8 / 106
8.帰る!
最低監禁上司に車ごと拉致され、僕は、フュイアルさんのマンションの部屋まで連れてこられた。
恋人に散々な扱いを受けて泣いている僕に、フュイアルさんは何の遠慮もすることなく手錠をかけて、足まで鎖で縛ってソファに転がし、上機嫌でキッチンに向かっていく。
「フュイアルさん!! これとってくださいっ!! フュイアルさん!!」
何度も怒鳴るけど、フュイアルさんは全く聞いていない。鼻歌なんか歌いながら、エプロンつけてる。
くっそ!! 変態上司め!! こんなの犯罪だ!!
なんとか手錠を外せないものかと、全身の魔力を振り絞り魔法をかけようとするけど、手錠はびくともしないし、足の鎖も外れない。
ダメだ……どうやっても、フュイアルさんの魔法を突破できそうにない。もがき疲れて、僕はソファでぐったりしてしまう。
いつもなら、こんな奴のマンションじゃなくて、ダストと二人で住んでいたあの部屋で、ダストの夕飯作って、ダストの晩酌の用意して、ダストのためにお風呂用意して、ベッドに洗い立てのシーツをかけている頃なのに。
ダストの馬鹿……
僕はこんなにひどい目にあっているのに、ダストは今頃何をしているんだろう。
もしかしたら、僕を思い出してあの部屋で一人で泣いているのかもしれない。
そうだ! きっとそうだ! 僕に言ったことを悔いながら、あの部屋で僕の写真を抱きしめて泣いているに違いない!!
可哀想なダスト! 今行くよ! 今ならちょっとしたお仕置きだけで許してあげる!
そのためには、あのクソ上司をなんとかして突破しないと……
這うようにして体を起こし、ソファの陰からフュイアルさんを盗み見ると、そいつはキッチンに立って、僕に背を向けていた。
後ろからなら、僕でもあいつに勝てるんじゃないか……?
問題は、どうやってこの手錠を外すかだ。
いい案がないか考えながら、じーっと背中を見つめていたら、フュイアルさんはいきなり僕に振り向いて、大きなワインの瓶を見せてくる。
「酒はワインでいい?」
「いりません。監禁上司の出すものなんか、飲めないし食べれません」
「久しぶりにまともなこと言うね。何も入れないから安心しな。ご褒美って言っただろ?」
「ご褒美なら、この手錠外してください!!」
「だめ。外したら逃げるから」
「逃げません。フュイアルさんに後ろから全力で魔法撃ちます」
「無駄なことはやめな。トラシュ程度の魔力じゃ、俺を倒すなんて絶対に無理だ」
「そんなことありません。フュイアルさんだって、後ろから刺されたら死にますよね?」
「死なないよ。俺は魔族だから」
「じゃあどうやったら死ぬんですか!?」
僕はものすごく真剣に聞いているのに、フュイアルさんは、ソファのそばのガラステーブルに二脚のグラスを並べて、悠々とワインを注いでいる。まるで血みたいな色のワインから、なんだか甘い匂いがした。
ますます怪しい。絶対に何か企んでる。
僕は飲まないって言ってるのに、フュイアルさんは、僕にグラスを差し出す。
「好きな人に嫌われたら、悲しくて死ぬかも」
「そうじゃなくて、本当に死ぬ方法を聞いてるんです!」
茶化されてる……聞いた僕が馬鹿だった。自分の弱点を自分で言う訳ない。僕自身でなんとか探し出さないと……
「飲まないの?」
フュイアルさんが再び差し出してくるワインから、僕は縛られたまま、ソファの上で思いっきり遠ざかる。
「死んでも飲みません。何か入れてますよね?」
「何も入れてない。トラシュじゃあるまいし」
「僕はそういうことはしないんです。だって、ダストは僕を愛してるんだから、酒に何か入れる必要ないんです」
「じゃあ、俺にもそんな必要ない。トラシュをどうかしたいなら、食事に何か仕込んだりするより、魔法を使えばいいだけの話だ」
それもそうか……腹立たしいけど、確かにそうだ。僕じゃ、フュイアルさんの魔法の手錠すら外せず、もがくことしかできないんだから。
叫びすぎて喉が渇いたし……ワインくらい飲むか。
いや、違う! こんな奴にものをもらうのが嫌なんだ!!
「いりません。ワインも、食事も! 何も入ってなくても食べません。家に帰る!!」
「だめ」
あっさり断り、そいつはワインを飲み干す。
くっそ……むかつく……
フュイアルさんは、何が楽しいのか、やけに上機嫌で、ソファの前のガラステーブルに夕飯を並べ出す。そういうところがさらにむかつく。
「ワインが嫌なら、水にする?」
「いらない。死ね。僕を帰せ!!」
「帰ったら暴れるでしょ? トラシュは恋人と別れる時、毎回そうだ。俺が魔法で止めに入ってなかったら、トラシュはとっくに処刑台に上がってる。ただでさえ、人族の魔法使いってことで疎まれてるのに」
「うるさい!! 邪魔ばっかりするフュイアルさんにとやかく言われたくない!! 今回だって、なんでダストに僕の給料のこと話したんですか!!」
「それで別れるダストの方に問題があるでしょ」
「もっともな言い訳するな!」
「もっともなら聞き分けて」
この最低上司!! もうこうなったら、何がなんでも手錠外してやる!!
手錠に魔力を集中させる。体の中で動かなくなっている魔力を必死に集中して絞り出す。
すると、いつもみたいに無理やり引き出そうとしたせいで、僕の魔力が僕を締め付けてくる。まるで、鎖が全身を縛っているようだ。それに、締め付けがいつもより強い。フュイアルさんが手錠に強い魔法をかけている証拠だ。
「あ、ぐっ……うっ……あああっっ!!」
いた……体が折れてしまいそう。
もがき苦しみながら手錠を外すため魔力を引きずり出す僕に、フュイアルさんは、いつもとは違うことを言いだした。
「外してあげようか?」
「……え?」
「手錠と足の鎖を外しても、ここで大人しく食事を食べて暴れずに明日仕事に行くなら、外してあげてもいい」
「ほっ……本当……に?」
「だって、そんなふうに苦しんでちゃ、食事もできないだろ?」
なんで急にそんなこと言うんだ? なんか企んでるのか?
こんなこと言うなんて、絶対何か企んでる。
だけど、手錠を外してもらえたら、魔法が使える。それなら、何を企んでいようが、勝機があるかもしれない。
このまま手錠が外れなかったら、また好き勝手に服を脱がされて辱めを受ける。そんなことされるくらいなら、この挑戦とも取れる提案を呑んだ方がいい。
「分かりました。食事して暴れなければ満足なんですね? 手錠、外してください。大人しくそれ食べてあげます」
「……いい子だね」
あっさり騙されたのか、フュイアルさんは、僕の手錠を消してくれた。
今だ!
早速、魔法で足の鎖を消して、ソファから飛び退く。
けれど突然首が締まって、後ろにのけぞり尻餅をついてしまう。
「ぐっっ!? な、なんだこれ!!」
くそ! いつのまにか首輪つけられてる!! 首輪につながる鎖は、フュイアルさんが持っていて、そいつは勝ち誇ったようにそれを振りながら笑った。
「だから言っただろ? トラシュが俺に勝つなんて、無理なんだよ」
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って?
いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます
クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。
『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。
何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。
BLでヤンデレものです。
第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします!
週一 更新予定
ときどきプラスで更新します!
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL要素までとても遠いです。前半日常会多め。
弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~
マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。
王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。
というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。
この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。
被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。
かとらり。
BL
セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。
オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。
それは……重度の被虐趣味だ。
虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。
だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?
そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。
ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…