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番外編14.オーフィザン様と対決する!

152.襲ってきた!

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 箱を見つめて俯いていたら、雨紫陽花さんとブレシーに心配かけてしまったみたい。

「クラジュ……大丈夫か?」
「クラジュー。元気出してください。そんなに怯えなくても、あと少し逃げればいいだけです」

 言われて、手元を見下ろせば、そこには僕が持って逃げた木箱があって、それは光を失いかけている。

 このまま光らなくなったら、これ、使えなくなるんだ……そんなの、よくない!!

「あ、あのっ……僕!」

 口を開いたところで、大きな羽の音が聞こえてきた。飛んできたのはペロケだ!!

「ばーかーーねーーこーーーー!!」

 もうペロケに見つかっちゃったの!? しかもさっきよりめちゃくちゃキレてる!!

 彼の周りには、フィッイルの周りにいたのと似たような鳥たちが飛んでいて、すごく怖い!!

 慌てるばかりの僕を、ロウアルさんが後ろに下げて、彼はペロケの前に立った。

「なんだ、お前……」
「銀竜…………そこどいて!! 僕はそっちのバカ猫に用があるの!!」
「こいつには世話になってんだ。放っておけねえよ」
「ふーん……でも、いいの?」
「……どういうことだよ?」
「だって、そのバカ猫が持っているその木箱の中身を使えば、お前の大好きなフィッイルだって、一発で籠絡できるんだよ?」
「は!?」

 一気に真っ赤になるロウアルさんに、ペロケはニヤリと笑って畳み掛けるように言った。

「あの猫じゃらしで、フィッイルのことくすぐれば、いやらしいこと、いくらでもしてくれるよ? いいの? それでも、僕を止めるの?」
「な…………な…………何…………言ってるんだよ……お、俺は……」

 ロウアルさん、心配になるくらい真っ赤だ。顔も、首も、手も。だ、大丈夫??

 フィッイルも心配になったのか、彼の顔を覗き込んだ。

「ロウアル?」
「ふぁっっ!? ふ、ふ、フィッイル……!?」
「…………大丈夫?」
「ぁ…………あ…………」
「…………僕、そんなことしないから…………」
「はっっ…………!!?? あ、あ……お、俺は…………」

 ロウアルさん、どんどん赤くなっていって、ペロケまで彼のことが心配になったのか、彼に声をかけた。

「……あの……大丈夫??」
「…………っ!」

 もうロウアルさんは返事すらせずに、いきなりペロケに向かって走り出した。彼の首ねっこを捕まえて、廊下の向こうへ走って行く。

「は!? え……ちょ……離せ! 銀竜!!」
「ごめんフィッイルーーーーーーーーっっっっ!!!!」

 彼は猛スピードで走り去って行って、すぐにその姿は見えなくなった。

 フィッイルは、呆れたような顔で僕らに振り返る。

「僕、ロウアルのこと探してくる…………なんとなく…………放っておくと怖いから……」

 彼はそう言って、ロウアルさんが去って行った方に走って行く。

 フィッイル……ロウアルさんのこと、少し怖くなくなったみたい。

 ほっとしたのも束の間、ペロケのことはロウアルさんが連れて行ったけど、彼の周りにいた鳥たちだけは戻ってきて、僕らに向かって飛んでくる。

「な、何あれーーーーっ!! しつこいーーーっっ!!」
「逃げるぞ! クラジュ!!」

 雨紫陽花さんは、僕の手を取って走り出す。ブレシーも一緒に、僕らは必死に廊下を逃げた。

 だけど、前からも鳥がいっぱい飛んでくる。びっくりした僕は頭から転んじゃう。

 怖くてすくみあがる僕だけど、僕らに向かってきていた鳥の大群は、突然光に包まれて消え去った。

 光が消えると、そっちの方から、大きな魔法の槍を握ったセリューが走ってくる。

「無事ですか!?」
「セリュー様!? わっ!!」

 セリューは、倒れたままの僕を抱き上げ、雨紫陽花さんたちに向かって叫ぶ。

「こっちです!!」

 言われて、雨紫陽花さんもブレシーも、セリューについて走り出した。

 え、え?? なんでセリューが僕を助けるの!?

 一体何が起こっているのか分からず、慌てるばかりの僕を、セリューは抱っこしたまま連れていく。

 そして、奥の誰もいない部屋に連れていくと、僕をそこに下ろしてくれた。

「せ、セリュー……様?」
「無事か?」
「…………」

 なんでセリューが僕を助けるの?? なんで僕に無事か、なんて聞くの!?

 怖い…………こんなのセリューじゃない! オーフィザン様の猫じゃらしよりすっごく怖い!!

