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8.帰る!
しおりを挟む最低監禁上司に車ごと拉致され、僕は、フュイアルさんのマンションの部屋まで連れてこられた。
恋人に散々な扱いを受けて泣いている僕に、フュイアルさんは何の遠慮もすることなく手錠をかけて、足まで鎖で縛ってソファに転がし、上機嫌でキッチンに向かっていく。
「フュイアルさん!! これとってくださいっ!! フュイアルさん!!」
何度も怒鳴るけど、フュイアルさんは全く聞いていない。鼻歌なんか歌いながら、エプロンつけてる。
くっそ!! 変態上司め!! こんなの犯罪だ!!
なんとか手錠を外せないものかと、全身の魔力を振り絞り魔法をかけようとするけど、手錠はびくともしないし、足の鎖も外れない。
ダメだ……どうやっても、フュイアルさんの魔法を突破できそうにない。もがき疲れて、僕はソファでぐったりしてしまう。
いつもなら、こんな奴のマンションじゃなくて、ダストと二人で住んでいたあの部屋で、ダストの夕飯作って、ダストの晩酌の用意して、ダストのためにお風呂用意して、ベッドに洗い立てのシーツをかけている頃なのに。
ダストの馬鹿……
僕はこんなにひどい目にあっているのに、ダストは今頃何をしているんだろう。
もしかしたら、僕を思い出してあの部屋で一人で泣いているのかもしれない。
そうだ! きっとそうだ! 僕に言ったことを悔いながら、あの部屋で僕の写真を抱きしめて泣いているに違いない!!
可哀想なダスト! 今行くよ! 今ならちょっとしたお仕置きだけで許してあげる!
そのためには、あのクソ上司をなんとかして突破しないと……
這うようにして体を起こし、ソファの陰からフュイアルさんを盗み見ると、そいつはキッチンに立って、僕に背を向けていた。
後ろからなら、僕でもあいつに勝てるんじゃないか……?
問題は、どうやってこの手錠を外すかだ。
いい案がないか考えながら、じーっと背中を見つめていたら、フュイアルさんはいきなり僕に振り向いて、大きなワインの瓶を見せてくる。
「酒はワインでいい?」
「いりません。監禁上司の出すものなんか、飲めないし食べれません」
「久しぶりにまともなこと言うね。何も入れないから安心しな。ご褒美って言っただろ?」
「ご褒美なら、この手錠外してください!!」
「だめ。外したら逃げるから」
「逃げません。フュイアルさんに後ろから全力で魔法撃ちます」
「無駄なことはやめな。トラシュ程度の魔力じゃ、俺を倒すなんて絶対に無理だ」
「そんなことありません。フュイアルさんだって、後ろから刺されたら死にますよね?」
「死なないよ。俺は魔族だから」
「じゃあどうやったら死ぬんですか!?」
僕はものすごく真剣に聞いているのに、フュイアルさんは、ソファのそばのガラステーブルに二脚のグラスを並べて、悠々とワインを注いでいる。まるで血みたいな色のワインから、なんだか甘い匂いがした。
ますます怪しい。絶対に何か企んでる。
僕は飲まないって言ってるのに、フュイアルさんは、僕にグラスを差し出す。
「好きな人に嫌われたら、悲しくて死ぬかも」
「そうじゃなくて、本当に死ぬ方法を聞いてるんです!」
茶化されてる……聞いた僕が馬鹿だった。自分の弱点を自分で言う訳ない。僕自身でなんとか探し出さないと……
「飲まないの?」
フュイアルさんが再び差し出してくるワインから、僕は縛られたまま、ソファの上で思いっきり遠ざかる。
「死んでも飲みません。何か入れてますよね?」
「何も入れてない。トラシュじゃあるまいし」
「僕はそういうことはしないんです。だって、ダストは僕を愛してるんだから、酒に何か入れる必要ないんです」
「じゃあ、俺にもそんな必要ない。トラシュをどうかしたいなら、食事に何か仕込んだりするより、魔法を使えばいいだけの話だ」
それもそうか……腹立たしいけど、確かにそうだ。僕じゃ、フュイアルさんの魔法の手錠すら外せず、もがくことしかできないんだから。
叫びすぎて喉が渇いたし……ワインくらい飲むか。
いや、違う! こんな奴にものをもらうのが嫌なんだ!!
「いりません。ワインも、食事も! 何も入ってなくても食べません。家に帰る!!」
「だめ」
あっさり断り、そいつはワインを飲み干す。
くっそ……むかつく……
フュイアルさんは、何が楽しいのか、やけに上機嫌で、ソファの前のガラステーブルに夕飯を並べ出す。そういうところがさらにむかつく。
「ワインが嫌なら、水にする?」
「いらない。死ね。僕を帰せ!!」
「帰ったら暴れるでしょ? トラシュは恋人と別れる時、毎回そうだ。俺が魔法で止めに入ってなかったら、トラシュはとっくに処刑台に上がってる。ただでさえ、人族の魔法使いってことで疎まれてるのに」
「うるさい!! 邪魔ばっかりするフュイアルさんにとやかく言われたくない!! 今回だって、なんでダストに僕の給料のこと話したんですか!!」
「それで別れるダストの方に問題があるでしょ」
「もっともな言い訳するな!」
「もっともなら聞き分けて」
この最低上司!! もうこうなったら、何がなんでも手錠外してやる!!
手錠に魔力を集中させる。体の中で動かなくなっている魔力を必死に集中して絞り出す。
すると、いつもみたいに無理やり引き出そうとしたせいで、僕の魔力が僕を締め付けてくる。まるで、鎖が全身を縛っているようだ。それに、締め付けがいつもより強い。フュイアルさんが手錠に強い魔法をかけている証拠だ。
「あ、ぐっ……うっ……あああっっ!!」
いた……体が折れてしまいそう。
もがき苦しみながら手錠を外すため魔力を引きずり出す僕に、フュイアルさんは、いつもとは違うことを言いだした。
「外してあげようか?」
「……え?」
「手錠と足の鎖を外しても、ここで大人しく食事を食べて暴れずに明日仕事に行くなら、外してあげてもいい」
「ほっ……本当……に?」
「だって、そんなふうに苦しんでちゃ、食事もできないだろ?」
なんで急にそんなこと言うんだ? なんか企んでるのか?
こんなこと言うなんて、絶対何か企んでる。
だけど、手錠を外してもらえたら、魔法が使える。それなら、何を企んでいようが、勝機があるかもしれない。
このまま手錠が外れなかったら、また好き勝手に服を脱がされて辱めを受ける。そんなことされるくらいなら、この挑戦とも取れる提案を呑んだ方がいい。
「分かりました。食事して暴れなければ満足なんですね? 手錠、外してください。大人しくそれ食べてあげます」
「……いい子だね」
あっさり騙されたのか、フュイアルさんは、僕の手錠を消してくれた。
今だ!
早速、魔法で足の鎖を消して、ソファから飛び退く。
けれど突然首が締まって、後ろにのけぞり尻餅をついてしまう。
「ぐっっ!? な、なんだこれ!!」
くそ! いつのまにか首輪つけられてる!! 首輪につながる鎖は、フュイアルさんが持っていて、そいつは勝ち誇ったようにそれを振りながら笑った。
「だから言っただろ? トラシュが俺に勝つなんて、無理なんだよ」
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