでくださいね」
「なぜだ?」
「ロウアルを見ていて、ほしくなったのではないかと……オーフィザン様?」

 オーフィザンは答えずに、空に飛び上がってしまう。ますます不安になる。フィッイルのようなものを連れて来られては、また何かが起こりそうだ。


*番外編2.出張中の執事*完
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