「せ、セリュー様…………セリュー様じゃないいい……」
「なにを言っているんだ……泣くな! 無事なのかと聞いているんだ! さっさと答えろ!!」
「は、はい! 無事です! 守ってくれてありがとうございました!」
「何を気味の悪い勘違いをしている…………貴様なんぞ、誰が守るかクソ猫!!」
「え…………」

 何を言われているのか分からない僕の胸ぐらを、セリューは掴み上げる。

「いいかバカ猫!! 私はオーフィザン様のご命令で、あの方の所有物を拾いにきただけだ…………そうでなければ、逃げ出したそのときに絞め殺している!! あああああ! 寄るな!」

 セリューは僕を乱暴に離して、僕から離れる。

 寄るなって、先に僕を掴み上げたのはセリューなのに……

 彼はまた掴みかかってきそうな顔で、僕に振り向く。

「それで、無事なのか?」
「え? は、はい! 無事です!!」
「貴様じゃない!! 箱だ箱! 貴様が持って行った箱だ!! 無事なのか!?」
「はこ?」

 あ、僕が持って逃げた笹桜さんの箱か!

 僕が箱を見せると、セリューはそれを乱暴に取り上げちゃう。

「無事か……いいか! これはオーフィザン様に贈られたものだ!! 貴様は死んでも箱に傷をつけるな!」
「………………」
「……どうした?」
「え!? い、いえ……良かったと思っただけです……」

 だって、セリューがいつもどおりセリューだったから。

 ほっとする僕を置いて、セリューは、そばにいた雨紫陽花さんに振り向く。

「雨紫陽花さん……ご無事ですか?」
「ああ。無事だ。ありがとう。オーフィザンの執事は優秀だな…………箱を取り返しにきたのか?」
「…………オーフィザン様は……クラジュを探すようにと…………」

 セリューはじっと箱を見下ろしている。その耳元に、ブレシーが寄って行って、囁いた。

「その箱、放っておけば力を失うらしいです。後少し、オーフィザンに渡すの遅くしちゃえばいいんですよ。セリューさん」
「や、やめてください!! あなたは一体どちらの味方ですか!!」
「いやー。すみません。どうしても、からかいたくなっちゃって。もう一人は? ダンドさんはどうしたんですか?」

 ダンドのことを聞かれて、セリューの顔が曇る。

「あいつには…………今回のことは話していません。あの猫じゃらしのことになると、すぐに……オーフィザン様と喧嘩になるので……」

 セリュー、少し寂しそう。朝の喧嘩のこと、気にしてるのかな……

 猫じゃらしと聞いて、雨紫陽花さんが頭を下げる。

「すまない……俺たちが持ってきたものが迷惑をかけてしまって」
「い、いえ……気にしないでください。あいつは、あの猫じゃらしのことになるとムキになりすぎなんです……!」

 そう言ったセリューが持っている箱が光っている。箱の周りに光る粉がついて光っているんだ。その粉は、箱の中から漏れ出ているみたい。

 そうだ……大事なこと忘れてたーーー!! あの箱、穴があいていたんだ!! 中身もさっきこぼしてる……

 ど、どうしよう…………

 セリューも、箱の異常に気付いたのか、箱を見下ろしてそれを開いちゃう。

「おいっ……バカ猫!! この箱、からだぞ!!」
「か、から!?」

 僕は駆け寄って箱を覗き込んだけど、中身……ないっ……全部ない……も、もう全部こぼしていたんだ……

「どういうことだ……バカ猫!」
「さっき……穴あけちゃったんです……多分その時……」
「こ……このバカ猫ーーーーっ!!」
「うわあああん!!! ごめんなさいーー!!」

 叫んでいたら、廊下の向こうから鳥の羽ばたく音。

 僕らに向かって、薄桃色の鳥が、数え切れないくらい飛んでくる。

「ぐっ……!! 面倒なものをっ……! バカ猫!! 後で八つ裂きにしてやるからな!」
「そ、そんなあああ……せ、セリュー様!! 前!!」

 セリューに飛びかかろうとした鳥を、背後から走ってきたダンドが切り裂く。

 鳥は光の粒になって消えていった。

「セリュー!! 大丈夫!!??」
「ダンド……なぜここに……」
「城に変な鳥が飛んでたから、何かあったんだと思って。セリューのこと探してた。なんで俺に話してくれなかったんだ?」
「……」

 無言で顔をそむけるセリュー。なんだか辛そう…………

「ダンド……セリュー様、ダンドとオーフィザン様が言い合いになるのが嫌だっただけだよ?」
「え……?」

 僕が言うと、ダンドは目を丸くして、セリュー様は真っ赤になっちゃう。そして、敵が迫っているのに、僕の胸ぐらを掴み上げた。

「き、貴様っ……! このバカ猫ーーーーっっ!!」
「な、なんで怒るんですか??」
「怒るわバカ猫!! よ、余計なことを言いやがって……」
「余計って……セリュー様、そう言ってたのに…………」
「私がいつそんなことを言った!? あ!? く、クソ猫め……! やはりこの場で切り刻んでやる!!」

 怒鳴るセリューに、後ろからダンドが「やめなさい」って言うと、やっとセリューは僕を離して、ダンドに向き直る。

 気まずそうにしているセリューに、ダンドは微笑んだ。

「そんなこと心配してるなら、俺に言えばいいのに」
「……」
「大丈夫。ちょっと勝負を挑むくらいだから」
「はっ……!? な、何を言っているんだ! そういうことはやめろと言っただろう!!」
「そんな怖い声出さないでよー。俺は単に、オーフィザン様に勝ちたいだけなんだから」

 ダンドが微笑んで言うと、セリューは焦っているみたいだけど、少し嬉しそうに見えた。
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