19 / 29
三章
19.一体何を考えているんだ
しおりを挟む護衛したいならしたいと、そう言ってほしかった。確かに言われてはいたが、本気にはしていなかった。それがいけなかったのかもしれない。
(だって俺のこと、気にかけてくれてるみたいだったから……まさか、それも勘違いなのか? うっわ…………)
真っ赤になりながら、イウリュースから顔を背けつつ、それでも彼の反応が気になって、チラッと彼を盗み見る。
すると彼は、ベッドの前に立って、キョトンとしていた。
そんな顔を見たら、ますます恥ずかしい。
(やっぱり護衛……したいだけなのか? なんでそんなにヴィルイの事守りたいんだ? 確かに報酬いいけど…………他にもそういう依頼ならあるし……じゃあなんで、そんなに護衛したがるんだ……? ……まさか…………)
チラッとイウリュースを盗み見る。彼は今度はヴィルイのベッドに座って、クレッジを見上げていた。
(この部屋の場所も知ってたし……ヴィルイと二人きりになりたがるし、ヴィルイのこと守りたがるって……まさか、ヴィルイに気があるのか? まさか……そんなはずないか……普段喧嘩ばっかりだし、殴りかかりそうになってたし、掴みかかってたし、そんなはず……いや、そんなふうに見えてただけで、実は、好き……ってことか?)
ベッドに座るイウリュースの前に、妄想が作り出した幻のヴィルイが現れて、彼の肩に手を置いている。すると、クレッジの中の幻のイウリュースも、ヴィルイに微笑んでいた。そして、二人してクレッジに振り向き「お前、邪魔なんだけど、出ていってくれる?」と呆れたように言っていた。
(嘘だ…………俺、どんだけ馬鹿だったんだよ……!! いや、そんなはずない…………と、思いたい……じゃないと俺、もう死ぬかも……)
真っ赤になった顔を、両手で覆う。すると、クレッジの様子を気にしたのか、イウリュースが心配そうに言った。
「クレッジ? どうしたの……? 大丈夫?」
「……すみません…………本当に、なんでもないんです…………すみません、俺……馬鹿です。勝手に勘違いして……」
「勘違い?」
「すげー……恥ずかしい……俺、本当に……な、何考えてたんだろ…………」
「……そんなに恥ずかしいこと考えてたの?」
「…………す、すみませんっ……! 俺、本当にっ……」
真っ赤になるクレッジが顔を背けると、イウリュースはベッドに座ったまま、意地悪く笑っていた。
ひどいものだと思った。こちらは怖くて何も聞けないのに。
「ヴィルイの護衛したかったのってヴィルイが好きなんだからなんですか?」なんて聞いて「そうだよ」と言われたら、恥ずかしい上に失恋だ。
「本当に……すみません……」
邪魔だったのは自分の方ではないかと思うと、もうイウリュースとは顔を合わせられない。
顔を背けると、彼はそんなに焦らなくていいのに、と言っていた。
(嘘……だろ………………なんだよ……ヴィルイの護衛したいなら、そう言ってくれればいいのに……!! もしかして、俺が知らないだけで、普段から結構護衛してるのか? だから部屋も知ってるのか? ……いや、部屋の中までは護衛しないだろ……するのか? 俺も、森の中でこけて足が痛いって喚くあいつをここまで運んだことあったしな…………普段からそんな事してるのか? だったら教えてくれよ。イウリュースさん……さっきからからかうし、少しひどいです……!)
ちらっと顔を上げると、イウリュースはベッドの方を眺めていた。相変わらずの飄々とした態度が、今はひどく憎らしい。
(だってさっき、俺の隣で笑って、蕎麦食べてたのに……俺の隣で笑って、そのあと……抱きしめてくれたのに……なんで、そんなことするんだ……この人、何考えてんだよ!!)
