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番外編14.オーフィザン様と対決する!

151.また追いかけられた!

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 階段を上る途中、後ろから雨紫陽花さんが心配そうに言った。

「く、クラジュ!? どこへ行くつもりなんだ!? このままじゃ、いつか捕まるぞ!」
「大丈夫です! こうなったら、誰もこないところに行きます!」
「そんな場所があるのか?」
「僕の一番のお気に入りのお部屋です! オーフィザン様の寝室にもなっていて、オーフィザン様の許可がないと入れないんです! 普段誰も来ないし、絶対に大丈夫です!!」

 走っていくと、階段の終わりが見えてくる。扉を開いて外に出ると、そこは僕のお部屋の近くの廊下。

 だけど、また鳥の羽の音が聞こえてきた。

 ま、まさか、もうペロケが追いかけてきたの!?

 身構える僕ら。

 だけど、そこに飛んできたのはペロケじゃなくて、もっと小さな鳥たち。さっき木箱の中にいた、あの鳥さんに似ていて、薄桃色のキラキラ光る粉を飛び散らせながら、こっちに向かって飛んできた。

「な、なに!? なにあれ!?」

 焦る僕に、雨紫陽花さんが険しい顔で言う。

「まさか……笹桜が放ったものか? く、来るぞ!」
「え!? え!? え!?」

 急に鳥がいっぱい飛んできて、どうしていいのか分からない!

 僕は怖くてすくみあがっちゃう。

 そしたら、雨紫陽花さんが僕の前に立って、飛んでくる鳥たちから守ってくれた。
 彼が手を握ると、その足元から紫陽花の花びらみたいな光が飛び出して鳥たちを包み、鳥たちは薄桃色の砂になって床に落ちた。

「す、すごい……雨紫陽花さん!」
「いや…………俺の力で笹桜を止めることはできないっ……! 今のうちにっ……! 逃げるんだ!!」
「え!? で、でも、雨紫陽花さんは!?」
「いいから行け!! 多少は持ち堪えられる!」

 叫ぶ彼に向かって鳥が飛んでくる。このままじゃ、雨紫陽花さんが鳥に捕まっちゃう!

 僕は爪を構えて前に飛び出した。

「クラジュ!?」
「さ、下がっていてください! ぼ、僕だって! 狐妖狼なんです!!」

 雨紫陽花さんだって、大事なお客さん! そんな人を置いて逃げられないもん!!

 僕だって、森では狩りをして獲物を捕まえる種族なんだ!! 鳥なんかを相手に逃げるもんかーー!!

「えーーいっ…………わああああ!!」

 走り出した僕は、さっきの薄桃色の砂で足を滑らせて転んじゃう。

「い、いた……」

 ……爪が折れちゃった……い、痛い……

「クラジュ!!」

 背後で雨紫陽花さんが叫ぶ声がした。顔を上げると、僕の方に一斉に鳥達が飛んでくる。

 ぶつかる!!

 怖くて、目を瞑る。そしたら、突然僕の手を誰かが握って引っ張った。目を開けると、ブレシーが僕の手を握ってくれていて、彼はそばにあった花瓶を、鳥たちに投げつける。

 鳥たちが怯んだ隙に、雨紫陽花さんがそれを全部消してくれた。

 ブレシーが僕に振り返る。

「……大丈夫ですか?」
「う、うん! あ、ありがとう……」

 鳥たちを消してくれた雨紫陽花さんも、僕らの方に駆け寄ってきてくれた。

「クラジュ! 大丈夫か!?」
「う、うん……ありがとうございます…………」
「こんなことを、笹桜がするはずがない…………そこにいるのは誰だ!?」

 彼が叫ぶと、廊下の角から一人の人物が顔を出す。

「見つかっちゃったー。今日はクラジュに仲間がいるんだったねー。忘れてた」
「ふ、フィッイル!?」

 意地悪そうな顔をしたフィッイルは、僕らの方に近づいてくる。

「お前が珍しくオーフィザンに反抗したって聞いたから、ちょっとからかってみたんだ」
「そ、そんなっ……! ひどいよ!! フィッイル!! フィッイルもこの箱を取り返しにきたの!?」
「そんなはずないだろ」
「……え?」
「言っただろ? ちょっとからかっただけ。さっきの鳥だって、大したことないやつだし」
「なにそれーーー!! フィッイルひどい!! 僕、すっごく怖かったのに!!」
「大袈裟なんだよ。で、何があったの? その箱、なに?」
「……」

 なんだか不満だけど、僕は経緯を説明した。

 すっごく怖いことが起こっているのに、フィッイルは呆れたみたいに言う。

「バカらしいーー。そんなものだったの?」
「ば、バカらしくないもん!! 僕がいっぱいこちょこちょされちゃってもいいの!?」
「いいよ。されてろ。なに? また惚気?」
「違うよ!! 僕本当に怖いんだもん!!」

 フィッイル、分かってない!! 僕は本当に怖いのに!!

 だけどフィッイルは呑気な顔。

「やっぱり惚気じゃん。なにが怖いの、それ」
「怖いもん! こちょこちょ、辛いもん!!」
「知らなーい、そんなの。僕はそんなのでお仕置きされたりしないし」
「うううー……フィッイルだって、飛んで逃げてるときに、猫じゃらしが飛んできたら困るんじゃないの?」
「まあ……少しくらいは…………仕方ないなあ……オーフィザンの寝室まで行くんだろ? 僕も一緒に行ってあげる」
「本当に!?」
「うん。お前たちが喧嘩してると僕はおもしろい……じゃなくて、ないほうがいいって言えばそうだから、助けてあげる」
「…………」

 喧嘩……僕とオーフィザン様が? そうなるのかなあ……

 フィッイルは、さっきの鳥を肩に乗せて、僕に微笑んだ。

「じゃ、行こうか。鳥を飛ばして、お前の部屋まで誰もいないか、確かめてあげる」
「フィッイルー…………」
「なにー? いーっぱい感謝してねー!!」

 得意げな彼に、雨紫陽花さんがその肩の鳥を不思議そうに見つめて言った。

「すごいな。この鳥は……フィッイルは魔法使いなのか?」
「うん!! あのオーフィザンともやりあった、すっごい魔法使いなんだから!」
「オーフィザンとも!? す、すごいな……そんなこともできるのか!?」
「まあねー!! 僕、すごいから!!」

 フィッイル、嬉しそう……今日は魔法の調子もいいみたい。

 今度は、彼の肩の鳥を見たブレシーが、にっこり笑って言った。

「久しぶりですね。魔法使いさん」
「……お前がきたことは聞いてた…………僕に近づかないようにして!!」

 フィッイルはふいって彼から顔をそむけちゃう。知り合いみたいだけど、あんまり仲は良くないのかな……?

 ブレシーはちょっと困り顔で言う。

「そんなに邪険にしないでください……オーフィザンの城にいるのは嫌じゃないんですか?」
「そ、それは…………いいの! 僕、この城、気に入ってるから……お昼寝するところもいっぱいあるし……」

 それを聞いて、僕はフィッイルに飛びついた。

「フィッイル、ここ気に入ってるの!? ずっとここにいてくれるの!?」
「は!? そ、そんなこと言ってないだろ!!」
「だって僕、フィッイルにここにいて欲しいもん!!」
「う、うるさい! 僕は療養に来てるだけなんだ!!」
「なんで!? ずっといてよ! どっか行っちゃったら嫌だもん!!」
「離せよバカ猫!」

 フィッイルが僕を振り払おうとしたら、ふわって僕の手からさっきの薄桃色の粉が飛んで、彼の肩の鳥さんにかかっちゃう。

「わっ……! な、なに?!」

 びっくりするフィッイルの肩から、鳥さんは飛び上がって、僕らの方を向く。

 鳥さんが羽ばたくたびにどんどん羽が大きくなって、彼が撒き散らす粉から、新しい鳥が生まれて羽ばたく。

「ふ、フィッイル…………? なに? これ……」
「そ、そんなの僕にも分からない!! お、お前のせいだからねーー!!」

 生まれた鳥たちが一斉に僕らに向かってきて、僕もフィッイルも服をつつかれちゃう。

「え、ええ!? や、やだっ……! わああああ!」
「クラジュ!!」

 びっくりして転んじゃう僕に、雨紫陽花さんとブレシーが駆け寄ろうとしてくれたけど、彼らの方にも鳥さんたちは飛んで行って、まるで檻みたいな形に変わって彼らを捕まえてしまう。

 他の鳥たちはみんな僕の方に向かってきた。

「ひっ……やっ……いや!! やめてよう!! フィッイルなんとかしてーー!!」
「無茶苦茶いうなバカ猫ーー!!」
「だってまた暴走じゃないの!?」
「違うよ!! 僕にもわかんない!! お前がなんとかしろよ!!」
「無理だよーー!!」

 僕が叫んだところで、ものすごい強風が飛んできて、周りの鳥達は消えてしまう。

「フィッイル!!! 大丈夫か!?」

 走ってきてくれたのは、人の姿になったロウアルさん。彼が竜の羽で鳥達を吹き飛ばしてくれたんだ。

「ロウアルー……」

 よっぽど怖かったのか、フィッイルはもう泣きそう。僕と同じように服も所々破れちゃっている。
 それを見たロウアルさんは、いきなり立ち止まっちゃった。

 僕に、ブレシーが手を貸してくれる。

「大丈夫ですか?」
「うん……ありがとうございます……」

 体は痛くない。服が破れただけ。でもなんだか胸が痛い。

 そばではフィッイルのことを、彼から顔をそむけたまま、ロウアルさんが助け起こしていた。

「だ、だ、大丈夫か……? フィッイル……」
「うん…………ロウアル? ……どうしたの?」

 フィッイルが立ち上がると、ロウアルさんは真っ赤になって、フィッイルから離れちゃう。顔の辺りを手で隠しているけど、離れている僕でもわかるくらい、顔も、それを隠している腕まで真っ赤だよ??

 彼はいきなり自分が着ていたシャツを脱いで、フィッイルに差し出した。

「こ、これ……き、着てください!!」
「…………いらない。ちょっと破れたくらいだから……」

 フィッイルは彼から距離をとって、素っ気無く答えるけど、ロウアルさんも引かない。

「で、でもっ……着た方がいい!」
「いらない…………部屋に戻って、自分の服着る……」
「へ、部屋っ!? ダメだ!」
「…………なんで?」
「ふ、服!! 服破れてるし…………ち、ち……乳首っ……! 見えそう!!」
「……は?」

 フィッイルは自分の服装を見下ろす。確かに彼の胸のあたりが破れて、その下から彼が動くたび乳首が見えそうになっているけど、フィッイルはそんなに気にしてないみたい。

「別にいい…………部屋、すぐだし……」
「だ、ダメだ! 他の奴が見たら、俺はそいつの首をもぐ!」
「なに言ってるの!? そ……そういうの嫌って、言ったのにっ……!!」
「あ、ああ! そうだったな! ごめんな!!」

 フィッイルが怯え出しちゃって、ロウアルさん、慌てちゃってる。

 でも、ロウアルさんがもう一回言うと、フィッイルは彼の服を受け取ってくれた。

 うううーー……僕もあちこち服が破れちゃった…………またオーフィザン様に怒られちゃう……

 オーフィザン様……箱のこと、怒ってるかな……?

 お仕置きは嫌い。すごく辛いもん。だけど、オーフィザン様とこうやって離れているのは嫌だ……

 見下ろすと、そこには僕が持って逃げちゃった箱。

 きっとオーフィザン様、これを探している。僕を捕まえにくる。そしたら、また猫じゃらしができちゃって、僕は吊るされて、きっと、朝までくすぐられちゃうんだ。

 それは嫌だけど……やっぱり、このままじゃダメだ!!

 決意したら、箱を握る手にぎゅって力が入った。
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