クレッジの視線に振り向いたのか、イウリュースは振り向いた。こんなに気を揉ませておいて、彼は自分だけ楽しそうだ。
「クレッジ? どうしたの?」
「……なんでもないです……本当に……すみません…………っ! 俺……」
そのとき、屋敷ががくんと、揺れたような気がした。風が吹くような音がする。屋敷の中からだ。パティシニルが何かをしたのかもしれない。
イウリュースは、ドアのほうに振り向いた。
「何かあったのか……ヴィルイかもしれない……」
「え?」
「俺が見てくる。クレッジは、ここにいて」
「ま、待ってください!! だったら俺が行きます!! 危険ですっ……!! 行かないでくださいっ!!」
「俺は大丈夫。クレッジこそ、ここにいて」
「嫌だっ……!!」
パティシニルはクレッジ達を狙っている。ヴィルイだって、どうなったのかわからない。今行くのは危険だ。それなのに、相変わらずイウリュースは、頑なにクレッジを置いて行こうとする。
イウリュースのことが心配だ。一人でヴィルイに会いに行こうとする、彼のことが。
それだけだ。
だから止めているだけ。
そのはずなのに、気持ちは自分でも制御できずに、気持ち悪いくらいに揺らいだ。
イウリュースがヴィルイを護衛したがっている。そんなことを考えると、どうしても落ち着かない。
「俺が……行きます」
「クレッジ……今のパティシニルは危険だし、放っておけばヴィルイだって……」
「ヴィルイの護衛っ……!」
「え?」
「ヴィルイの護衛……したいんですか?」
「……今、そんなこと話してる場合じゃないだろ?」
「……!」
彼のいうとおりだ。
今はそんな話をしてる場合じゃない。
イウリュースを、守らなくては。
だから、これは正当なことだ。
クレッジは、ドアを開けて廊下に出た。そして、イウリュースが廊下に出る前に、一方的にドアを閉める。そして、魔法の鍵をかけ、さらに部屋を結界で覆った。
部屋の中から、焦るような声がする。
「クレッジ!? どうしたの!?」
「……パティシニルは、勇者のあなたを恨んでいます。それなのに、あなたを一人で行かせるなんて、できません。あなただって、パティシニルに会ったら必ず躊躇します……俺が先にパティシニルを見つけてきますから……ここにいてください」
言いながらも、激しく後悔する。自分は何をしているのか。こんな風にイウリュースを閉じ込めるつもりなんて、なかったのに。
イウリュースを守りたいと思っているのは本当だ。
けれど同時に、彼と一緒にいることが苦しい。彼と顔を合わせていることが苦しい。
彼のためと言いながら、それは言い訳で、本当は今も扉を開けられないくらいに苦しいだけだ。
「すみません……」
「……クレッジ? どうしたの?」
「……待っていてください……すぐに戻ります!」
「待って! クレッジ!!」
叫ぶイウリュースの声がする。クレッジが恐る恐る振り向くと、扉の向こうの彼は優しい声で言った。
「……大好きだよ」
「………………え?」
彼が言ったことの意味が、分からなかった。なぜ、今、そんなことを言うのか。
(なんなんだよっ……! 一体、どういうつもりなんだ……!)
聞き間違いなのか、それとも、クレッジとは違う意味でそうなのか、それとも、扉を開けと言いたいのか、それは分からなかったが、焦ったクレッジは、走ってその場から逃げ出してしまった。
53
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。
零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。
鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。
ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。
「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、
「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。
互いを想い合う二人が紡ぐ、恋と成長の物語。
他にも幼馴染み達の一抹の寂寥を切り取った短篇や、
両想いなのに攻めの鈍感さで拗れる二人の恋を含む全四篇。
フッと笑えて、ギュッと胸が詰まる。
丁寧に読みたい、大人のためのファンタジーBL。
他サイトでも公開しております。
この世界で、君だけが平民だなんて嘘だろ?
春夜夢
BL
魔導学園で最下層の平民としてひっそり生きていた少年・リオ。
だがある日、最上位貴族の美貌と力を併せ持つ生徒会長・ユリウスに助けられ、
なぜか「俺の世話係になれ」と命じられる。
以来、リオの生活は一変――
豪華な寮部屋、執事並みの手当、異常なまでの過保護、
さらには「他の男に触られるな」などと謎の制限まで!?
「俺のこと、何だと思ってるんですか……」
「……可愛いと思ってる」
それって、“貴族と平民”の距離感ですか?
不器用な最上級貴族×平民育ちの天才少年
――鈍感すれ違い×じれじれ甘やかし全開の、王道学園BL、開幕!
黒豚神子の異世界溺愛ライフ
零壱
BL
───マンホールに落ちたら、黒豚になりました。
女神様のやらかしで黒豚神子として異世界に転移したリル(♂)は、平和な場所で美貌の婚約者(♂)にやたらめったら溺愛されつつ、異世界をのほほんと満喫中。
女神とか神子とか、色々考えるのめんどくさい。
ところでこの婚約者、豚が好きなの?どうかしてるね?という、せっかくの異世界転移を台無しにしたり、ちょっと我に返ってみたり。
主人公、基本ポジティブです。
黒豚が攻めです。
黒豚が、攻めです。
ラブコメ。ほのぼの。ちょびっとシリアス。
全三話予定。→全四話になりました。
息の合うゲーム友達とリア凸した結果プロポーズされました。
ふわりんしず。
BL
“じゃあ会ってみる?今度の日曜日”
ゲーム内で1番気の合う相棒に突然誘われた。リアルで会ったことはなく、
ただゲーム中にボイスを付けて遊ぶ仲だった
一瞬の葛藤とほんの少しのワクワク。
結局俺が選んだのは、
“いいね!あそぼーよ”
もし人生の分岐点があるのなら、きっとこと時だったのかもしれないと
後から思うのだった。
前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています
婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息
目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる